私は転生ウマ娘だよ。   作:灯火011

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花粉との戦いは一つの区切りを迎えた。

スギヒノキと呼ばれる彼、彼女らとの戦いは熾烈を極めた。

抗ヒスタミン剤―人間の免疫を抑える薬物を使い、マスク―人間の呼吸を管理するフィルターを使い、対花粉メガネ―人間の視界を遮る拘束具を付け、彼らの彼女らのフィールド、春の空の下へと繰り出した日々がついに、ついに終りのときを迎えた。

スギヒノキの花粉たちは、その力を使い切り、ついに地面に戻ったのだ。自然の循環の中に戻ったのだ。私は久しぶりに、眠気や腹痛を呼び覚ます薬を断ち切り、マスクを外し大きく息を吸った。メガネを外し、その目で大気を見た。

 ああ、素晴らしい。夏の空気が近づくこの瞬間が堪らなく愛おしい。

 全ての人類よ。スギヒノキとの激戦を繰り広げた者たちよ。


 おめでとう。


 ―だが、私たちは知っている。自然とは、巡るもの。また来年。彼らとの熾烈な戦いが待ち構えてることを。だからこそ、この平和を謳歌するのだ。


インターバル・シービーFor Answer

 体験入学という名の一つのイベントが終わった後、私とトレーナーは屋上の喫煙所で紫煙をくゆらしていた。今日のところはパイプではなく、紙巻きのピース。とはいっても、高級品の方ではなくて一缶50本入の両切りのピースだ。

 

「変わった吸い方をするなぁ」

「ふふ。バイクの出先でこんな吸い方をしてたおじいさんが居てね。試したら美味しかったんだ。どう?」

「うん。悪くはない。雑味も取れていい感じだ」

 

 両切りの缶ピース。フィルターがないタバコだから、そのまま吸うとタバコの葉が口の中に入ってしまう。先人たちはタバコを片側から叩くことにより葉っぱを寄せて、少しでも口の中に入る葉を少なくしたり、吸う側の紙をすぼめてみたり、別売りのフィルターを付けてみたりと様々な工夫をしていたりする。

 

「まさか、煙管にピースを突っ込むなんてな」

「いいでしょ、でも」

 

 私が吸っている方法は、日本古来の喫煙具の煙管だ。そして、その煙管の火口とよばれるところにタバコを挿している。こうすると、タバコの葉は口に入らないし、両切タバコの悩みである最後まで吸えないという問題も解決してくれる。

 

「カッコは悪いけどね。煙管の先に紙巻きを刺すとちょっと間抜け」

「はは。違いないな」

 

 欠点はこのカッコの悪さだけど、気心しれたトレーナーと愉しむだけだから問題はないけどね。

 

「それにしてもシービー。今日のお前、かっこよかったぞ」

「ん、ありがと。ちゃんと先輩面できてたかな?」

「先輩面どころか、いい導き手だった。こりゃ、あの4人は大化けするかもなぁ」

 

 トレーナーにそう言って頂けたのならいい仕事が出来たってことだろう。一安心だ。ふと、時計を見れば既に時間は10時過ぎ。門限などとうにすぎている。

 

「そういえばいいの?こんな時間までここに居て」

「ん?」

「ほら、10時まわったよ。学園の門限とか」

「ああ、心配いらない。学園長、それに当直のトレーナーに許可は取ってる。証拠に、ほれ」

 

 笑顔を浮かべたトレーナは、ジャラという音とともにカギをポケットから取り出していた。もしかして。

 

「屋上のカギ?」

「ああ。お前と俺の為なら一肌脱ごう!とか言われた」

「あはは、なにそれ」

 

 笑い合いながら、お互いに煙管を灰皿に近づける。カツンと煙管が皿に当たり、その衝撃で灰がぽとりと灰皿に落ちた。

 

「しかし、あの根付さんか、彼らのバンドの腕は一流だったな」

「そうだねー。いや、本当に今日は楽しく歌えたよ。トレーナーもありがとね」

「別に俺は何もしてないぞ」

「そんなことないじゃん。許可取り、スケジュールの調整、各所へのあいさつ回り。トレーナーが居なかったら今日のライブも実現してないもん」

 

 私がやったことは、根付さんを引き入れ、学園長とかルドルフに許可をもらった事ぐらい。他のステージの調整とかはトレーナーがかけずりまわってくれたからこそ、この短期間でライブが開けた。本当に、感謝しか無いよ。

 

「ま、お前には結構振り回されたからなぁ。このぐらいは楽勝さ。それに俺はお前のトレーナーだからな。好きに走れるように環境を整えるのも一つの役目だ」

 

 苦笑を浮かべてそんな事をいうトレーナー。ふふ。だからこそ、だからこそ私はキミにはこう伝えたい。

 

「トレーナー。改めてありがとう。本当、キミがいるから私は自由に走れるよ」

「はは、俺はお前のおかげで飽きない日々を送れてる。こちらこそありがとう」

 

 あはははともう一度笑い合いながら、タバコを啜る。そうやって1本、2本とタバコを進めるうちに、トレーナーがふと、こんな事をつぶやいた。

 

「で、お前は次、どこに向かって走るんだ?」

 

 次。それは、もちろん。

 

「前々から言っている通り秋のジャパンカップを走りたいかなー」

「ほかは?春の天皇賞や大阪杯、夏の宝塚記念もお前の脚なら気持ちよく走れると思うぞ?」

 

 あー、確かに。でも、正直いえばジャパンカップまでエースの出走とかぶりたくないっていうのが私の気持ちだしなぁー。

 

「エースと被りたくないんだ。エースとは、ジャパンカップで走りたい」

「そうか。なら仕方ないな。で、天皇賞春は?お前を望む声も多いぞ?」

「長距離は嫌い」

 

 菊花賞のことを思い出してしまう。全力で逃げて、本当にぶっ倒れるぐらいに全力を出したレース。あの苦しみはちょっと勘弁願いたいなぁと思ってしまう。

 

「ま、確かにお前の適性は長距離には無い、か」

「そーいうこと。菊花賞辛かったしねー」

「なら仕方ないな。でも、秋までレースをしないというものもったいないし、レース勘を維持するためにも何かは走っておいたほうがいい、そう俺は思う」

「たしかにね」

 

 そう言いながら頷くと、トレーナーは何か思いついたのかタバコを置いて、私に向き合った。

 

「それなら一つ提案がある」

 

 トレーナーから。珍しいね。なんだろう?

 

「へぇ、トレーナーから?聞こうか」

 

 アタシもタバコを置いて、トレーナーに向き合う。トレーナーの真剣な目が、私を射抜いていた。

 

「ニホンピロウイナーと来年にはやり合いたい、そう、言ってたな?」

「うん」

「なら、その前哨戦としてこの春から夏は短距離路線を走るっていうのはどうだ?そうだな、まずは―」

 

 ほう、短距離路線。まずは、なんだろう?

 

「京王杯スプリングカップ。場所も東京レース場でお前のホームだ。そしてそれを経由して」

 

 なるほどなるほど、そこを経由するということは。つまり、こういうことか。

 

「「安田記念」」

 

 トレーナーとアタシの声が重なる。なるほどなるほど?長距離でもない、そして、エースとも被らない。何より。

 

「それに、うまく行けば一年早くニホンピロウイナーとぶち当たれる、ってことだね、トレーナー?」

「そういうことだ。あっちは今年の始動は淀短距離から始めると発表しているからな。去年の短距離の戦績から推測すれば、その目標は間違いなく安田記念だろう。なら、ここで一戦やっとくのもいいんじゃないか、と俺は思うんだが、どうだ?」

 

 試すような視線が、私を貫く。ふふ。悪くない。悪くない提案だ。

 

「いいね、ノッた。やろう。短距離路線!」

「よし決まりだ!じゃあ、休み明けにでもすぐに登録書類を出しておくからな」

「うん。よろしくねー!楽しみが一つ増えたよ」

 

 やっぱり私のトレーナーは最高だね。アタシの気持ちを汲み取って、私を気持ちよく走らせてくれる。ふふ。じゃあ、明日からまた練習を頑張らないとね。

 

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