私は転生ウマ娘だよ。   作:灯火011

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UA1万&お気に入り500超え、誠にありがとうございます。

ご期待されているという事もありまして、連載に切り替えてやらせて頂きます。

いつもの『え?』と思う展開もこの先あると思いますが、生暖かく見守っていただければ幸いです。


彼女として

「位置について、よーい、ドン!」

 

 たづなさんの声に合わせて、地面を勢いよく蹴った。芝で満たされた地面は、思いのほか固く、私の脚の力を推進力に変えてくれる。

 

「はっ、はっ、はっ、はっ!」

 

 息を鋭く吐いて、上半身の振りも推進力に変えてぐんぐんと加速をかける。この前、夜の街を走った時以上のスピードで、私の横を風が走り抜けていく。

 

「良い感じですよー!そのまま上半身を倒して、腕をもっと大きくふってみてくださーい!」

 

 アドバイスの通りに上半身を寝かせ、腕を自由に振る。すると、不思議なものでさらにぐいぐいと加速が掛かる。なるほど、ウマ娘のスピードというのは、人間のそれとは間違いなく、段違いのものを持っている。そして、その勢いのまま、更に加速をかけていけば、あっというまに練習コースを走り終えていた。

 

「はーっ、はーっ、はーっ!」

「お疲れ様です。いい感じに走れていますよ」

「ふーっ。本当?」

「ええ。どこからどうみても、彼女の走りそのものです」

 

 たづなさんから笑顔の太鼓判を頂いた。それにしても、レースの訓練という話であったので覚悟を決めて走り出したのだが、どうやら体は走り方をしっかりと覚えているらしい。最初こそ人間のように遅い走り方だったのだけれど、アドバイスを受けながら数回コースを走れば、あっという間にウマ娘としての走り方へと私の走りが変化していた。

 

「それならよかった。記憶が無くなっても、体が覚えていたみたいだ」

「ふふ。それに、確実にタイムも上がってきていますから、もうすこし練習すれば彼女としてエキシビションレースや模擬レースにも出れると思います」

 

 それは僥倖という奴だ。どうやら私は、楽しそうだなーと思ったレースには所かまわずに首を突っ込んで行くウマ娘だったらしい。しかも、本来は結構強いのだとか。その上で、自由気ままな性格で、デビューする実力があるくせにトレーナーからのスカウトをのらりくらりと躱していたらしい。その結果が、私が家で見つけた『早くトレーナーと契約してレースに出てね』の書類の正体という話であるようだ。

 

「そっか。それなら安心だね。あらぬ疑いをかけられるのは本望じゃないしさ」

 

 この世界が夢にせよ、現にせよ、この世界で楽しく生きていくのならば、変に変わったなーなんて思われちゃあやりづらくなるからね。そう思いながら頷いていると、たづなさんが困惑の色を少しだけ見せていた。

 

「あの、本当に彼女として生活をしていただいてよろしいのですか?学園側、私と学園長は非常に助かるのですが…貴方はお辛かったりしないのでしょうか?」

「ん?いや、全然。学園長にもお話したとおり、男の記憶の私は心の底からウマ娘は可愛いなとおもっていましたし、一緒に走れたら最高!と思っていたので。むしろ嬉しいくらいです」

 

 たづなさんにも会えたわけだしね。しかもこんな風に練習まで付き合って貰っている。少なくとも今は最高の一時と言えよう。

 

「左様ですか。それならば安心です。あ、それと、もしよろしければウマ娘としての体の手入れもお教えしましょうか?」

「体の手入れ?」

「ええ。例えば、肌の手入れや髪の毛の手入れ、化粧の仕方など女性としての身だしなみですね。男性と勝手は違いますから。あとはレースを走るアスリートとしてのウォーミングアップ、クールダウンの仕方などです」

「それはぜひ。手取り足取りお願いしたいかな」

 

 有難い提案に、すぐさま首を縦に振った。

 

 

 練習の合間に昼食を取ろうとたづなさんと食堂に向かってみれば、シンボリルドルフとマルゼンスキーに捕まってしまった。そして気づけば、たづなさんを含めた4人で生徒会室で昼食を取る事になっていた。ルドルフとマルゼンスキーはサンドイッチ、たづなさんは海苔弁当、私はお握りとサラダだ。

 

「君、一昨日の晩より前の記憶が無いそうだね?」

 

 サンドイッチの袋を剥きながら、ルドルフは表情を変えずに私にそう声を掛けて来た。軽く頷けば、ルドルフは肩を竦める。

 

「冗談などでは無いのだな?」

「冗談だったらよかったんだけどね。本当に記憶が無いんだ。逗子の海岸で塩水を浴びながら倒れていたのが最初の記憶だよ。あ、でも、濡れた体で夜の街を走るのは気持ちよかったかな」

 

 おにぎりを頬張りながら、そう答えればルドルフはもちろんのこと、たづなさんやマルゼンはどこか呆れたため息を吐いていた。

 

「…そういう所は変わらないのね」

 

 マルゼンはそう言いながら肩を竦め。

 

「彼女らしいというか…」

 

 たづなさんも軽く頭を掻いて。

 

「ううむ…」

 

 ルドルフは眉間に皺を寄せていた。何とも言えない空気である。というか、この体の本来の彼女はなかなかの変わり者であるらしい。というか、マルゼンの言葉から察するに、普段からこういう事をしているのだろうか。というか、一週間も連絡を入れないで海に倒れているとか、この体の本来の彼女は…。

 

「もしかして、連絡なくふらっと居なくなるのは日常茶飯事なのかな?私」

 

 そう問いかければ、三人は間髪入れずに頷きを私に返していた。

 

「加えて、海水を浴びても気にせず走り出して、気持ちいいと言う所も彼女そのものだよ」

 

 苦笑を浮かべてルドルフはそう付け加えた。なるほど。私も相当な自由人であるが、この彼女も相当な自由人であるらしい。まぁ、私自身、学生の頃に夕立などがあれば喜んでびしょぬれになりながら家に帰る事もあった。雨を浴びると、気持ちがどこかすっきりしたのだ。

 

「そうなんだ。ふふ」

 

 気が合うね、と自らの心に語りかける。もちろん何も言葉は帰ってはこないけれどね。ただ、どこか少し暖かい気持ち、というかこの体に親近感を覚えていた。

 

「たづなさん。そういえば、彼女とコースに居たようですが」

 

 ルドルフがそうたづなさんに問いかける。

 

「ええ。記憶が無いとのことでしたので、走りとダンスを見ていました。今週末にいくつかPVと歌の撮影の予定が入っていまして、場合によってはキャンセルしようかと思っていたんです」

「そういう事でしたか。それで、どうでしたか?」

「うーん…動きはまだぎこちないのですが、ただ、呑み込みがすごく早いので、数日練習すれば本来の彼女のポテンシャルに戻ると思います」

「そうですか」

 

 おにぎりを食べ終えたので、サラダに手を伸ばしながら彼女らの話を聞き流す。それにしても不思議だったのは、たづなさんの言った通り、走りといい、ダンスといい、案外と体は覚えているようで、今日の午前中だけの練習でも相当コツを掴むことが出来た。

 

「案外、記憶は無くても、不思議と覚えているものだったよ」

「不思議ね。あ、たづなさん。私、この後予定空いてるの。午後の練習に付き合ってもいい?」

「ぜひお願いします、マルゼンスキーさん。シンボリルドルフさんもご予定が空いていればお願いしたいのですが」

「すみません。この後は打ち合わせがいくつか入っておりまして、外せないんです」

 

 どうやら、午後の練習からはマルゼンも練習に付き合ってくれるらしい。私のダンスや歌、走る姿を見る目が増えるのは非常に有難い。いくらコツを掴んだと言っても、所詮それは付け焼刃だと自覚しているからだ。家で見つけた私の動画のように踊れるには、まだまだ時間がかかると私自身は感じている。

 

「かしこまりました。では、マルゼンスキーさんはこの後第7練習場に集合をお願いします。シンボリルドルフさんも、お手すきの際にはぜひいらしてください」

「わかったわ」

「判りました」

「悪いねー。私のためにさ」

 

 手をひらひらとさせながらそう答えてみれば、ふっと、3人は肩の力を抜くように表情を崩した。

 

「本当にそういうところは彼女そのままですね」

 

 たづなさんの言葉に、深く頷くルドルフとマルゼン。うーん、どこか不思議な感じだね。私とこちらの体の私は図らずとも、同じような性格をしているらしい。

 

 

 初日のレッスンを終え、学園を後にしようとしたときの事。最終的に合流したルドルフ、マルゼン、そしてたづなさんと別れ、家に帰ろうかと制服に着替えて相棒のバイクの元に向かっていた時だ。ポツ、ポツと天から、数粒の水の粒が降りて来た。

 

「…雨?」

 

 手のひらを天に掲げてみれば、ポツポツポツと、その水の粒が多くなる。そして、あっというまにザアザアと音を立てるくらいの雨に変化していた。雨の中、相棒で帰ると考えると少しだけ憂鬱な気持ちが沸き上がる。

 

「雨かぁ」

 

 そう呟いて、呆然と雨の中で立ち止まっていると、ふと、心の中に、全く違う感情がふつふつと沸き上がってきた。

 

「……………」

 

 ―雨の中を走りたい。きっと、冷たくて、新鮮で、それは楽しいものだ。なぜそう思ったのかは判らない。でも、この気持ちはなぜか抑え切れない。

 

「あはっ♪」

 

 気が付けばせかす心そのままに、私は制服のまま、練習コースへと飛び出していた。

 

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