私は転生ウマ娘だよ。   作:灯火011

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エースの躍進、ルドルフの戴冠

 中三週間。鳴尾記念が叩きのレースだとしても、エースはよく走る気になったなぁとは思いながら阪神のレース場に私とトレーナーは立っている。

 

「カツラギエース。伸びに伸びているなぁ。これは脅威だな」

「あはは、おかしなことを言わないでよ。今までも脅威だったでしょ?」

「ああ、でも、ここに来てその成長の速度が1段も2段も伸びている。あれは、秋になれば大本命を張れるな」

「それは楽しみだ!」

 

 トレーナーと軽くじゃれ合いながら、ターフに目をやる。そこに入ってきたのは、第3コーナーを抜けて、第4コーナーを戦闘で駆け抜けてくるエースの姿。

 

「きたきた!」

「他のウマ娘も上がってきてるな。だが、今日の彼女の敵は居ない」

 

 トレーナーの言う通り。頷きながらエースに視線を送ると、ぐっと首を下げてギアを1段上げ、スパートを掛け始める。盛り上がる観客席、そして必死に走る彼女たち。

 

『走れー!エース!みんなー!ラストスパートォ!!』

 

 大声を張って彼女たちにエールを送る。すると、それに呼応するように。

 

『ヤアアアアア!』

『オラアアアアアア!』

『負けてたまるかァ!』

『ハアアアアアアアアアアアア!』

 

 全員から気合の叫び声が上がった。それを聞いた観客たちが更に盛り上がりを見せる。だが、その中でも一人だけぐっと前に出た。独走だ!

 

「やっぱり、すごいねエースは!」

 

 その勢いのまま、カツラギエースが今日のセンターを勝ち取った。いやはや、なんともかんとも流石としか言いようがない。すると、そのカツラギエースと目が合った。大輪の花のような笑顔で、こちらに親指を立ててきていた。こちらもそれに合わせて、笑顔で親指を立てる。

 

「ああ、すごいな。これで今年は重賞2連勝か」

「うん。いやー、やっぱりエースは速いねー!」

 

 と、鳴尾記念のときと同じように、満面の笑みのまま、エースがこちらに近づいてきた。

 

「よう。勝ったぜー?どうだ、速いだろ?」

「おつかれ。流石だね、エース。私も走りたくなっちゃう」

「あはは!いい走りを見せられて良かったぜ!」

 

 お互いに笑い合う。うーん。こうなるとちょっと宝塚記念で一緒に走りたくなっちゃうけど…ま、そこは我慢だ。我慢して、我慢して、秋にケリをつけたい。

 

「っし、じゃ、アタシはライブの準備があるから行くぜー」

「うん。じゃ、また学園でね?」

「おう」

 

 手慣れた会話。エースとのこの距離感は好きだ。去る背中に手を振りながら、見送る。さて、じゃあアタシとトレーナーはライブを見て、サクッと帰りますか。

 

 

 4月というのは、G1戦線、そしてクラシック戦線の本格化の時期。4月の頭にはエースが重賞大阪杯の冠を被り、私達の世代の強さを世に示してくれている。このままいけば、今年は無敗で宝塚記念に挑むことになるだろう。

 

「無敗と言えば、シンボリルドルフ」

 

 学園で練習をするさなか、彼女の気迫を肌で感じとっている。私の家に泊めたあの日以来、彼女はまさに一騎当千と言っていいだろうね。無敗のまま迎えた皐月賞に挑むシンボリルドルフの横顔には、不思議と余裕すら見えている。

 

「私からすれば、無敗のミスターシービーなんだがね?」

「忘れてた。そうだよねー。私のほうが先だったね。で、どう?皐月賞に挑むその心の内なんて」

 

 その余裕の横顔を見ながら、私は練習コースで追い比べを日々行っている。相手からすれば、最高の三冠ウマ娘。アタシからすれば、最強のウマ娘。どちらにとっても、win-winな追い比べだ。

 

「不思議と余裕がある。少し前の私では考えられないことだ。君のお陰だよ、ミスターシービー」

「面と向かって言われると照れるよ、ルドルフ。でも、私はご飯を御馳走しただけだけど?」

「そんなことはないさ。この恩は、必ず返すよ」

 

 笑みを浮かべてキザなセリフを浮かべたルドルフ。うん。イケメンだねー。しかし、余裕があるとは言っても全くスキはない。本当に、充実しているという言葉がピッタリ。

 

「しかしだ、君。まさか短距離に行くとはな。京王杯経由のG1安田記念か。破天荒とは常々思っていたが、なんだ、その、君の知るミスターシービーもそんな事をしていたのか?」

 

 怪訝な顔でこちらを見るルドルフ。あー、うーん。

 

「ううん。全然。私の識ってるミスターシービーは今頃怪我して養生していたはずだよ」

「そうか。と、いうことは、君は今全くの未開の道を往こうとしているわけだな?」

 

 頷きながら、笑顔を返す。そうだ。私は全くミスターシービーとは違う道を歩み始めた。秋口こそ、ミスターシービーと路線は合うけれど。

 

「まぁ、なぞっても良いんだけどさ。つまんないじゃん、そんなの」

 

 肩をすくめて見せる。すると、ルドルフは力の抜けた笑みを見せていた。

 

「…全く君らしい。ただ、そんな未開の道を往く君に、私からお願いがあるんだが、聞いてくれるかな?」

「いいよ。ルドルフの頼みなら」

「私と当たるジャパンカップまで、負けてくれるなよ?」

 

「当然。アタシを誰だと思ってるの?」

 

「ミスターシービー。…そうか。それなら、安心だな」

「じゃ、アタシからも条件」

 

「ルドルフも負けないでね。アタシ以外に」

 

「当然だ。私を誰だと思っている?」

「シンボリルドルフ。私の知る中で、最強のウマ娘!」

 

 私がそう言うと、ルドルフは大口を開けて笑ってくれていた。つられて、私も笑う。

 

「では、君の言う最強のウマ娘は必ず君を超えよう。そうだな、無敗の三冠は当然として。まだ、誰にも言っていないのだが―」

 

「来年は、少し旅行を考えているんだ」

「旅行?」

「そうだ。今年の戦績次第ではあるが…」

 

「花の都にな」

 

 

 そして迎えた皐月賞当日。誰もが待ち望んだ彼女が、4コーナーを抜けて先頭を取った。

 

『4コーナーを抜けて各ウマ娘上がってくるがしかし先頭はシンボリルドルフ!ビゼンニシキ、シンボリルドルフ早くもこの2人が競り合っている!200の標識を超えてこの2人が抜きん出た!そして3番手はニッポースワローか!?』

 

 余裕すらある表情で、コーナーから先頭を張ったシンボリルドルフ。その背中を必死に他のウマ娘たちも追いかける、だが。

 

『ここで先頭はシンボリルドルフ!シンボリルドルフ出た!シンボリルドルフ先頭!シンボリルドルフゴールイン!皐月賞、三冠ウマ娘への第一歩は、まずはシンボリルドルフが手に入れました!昨年のミスターシービーに続いて無敗の皐月賞ウマ娘の誕生です!』

 

「花の都、か」

「どうした?シービー」

「ううん。こっちの話。ルドルフもやっぱり強いね」

「ああ、やっぱりこの世代じゃあ一つ抜きん出ている。これは、ダービーも獲るだろうな」

「やっぱりそう思う?」

「思うさ。今日のレースも一人だけものが違った。今年の年末は、忙しくなりそうだ」

 

 頷く。ジャパンカップ、有マ記念。間違いなく今年の年末は、トレーナーの言う通り忙しくなるだろうね。でも、だからこそ。

 

「うん。楽しみで仕方がないや」

 

 笑みが浮かんでしまう。ああ、ついに来るか、三冠ウマ娘対決。こころが疼く。私は、アタシは、あの最強にどこまで手が届くのだろうか、と。

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