私は転生ウマ娘だよ。   作:灯火011

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ルドシビのひととき。そして感謝祭へ

「で、冷静になって恥ずかしくなって、私の部屋に転がり込んできた、というわけか」

 

 布団を頭からかぶっていたはずなのだけど、それを無視して声が私の耳に届く。多分、顔は見れないけれど、間違いなく呆れた表情を浮かべているルドルフがそこには居ることだろう。

 

「…だんまりは良くないな、君。ほら、別にとって食いやしないし、追い出しもしないから顔を見せてくれないか?」

「追い出さない?」

「追い出さない追い出さない」

 

 布団をかぶったまま、顔だけをちらりと出してみる。するとどうだ。予想通りの呆れた笑顔を浮かべる生徒会長殿のお姿があった。

 

「や、ルドルフ。お邪魔してる」

「知ってるとも。ヒシアマゾンからスペアキーを奪い取ったと聞いているぞ?」

「奪い取ってはないかなー。ちょっとタイマン勝負で気をそらさせただけだよ?」

「それを奪い取った、というんだ。全く。君なら別にそんな事をしなくても受け入れるぞ?」

 

 うーん、イケメンなお言葉がスラスラと出てくるね。流石ルドルフ。ファンも人望もあるわけだ。さて。流石に布団にくるまったままじゃあ会話もし辛いので、ベッドから這い出て縁に座り直す。

 

「そんな事言われたらさ、私が男だったら惚れてるよ。ルドルフ」

「ほう。つまり君は私に惚れているということだな?一般人君?」

 

 ぐへ。やぶ蛇だった。頭を掻いて苦笑いを浮かべると、ルドルフは思わずと言った具合に吹き出していた。つられて、私も笑う。

 

「ふふふ。全く君は面白いな」

「ルドルフが好きだっていうのは間違いないけどね。と、いうか。追い出さなくていいの?門限だけど」

「別に。君のことは私に一任されている。一晩程度なら問題ないさ。返しきれない借りもあるしな」

 

 ありがたいことだ。しかし、借りとはなんだろう?

 

「借り?」

「気にするな。こっちの話だよ。それにしても君、今日の昼間はなかなか素晴らしい自由奔放っぷりだったじゃないか。あそこに至るまでの経緯と、学園を疾走した言い訳を聞きたいんだが?」

 

 げ。もういっちょやぶ蛇をつついてしまった。ルドルフの顔を見てみれば、見事なまでの笑顔。シービー知ってるよ。笑顔って、本来は攻撃のサインなんだって。

 

「…校内を疾走してごめん。でも、気持ちが抑えられなかったんだ。後悔はしてない」

「だろうね。ま、素直に謝ったことに免じてその点は許すよ。なんというか、君らしい。しかし、なぜそこまで気持ちが昂ぶっていたんだい?」

「あー、それはさ」

 

 ゲネプロの事をルドルフに詳しく話す。どうも最近もやもやしていたこと。それを根付さんに見抜かれて、一曲、好きな曲を歌ったこと。そうしたら、気持ちが抑えられなかったこと。

 

「…っていう感じなんだ。不思議なんだよね。根付さんの歌って。パワーが湧いてくるっていうか」

「ほう。根付さんか。君のお気に入りのバックバンド、FBの方々か」

「そ。本当にこう、もやもやが吹っ飛んだんだ」

 

 ルドルフはふむ、と手を顎に当てて一瞬何かを思案していたようだ。が、間髪入れずに今度は満面の笑みを浮かべていた。

 

「なるほどね。しかし、君がそうなるということは、学園祭の君のステージは間違いなくその目的を達成できそうだな」

「うん。その点については全く問題なさそうだよ。きっと、皆が私の背中を追い越そうって気になるはずだから」

「それは嬉しい限りだ。―さて。では、それはともかくとして、君、夕食をとっていないだろう?簡単なものですまないが、夜食を作るよ」

 

 そう言いながらルドルフは簡易キッチンへと歩みを進める。その背中を見ながら、思わず首を傾げていた。

 

「え?いいの?」

「無論だ。この間君の家で頂いた礼をさせてくれ。嫌いなものは?」

 

 エプロン姿のルドルフを見れるなんてレアだなぁ…と、思いながら、嫌いなものを思い浮かべる。

 

「特に無いかな」

「好きなものは?」

 

 好きなものか。そうだなー。まぁ、特にはそれもないんだけど。強いて言えば…。

 

「ピーマン」

「…ふむ、変わってるね?判った。最近私も少しだけ料理に凝っていてね。では、ピーマンを使った料理の一つでもご馳走しよう」

 

 そう言って調理を始めたルドルフの背中を眺めながら、お嫁さんがいたらこんな気持ちだったのかなぁなんて思いを少しだけ馳せてみたり。ま、私は今女だけど。そういえば、現実というか私の男の体というか。あっちは今何をしているんだろう?私がこっちにきたことによって存在が消えているのか、それとも、普通に日々を過ごしているのか。それとも、もしかして、本当のミスターシービーが私として生きているのだろうか?

 

「味は濃い目がいいかな?それとも、薄味?」

「あ、濃いめで」

「判った」

 

 ちらりと見えたルドルフの顔はどこか楽しそうだ。ま、とは言っても私の状況が判るわけでもないし、考えても仕方はないとしておこう。それに、もし本物のミスターシービーが私としてあっちでやっているのなら、きっと、私よりいい感じにレースを制してくれているだろうという確信があるしね。だって、あの天衣無縫だ。どんなマシンだって、それはもうきっと、楽しく扱いそうだしね。

 

「どうだろ。君も、シービーが好きならいいんだけどね」

 

 と、そうやって物思いにふけっていると、ジュウ、といい音とソースの香りが漂ってきていた。どうやら、調理も佳境を迎えてきたらしい。

 

「お待たせ。ピーマンの肉詰めに、キャベツの味噌汁と玄米ご飯だ。飲み物は…にんじんジュースでかまわないか?」

「うん」

 

 そしてあっという間に目の前に置かれた料理。ピーマンの肉詰めはジューシー。玄米ご飯は美味しそうな香りが立ち上り、味噌汁からも温かい湯気が昇る。

 

「すごいね。ルドルフ。美味しそうだ」

「ふふ。さ、召し上がれ」

「頂きます」

 

 両手を合わせて、早速ピーマンの肉詰めに手を伸ばす。一口。おお、これはなかなか。見た目通りのジューシーさ。しっかりと胡椒と塩で下味も着いて、上にかかっているソースの味とマッチしてご飯が進む味だね。

 

「…うん。すごく美味しい!」

 

 素直に感想を伝えてみれば、ルドルフの笑顔が満開になった。

 

「お眼鏡にかなって幸いだよ。さ、ご飯のおかわりもあるからな。遠慮なく、食べてくれ。シービー」

「うん。ありがと、ルドルフ!」

 

 いやはや、ルドルフの手料理を食べられるだけで幸せというもの。なのに、美味しいときた。これ以上の幸せはないだろう。にんじんジュースも料理と合う濃さで実に美味しい。さてさて、英気も養えたことだし。明日からも頑張るとしよう!とりあえずは、日々の練習と、あとは、感謝祭の成功を目指していこうか!

 

 

 そして迎えた感謝祭当日。バイクでいつものように学園に乗り付けて、ヘルメットをトレーナー室へと持ち込んでおく。今日は感謝祭が終わるまでは禁煙なので、タバコもこっちに置いておく。

 

「さてと、シービー。俺は今日は運営側だから一日この部屋は空ける。何かあったらウマホで連絡をしてくれ。すぐに向かうから」

「わかったよトレーナー。頑張って!」

「おう。お前のライブは見に行くからな。そっちも、頑張れよ!」

 

 軽くトレーナーと拳を合わせて、私は学園内へと歩みを進める。その道中、各教室では今日の感謝祭へ向けた最後の飾り付けやリハが行われていた。

 

「お、シービー。おはよう!」

「エース。おはよう…って、その格好は?」

 

 その最中にカツラギエースを見つけたのだけど、なかなか変わった格好をしていた。パンツルック、そして燕尾服。つまりは男装だ。

 

「ああ、うちのクラスの出し物が執事喫茶でな。朝の持ち回りがあたしなんだ。どうだ、結構似合ってると思うんだけど」

 

 くるりとその場で一回転。うん。エースの快活さとあいまって、実にいい執事さんといった感じがする。

 

「うん。よく似合ってるよ。惚れちゃいそうなくらいカッコいい」

「惚れちゃう!?はははは!シービーからそう言われるなら間違いないな!っと、いけね、まだ準備中だった。またな!」

「うん。またね、エース!」

 

 お互いに軽く手を振って別れる。なるほど、エースの所は執事喫茶か。なんか、人気出そうだなぁ。あ、ライブ終わったら飛び入りで参加してみようかな?面白そうだし!

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