私は転生ウマ娘だよ。   作:灯火011

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トレセン学園感謝祭―ウマ娘の憂鬱

「どうする?ミスターシービーのライブ」

 

 今日の感謝祭へ繰り出す道中。私と親友のあたりさわりのない言葉のキャッチボール。私の先輩にあたるウマ娘のミスターシービーのライブを見るかどうかなんていう、そんな他愛もないもの。

 

「見る。もしかしたら、今年で中央トレセン最後かもしれないし」

 

 しかし、私達とは違う、選ばれし者であるミスターシービー。そもそも、トレーナーがついて、中央で走れるというだけでもかなりの選ばれし一握り。その中でG3などの重賞を勝つウマ娘なんて言うのは、雲上の存在だ。G1を勝つ、なんていうのは、もう神様と言っても良いかもしれないなぁ。

 

「そうだね。見ようか」

 

 私たちは2人共、トレーナーが着いていないウマ娘。中央に入る実力こそあったのだろうけれど、そこまで止まりのウマ娘だった。

 

「そういえば、先週の選抜どうだった?」

「聞いちゃう?」

「野暮だった。ごめん」

「ううん。ちなみに君は?」

「…聞いちゃう?」

「あー…これこそ野暮だったね」

 

 少しだけ気怠い気持ちを押し退けて、今日はなんとかここに立っている。学園の出店を見てみれば、そこにいる店員役はほとんどが中央で活躍しているウマ娘ばかり。普通のウマ娘は、裏方ぐらいの手伝いしかできないのが正直な話だ。なんせ、今日は感謝祭。名ウマ娘と触れ合えるのが一つの楽しみだから、というのは納得しているが、やっぱり、どうも。

 

「君は今年で何年目だっけ?」

「2年目。君は?」

「私も2年目。そろそろ限界だよねー」

 

 日々練習を重ねている。サボっているわけではない。でも、トレーナーに巡り合うわけでもないし、模擬レースでも勝てるわけでもない。このスカウトシーズンを過ぎてしまうと、自動的に3年目にたどり着く。つまり、正直に言って在籍がドンドン苦しい立場に追い込まれていく。別に、気にしないっていうウマ娘も居るけれど、この中央トレセンという選抜学校で3年も4年も芽が出ないとなれば…。

 

「もし、諦めないとイケないとなったら、どっかに行くの?」

「んー、私は高知に戻る予定。君は?」

「アタシは父さんのいるイギリスに戻ろうかなって。あっちならもうちょっと頑張れるかもしれないし」

「なるほどねー。ただ、お互い後悔はしたくないよね。せっかくここに入れたんだし」

「うん。本当そう思うよ」

 

 お互いに空を見上げた。抜けるような青い空。全くもって憎らしいほど。暗い気持ちとは真逆に、今日のトレセンは実に騒がしい。

 

「そういえばエースさんは執事喫茶やるんだって。これも行こうよ」

「え?そうなの?似合いそう。行こう行こう」

「あとはマルゼンさんのファンレースもあるって、参加する?」

「するする!」

 

 暗い気持ちを押し込めて、今日ぐらいはトレセン感謝祭を楽しもう。気持ちを切り替えて、私たちは歩みを進め直していた。―ふと、その時、バイクの音が聞こえた。音のする方向を2人で向いてみると、そこに居たのは噂の人物、ミスターシービー。いつものバイクでの通学だ。いや、正確には彼女は勉学を受けなくてもいい立場だから、通学と言うか、今日はこの感謝祭のライブのために登校していると言ってもいいだろう。

 

「ミスターシービーだ」

「あ、本当だ」

 

 大きなモーター音のようなバイク。詳しくは知らないけれど、あの黒くでギラギラしててすごいゴツゴツしているバイクを、いつ見てもよく扱うなと思う。パンツルックでジャケットを羽織る様は、単純にカッコいいを超えている。

 

「わー、カッコいいね。やっぱり。違うねー、私達と」

「本当。持ってるウマ娘はオーラも違う」

 

 遠くから見ても雰囲気が違うと思う。ヘルメットを取った彼女の美しい顔が、こちらからでも十分に感じ取れる。シュっとした立ち姿。歩く姿は一本筋が通り、どう見ても実力者の風格を感じる。―と、こちらの視線に気づいた彼女が、私達に軽く手を振ってくれた。

 

「わ、手、振られちゃった」

「本当だ。ちょっと嬉しいかも」

 

 そんな事を言いながら、手を振り替えしてみると笑顔で親指を立ててくれた。こういうところもすごくカッコいい。

 

「本当にカッコいいなぁ。ああなりたい」

「うん。でも、ねぇ」

「難しいよね。アタシたちじゃああはなれないよ」

 

 ミスターシービーが去った後、少し肩を落とす。ああなりたい。でも、なれない。本当、憂鬱な気持ちだ。

 

 そう、分類するなら私たちは持っていないウマ娘。彼女は、持っているウマ娘。

 

 この差は、なかなか埋められない。

 

 

 エースと別れてのーんびりと校内をほっつきあるいていたら、いつのまにか感謝祭の開始時間を過ぎていたようで、一気に学園の中が活気に満ち溢れ始めていた。というか、本当はマルゼンやルドルフに挨拶にいったのだけれど、すでにもぬけの殻。遅かったかぁと思いながら、喧騒の学園祭を感じながら歩いてみてれば、見知った顔がいたので思わず声を掛けてしまっていた。

 

「おはようございます。楽しまれてます?」

 

 そこにいたのは根付さん。小さい眼鏡がなかなかチャームポイント。片手にたこ焼きを抱えて、ウマ娘に囲まれる彼の姿はなかなかレアなお姿だと思う。

 

「おお、嬢ちゃん。楽しんでるぜ。いや、学園祭ってのも久しぶりだが、なかなかどうして楽しいもんだな」

 

 手を上げてそう答えてくれる。うん、なかなか気さくだこと。

 

「あはは。ありがとうございます」

「さて、ウマ娘ちゃん達、ちょっと悪いが俺はミスターシービーと打ち合わせだ。ライブ、来てくれよ?」

「「「はい!もちろんです!」」」

「良い返事だ。またなー」

 

 囲んでいたウマ娘たちを上手いこといなした根付さん。肩を並べて歩きながら、ぽつりぽつりと言葉を交わす。

 

「良いところだな、此処は」

「ええ。良いところです。良くも悪くもだけどねー」

 

 ふと、視線を窓に向けてみれば、感謝祭だというのに必死な顔で練習をするウマ娘たちの姿。あれはそう。簡単に言えば『後が無い』ウマ娘だ。理由は様々。トレーナーに合わない。学費が払えない。実力が落ちた。気持ちが切れた…子はあのなかには居ないけど、しかし、そういう子もいるのもまた事実。頂点に立つと、色々と見えるもので、ちょっと嫌にもなる。

 

「ま、競い合うから仕方ないんだけどさ」

 

 肩を竦めてみれば、私の視線の先を同じように追う根付さんの姿があった。彼の場合は肩をすくめる事もなく、軽く笑って見せていた。

 

「だろうな。嬢ちゃんみたいなトップもいれば落ちこぼれて去る奴もいる、か」

「うん。だから、今回は色々歌うんだ。特に最後の曲は落ちこぼれたとしても、後悔のないようにってね」

 

 ふむ、と頷く根付さん。たこ焼きを1つ頬張りながら少し思案するように視線を泳がしていた。と、その鋭い瞳が私を貫く。

 

「ああ、なるほど。今日のセットリストは納得だ。最後にアレを持ってきたのは確かに」

「でしょ?ま、最後暗い感じで終わるだろうから悩んだけどね」

 

 あの曲を最後に持ってきた場合は、多分、微妙な空気にもなるだろうと思う。でも、それはこのウマ娘の頂点に立つ私の責務だと思う。

 

 …ま、本物の彼女ならこんなことはしないだろうね。けれど、私は残念ながら抱え込むタイプだし、できれば、ウマ娘には幸せになってほしいから。

 

「そんな嬢ちゃんに提案だ」

「提案?」

 

 なんであろうかと首を傾げて、根付さんの顔を見ると、そこにあったのはイタズラを思いついたような笑み。ほう、なんだろう?すると、驚く言葉が飛び出てきた。

 

「俺たちの曲、歌わねぇか?」

「え?」

「この前の一曲がいい歌だったからよ。もう一曲ぐらい歌ったらどうだ?」

 

 ほうほう…なるほど。根付さんたちの歌か。確かに、彼らの歌なら背中を押すには最高かもしれない。願ってもないことだ。ということで、大きくうなずいて笑顔を浮かべた。

 

「願ってもないよ」

 

 すると、納得したように根付さんも笑顔で頷いていた。

 

「おう。じゃあ…選曲はどうする?この前のダイナマイトなんかも…」

「根付さんに任せる」

 

 食い気味で言葉を被せる。確かにダイナマイトエクスプロージョンもいい曲である事は間違いない。でも、今回はむしろ、提案してきてくれた根付さんの思う曲を歌ってみたい。

 

「オレに?」

「うん」

「オレに任したらお前、嬢ちゃんが歌えない曲を選ぶかもしれねぇぞ?」

 

 少し困惑した様子でそう聞いてくる根付さん。でも、そこは安心してほしいと笑顔を浮かべてみせた。

 

「あははは、舐めないで?貴方達の歌は網羅してるから。そうだなー。()()()()()()()()とかもそうでしょ?」

 

 そうやって曲名を言うと、根付さんの顔が一瞬引きつった。が、次の瞬間には力の抜けた笑みを浮かべ、たこ焼きをもう一つ頬張る。

 

「…嬢ちゃん、歳いくつだ?そこまで知ってるって()()()()()()()じゃねぇか」

「言ったでしょ?舐めないでって。()()()()()()()()に、私は追っかけてるよ」

 

 そう言うと、根付さんは今度こそ参った顔をしながら頭を掻く。

 

「はは。そこまで見てくれてんのか。ミスターシービー。いいぜ、じゃあ、ラストの一曲は俺が選んだ一曲で盛り上がるぞ。()()()()な」

「うん。判った。根付さん。()()()()、盛り上がろう。で、そういえばさ、今日はそれまで何するの?」

 

 まだライブまで時間は有る。もしかして、ゲリラライブとか開くんじゃないかなーとか期待もしたんだけど、どうやらそうでもないらしい。

 

「あー、そうだなぁ。こんな機会なかなかねぇし、仲間と出店でも愉しむさ」

「そっか。じゃ、アタシも色々巡るから、一旦お別れだねー」

「ああ、じゃ、またライブ会場でな」

「うん。またねー」

 

 手を振って彼と別れようとした瞬間だ。不意に、根付さんがこちらに一歩体を寄せた。なんだろうと首を傾げた私の目の前に、串に刺さったたこ焼きが差し出され。

 

「ほら。旨いぜ」

「ん?わ、ムグっ」

 

 無理やり口に放り込まれた。なかなかの熱々。ソースの味とマヨネーズの酸味がいい感じの大きいたこ焼きだこと。

 

「最後の1個だ。ありがたく食えよー」

「ん、あふぃがふぉー」

 

 味わいながら、今度こそ手を降って根付さんと別れる。うん、どうやら彼も彼の仲間もなかなかに楽しんでいるようだ。さてさて、じゃあ、ライブまでアタシは何をしようかなー。あ、マルゼンが模擬レースをしてるとか言ってたっけ。飛び入りしようかな?

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