適当なベンチに座りながら、出店のメガたこ焼きとお好み焼きをのんびりと頂いているわけなんだけど。
「ミスターシービーさんはどうしてそんなに速いの?」
「んー?」
「ボクに教えてよー!ね?ね?ね!?」
「どうしようかなー?」
お隣にはどう考えても、どう見ても見知った顔のウマ娘が居る。しかも、想像通りやんややんやと喧しい。というか子どもの時からポニーテールだったんだねー。ポニーテール&ポニーテール。テールテールは実に可愛い。わちゃわちゃ動く彼女の姿を見ていると、やばい、ちょっと庇護欲的な感情が湧き上がってくるかも。
「教えてよー!!」
「んー…教えてもいいけど、君、なんでそんなに速くなりたいの?あ、たこ焼きいる?」
「たべる!」
大きいたこ焼きを串に差して彼女の目の前に差し出してみると、勢いよくそれに食いついて来た。なんだろ、餌付け?と、彼女の顔に笑顔の花が咲いた。どうやら、お気に召したらしい。
「まー、そうだねぇ。つまらないけど、聞く?」
「聞く!」
目がキラキラと輝いて、ずいっと上半身をこちらに寄せてきた。こりゃあ活きが良い。ふと気になって周囲を伺ってみれば、遠巻きに見守る人たちが数名。おそらくは私のファンとか、あとはきっと、このウマ娘の親御さんもいることだろう。見守る視線たちに手を振ってみると、ほとんどの人からは勢いよく手を振り返された。が、2人の男女は頭を下げてきていた。なるほどね。
…下手なことは言えないね?これ。
「ま、と言っても簡単だよ。練習、練習、その上に練習。あとは運動前の動的ストレッチと運動後の静的ストレッチ。最後に食事と普段の生活のリズム、勉強。全てをレースに向ける。それだけ」
私がそう言うと、彼女はポカンと口を開けてしまった。あー、ま、難しいか?ちょっと簡単な言葉で言い換えようとしたとき、彼女の表情が引き締まった。
「…その、普通、ですね?」
ほう?『普通』と言うか君は。しかも、結構難しい言葉だったと思うんだけど、これ多分、私の真意を理解している感じもするなぁ。やっぱり、天才は居るもんだ。
「君にとっては普通なのかな?」
「うん。普通。練習を重ねて、体をケアして、普段の食事と習慣で体を作って、勉強をしながら頭も鍛える。レースの事を考えて、全部頑張る!ボクがいつもやっていることだもん!」
なるほど。君は実に素敵だね。この頃から走ることへの情熱は本物だったわけだ。納得納得。しかも話していて判るけど、実は頭も勘もいい。なら、ここから君と私は一人のウマ娘どうし。子どもという認識は捨てて話をさせていただこうか。
「そっか。じゃあ、その普通をずーっと続けていれば、私の背中は見えてくると思う。でも、それだけじゃ足りない」
「足りないの?」
「うん。最後に必要な最後のピースがあるんだ」
人差し指を立てて彼女に笑顔を向けてみれば、首をコテンとかしげる仕草。うん、可愛い。
「それって何?」
可愛いんだけど、その口から出る言葉は真剣そのものだ。さっきまでのわちゃわちゃ動く彼女とは別人のよう。そう、もう一つ。運でもない、チャンスでもない。大切なことが1つ。
「自分の才能を熟知し、そして自分の体のことをよく理解した上で行われる努力の積み重ねだ。そう、ただガムシャラに走って練習してレースに出るだけじゃあ足りない。怪我しちゃうかもしれないしね。壊れるか壊れないか。その瀬戸際でどこまで追い込めるか。その見極めを間違っちゃいけない」
そう言いながらたこ焼きを頬張る。うん、メガたこ焼きというか、大型のたこ焼き。タコは2つ入ってる。これは確かに美味しいね。
「すごく難しそう」
「うん。難しい。でも、だからこそ。ルドルフ、マルゼン、エース。過去に目を向けてみればトキノミノルやトウショウボーイ、シンザンといった名だたる重賞ウマ娘達は結果を残せたんだ」
たこ焼きを嚥下してから、頷きそうやって言葉を続けてみると、このウマ娘は真剣そのものといった表情で、私の言葉を受け止めてくれていた。
「ま、つまり、自分の体をよく知ること。その走り方からくる負担をよく知って、練習を行うことだねー」
「自分の体を知る…でも、シービーさんは関係ない、よね?」
あー、ハタから見るとそう見えるのかな?でも残念。この足は結構、苦労してたんだ。ま、君にならいいだろう。
「君には話すけどさ、アタシの場合は足元が弱いんだ」
「え!?」
「驚いた?そうだね、普通に走ってたらきっと今頃、まともに走れなかっただろう」
驚きで目が開いちゃってまぁ、ちょっと面白くて吹き出しそうになってしまった。うん、こういうふうにコロコロと表情が変わるのも、彼女らしいね。
「じゃあ、なんで今、走れてるの?次、安田記念走るって…」
当然の疑問だろうね。彼女の頭の中ではこうなっていることだろう。
『ミスターシービーは自分で欠点が判っていて、まともに走れる自分の限界を知っていた。でも、今でもトップを走っている不思議な存在』と。
疑問は当然であるけれど、そう、これの答えは簡単で。
「自分を理解してくれて、そして、手伝ってくれる人がいるから」
「もしかして、トレーナーさんですか?」
「もちろん。でも、それ以外にも沢山。同級生、靴のメーカーの人や技術者さん達、そしてこのトレセンを運営しているURAの人々。全てに支えられて私はここに立っている」
それに、ミスターシービーとしての責務も私の芯の1つ。この名前を背負ったのならば、きっと、一度は、あの最強に、大舞台で勝たなければならないから。それまでは倒れるなんて事は出来ないしね。
「ま、だから君も、これからの話しだけど、そういう人を見つけるといい。例え才能があっても、努力できる才能があっても、その才能と努力だけを抱えて一人で走っていたら、そのうちに壊れちゃうからね」
ウインクを投げて見ると、そこには真剣な顔でこちらを見る瞳があった。真っ直ぐ。しかし、その中には燃える何かが見える。嫌いじゃない、好きな瞳だ。
「…わかりました!ボク、これから、色んな人と一緒にトップを目指します!」
「うん。いい返事。あ、ちなみに憧れのウマ娘は?」
一応聞いておこう。まぁ、多分私じゃない。だって、彼女の憧れは。
「シンボリルドルフさんです!」
うん。予想通り。いい顔で言い切ってくれた。思わず笑ってしまう。
「あはは!そっか。ああ、ちなみに今ルドルフなら校庭で案内をしているよ。私の名前を出せばきっと話を聞いてくれるから、行ってみな」
「え!?本当ですか!?ありがとうございます!」
「ふふ。じゃ、頑張ってね、未来の優駿さん」
「はい!お話楽しかったです!また!」
「うん、またね。…あ、お好み焼き食べる?」
「食べる!」
お好み焼きを手渡し、そして、手を振りながらその背を見送る。すると、やはり、予想通り先程の頭を下げてくれた男女の元へと駆け寄っていった。親御さんだったんだろうね。聞き耳を立ててみれば、まさに親子の会話が聞こえてくる。そのほのぼのさに、思わず口角が上がる。
「わーい!シービーさんからお好み焼きもらったよー!」
「よかったじゃない。テイオー。お話、聞けたの?」
「うん!」
「そうかそうか。この後はどこか行きたい所あるかい?テイオー」
「校庭!シンボリルドルフさんがいるんだって!」
未来の名ウマ娘の一人。トウカイテイオー。どうか、彼女の夢も叶いますように。ということで、ちょっと冷えてしまったけれどたこ焼きを1個、口に放り込む。
「…お?」
すると、感じた違和感。もごもごと口を動かしながらその正体を探ってみれば。
「ああ、タコが3つ入ってる。これはまぁた、大盤振る舞いだね。あ。あとでトレーナーに差し入れでもしようかなー」