私は転生ウマ娘だよ。   作:灯火011

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トレセン学園感謝祭―『モブ』達の推し

 チケットを片手に、トレセン学園の大きな門を潜る。『トレセン春の大感謝祭』という看板を通り過ぎると、広大な土地に、広大な建物。広大なトレーニング施設が見えてきた。

 

「おおー…流石中央だぁ。おー、アレがターフの練習場…」

 

 地元、高知のトレセンのダートレース場を思い出しながら、そう言葉が漏れていた。ミスターシービーさんに貰ったチケットをもう一度眺めてから、ポケットに大切に仕舞う。

 それで…ええと、ミスターシービーさん曰く、確か案内してくれるウマ娘さんがこの近くに居るっていう話だったんだけど…?

 

「や、君がナイスネイチャ?」

 

 そうやってキョロキョロと視線を泳がせていたら、一人のウマ娘さんが声を掛けてきてくれた。赤い耳カバーに白でバツのマークが入っている。ちょっと派手なウマ娘さんだなぁと思って、少しだけ答えに詰まってしまった。

 

「えーっと…」

「ああ、ごめんごめん。私はビンゴカンタ。えーっとね、ま、シービーの友人。シービーの替わりに君を案内しに来たんだ」

「あ、そうなんですか!アタシ、ナイスネイチャです。よろしくお願いします!」

「おお!元気がいいね。それじゃあ、えーっと、トレセンは初めてでいいのかな?」

「はい。初めて来ました!」

「そっかそっか。じゃあ、そうだねー。軽く案内しようと思うんだけど、どうかな?」

 

 ビンゴカンタさんというウマ娘さんは、短く会話しただけだけど優しい、面倒見の良さそうな印象を受け取った。それに、ミスターシービーさんのお友達というのであれば、きっと、ついていって問題ないと思う。

 

「はい!ぜひよろしくお願いします、ビンゴカンタさん!」

「うん。よろしく。それで、ミスターシービーから伝言。『チケット渡したのに迎えにイケなくてごめん』だって」

 

 なんとなく、バツの悪そうな顔をしながら、右手を顔の前で立てて『ごめん』と言っているシービーさんの姿が思い浮かんだ。少し面白くて、口角が上がる。

 それと同時に思い出したシーンが有る。皐月賞とダービーで、ミスターシービーさんとカツラギエースさんの後ろに走り込んできていた、このビンゴカンタさんの姿を。とてもとても強く、綺麗だったあの姿を。

 

「大丈夫です。気にしてません!むしろ嬉しいです。第一線で活躍されてるウマ娘さんに案内していただけるなんて!」

 

 湧き上がる気持ちのまま言葉を伝えてみると、ビンゴカンタさんの顔に花が咲いた。

 

「あはは、ありがと。私の事知ってくれてたんだね!あ、そういえばシービーからは親御さんも来ると聞いてたんだけど…?」

「それが、仕事の関係で帰らなくちゃいけなくなってしまって、すごい残念だって言ってました。あ、帰りはまた迎えに来てもらえます」

「そっかそっか。じゃあ、そうだなー。せっかくだし、ナイスネイチャが良ければ今日は一日おねーさんと回ろっか!」

「はい!ぜひ!」

 

 ということで、ビンゴカンタさんと感謝祭を回ることになった。メインストリートに並ぶ露店には、美味しそうなたこ焼きや大判焼き、お好み焼きやチョコ、ポップコーンにアイス、それに綿あめなんかが並んでいる。両親からは楽しんでおいで、と結構大きな金額を貰っていたんだけれど。

 

「はい、たこ焼きー。お金は気にしないで」

「え?でも…」

「いいのいいの。シービーが君を気に入ってるんだ。君、未来の優駿だもん。そんな君を案内しているのにお金を出させた、なーんてシービーに言えないからね。それに、私だってそこそこ貰ってるからさ。気にしないで食べてねー?」

 

 有無を言わさない笑みを浮かべてそんなことを言われてしまった。こういう時は素直に。

 

「…じゃあ、遠慮なくいただきます!」

「うん。どうぞー」

 

 地元の商店街のおじさんやおばちゃんたちを同じ笑顔だなぁと思いながら、たこ焼きを1つ頬張る。おお。タコが2つはいってる。

 

「美味しいです!」

「ふふー、そうでしょ?シービークロスっていうウマ娘さんの出店なんだけどね。絶品なんだよねー」

 

 シービークロス。アタシでも名前は知っている。白い稲妻と呼ばれた重賞ウマ娘だ。まさか、そんな有名な人が出店を出しているなんて。

 

「すごい人のたこ焼きなんですね!?」

「お、知ってた?すごいでしょ。このメインストリートの出店はそういう人の出店ばかりなんだ。ほら、あっちにいるのがサクラショウリさんで、あっちのたいやき屋にいるのがダービーウマ娘のカツトップエースさんに、カツラノハイセイコさん。知ってる?」

「知ってます!知ってます!!わ、すごい!」

 

 画面の向こう。ラチの向こうでしか見たことのないウマ娘さんたちがすぐそこに居て、彼女たちと直接やり取りをして、彼女たちの作ったものを食べられたりする。すごいお祭りだ!と思うと同時に、1つの疑問が浮かんでくる。今、一番注目のウマ娘がここには居ないからだ。

 

「そう言えば、ミスターシービーさんは出店とかは…?」

「出してないよ。まー、彼女の場合そういうのやらないしねー。今日のライブだって本当にやるの?って言われてたし」

「そうなんですか?」

「うん。自分のやりたことだけやってるのが彼女だし、私達もそれが彼女だって思ってる」

「へー…」

 

 満足そうな笑みを浮かべているビンゴカンタさん。なんだろう、ちょっと、誇らしげだ。

 

「ま、今日はシービーはライブに全力だからねー。キミにも満足してもらいたいって漏らしてたから期待できるよ」

「わ、本当ですか」

「うん。私も楽しみにしてる。それになんか仕掛けるみたいだし?」

「仕掛ける?ですか?」

「そ。なんか、全部のウマ娘の背中を押すんだって真っ直ぐな目で言ってたんだ」

「全部の?」

 

 どういうことだろう?全部のウマ娘の背中を押す…って、すごい事をしようとしているのはわかるんだけど。

 

「うん。そうだねぇ。ま、こういう事をいうと卑屈ーとか贅沢な悩みーとか言われちゃうんだけど、私はモブみたいなもんなんだ」

「…モブ?モブって…えーと、ゲームとかの、その、主人公じゃない人たち、ですか?」

「そ。私は重賞に出るけど、なかなか勝てないからねー。そりゃ、オープンにも上がれないウマ娘に比べればすごいと言われるんだけど、やっぱり、一級品のキラキラしたウマ娘は本当に居るんだなって思うことがあるんだ」

 

 こんなこと言ってごめんね?と断りを入れられたけど、アタシはどこか納得していた。シービーさんに以前『普通』という事を言われているからだろうか?

 ビンゴカンタさんが言う『キラキラしているウマ娘』。シービーさんも言っていた『私よりも才能があって練習を積むウマ娘』という言葉。

 やっぱり、トレセンって厳しい場所なんだなぁ…などと、考えていたら難しい顔になっていたのだろうか。ビンゴカンタさんは、アタシの顔を見て少し焦ったように言葉を続けてくれた。

 

「あー。ちょっとネガティブな事いっちゃったね。たださ、自分でも不思議なんだけど、勝ちを諦めるっていう気にはならないんだ」

 

 彼女の顔は真剣そのもの。アタシの目を見ながら、そして、更に言葉を続けてくれていた。

 

「ミスターシービー。彼女の後ろは、走りやすいから。なんていうんだろ、いつでも目標で居てくれるっていうか。あー、ま、何言ってるんだって言うだろうけど」

 

 今度は頭を掻いて、少し悩む素振り。アタシは、静かにそれを聞いていることしか出来ない。重賞を走れるウマ娘ですら、こういう悩みを抱えているんだなって肌で感じるのは初めてだから。

 

「でも、いつか抜いて見せる。いつか、彼女を越えて見せる。彼女の横を、前を。歩きにくくても、自分の足で一番前を走りたい」

 

 そういった彼女の顔に、希望の花が咲いた。目は前しか向いていない。

 

「…あはは、ビンゴカンタさん。モブだなんて嘘じゃないですか」

 

 ミスターシービーさんが言っていた『普通』。きっと、ビンゴカンタさんは、その『普通』に生きている人、トゥインクルシリーズの主役なんだって思う。

 

「モブじゃないです。主人公です」

「あはは、そう言われると照れるなー。ま、ただね」

 

 くしゃっと表情を崩して、アタシの頭をやさしく撫でてくれていた。

 

「私みたいに彼女の背中を追い続けられるウマ娘っていうも一握りでさ。諦めちゃう子もいるんだ。ただ、そんな子の背中も押すって言ってたってわけ」

「はぁー…。すごい事を考えてるんですね。ミスターシービーさんって」

「うん。すごいよ。本当に」

 

 

 ビンゴカンタさんと感謝祭を回るうちに、グランドへと足を踏み入れていた。大きな足音が響き渡り、一段と盛り上がりを見せている。その理由は現役のウマ娘たちによる模擬レースが行われ、更には一部では重賞ウマ娘と並走も出来るという豪華なイベントが行われているからだ。

 

「おー。やってるやってる!」

 

 ビンゴカンタさんは、その光景を見ながら満足そうに頷いていた。視線の先に居たのはマルゼンスキーさん。どうやら、一般人や一般ウマ娘と一緒に模擬レースを行っているみたいで、すごい盛り上がりを見せていた。

 

「わぁ…マルゼンスキーさん、速いですね」

「ふふ。まぁね。トレセンきってのエースだし。ネイチャも走る?」

「あ、えーと…」

 

 走ってみたいと思うのが正直な気持ち。だけど、アタシの憧れはマルゼンスキーさんじゃないし、いやそもそもアタシの足じゃあ勝負にもならないし…なんて迷っていると、ビンゴカンタさんは空気を読んでくれたのか、少し違う話題を振ってくれた。

 

「お、人だかり。あれはー…ああ、シンボリルドルフだ」

「え?シンボリルドルフさん!?無敗の皐月賞ウマ娘の!?」

「うん。ミスターシービーに続いての無敗の三冠ウマ娘候補!人気だよー。近く行く?」

「ぜひ!」

 

 ビンゴカンタさんに連れられて人混みの近くへ来てみると、その中心に噂のシンボリルドルフその人がいた。どうやら、模擬レースの案内役をしているようだ。テキパキと指示を出して人を裁いていく手並みは見事としか言えない。

 

「わー、かっこいい」

「でしょ?うちのトレセンの次期エースだからねー」

 

 オーラがあるなぁ。シンボリルドルフさん。と、思っていたら。

 

 人混みの中から小さな影が勢いよく飛び出し、シンボリルドルフさんの足元へと駆け寄っていた。ポニーテールでアタシと同じウマ娘の耳と尻尾。どうやら、小さなウマ娘の女の子だ。そして、我慢できない!といった満面の笑みを浮かべて、誰も止める暇もなく大きな声を出していた。

 

『あの、シンボリルドルフさん!』

『ん?おや、君は…?』

 

 戸惑うシンボリルドルフさんに、ウマ娘の女の子は物怖じせずに大きな声で言葉を続ける。すごいなぁとあっけにとられてしまう。

 

『ミスターシービーさんに言われてきました!ここに来れば会えるって!憧れているんです!』

『シービーに?そうか。なるほど。すまない、少々案内を任せる。エアグルーヴ』

『かしこまりました。お任せください』

 

 あっという間に、輪の真ん中にいたはずのシンボリルドルフさんを独り占め。思わず、口が開く。どうやらビンゴカンタさんも同じようで、口が開いて目は女の子に釘付けだ。

 

「はー、すごい子も居るんですね」

 

 ようやく言葉を絞り出した。素直にすごいと思う。アタシの言葉を聞いて、ビンゴカンタさんも深く頷いていた。

 

「あははは、本当にすごい子だよ。ま、多分あの子が特別なだけだと思うけど。だってシンボリルドルフにああもグイグイ行くウマ娘ってそうそう居ないから」

「そうなんですか?」

「うん。私も彼女の先輩ではあるけど、なかなか声掛けれないしね。ミスターシービーとかマルゼンスキーさんあたりはグイグイ行くけど、あれとかと一緒。特例だねー」

「はえー…そうなんですね」

 

 そうやってアタシ達が会話を続けるさなかでも、女の子はどんどんとシンボリルドルフさんへ食らいついていく。

 

『そうか。私に憧れて。しかし、私より強い、無敗の三冠ウマ娘ならミスターシービーがいるぞ?』

『ボクはシンボリルドルフさんが憧れなんです!無敗の三冠ウマ娘!信じてます!』

 

 シンボリルドルフの口角が上がる。ああ、その表情だけでもかっこいいなぁって思っちゃう。

 

『ふふ。ありがとう。キミは元気いっぱいだな。名前は?』

『トウカイテイオーです!』

『そうか、ならばトウカイテイオー。見ててくれ。私が彼女に並ぶその瞬間を』

『はい!』

 

 トウカイテイオーという女の子。彼女の言葉でシンボリルドルフの顔が一気に引き締まった。まるで、誰かを抜かさんとばかりに先を見る熱い瞳。そして、ミスターシービーさんへの宣戦布告。正直、近くで見ていただけだけど、びりびりと肌が焼ける感覚を覚えていた。

 

「…本当にすごいね。あの子。ぐいぐい行ってすごい言葉を引き出しちゃったわ」

「ですねー」

「あ、そういえばネイチャ。キミは憧れのウマ娘はいるのかい?私にできる範囲でだけど、会わせてあげられるよ?」

「あー…それは」

 

 視線を落として、チケットを取り出した。あの日、キャンプ場で受け取ったアタシの宝物。視線をビンゴカンタさんに戻して、にかりと笑って見せる。

 

「叶っているので、はい」

「ははぁん?そのチケット…なるほどね」

 

 

「あ、ミスターシービーさんだ」

 

 しばらく校庭でマルゼンスキーさんの模擬レースを見ていたら、遠くにミスターシービーさんの姿を見ることが出来た。どうやら一直線にマルゼンスキーさんの元へと向かっているようだ。

 

「お、今日の主役の登場だねー。いやー、遠くから見ても、全くカッコいいウマ娘だなぁ」

「はい!そう思います!」

 

 制服姿のミスターシービーさん。立ち姿はシュッとしていて、自信満々と言った様子。ただ、伝わってくる雰囲気は口角が上がって目尻が下がっているあたり、楽しそう。もしかして、マルゼンスキーさんと模擬レースでも行うのだろうか?

 

「あー、こりゃやる気だね。シービー。彼女も走るの好きだからねー」

 

 アタシの思考と重なるように、ビンゴカンタさんがそうつぶやく。ということはマッチレース。これは見なくちゃ損だ!…と、そういえばビンゴカンタさんも同期のはずなんだけど、走らないのかな?

 

「あ、そういえば、ビンゴカンタさんは走らないんですか?」

「ん?どうして?」

「ミスターシービーさんが走るので、一緒に出るのかなって」

 

 あー、と頷きながら、しかしビンゴカンタは首を横に振った。

 

「いつか抜きたいんだけど、なかなかねぇ。ね、ネイチャ。そうだなぁ、ここで走ったとして…君は私がシービーに勝てると思う?」

「えーっと…」

 

 迷う。正直、シービーさんの強さはピカイチ。でも、ビンゴカンタさんだって2着3着に入ってるレースが多い。条件次第なら…、いやでも…なんて考え込んでしまっていると、隣から吹くような笑い声が聞こえた。顔をあげてビンゴカンタさんの方を見ようとすると、不意に頭を撫でられた。視線をビンゴカンタさんに向けてみると、ちょっと困ったような笑顔を浮かべていた。

 

「うん。そうなるだろうね。だから私はさ、結果が解り切ってる今回は走らない。それに、私としては、彼女と走るのは此処じゃないと思ってるんだ。彼女との勝負は大きな舞台じゃなきゃ勿体ないって心の底から思ってるんだ」

 

 ミスターシービーさんを見るその目には間違いなく何か特別な感情が宿っている。まっすぐで、とても熱い。

 

「それに、まだ鍛えたりないからねー。もっともっと速くなってきっと追い抜いてみせるよ」

「なるほど…。あ、でも、ミスターシービーさんがその、もっと速くなったりとか、ミスターシービーさん以上のウマ娘が居た場合って、どうするんですか?」

 

 そこまで言って、あ、かなり失礼なことを言っちゃったかもしれないと気づいて、急いで訂正しようと思ったのだけど。

 

「あー…。うん。そういうことも有るだろうけどー。ま、その時は、その時だよ」

 

 そう言いながら、ビンゴカンタさんは誤魔化すように頭を掻いて笑顔を浮かべていた。でも、アタシは気づいてしまった。その瞳に灯っている、とてもとても熱い熱を。

 

 ―私なら、頭をかいて誤魔化すよ

 

 不意に、ミスターシービーさんの言葉が頭に蘇る。

 ああ、なるほどと納得する。これが、彼女たちの普通なんだ。

 

「それに、相手が速いぐらいじゃ勝ちを諦める理由にはならないよ」

 

 ニカリと笑ったビンゴカンタさん。その笑顔には1つのクモリもなく、まるで太陽のような。

 

「今は、彼女が速い。それだけだもん」

 

 …やっぱり、モブなんて嘘じゃないですか。ビンゴカンタさん。

 一流の、最高のウマ娘です。

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