私は転生ウマ娘だよ。   作:灯火011

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トレセン学園感謝祭―模擬レースの一幕

「やー。マルゼン、楽しそうなことやってるねー!」

 

 たこ焼きでちょっと膨れたお腹を擦りながらマルゼンの元へ来てみると、そこにあったのは喧騒と熱。すでに模擬レースは何本も行われていて、走る前の人や、走った後の人の顔たるや楽しそうで非常に羨ましい。

 

「シービーちゃん!ふふ、楽しいわよ。模擬レース!…やる?」

 

 マルゼンスキーも例に漏れず、頬をちょっと紅潮させてエクボなんか作っちゃってる。そんな彼女に誘われたら、反射的にこう言うしか無いでしょ。

 

「やる!」

 

 ぐっと伸びをして、早速スタートラインに向かおうとした。のだけれど、一人のウマ娘に割って入られた。

 

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってください。ミスターシービー先輩、順番がありますので」

 

 おや、エアグルーヴ。眉間にしわを寄せて、勘弁してくれと言わんばかりの顔だこと。あれ、そう言えば案内ってルドルフじゃなかったっけ?と思いながらキョロキョロと視線を泳がせてみると、小さな女の子と一緒にいるルドルフがいた。

 

『ボク、ルドルフさんみたいになりたいんです!』

『私のように?』

『はい!かっこよくて!強くて!素敵なウマ娘に!』

 

 あー…テイオーだ。私、焚き付けたもんにー。エアグルーヴがちょっとテンテコマイな原因は私にもあるね、これ。

 

「ん?あ、そうなの?」

「ええ。今は…5組後ですね」

 

 エアグルーヴが恐る恐ると私にそう告げる。ま、邪魔しないように、ここは無理を言わずに順番を待つとしよう。

 

「じゃあ待つよー」

「本当ですか!お気遣いありがとうございます」

「気にしないでー。っていうか、エアグルーヴ」

 

 私が名前を呼ぶと、首を傾げて脚を止めてくれた。

 

「はい、なんでしょう?」

「頑張ってるね。ルドルフの足りない所、しっかりフォローしてくれててありがとね?」

 

 きっと最近のルドルフの余裕の一端を担っているのは君だろう?熱い熱いルドルフを感じ取れるお礼だ。

 

「いえ、とんでもありません」

 

 すると、きれいに腰を折ってくれる。うーん、実に一流な所作。ルドルフが気に入るわけだ。

 

「それに、いつか君とも本気で走ってみたいと思うよ」

「私と、ですか?」

「うん。だって君、速くなるもの」

 

 笑顔でエアグルーヴにそう告げてみると、少し目を見開いて戸惑いを見せた。だけど、すぐに表情を引き締めて、こちらに軽く頭を下げる。

 

「…御冗談を。では、少々お待ち下さい。順番が来ましたらお呼びします」

「よーろーしーくー」

 

 さり際、彼女の頬に少しだけエクボが出来ていた。うん、上手く労えた、かな?手をひらひらとさせながら、模擬レース待機所と雑にプラカードが立っている場所に向かう。

 

『…うお!ミスターシービー!』

『うわ…本物…かわいい』

『顔ちっさ。すごいカッコいい』

 

 驚きの声が私を囲む。ま、重賞ウマ娘の隣はなかなか立てないからねー。じゃ、少しだけファンサービスといきますか。

 

「聞こえてるよー?褒めてくれてありがとね。握手でもする?」

『あ、ああ!ぜひ!』

「はーい。そうだな、暇だし、なんか聞きたいことあれば聞くけど」

 

 数名と握手しながら、そうやって目配せをしてみると、早速数名が手を上げてくれていた。

 

『あ、じゃあ、ミスターシービーさんの趣味は!』

「趣味?バイク」

『バイク?』

「うん。遠くに自由に行けるのが好きでさ。風を浴びてどこまでも行けるのが最高なんだ。キミもどう?」

 

 そうやってウインクをしてみると、ぱあっと笑顔の花が咲いた。

 

『…乗ってみたいです!』

「うんうん。良いね。もし乗ることがあったら連絡頂戴。一緒に走ろう?」

『えええ!?いいんですか?』

「もちろんさ。他の皆もねー。あ、他になんかあるー?」

 

 すると、今度手をあげたのは子どものウマ娘。さてさて、君の質問はなんだろうか?

 

『あの、私、トレセンを目指しているんですけど、入れますかね!?』

「ん?んー…判らないなー」

 

 正直に伝える。というか、質問が結構漠然としちゃってるからね。なんとも言い難いところはある。難しいところはあるんだけど、聞かれたからには先達として1つアドバイスを送っておこう。

 

『判らない?』

「うん。トレセンを目指しているウマ娘は多いしね。ま、ただ」

『ただ?』

「入るところを目標にしないほうがいいよ。それよりも」

 

 そう、入ることを目標とすると、入った後にすぐに落ちる。燃え尽きるってやつだ。それは私も望まないし、本人も望んでいないことだろうからね。

 

「誰を笑顔にしたいのか。誰に勝ちたいのか。先を見据えたほうがいいと思う」

 

 大切なのはどこを目標とするか。私の場合は幸い、シンボリルドルフ、カツラギエース、マルゼンスキー、そして、ミスターシービーという背中が居た。だからこそ、今も走り続けられている自覚は有る。

 

『先…』

 

 子どものウマ娘は、少し視線を落としてしまった。いきなり言われたら難しいか。じゃあ、もっとシンプルにしてあげよう。

 

「あ、じゃあさ、私に向かって宣言してみなよ。誰を目標にして、誰を追い抜くのか。聞いたげる」

 

 誰を目標にするのか。今、この瞬間にキメてみろと意志を持って彼女に告げた。ここでキメられれば、彼女はきっと活躍するだろうし、迷えばきっと、活躍が後ろに伸びてしまうだろう。下手すれば、二度と会うことはない。さあ、この子はどうだ?

 

『私は…』

 

 すると、意を決したように彼女は首を上げた。その顔に浮かぶのは、満面の笑み。そして、大きく開かれた口から出た言葉は、素晴らしいものだった。

 

「私の目標はミスターシービーさんです!絶対!大きなレースで抜いてみせます!」

「…おお!?アタシを!?言ったなー!」

 

 自分でも口角が上がったことがよく分かる。ああ、きっとこの子は大丈夫だ。っていうか、面と向かって言われると、やっぱり嬉しいもんだね。

 

「じゃあ、キミは大丈夫だ。絶対にトレセンに入れるし、私と同じレースを走れるよ。あ、ちなみに君の名前は?」

「ウイングアローです!」

「よし、覚えたよウイングアロー。じゃあひとまずは今日、楽しく走ろう」

「うん!」

 

 

「やーお待たせ」

「待ってないわよー」

 

 距離は800。路面は転倒などのことも考えて、柔らかいダートが選ばれているようだ。ま、ちょうどいい模擬レース会場といった具合である。走る面子は人間が3人、ウマ娘が5人、ウマ娘の子どもたちが8人。全18人フルゲート。先程会話をしていた皆が横一線に並ぶ。

 

『位置について!よーい!』

 

 号令で、全員が腰を落とした。そして、刹那のひとときを超えて、緊張感が最高潮になった瞬間。

 

『ドン!』

 

 全員が一気に駆け出した。先頭に行くのはマルゼンスキー。その後ろから大人のウマ娘たちが追いすがり、更に子どものウマ娘。その中にはウイングアローがいる。そして普通の人間がシンガリに近いところでぐっと駆け出した。

 

 だけど。

 

『あれ、ミスターシービー、スタートしない?』

『他の皆スタートしたよね?』

 

 戸惑う声が観客から聞こえる。まぁまぁ落ち着きなさいな。今日は無敗の三冠のミスターシービーさんとしてここに立っているからね。ぽけーっとすること10秒程度。マルゼンスキーの背中は150メートル先ぐらい。彼女も全然本気じゃない。ま、そりゃあね。普通の人間もいるし、エンジョイレースだし。

 

 つまり、ここを走っているひとの見たいものを、感じたいものを見せるためのレースってことだ。そのぐらいは判るさ。きっと、マルゼンスキーの背中を皆みたい。ならば、私は?

 

「じゃ、いっくよー」

 

 上半身から力を抜いて、だらりとリラックス。少し膝を曲げ、重力に任せて体を前傾に。そして、前のめりに倒れる寸前に、左足を一気に蹴り出して、トップスピードに乗せた。

 

『はっや!うわ。地面えぐれてる』

『うわ。エッグ…あれがミスターシービーの加速…!?』

 

 滑るように。右足、左足とダートを抉る。うん、ターフとちょっと勝手は違うけれど、これはこれで走りやすい。むしろ、負担が少ないから私的にはいいかも。そうして一瞬で普通の人達の横を抜け、ウマ娘たちの横を抜け、前目に上がってきていたウイングアローの横へと飛び出し、軽く声を掛けておく。

 

「マルゼンスキーさん速いいいい!」

「や」

「ミスターシービーさん!?え!?」

「いい脚してるねー。他の人達を抑えてマルゼンの後ろを取るなんてさ」

 

 ウインクを投げてみると、驚いたように目を見開いてくれていた。うんうん。そういう顔好きだよ。でも、もっと驚くだろうから、しっかりと私を見ていてくれると嬉しいな!

 

「じゃ、せっかくだし見てて。ちょっと本気出すから」

 

 驚くウイングアローを尻目に、脚に力を叩き込み、マルゼンスキーの背中へとピタリと付ける。振り向いたマルゼンスキーの鋭い目がこちらを捉えた。

 

―来たわね!―

―当然!―

 

 ギアが上がる。残り1ハロン。最後の追い込みとしては最高の距離。グアン、と2つのエンジン音が脳内で轟く。ターフに限って言えば、ここぞの加速は私のほうが上。ただ、トップスピードと粘り強さはマルゼンスキーのほうが上。しかも距離が800でここはダート。きっと、思い通りにはならないだろう。

 

 でも、だからこそ、全力を出して楽しめるというもの!

 

「やああああああああああああ!」

「ハアアアアアアアアアアアアア!」

 

 マルゼンと体を合わせ、横一線でダートを駆け抜ける。吹っ飛んでいく景色、巻き上がる声援。だけど、どうしても最後のひと伸びがキツイ。ダートの砂に力を分散させられてしまっていて、どうも。と、ふと、視界の端に見えたウマ娘。

 

「ミスターシービーさぁあああん!頑張ってえええええええ!」

 

 ナイスネイチャの声で、諦めかけていた気持ちに、脚に力が入る。はは、応援されたからには、余計に負けるわけにはいかないねぇ!

 

 

「ダートも行ける、なんて聞いてないわよ?水臭いわねーシービーちゃん」

「アタシも自分が走れるとは思ってなかったよ。マルゼンはやっぱり速いな」

 

 白熱した模擬レースの結果は、なんと同着。ま、機械があるわけじゃないから暫定といったところだけど、それを決めるためのレースじゃないしね。ゴール板役のウマ娘の判断だ。

 

「お二人ともやっぱり速いですねぇ」

「はは、ありがとね。オーロラテルコ。でも、やっぱりアタシのほうが早かったんじゃない?」

「こら、シービーちゃん。さり気なく勝とうとしないの。ね?同着よね?テルコちゃん?」

 

 軽く頭をこづかれてしまった。オーロラテルコはといえば、一瞬困ったような笑みを浮かべてから、力強く頷く。

 

「はい、同着です。で、3着がウイングアローちゃん。すごいね。他の大人たちを抑えて、2人から5秒遅れ。期待出来る子だねー。はい、賞品」

「ありがとうございます!やった!」

 

 そう言ったオーロラテルコから、ウイングアローへと紙袋が手渡されていた。うん、結構大きいヤツだ。ちょっといいなーと思っちゃったけど、もしかして、走ればもらえるってやつ?

 

「へー、賞品出るんだ?」

「ええ。ま、トレセン学園在校生とOB以外の人、上位3人にですけどね。あとは参加賞もありますよ」

 

 あー、なるほど。在校生とOB以外ね。ま、そりゃそうか。

 

「ちぇ、私は貰えないのかー」

「当然でしょ、シービーちゃん?」

 

 ぶーたれる私に、マルゼンスキーは苦笑で答える。と、目の前にマルゼンスキーのサインが書かれた色紙が差し出される。なんだろうと首を傾げながら、オーロラテルコの顔を見た。

 

「色紙?」

「はい。この色紙にサインをお願いします。シービーさん」

「サイン?」

「最高位の人には一緒に走ったウマ娘のサイン色紙をプレゼントしているんですよ。今回は貴女もいるので」

 

 なるほどなるほど。だーからこんなに人が居るわけね。じゃあ、ま。

 

「りょーかい」

 

 そう言って、マルゼンスキーのサインの下に、私のサインをさらっと書いてウイングアローに手渡した。

 

「はい、記念にどうぞ」

「あ、あっ!?あ、はいぃい!大切にします!?」

 

 目を白黒させながら、ギュッと色紙を抱きしめるウイングアロー。うん。いい記念になってたらいいねぇ。

 

「ほんと、みんなの期待に答えちゃって。おねーさん、ちょっと嬉しいかも」

「ん?なにか言った?マルゼン」

「いーえ、こっちの話よ。さて、次はどうする?」

 

 なんだかごまかされたような気もするけれど、マルゼンスキーの笑顔の前では些細なことだ。彼女の目は、次も走るんでしょ?と言いたげだけど、ちょっとそうは問屋が卸さない。

 

「ああ、ごめん。そろそろライブの準備しなくちゃいけなくて」

 

 時計を見てみれば、そろそろ私の前のエースのライブの時間。現地入りしておかないと、準備が間に合わないからね。

 

「あら、そうだったわね。じゃあここまでね。シービーちゃんのライブ、私も見に行くわよー」

「うん。よろしくー。あ、みんなも良ければ私のライブ、見に来てね?」

 

 ひらひらと手を振りながら、模擬レースの会場を後にする。皆が声援を送ってくれる中で、ウイングアローが大きく手をふる姿が印象に残った。いやぁしかし、5秒落ちとはいえ、私の背中をおっかけてきた彼女、きっと速くなるねぇ。

 

「さ、今日は一発ぶちかまそう」

 

 ぐーっと背を伸ばして気合を入れる。今日は、ミスターシービーとして、無敗の三冠ウマ娘としての責務を果たそう。この背中を抜いてみろと、発破をかけてやろうじゃないか。

 

「―――()()()らしくはないけど。でも、『私』らしくて嫌いじゃないよ」

 

 自然と口から出た言葉に、首をかしげる。はて。

 

「ま、いいか。さーって、根付さんたちはバックヤードに着いてるかな?私も声出ししないとねー」

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