私は転生ウマ娘だよ。   作:灯火011

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その『悪癖』を、ぶっ飛ばせ

 タタタ、と蹄鉄の音が聞こえ、舞台脇の階段を降りる音が聞こえてきた。勝負服姿の彼女は、私を認めるとニカっと笑顔をこちらに向けてくれていた。

 

「よう、シービー。舞台温めといたぜ!」

 

 ほんのりと汗をかき、上気したそのままの勢いで大声でこちらにそう言ってくる彼女。負けないように、こちらも大声で応える。

 

「サンキュー!エース、いいステージだったよ!」

「ありがとな!じゃ、あたしも観客席から見てるからな!」

「うん!期待してて!」

 

 拳を合わせてニカリと笑うエース。その言葉の通り、舞台装置の隙間から見える観客席は超満員。キャパを超えてるんじゃないかな?ってぐらいだ。しかも、その声援がバックヤードまで響いてくるという始末。これは楽しみで仕方がない。

 

「次、ミスターシービーさん、FBさんの出番です!ステージの入は下手からFBの皆さん。打ち合わせ通り、winning the soulからでお願いします!」

「おう。任されたぜ。リミックスのBGMから上手く繋げればいいんだよな」

「はい!まずは繋で根付さんのギターソロ、そして全楽器の音入れ、最後に上手からミスターシービーの登場でお願いします!」

「オッケー。じゃ、よろしく!」

「おう。嬢ちゃん、頼んだぜ!」

 

 拳を合わせて、彼らの背中を送り出す。ギターがかきならされ、メイクデビューのソロ演奏が始まった。盛り上がる観客席からは、悲鳴のような歓声が沸き上がる。

 

『おおー!メイクデビュー!次はミスターシービーか!』

『今日はシービーを見に来たんだ!楽しみだ!新曲もあるらしいぞー!』

『シービー!』

 

 そんな声を耳に入れながら、ぐるりとステージの後ろ、バックヤードを回る。そして、上手のステージ袖にたどり着くと、数名のスタッフとウマ娘たちがこちらをじろりと見つめた。

 

「今日はよろしく」

 

 そう言いながら頷けば、帰ってきたのは微笑み。さあ、ここまで準備してくれた彼らのためにも、今日はしっかりと盛り上げて、そしてかましていこう!

 

 

 飛び出てからメイクデビュー、そしてウイニングザソウル、レックレスファイアやマルゼンが乱入してのボーダーライン。大盛りあがりを見せながら、私のステージは最高潮を迎えている。根付さん達の演奏も熱を帯びて、非常に、ものすごく、楽しい!

 

「ここまで聞いてくれてありがとう。さあ、最後の一曲だ」

 

 だけど、その時間も終わりが近い。時間が迫ってきていた。そろそろ次のウマ娘に引き継がなきゃならない。袖から、心配そうにこちらを見つめるスタッフに、頷いて、笑顔をみせておく。判ってるよって。

 

「最近、実はちょっと気に入らないことがあってね」

 

 さあ、それじゃあ此処から爆弾を1つぶん投げよう。根付さん達のギターが軽く爪弾かれる中で、トークを進める。全体を、一人ひとりを見つめながら。

 

「学園の中でこういう声が聞こえてるんだ。「ミスターシービーはすごい。私は追いつけない」ってね?」

 

 ピクリと、ウマ耳が動いたウマ娘がいる。ああ、心当たり、有るよね?

 

「いや、学園の中だけじゃない。世の中のヒトも、世の中のウマ娘からも」

 

 ドキリとしたのだろうか。口元を押さえる人も、ウマ娘も居た。強張っている人が何人も居た。

 

「だから、この曲を君たちに贈るよ。ミスターシービーから、君たちに」

 

 根付さんのギターが、イントロに走りはじめた。ああ、良いね。このイントロ。―そうだな。ある意味、私の前世は終わって、この世界が始まった。その世界から持ってきた曲だし、こういう場に、ふさわしいだろう。

 

 息を吸う。そして、ドラムが入ると同時に、声をあげた。

 

 

 ドキリとした。ミスターシービーの言葉に。そして、聞いたこと無い曲が、始まった。

 

『君たちったら何でもかんでも 分類 区別 ジャンル分けしたがる 持ってるヤツとモテないやつとか』

 

 はっと、ミスターシービーの顔を見る。それは、無表情。こちらを、なんでもない顔で見ている。

 

『陰キャ陽キャ? 君らは分類しないとどうにも落ち着かない 気づかない本能の内側覗いてかない?気分が乗らない?』

 

 ドキリと心が動く。ああ、確かに、分類している。ああ、そうだ。ミスターシービーは、持っている。私は、持っていない。

 

『つまりそれはそんなシンプルじゃない もっと曖昧で、繊細で、不明瞭なナニカ』

 

 それはきっと、この場にいる誰もが、思ったことなのかも知れない。

 

 

 子どもの手を引きながら、ああ、と思う。ミスターシービーの歌う曲の通りだ。夫を持って、子を持った。今でも、トレセンは夢の世界だ。

 

『所詮アンタはギフテット アタシは普通の主婦です と』

 

 …ああ、思っていた。画面の向こうで、ラチの向こうで。走って、笑顔を浮かべている彼女らと、私。違うんだと、思っていた。

 

『それは良いでしょう? 素晴らしいんでしょう? 不可能の証明の完成なんじゃない?』

 

 そんなわけない。だって、私はまだ、走ることを諦めきれていないんだから。

 

 

 でも、どうする。そんな事を伝えたって。私は練習しても練習しても、強くなれない。どうやって、これ以上頑張れば―。

 

『夢を持て なんて言ってない そんな無責任になりはしない』

 

 じゃあ、ミスターシービー。貴方は何を伝えたいんだ?

 

『ただ その習性に喰われないで そんなhabit 捨てる度 見えてくる君の価値』

 

 …私の、価値?

 

 

 何処かで憤る。ワタシとミスターシービーは違う。何を上から目線で言っているんだって。でも、それを見透かされたように、歌詞は進む。

 

『俺たちだって動物 こういうのって好物 ここまで言われたらどう? 普通 腹の底からこう ふつふつと』

 

 ああ、ふつふつと湧き上がるこの感情。これは、悔しさか、怒りなのか。

 

『俺達だって動物 故に持ち得るoriginalな習性 自分で自分を分類するなよ 壊してみせろよ その bad habit』

 

 悪い癖―。

 

 

 我ながら、ぽかんとしている。何を歌い始めたんだ。あのミスターシービーはと思う。観客たちもそうだ。まるでこれでは四面楚歌。困惑の声が上がるばかり。

 

『大人の俺が言っちゃいけないこというけど 説教するってぶっちゃけ快楽 酒の肴にすりゃもう傑作』

 

 更に畳み掛ける様に歌い続ける。

 

『でもって、君も進むキッカケになりゃそりゃそれでwin-winじゃん? そもそもそれって君次第だし』

 

 ああ、でも、それはその通り。続けるも続けないも、本人次第。とはいえ。

 

『その後なんて俺興味ないわけ』

 

 直球すぎるだろうとほくそ笑む。まぁ、ミスターシービーらしいと言えば、らしいなと。

 

 

 全く、何を歌うんだって思ったら、とんでもない曲を歌い始めたな、シービーは。

 

『この先君はどうしたい? ってヒトに問われる事自体 終わりじゃないと信じたいけど そーじゃなきゃかなり非常事態』

 

 そうだろうな。この学園でそう聞かれるってことはもう、非常事態にも等しい。アタシやシービーは有り得ないけどな。

 

 

 ミスターシービーにスポットライトが当たる。そして、静かにその口は、全てに語りかけるように力強く言葉を吐く。

 

『俺たちはもっと曖昧で 複雑で不明瞭なナニカ』

 

 静かに見つめる瞳は、強い炎を灯している。

 

『悟ったふりして驕るなよ』

 

 言の葉からは誰も取りこぼしてなるものかと、熱い想いを感じる。

 

『君に』

 

 ぐるりと、観衆を睨んだ。誰も、ミスターシービーから目を離せない。そして―。

 

『君を分類する能力 なんて無い』

 

 

 会場の雰囲気が、変わった。ああ、ミスターシービーが言いたいこと。それは。

 

『俺達だって動物 こーゆーのって好物』

 

 そうだ。

 

『ここまで言われたらどう? 普通、腹の底からこうふつふつと』

 

 湧いてくる。心の底から。

 

『俺達だって動物 故に持ち得るoriginalな習性』

 

 そう、この私の習性を、ただただ、壊して見せてくれと。

 

『自分で自分を分類するなよ 壊してみせろよその bad habit』

 

 そして、彼女はもう一度、私達にむけてこう言い放った。

 

『壊してみせろよ その bad habit』

 

 私達、全員の背中を押すように。

 

 

「そうそう。学園のウマ娘達は知ってると思うけど、アタシは落第寸前だったウマ娘なんだ。そんなウマ娘だって、ここまで駆け上がってこれる」

 

 伝わっただろうか。私の伝えたかったこと。歌い終わって、じいっと皆の目を見ながら言葉を続ける。

 

「自分を分類せず、全力でやっていれば、ね。だから、そんな悪い癖、さっさと捨てちゃいな?悩んでいるんだったら、全力で、後先考えずに走ってみて」

 

 頷くウマ娘が見えた。頷く、人が見えた。うん。良かった。少しは伝わったみたい。そう。自分を分類するな。全力でやって、チャレンジすれば道は開ける。開けなかったとしても、歩んだ道には花が咲いている。

 

「きっと、悪いようにはならないよ」

 

 マイクを下ろす。ふう、とため息を吐く。個人的には満足、満足。でも、これでおわったら、私の自己満足のステージだ。ちらほらと、首を下げたままの人々も居る。そうだ。それでも前を向けない人は居る。

 

「ただ、それでも気が乗らないのなら―」

 

 出来るならば、ウマ娘を全て掬い上げたい。

 

「前を向けないと言うのなら」

 

 いや、今の私ならば、全てのウマ娘の顔を上げさせたい。たとえそれが傲慢だとしても。

 

 だって私は。

 

「もう一曲。アタシ達の歌を聞いていけ!」

 

 ウマ娘が、大好きだから。

 

 泣いて、諦めてトレセンを去るウマ娘なんて、一人も見たくない。

 

 

 静寂がライブ会場を包む。楽器の音は、何もしない。ミスターシービーが一人、マイクの前に立つ。そして―。

 

たった一曲のロックンロール 明日へ響いてく

 

朝焼けの彼方へ おまえを遮るものは何もない

 

 音に熱が籠もる。ギターの男の人が前に躍り出て、激しい、炎のようなメロディーを奏で始めた。

 

FIRE!BOMBER!!!

 

 ドラムスが、キーボードが、ベースが、ギターが、爆発したような音を奏でる。その熱気に負けない熱量で、ミスターシービーがマイクに叫び始めた。

 

戦い続ける空にオーロラは降りてくる

 

打ちひしがれた夜 お前は一人ぼっちじゃない いつだって!

 

 顔を俯かせていたウマ娘は1つ思い出した。ああ、そうだ。そうだ。例えトレーナーが居なくたって、練習する仲間がいる。そうだ。いつだって、見てくれている、応援してくれている人がいる。

 

たった1つの言葉で未来は決まるのさ

 

俺達のビートは輝くダイヤモンド

 

本当の空へ 本当の空へ 命輝く空へ

 

 今度はバックバンドのギターが声を荒らげた。パワーを感じる、不思議な声。まるで、失いかけていた気力を注入されたような。心の底から、熱くなっていくような。

 

Fly away Fly away 昇っていこう

Try again Try again 昨日に手を振って

Fly away Fly away 信じる限り

Try again Try again 明日を愛せるさ!

 

 気づけば、観客席は盛り上がりを取り戻していた。上がる歓声に、ステージ上で声を合わせるギターの男と、ミスターシービーの顔には笑顔が浮かぶ。そして、今度は2人で言の葉を届け始めていた。

 

たった1つの迷いが チャンスをダメにする

 

嵐の中だって瞳そらさない

 

さあ何度でも さあ何度でも やりなおせるさ きっと!

 

 頷き合う2人。盛り上がりを見せて、声が上がる観客席。そして、2回目のサビに突入していく。

 

『さあ、みんなも一緒に歌って!Fly away!』

 

 ミスターシービーの言葉で、観客席が爆発した。

『Fly away!!Fly away!!』

Fly away Fly away 昇っていこう

『Try again!!Try again!!』

Try again Try again あきらめないで

『Fly away!!Fly away!!』

Fly away Fly away 信じる限り

『Try again!!Try again!!』

Try again Try again 陽はまた昇るだろう!

 

『みんな、サイコー!』

 

 Fly away、Try aganのコール。初めて聞く曲のはずなのに、何度も聞いたことが有るように、声がピタリとハマる。ギターの男の不思議な魅力のせいなのか、それとも、楽しそうに歌うミスターシービーのおかげなのか。

 

 ―と、その刹那。静寂がライブ会場を包み込む。そして、目配せをしながら、ギターの男が一歩前に。

 

『たった一曲のロックンロール』

 

 ミスターシービーが、合わせるように、一歩前に。

 

『明日へ響いていく』

 

 そして、向かい合わせになると。声が重なった。

 

『朝焼けの彼方へ』

『朝焼けの彼方へ』

 

 空を見上げ、観客席へと向く。そして、全員を見据えて最後の言葉を、告げた。

 

『おまえを遮るものは 何もない』

『おまえを遮るものは 何もない』

 

 ハートに火をつけて。なんどでも立ち上がれ。なんどでも、飛び立てば良い。毎日でも、毎夜でも、いつでもどこでも。彼女の気持ちが伝わる。彼女の魂が伝わる。

 

「…」

「…」

 

 私と友達は、いや、周囲を見ても、無言だ。ああ、魅了されていると言っていいだろう。でも、その瞳には、その魂には。

 

 新たな火種が。

 

 

「…ね、すごかったね」

「うん」

 

 私と友達は、ライブ終わりの道を歩いていた。あの歌。あの歌詞。それはきっと、アタシ達みたいなくすぶっているウマ娘たちに向けて届けてくれたものだ。

 

 ミスターシービー。先に行っていたと思っていたけれど、常に、アタシたちみたいな、普通のウマ娘たちを見つめてくれていたのだろう。

 

 いや、もしかしてそうじゃないのかもしれない。いつものように、天真爛漫に、自由に歌っただけかもしれない。

 

 でも、私が勝手にそう思おう。だから。

 

「…あの背中には、恥ずかしくない走りを見せたいね」

「うん。同感。明日から気合入れ直すよ」

「アタシも」

 

 その日、私達の心に燻っていたものは消え失せた。ただ、その代わりに燃え上がったのは熱い想い。あの背中に、ウマ娘たちの夢を背負って先頭で駆け抜け続けている、誇り高きウマ娘に。私の全力を見せたいという、わがまま。

 

 追いつけなくても、走り続けようと心に立てた、おおきな一つの道標。

 

「頑張っていきましょう」

「そうだね。頑張ろう」

 

 頷き合う2人のウマ娘の背中には、もう、煤けた気配は残っていない。替わりに満ちたモノはただ、前を見つづけ走るという覚悟。

 

「走ろう、オースミレパード」

「走ろう、ミスタートウジン」

 

 ―後に、この2人がURA最長現役記録と、URA現役最高齢勝利記録を残すのだが―。

 

 それはまだ、誰も知らない物語(英霊譚)だ。

 

 

 最高のライブが終わった。ということで、今回ばかりは根付さん達に打ち上げに参加してもらうかなぁと思ったのだけれど。

 

「いや、俺達はもう帰る。用事があるんでな」

 

 と、ニベもなく断られてしまった。

 

「そっか。じゃ、ここでサヨナラだね。あ、またどこかで歌ってもらえる?有馬とか」

 

 無理に止めても仕方ないかと思い直して、そう提案したのだけれど、帰ってきたのは意外な答え。

 

「あー、そいつは無理だ。俺はちょっと旅に出るんでな」

「旅」

「ああ。歌修行ってやつだ。ま、気が向いたらここにも寄ってやるよ。楽しかったぜミスターシービー。お前の歌、気に入ったぜ」

 

 そうか。これでひとまずはお別れというわけか。ま、出会いも突然だったし、別れも突然。こういう関係も悪くはないだろう。

 

「そっか、ありがと。根付さんの歌も素敵だったよ。またどこかで」

「ああ、またどこかでな。元気でやれよ?」

「根付さんこそ」

 

 そうやって、別れようとしたときだ。根付さんがああ、と思い出したように数枚の紙を私に押し付けていた。

 

「あ、そうだ。この楽譜、お前にやる」

「え?」

「餞別だ。何かの機会に歌ってくれたら助かるぜ」

 

 チラリとそれを見る。コードと歌詞が書いてある、手書きの楽譜だ。

 

「じゃあ、ありがたく頂くよ。必ず歌うから、聞いててね」

「ああ。じゃあなシービー」

「根付さんもお元気で」

 

 手を振って、根付さんや、他のメンバーの背中を見送る。さてさて、彼らは一体何処に旅に出るのだか。と、まぁ余計なことを考えるのはよそう。何より今は。

 

「シービー。少しばかり話したいのだが」

「げ、ルドルフ。なーんか怖い顔しちゃって、どうしたの?」

「…新曲を隠していただろう。各方面から問い合わせが殺到していてな?」

「あー」

「とりあえず学園長室に連れてこい、とのお達しだ。たづなさんの説教が待っていると思うが、逃げ出すなよ?」

 

 これはこれは。ちょっと面倒くさそう。思わず、頭を掻いてしまった。

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