私は転生ウマ娘だよ。   作:灯火011

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ひといき、ひととき

 学園祭が無事に終わって暫く。私は、ウイニングサークルの真ん中で、大きく右手を掲げていた。

 

『京王杯スプリングカップの勝者は、短距離路線に殴り込んできた無敗のミスターシービーだー!』

 

 大きい歓声を受けて、もう一度、左手を合わせて観客席に手を振った。すると、更に大きな歓声が帰ってくる。

 

『うおおおおおおおおお!すげーぞミスターシービー!圧倒的じゃねえか!』

『無敗は伊達じゃない!すごいぞー!』

『本当はお前短距離ウマ娘なんじゃねーか!?』

 

 ニカリと口角を上げて、軽くキスを投げてみれば、今度は黄色い悲鳴が上がる。ふふ、ちょっとおもしろいかもね。

 

『きゃー!ミスターシービーがキスしてくれた!』

『かっこいいー!』

 

 うん。悪い気はしない。ついつい面白がって、ファンサービスを続けていると、不意に背中に声が掛かった。

 

「シービー。そろそろ」

「ん?」

「時間。ライブ」

「本当だ、ありがと。それじゃあ、またライブで会おうね!応援ありがとう!」

 

 声に促されるまま、ウイニングサークルから降りて、声を掛けてきてくれたウマ娘に肩を並べてバ道を歩く。

 

「ありがと。プログレス」

「ん」

 

 口数は少ない彼女だけれど、そのにじみ出る優しさは感じ取れる。と、そんな彼女が、不意に足を止めた。

 

「どうかした?」

 

 思わず、私も足を止めてしまった。すると、プログレスは顔をこちらに向けて、抑揚のない声でこういった。

 

「予想外。貴女、短距離も、強かった」

 

 そして、その視線と私の視線が絡み合う。滲み伝わるのは、明らかな悔しさと、後悔だ。

 

「油断した。言い訳だけど。次、何を走る?」

 

 宣戦布告とも言える言葉を、彼女は発していた。

 

「そうだなぁ。まぁ、優先出走出来る安田記念、かな」

「そう。じゃあ、出る。次は油断しない」

「それは楽しみだ」

 

 再び、プログレスは足を進め始めた。私も、その隣に歩みを合わせる。カツン、カツンと蹄鉄が地面とかち合う音が響く。

 

「シービー。学園祭、見た」

 

 その響きにも似た、静かな声がもう一度、言葉を紡いだ。

 

「お。見てくれたんだ」

「見た。トライアゲイン。ダウンロードして、ヘビロテ」

 

 ふんふんと鼻歌なんかを披露してくれる。これはちょっと、面白い子だな。

 

 

 ライブが終わって、皆と別れた後。いつもの通り、私はトレーナーとタバコを呑む。今日はシンプルに飛烏をコーンパイプで。2つの煙が喫煙所の天井に吸い込まれていく。

 手元にはステイゴールド。良い香りのコーヒー。しかし、そろそろ在庫が切れかけている。また、益子にでも買いに行くしかないか。

 

「改めておつかれ、シービー」

「おつかれ。トレーナー。上手くいったね」

 

 本命のプログレスを押さえてのセンター。1400メートルも、私の足は強いらしかった。まぁ、トレーナーのメニューのお陰が大きい。あとはそう。

 

「いつか言っただろ。長距離はお前に向いては居ない。これを返せば、つまりは短距離は強いってことさ」

 

 気負わぬ声で、トレーナーはそう呟く。

 

「そうだね。うん。私は短距離もイケる口だった。次の安田記念も期待してていいよ?トレーナー」

 

 口角を上げ、コーヒーを一口含む。少しぬるくなったコーヒーが心地よい。

 

「そういえばシービー。最近の収録は落ち着いたか?」

「ん?ああ。落ち着いた落ち着いた。いやー。不意に新しい曲を披露するもんじゃないねー。後が面倒くさいや」

「はは。その様子じゃあ相当苦労したようだな」

 

 学園祭からすぐ、私のところには収録の仕事が舞い込んで舞い込んで。それでいて、根付さんとは連絡が取れないからバックバンド探しがまぁ大変だった。やっぱり、あの勢いと腕を持っているのは彼ぐらいなもんだろうね。

 

「ま、でも。いい経験になったけどね」

 

 いままで学園任せだったスケジュール管理や人脈の管理においては、1つ、私自身の皮が向けたような気もしているからね。自由にできる幅が広がったと言い換えても良い。

 

「そうかそうか。お前がそう言うのなら問題はなにもないだろう。ああ、ただ、人手が必要だったら言えよ?」

「もちろん。トレーナーにはすぐに頼るよ」

 

 じゃなきゃ、短距離路線に行く、なんて無茶は言ってないからね。信頼できるから、君に言ったわけだし。タバコを含み、香りを楽しんでから吐き出す。濃厚な香りが心地よい。

 

「そういえばマルゼンスキーが安田に出るって話だが、シービー、お前知ってるか?」

「ん?ああ、知ってる。そもそも発破かけたの私だし」

「あー…納得したわ。普通、マルゼンスキーは重賞なんて出ないからなぁ。いい意味で変わってきてやがる。ドリーム行きだったはずのウマ娘が、お前にターゲティングしているわけか」

 

 悪い笑みを浮かべながら、トレーナーはパイプから香りを吸い込む。

 

「ま、そうだね。そのほうが面白そうじゃない?」

「確かに。じゃあ、明日からよっぽどいい練習をしないとな」

「もちろん。私のやる気も天元突破、コレ以上のモチベーションは他には無いというものだ」

「…なんだ、急に。ルドルフみたいな台詞回ししやがって」

 

 思わず2人で吹き出した。そして、気をとりなすように、お互いにパイプを吸い込む。は、と吐き出した煙が、お互いの顔に掛かり合う。

 

「じゃあ、勝ちに行こう。トレーナー」

「もちろん。お前はまだまだ負ける気は無いんだろ、シービー」

 

 当然。私が負けるのはまだまだ先だ。そうだな。『私はウマ娘のエースだ!』と、最強宣言を続けるやつぐらいにしか、負けはしないだろうよ。

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