私は転生ウマ娘だよ。   作:灯火011

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1つの変化、大きな波

 さて、今日は久しぶりに理事長室にお呼び出しだ。トレーナーとの練習もそこそこに、制服に着替えた私は、扉を叩く。

 

「ミスターシービー、参りました」

「うむ。待っていたぞ」

 

 と、そこに居たのは学園長、たづなさん、そして。

 

「おう、シービー」

「やあ、君もか」

 

 エースとルドルフだ。促されるままソファーに座ると、たづなさんがコーヒーを差し出してくれた。見渡してみれば、全員、飲み物が置かれている。どうやら私待ちだったようだ。

 

「さて、揃ったところで。早速、この楽譜を見てくれ」

 

 理事長が笑顔でそう言いながら、私達に楽譜を手渡した。

 

「今度、ジャパンカップでの勝者に歌ってもらおうと思っている曲だ」

 

 なるほどと、ついに私の知識からではなく、オリジナルの歌を用意できるようになったのかと内心で安心する。だが。

 

「ん?」

 

 タイトルを見た私は、少々驚きを隠せなかった。だって、この曲は良く知っている曲だからだ。

 

「ミスターシービーの活躍はカツラギエースも、シンボリルドルフも明るいところだろう!そのミスターシービーの専用曲に感化された人々が、遂に仕上げてきたのがこの一曲だ!」

 

 自信満々に、口角を上げながら、そして扇子を振りながら、熱弁を続ける理事長。しかし、私の内心はまだ、驚きのままだ。

 

「君たちはジャパンカップに出場することがほぼ、決まっている。ぜひ、当日までに完成度を高めておいて欲しい!」

「判りました。理事長。ご期待に応えて見せましょう」

 

 ルドルフが頷き、エースもそれに続く。

 

「判りました。理事長さん。私も全力で頑張らせていただきます」

 

 やる気満々といったところだろう。私も、続けて頷くけれど。

 

「うむ、良い心意気だ!ぜひ、この3人には、いや、3人だけではない!勝ったウマ娘には『私は最強!』と高らかに歌い上げてほしいものだ!』

 

 ―私は最強。それが、この楽譜の名前。私の知識から溢れたものではない。この世界の誰かが、作り上げた私の世界の曲。これは、良い事か。それとも。

 

「ああ、それと、もう一曲あるのだ。こちらは、新たな試みなのだが、たづな!」

「はい。では、ご説明させていただきますね!」

 

 たづなさんは私の動揺に気づかなかったのか、それとも、あえて無視をしているのか。説明を始めていた。なにやら、もう一曲新曲があるらしい。

 

「こちらの楽譜、お受け取りください」

 

 出された紙束を、受け取る。…いや、これもまた。

 

「こちらの楽譜なんですけれど、今、我々URAはウイニングライブ、というものしか行っていません」

 

 私も含めた3人は頷く。それを見たたづなさんは、笑顔のまま言葉を続けた。

 

「そこで、新たな試みとして、ジャパンカップにおいて、「オープニングライブ」を行おうと思っています」

「オープニングライブ?」

「はい。当日のメインレースの前に時間を設けて、パフォーマンスを見せようというものです」

 

 なるほど。それは面白そうなイベントだ。ただ、そうなると懸念が1つ。

 

「たづなさん。そうなると、ジャパンカップで走る前にライブをするってこと?」

「ええ。ですので、もし無理であればこのお話は無かったことにも出来ます」

「そ。話を切って悪かったね。続けて」

「はい」

 

 コホン、と小さく咳払いをしたたづなさんの表情が引き締まる。どうやら、ここからが本題のようだ。

 

「ウイニングライブ。これは、勝者とファンの祭典です。ただ、そうなるとどうしても一部のウマ娘しか活躍が出来ません」

 

 確かに、と頷く。とはいえ、それがモチベーションである事も事実だ。ただ、同時にそれが残念や後悔の生まれる場所でもある。

 

「ですので、その間口を少しでも広げる、新たな活動としての試金石、という意味合いが強いお話です」

 

 そうか、と頷く。確かに、それであれば少しは溜飲が下がるかもしれない。それで、この曲なのか。

 

「この曲を御三方にぜひ歌っていただきたいなと、理事長からのご提案です。ただ、もちろん」

 

 たづなさんは此方の目を見つめ、そして理事長も頷きを見せる。

 

「ウマ娘にとって、レース前の一時がいちばん大切な時というのは承知しています。断られることをほぼ前提でお話をさせていただいています」

 

 ふむ。確かにそうだ。一番緊張感を高める時間が、レース前の一時。それは、私が男だった時も変わらない。各々がルーティーンワークをこなし、調子を整え、最高潮に自らを持っていく。その一番大切な時にライブをする。体力も、精神力も使うライブを。非常識なお願いと言えよう。

 

 でも、それはそれ、これはこれ。私はウマ娘が大好きだ。だから、この提案には。

 

「私は歌うよ。レース前に」

 

 しっかりと乗らせて頂く。もし、このオープニングライブが成功すれば、お客さんも盛り上がるだろうし、全員が歌えるということ。一つ、ウマ娘の活躍が広がるとい事に他ならない。

 

「…君がそういうのならば、私も乗ろう」

 

 少し考え込んでいたルドルフも、乗ってくれた。ただ、その表情には厳しいものが有る。特にルドルフは今、無敗の三冠が掛かっている。本来ならば断りたい事だろう。

 

「私もいいぞ。シービーがやるんなら、やる」

 

 エースもしっかりと乗ってくれた。にやりと口角が上がっている。こちらは楽しそうだ。

 

「感謝する。すまない。私もまだまだ試行錯誤をしている。どうか、ウマ娘全体の発展のため、これからも協力を願いたい」

 

 我々の回答を聞いたたづなさんと理事長は、頭を下げていた。

 

 …に、しても、こっちの楽曲も、私の記憶にある曲だ。これは、本当に良い意味なのか、悪い意味なのか。判断が難しいな。後で、事情を知る人達を集めて、しっかりと相談することとしよう。

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