私は転生ウマ娘だよ。   作:灯火011

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春の一幕

 上半期、マイル戦線の締めくくり、安田記念。今年のソレは、いつもと違う。

 

 なぜか? あの二人が走るからだ。

 

 1人はスーパーカーと名高いウマ娘、マルゼンスキー。マイルとなればお手の物で、本来の彼女のレースが見れることだろう。

 

 1人は無敗を続ける三冠娘、ミスターシービー。昨年のジャパンカップにてマルゼンスキーを下した彼女ではあるが、マイルの強者ひしめくこの安田記念で、どこまで食い込めるのかが見どころの一つ。

 

 大方の予想は、マルゼンスキーが勝利するとの見方が多い。それはそう。ミスターシービーは中距離以上のウマ娘、マイル、短距離は走れない。この前の京王杯は偶然、という声も聞こえてくる。

 

「ま、大方合ってるけど」

 

 インタビューを申し込んだ際、ミスターシービーはそう言って、カラカラと笑っていた。

 

「うん、多分不利だろう。マルゼンのほうがスタートも良いし、速いのは間違いないよ」

 

 コーヒーを啜り、しかし、ほんのりと笑みを崩さないミスターシービー。言葉とは裏腹に、絶対の自信が見て取れる。

 

「でも、勝負は時の運、って言うでしょ?楽しみにしててよ」

 

 ミスターシービーはそう言って、インタビューを締めくくった。最後まで、余裕な態度は崩れることもなく、流石の無敗のウマ娘の貫禄を見せつけられた気分だ。

 

「そうねぇ。マイルなら、シービーちゃん相手なら負けないと思うわよ?」

 

 マルゼンスキーもまた、余裕の態度でインタビューに答えてくれていた。

 

「ただ、シービーちゃんはそう云う常識は通じないの」

 

 そう言って、マルゼンスキーは口角を上げていた。

 

「だって、強いんですもの。きっと、今回も並んでくると思うわ」

 

 負けない、と言っておきながら、並んでくるとも言う。その気持は、一体何なのであろうか。

 

「ふふ、判らないかもね。でもね、だから、楽しみなのよ」

 

 マルゼンスキー。もうそろそろドリームトロフィーにと言われていたウマ娘であったが、まだまだトゥインクルで走る気であるらしい。個人的な意見としては、マルゼンスキーの走りはG1ウマ娘どころか、無敗の三冠であっただろうと確信するところがあるので、ぜひ、この安田記念では良い勝負をしていただきたいと願っている。

 

 

「ふう」

 

 軽くランニングをしながら、朝の府中の町中を巡る。他のウマ娘もチラホラと見え、普通の人間も同じように走っている。

 

「おはようございまーす」

「おはようございます」

 

 時折、そんな人達と挨拶を交わしながら、景色を楽しんで走る。安田記念が近いけれど、ここで追い込みをかけても仕方がない。なんせ、今は回復期。最高潮の調子で安田記念を迎えないとね。

 

「お、ミスターシービー!安田記念、応援してるよー!がんばってー!」

「ありがとう!頑張るから、応援しにきてねー!」

「おう!レックレスファイア期待してるよー!」

 

 もちろん、朝のランニングの時もファンは居る。こんな風に声を掛けられるのも悪い気はしない。時折気づくと、最近はポスターにウマ娘のものも増えている。私、エース、そしてルドルフにマルゼン。

 名ウマ娘達と言って良いポスターには、例えば、マルゼンスキーと私の安田記念の煽り文句だとか。ルドルフは無敗三冠に!だとか。エースはウマ娘のエースになれるのか!刮目せよ!ジャパンカップ!だとか、様々なものが見て取れた。

 

「いいね、盛り上がってる、かな」

 

 ウマ娘界隈が盛り上がっている事は、非常に好ましいからね。…うーん、ミスターシービーの重圧っていうか、そういうの、やっぱりあるからなぁ。それにさ。

 

「負けたくないからねー」

 

 史実ではルドルフにも負けたしね?いや、個人的なアレなんだけどさ。ミスターシービーのファンなわけだ、私は。だから、なんていうか。

 

「…負けたく、ないからねぇ」

 

 史実を変える。既に変えている。これは、勝者が変わるという責任を喰らうことに他ならない。たださ、それでもさ。

 

「負けないからね」

 

 シンボリルドルフ。初めて当たるのはジャパンカップ。そして有馬記念に続く事だろう。はは、だけどねぇ。負ける気なんて無いのよ。こっちには。

 

「自分の脚で、ぶっちぎる」

 

 少し足に力が入る。口角が上がる。やっぱり、それ以上に。

 

「楽しくて仕方ないね。今!」

 

 ドン!と脚を蹴り出して、一気に制限一杯ぐらいまで速度を上げる。町並みが吹っ飛んでいく。頬を風が撫でる。と、見慣れた背中が見えた。

 

「おはよーエースー!」

「うおっ!おはようシービー!張り切ってんなぁ!」

「まーねー!」

「気を付けて走れよー!」

「もっちろーん!」

 

 追い越しながら、軽く挨拶を投げると、元気の良い声が返ってくる。だけど、今日は追いかけてこないみたいだ。声はあっというまに後ろに消えた。彼女も宝塚に向けて追い込みの次期だからね。きっと、調子を整えているんだろう。

 

「ふふ。みんな本気だ。本気で競い合える。やっぱり、最高だね。ウマ娘って」

 

 赤信号。反動を殺しながら足を止めて、腰に軽く手を当てて息を整える。と、お店の窓に自分の顔が写った。結構走ったせいだろう、汗だくで、髪の毛も張り付いている。でも。

 

「随分楽しそうだね」

 

 口角も上がり、目も笑っている。どこか他人事のようにそれを見る私が居る。さて、じゃあこの後は学園に戻って、シャワーを浴びて、軽く一服しようかな。そのあとは朝ごはんと…。

 

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