私は転生ウマ娘だよ。   作:灯火011

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無敗のウマ娘

 安田記念のライブは本能スピード。速度感溢れる楽曲をマルゼンと、そしてハッピープログレスで歌い上げたステージはまぁ、それはそれは盛り上りを見せた。

 

「速かった。また、走りたい」

「そうでしょ?ま、来年も走るから。よろしく」

 

 ハッピープログレスとそんな会話をするぐらいには、お互いに満足感を得たレースだったことは間違いない。ただまぁ、最後の加速をかけた時に、頭の中のイメージに私の相棒が出てきた時は我ながらなかなかだと思ってしまう。

 

「ま、空冷4気筒、リッター超えの車体ならね」

 

 どんな加速にも負けはしないだろう。そう言って、自分を納得させる。実際は蹄鉄の調整、そして、普段の鍛錬が花開いたというだけの話だ。トレーナーと、メーカーの人達の努力の賜物。私はといえば、それに従って全力で駆け抜けただけ。

 

「ふふ。感謝だね、感謝」

 

 周りが優秀だと、本当に楽に感じる。そりゃあ練習はキッツイけれどね。それに加えて身体のポテンシャルも。ミスターシービー。実に、恵まれている。

 

「…うーん。とは言えだなぁ」

 

 今年で3年目のトゥインクルシリーズ。これからどうなることやらと、ちょっとだけ不安になる。もしかしたら、3年目の有マを超えたら、世界を超えて戻るのかもね、なーんてね?

 

「いやぁ、後ろの思考しか出来ないや。これ、私、疲れてるなぁ」

 

 ストイックに身体を改造していたせいだろうか。夜の闇のせいだろうか。悪い考えが浮かんでしまう。ああ、こういう時は一服をかまそう。

 

 

 シンとした東京競馬場…いや、東京レース場を一瞥してから、喫煙所へと向かう。途中、ステージを解体する職員やスタッフ、そしてトレーナーやウマ娘なんかとも顔を合わせながら、そして、軽く会話を行いながら。

 

「あら、シービーちゃん」

「や、マルゼン」

 

 その途中でマルゼンと出会う。どこか、スッキリとした顔を浮かべた彼女。その顔を見て私は。

 

「…マルゼン、もしかして」

「ふふ」

 

 言葉にはしない。けれど、その顔にありありと浮かぶのは、満足という感情か。それとも、諦めという感情か。それは、つまり。

 

「限界かしらね」

 

 腰に手を当てて、そう、気持ち良いくらい言い切ったマルゼン。ああ、そうだろうな。1600。タイムを見るとレコードではない。ならば、本来の、全盛期のマルゼンならばそれを超えて来たことだろう。だが、そうはならなかった。

 

「そっか。残念」

 

 野暮なことは言わない事にする。きっと、彼女なりに長く考え、出した答えなのだろう。でも、それでも、競い合えたのだから。まだトゥインクルシリーズで走り続けて欲しいという気持ちはある。でも。

 

「私は一足先にドリームに行くわね。ただ、その前に」

 

 私は彼女の決断を、歓迎しよう。

 

「今年のジャパンカップ。最後に、勝負をお願いしても?」

「もちろん。待ってるよ。ルドルフごと叩き切ってあげる」

「それは楽しみね。じゃ、シービーちゃん。また学園で」

「うん。またね、マルゼン」

 

 軽く手をひらひらと捺せながら、マルゼンは出口へと向かう。それを見送りながら、少しだけため息を吐いた。

 

「…さ、気を取り直して」

 

 一服をやりにいこう。ああ、そういえば、トレーナーもそろそろ手続き関係が終わるはず。喫煙所に来ないかな?

 

 

 薄暗くなっている喫煙所の扉を明けて中に入ると、照明がゆっくりと明るくなる。どうやら、私が唯一の喫煙者のようだ。

 

「…えーと」

 

 とりあえずトレーナーに「喫煙所にいる」とだけメッセージを送っておく。さて、これで憂いなし、と。持ち歩きようのメッセンジャーバッグから、三女神様があしらわれたパイプ、そしてジャグを取り出して、早速、パイプに葉を詰める。ここ最近はずっと飛烏だ。

 

「シンプルで好きなんだよねー」

 

 詰め方は3回に分けて、しっかりと押さえる。そして、ライターで表面を一度炙ってやると葉っぱが盛り上がる。それを、火が消えないように息をゆるりと入れながら、コンパニオンで軽く表面を押さえてやる。

 

「よし」

 

 いい感じに火が着いた。温度が上がりすぎないように、左の手でパイプを包み、パイプの穴を親指で軽く押さえながら、呼吸をするように煙を吸い込む。

 

「…うん、温くていいね」

 

 ここで左手で持てないほど熱くなっては、それは吸いすぎの証拠。温度を下げるように少し呼吸を抑えてやらないと、辛い煙が口に入ってきてしまう。そうなると勿体ないし、パイプもダメージを受けてしまう。それはちょっと、タバコの楽しみ方としては好ましくない。と、私は想っている。

 

「ここにいたか。ミスターシービー」

 

 煙を吐いていると、ドアが開いた。そして、聞き慣れた心地よい声が、耳に届く。ルドルフだ。

 

「や、ルドルフ。煙臭いよ?ここ」

「構わないさ。君と少し話がしたくてね」

「そっか。あ、でも、少し待って。消しちゃうから」

「いや、私が勝手に来たんだ。そのままでいいよ」

 

 そっか。ま、そういうことならと、パイプを再び加えて、息をゆっくりと吸う。うーん、ウマ娘の嗅覚は凄まじく敏感だ。本来、タバコの香りは苦手なはずなんだけどね。

 

「それに、私としてはタバコの香りは君の香りだ。心地よさすらを感じるさ」

「ルドルフ。その台詞はさ。言ってて歯が浮かない?」

「いいや?」

 

 相変わらずイケメンだなぁ。そしてしれっと隣に立つあたりも、やっぱりイケメン。いや、本当に煙たいし、ひどい匂いなんだけど。ルドルフの服にも匂いが移る気もするんだけどね?

 

「それに、ここ最近、君からタバコの匂いが消えていたからな。ようやく、戻ってきたかと少し安心もしているんだ」

「あー」

 

 そりゃあね。短距離に向けて身体を仕上げていたから、なかなか吸う機会なかったからね。ま、ただ、ここからはジャパンカップに向けての半年が有る。確かに、少しは余裕が出来たかな。

 

「ま、身体を作り替えていたからね。ただ、ここからは夏合宿もあるし、少し余裕があるからさ」

「そうか。と、いうことは、やはり。私と当たる時は無敗のまま、ということだな?」

「うん。それは安心してくれていいよ」

 

 パイプを口から離して、ふっと息を吐く。そして、パイプを灰皿に置いた。少し、熱くなりすぎているからね。

 

「しかし、シービー。秋となると天皇賞も控えているが。それは走らないのか?」

「あー…そっちはエースが走るから」

「カツラギエースか?ならば、余計に走るのが今までも君じゃないのか?」

 

 あー、そう思うよね?カツラギエースが出るならミスターシービーも。ミスターシービーが走るなら、カツラギエースも。

 

「今はお互いに充電期間だからね」

「充電期間?」

「そ。距離を置いて、お互いに道を行って、そして、感情が一番高まった時にぶつかり合う。君と同じだよ、ルドルフ」

 

 本来ならば私は秋も走る。でも、それじゃあ詰まらない。感情を溜めて溜めて、最高の時にぶつかり合うことが、一つの望み。

 

「だから、ルドルフ。君もしっかりと、無敗の三冠ウマ娘としてジャパンカップを走ってね?」

「当然だとも」

 

 ピリ、と空気が張った。そして、ルドルフの口角がぐいぃと上がる。

 

「君の背中を必ずや追い抜いて見せよう」

「わあ、怖い怖い」

 

 肩をすくめて、もう一度パイプを咥えた。うん、いい感じに冷えていて良い感じになっている。軽く啜れば、甘い香りが口内を満たす。と、不意にウマホを見たルドルフの顔が、素面に戻った。

 

「では、そろそろ失礼するよ。門限が近いのでね」

 

 どうやら時間のようだ。ルドルフは肩をすくめて、踵を返した。

 

「あ、そっか。ルドルフは寮だもんねぇ。堅苦しくない?」

「存外と悪くないぞ?どうだ、君も寮に入っては」

「遠慮しとく。自由じゃないし」

「言うと思った。まぁ、部屋は何時でも準備している。気が向いたら声をかけてくれ。では、また学園で」

「また学園でねー」

 

 パタン、と喫煙所の扉が閉じる。再び、静寂が戻ってきた。私の場合は門限はないし、しばらく、パイプを蒸しながらトレーナーを待とうじゃあないか。

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