私は転生ウマ娘だよ。   作:灯火011

99 / 108
夏の予定は

「お疲れ、シービー。今日も良い走りだった」

「ふふ、そっか。ありがとね、トレーナー。はい、マックスコーヒーとパイプ。今日は飛烏だよ」

「お、気が利くな」

 

 手続きが長引いたせいだろうか。喫煙所にやってきたトレーナーは、少しだけ疲れを顔に浮かばせていた。甘いコーヒーを手渡せば、助かるといった具合に笑顔を浮かべてくれていた。プルタブを上げて、トレーナーは早速とそれを口につけた。

 

「ああ、ほっとする」

「はい、火」

「お、サンキュー」

 

 トレーナーが咥えたパイプ。マッチをさっと擦って、火を付けてあげる。火口が少しづつ赤くなり、香りが漂い始めた。

 

「はい、ダンパー」

「ん」

 

 コンパニオンのダンパーを出して、トレーナーに手渡してあげた。ジャグの押さえの強さは個人個人で違うから、此処から先はセルフでどうぞ。そうやって、パイプを愉しむトレーナーを横目に、私もパイプを軽く啜る。うん、熱くなりすぎたパイプも、温度が下がって美味しくなった。

 

「ああ、旨いな」

 

 どうやらトレーナーのパイプも良い温度になったようだ。パイプの火口から紫煙が立ち上り始め、飛烏の香りが漂う。シンプルでタバコの葉だけの香り。バニラとかのフレーバーもいいけれど、やっぱり、このぐらいのやつが好きだ。

 

「さてと、シービー」

 

 すると、トレーナーは佇まいを直してから、私に向き合った。さて、なんだろうか?

 

「これから先はどうしたい?」

 

 これから先と来たかぁ。そうだねぇ。

 

「ま、前と変わりはないかな。ジャパンカップを目指して、そのまま有マ記念、来年は…まぁ、安田記念あたりかな?」

「そうか。じゃあ、明日からはまた中距離向けの練習を組んでいくが、良いな?」

「もちろん。ああ、ただ」

 

 パイプを一旦置いて、こちらもトレーナーに向き合う。

 

「ちょっとやりたいことがあってね」

「やりたいこと?」

「うん。夏の合宿っていうか、その時間を使って始めたいことがあるんだ」

「ほう?」

 

 トレーナーの眉が動き、煙の動きが止まる。

 

「ギターを習いたいなって思ってて」

「ギター?なんでまた」

 

 聞き返してきたトレーナーに合わせて、頷いた。

 

「うーんとね。根付さんってギターすごかったじゃない?」

「ああ、彼の演奏、彼のバンドは凄かったな。なかなか居ないぞ」

「うん。私もそう思うんだ。で、私もあんなふうにギター弾いてみたいなぁって」

 

 それに、貰った楽譜を弾き語りたいっていう個人的な願望もあるしね。ただ、これを実現するには時間的に制約がある。もちろん、趣味じゃなくて、ステージで弾き語りをしたい。となれば、あと1年以内には練習を重ねなければならない事は、明白だ。

 

「…つまりそれは、ウイニングライブで、ってことか?」

「うん。そうだなぁ。有マ記念とかで弾ければいいんだけど、ま、半年しかないから難しいと思うけどね」

 

 多少なりは経験はある。男であったとき、ギターに憧れがあって、安いギターでコードぐらいは弾いたものだ。ただ、それから相当時間が経っているし、本格的に先生を付けたとしても、人に見せるには時間が掛かることだろう。

 

「ウイニングライブで、弾き語りか。それは、面白いかもな」

「でしょ?今まで、そういうウマ娘居なかったし。あ、もちろん、しっかりとパフォーマンスをやったあとで、アンコールとかでね」

「うん、悪くはないな、それ。理事長に俺から伝えてみるよ」

 

 トレーナーの頬が緩んだ。どうやら、面白い提案だったらしい。となれば、きっと。

 

「じゃあ、それを含めて中距離向けの練習をしながら、ライブパフォーマンスの練習をしつつ、ギターも練習する、というイメージだな」

「うん。どうだろう。トレーナー的には行けそう?」

 

 そう言って、トレーナーの顔を覗き込む。そこにあったのは、口角を上げて目を細めているトレーナーの顔だった。

 

「ん?ああ、今のお前ならきっと出来ると信じているさ。それに、体調はこちらで管理して見せる。シービー、お前は自由にやればいい」

「そりゃあ心強い。頼んだよ、トレーナー」

 

 パイプを再び咥えて、紫煙を愉しむ。さてさて、明日からまた、忙しい日が続きそうだ。

 

「あ、そうだ、トレーナー」

「ん?」

「今年の夏合宿なんだけどさ。ちょっと、いくつかやってみたいことがあるんだけど」

「ほう、聴かせてくれ」

 

 そうそう、忘れてた。せっかくルドルフも来るし、エースもいる、それにきっとマルゼンだって合宿に来ることだろう。名ウマ娘が集まる合宿。きっと、盛り上がりを見せるはずだ。ならば。

 

「簡易ステージをやってみたいんだ」

「簡易ステージ?」

「うん。きっと今年は、無敗の私と、無敗のルドルフがいる。それだけで盛り上がることだろうと思うんだ」

「そりゃあなぁ」

 

 きっと、取材や、それ以外のファンも多くが詰めかけるであろう。ならば、それに対して。

 

「感謝のライブを開きたいなって思ってさ。あ、ただ、まだ誰にも言ってないから絵空事なんだけど」

 

 どうだろうか?首を傾げてトレーナーの返答を待つ。パイプを一息吸い、そして少しだけ考えを巡らせたトレーナーはにかりと笑顔を見せた。

 

「絵空事結構じゃないか。俺は面白いと思うぞ。本気なら、それも理事長に伝えておく」

「うん。お願い。ルドルフ達には私から誘いを入れてみる」

 

 頷き合って、紫煙を吹かす。うん、よし、これは本格的に忙しい日々になりそうだな。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。