ハイスクールD×B~サイヤと悪魔の体現者~   作:生まれ変わった人

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遅くなった上に感想返信が中々できなくてすみません!
ですが、大学もこれで最後の年なので四苦八苦しながらも僅かな時間を使って少しずつ書いております。

なのでおかしな箇所やトリコやジョジョ色が強くなってしまっているかもしれません。大変に申し訳ありませんが、それでも見捨てずに見て下されば私も嬉しいです。

なのはもハイスクよりは遅いですがちゃんと執筆しているのでご安心ください!

それではチグハグな作品をご覧あれ!


黒猫襲来、そして覚醒の時

遂に夏休みを不意にして過ごした修業期間が終わった。俺たちは部長の家に集まって先生の提案の下、修業の報告をしようとたった今向かっていた。

 

「はぁ……屋根に大理石の床かぁ……一気に天国にまで昇った気分だぁ……」

「ふふ、僕たち悪魔は天国には行けないからね」

「おぉ! 木場! 久しぶりじゃねーか!」

 

俺が久々の安息の地に一息吐いていると木場が後ろから声をかけてきた。着ているジャージもボロボロで顔付もいくらか引き締まったようにも見える。

 

対する木場も俺を見てきてはうっとりとした表情で呟いた。

 

「いい身体になったね」

「こっちに来るな! そんな目で俺をみるんじゃねえ!」

「酷いな……僕は純粋に筋肉質になったなぁって……」

「それでもお前だとなぁ……」

「おー、イッセーと木場か」

 

俺たちが話しているとそこにはゼノヴィアの声が……した方向には包帯グルグルのミイラがいた。

 

「出た! ミイラ女!」

「失敬な。私は永久保存される趣味はないぞ?」

「そうじゃなくて!」

 

包帯を取りながら相変わらずの様子でゼノヴィアの整った顔を露わにする。

 

「でも、何だかオーラが濃くなったような気がするな。木場もだけど」

「そう? そう言うイッセーくんこそ雰囲気が変わったよ」

「あぁ、全員共強くなれたようだな」

「あぁ、そうだといいけどな」

 

三人で話していると集合場所のリビングの扉が開いてアーシアが嬉しそうに出てきた。

 

「イッセーさん! ゼノヴィアさんに木場さんもお疲れ様です!」

 

アーシアの人懐っこい声で今までのストレスが全て吹っ飛んだ! やっぱうちのアーシアちゃんマジでアーシアちゃん!

 

一人癒されているとアーシアに続いて部長まで俺たちを迎えてくれた。

 

「イッセー! 祐斗もゼノヴィアもよく頑張ったわね」

「ただ今戻りました」

「私も強くなったから期待して欲しい」

「部長ぅぅぅ!」

 

部長の御尊顔に俺は思わずうれし涙を流してしまった。

 

それを見て部長が苦笑しながら俺を抱きしめてくれる。

 

「あぁ、会いたかったのは私も同じよ。あなたがいない間はずっとイッセーの温もりが恋しくて……私、あなたがいないとここまで駄目になるなんて……」

 

部長の有り難いお言葉と豊満な胸の感触に俺は悪魔なのに天国に昇った気分になってしまった。近くで木場が苦笑し、ゼノヴィアは食い入るように見ながらメモを取り、アーシアは涙を浮かべながら頬を膨らませていた。

 

やっぱこういう光景がグレモリー眷属に帰って来たって感じがするよなぁ……

 

「おーい! そこでイチャついてねーで速く来い! カリフは今は来ねえから俺たちでミーティングするぞ!」

 

先生の声を聞いて気を取り直した俺たちは部長に導かれてリビングに入っていった。

 

 

 

 

一方、グレモリー家にいないカリフはその日の朝にサーゼクスとセラフォルーに招かれてプライベートレストランで食事をしていた。

 

都会から離れ、ウェイターも厳しい審査を通過した一流の悪魔たち、料理も食材も全てが一流であるシャンデリアの光る豪華なレストランだった。

 

目の前の肉をカリフは少しおぼつかない様子ながらも何とかフォークやナイフを使うカリフの前にはサーゼクスとセラフォルーが笑顔で対面している。

 

「おいしい?」

「中々に美味いな」

「気に入ってもらえて良かった」

 

魔王たちは気の良い笑顔を向けている中、カリフは食べ終わった皿と食器を横にどかしてナフキンで口周りを吹く。

 

「本当ならこれで終わりたい物だがそうはいかんのだろう?」

「ははは、本当に直接聞くね。実はそうなんだよ」

「白々しい……魔王ともあろうものが激務の時間を割いてこんな人気のない場所に呼びだしたのだ……警戒するなと言う方が怪しい」

「えっとね、私たちはそんなつもりじゃあ……」

 

セラフォルーが代弁する言葉を手で遮ってカリフはナフキンを畳んだ。

 

「そうビクビクするな。お前らは普通の嫌な奴ではない。お前らだからこそこうして話“だけ”聞きに来た。話“だけ”は聞いてやる」

「そうか! やはり君は器が大きい!」

「ありがとう! そう言ってもらえるとお姉ちゃんキスしちゃう!」

「話聞いてねえの? 内容によってはってことだ」

 

一緒にいると本当に魔王なのかと疑いたくなるような能天気な魔王たちにあらかじめ断りを入れてから気を取り直したセラフォルーから話を切り出される。

 

「あのね、最近起こっている連続失踪事件を知ってる?」

 

 

 

場所は戻り、皆で顔を合わせたイッセーたちはそれぞれ修業の成果を報告し合っていた。その中でもイッセーの訓練だけが他よりも過酷だったことが判明してイッセーが憤りを感じたりと色々あった。

 

「ひどいっすよ先生! 俺だけ、俺だけがこんなワイルドな修業にして~!」

「いや、お前がそんなに逞しいとは思ってなかったよ。途中で逃げかえって来ると思ってたからな」

「ひでえ!」

 

憤慨するイッセーにリアスは豊満な胸元に抱きよせて慰める。

 

「かわいそうにイッセー、この一ヶ月でそんなことしてたなんて……あの山には名前が無かったけどあなたの逞しさの象徴として『イッセー山』と名付けるわ」

 

リアスがそう言う中、アザゼルだけはイッセーを意外そうに見ていた。

 

「それにしてもお前がサバイバル生活を送ったこともそうだけど、お前があのカリフに勝ったってのが驚きだ」

 

その言葉にその場の全員がイッセーを見つめた。

 

突然の話題に当の本人も困惑を隠せなかった。

 

「あれは……本当にたまたまっすよ……あいつが油断していたこととタンニーンのおっさんがいなかったらできなかったし……」

「いや、それでも“あの”カリフに負けを認めさせたんだ。それだけでもお前の成長が凄く顕著だと思う」

「それで、そのカリフはどうしたんです? 私たちはあの後、カリフが出血多量で運ばれた後のことは聞かされてないんだが」

 

ゼノヴィアの問いにアザゼルは呆れ口調で溜息を吐く。

 

「あいつな、致死量分の出血をしたのに一日で起きてその翌日にはちゃんと復帰した。人間じゃあ有り得ねえ回復力だって医者を驚かせてた」

「それじゃあまた修業を?」

「まあ、目立つようなことはしてねえな。あいつ、意外にも本とか読んでたしな。どちらにしてもあいつが強くなってももう俺らからしたら遠い存在だし俺でも変化が分からん」

「あの、俺のことは何か言ってました?」

 

まさか、自分を恨んでいるのか……不安に思ったイッセーは顔を青くして震えているとアザゼルは笑いながら言った。

 

「いや、一時はお前を本当にあの山ごと消そうとしてたらしいけど自分を見直すいい機会になったって言ってたから少なくとも恨んではないと思うが」

「それでも殺されようとはしてたんですね……」

「そんな塞ぎこむな。あいつもそんな小さいこと気にするような奴じゃねえだろ。それに……」

 

小猫を一瞥してニヤニヤする。

 

「そう嫌なことばっかではなかったようだしな」

「……」

 

小猫が顔を紅くさせて俯く姿にイッセーは首を傾げるも一部の女子勢は何やらただならぬオーラを発していたのですぐに察しがついた。

 

そんな時、リビングを急に扉が開いた。

 

そこには話の渦中のカリフがいつもの様子で現れた。

 

「やっぱ集まってたか」

「噂をすれば……だな。お前の方はどうだった?」

「ふん、こっちの方は後で話す。それよりも噂とはどういう意味だ?」

 

若干、睨みながら言うと、アザゼルはのらりくらりで話題をすり替えた。

 

「修業の話だよ。お前、この合宿で何か掴んだか?」

「まあそれなりだな……まだ想像の域は出てないが実践してみたいことが二つくらいだが。それらの確認さえもできなかった」

「何か掴んだんですの?」

 

朱乃の問いにカリフは深く息を吐いた。

 

「これでも手探り状態だからな。安易に使ってここら一帯を廃墟にしたら元も子も無いだろう?」

「なにそれこわい」

 

とにかく、何だか凄い発見なのだろう……そう認識した後にアザゼルが手をパンパンと叩いた。

 

「じゃあ明日はパーティだ! 今日はここで解散だ」

 

それを区切りに今回の波乱の合宿生活は幕を降りた。

 

 

その夜

 

カリフはその日の晩はベッドに入って考えていた。

 

頭の中で昼のサーゼクスたちの話を思い出していた。

 

『件の失踪事件……受けてはくれないかな?』

(確かに事件性としては反吐が出るような話……だが、これでいいのか?)

 

カリフはどこか恐れとも戸惑いとも取れる感情が渦巻いていた。

 

(まるで使われているような……二人からは邪気など感じなかったが、オレはこんな奴じゃなかったはずだ……)

 

人からの指図など絶対に受けない……受けたら何かに負ける気がするから……

 

そうやって他人を突っぱねて今まで生きてきた。

 

だけど、いつからだろうか……自分がここまで他人と共に生きるようになったのは……

 

本当に守りたかった物はとっくの昔に……既に……

 

(それに、何故小猫にあんな……いや、小猫だけじゃねえ、朱乃にも、ゼノヴィアにも、マナにもイッセーにも……どいつもこいつも……!)

 

―――ただ、赤龍帝といれば戦いがやってくる……それだけのはずだ

 

(なら、白龍皇側でも、いや、あっちの方がもっと戦う機会もあるはずだ……! なのに何故……!)

 

―――じゃあ、お前は何故そこにいる? 不必要なら捨てるなりなんなりすればいい……昔ならそうした

 

(いや……だが約束だ……この世にオレを生んでくれた親との……)

 

―――そうやって言い訳か? お前にとっての約束は足枷でしかない……そうやって体よく使われているのが分からないのか?

 

(違う! これはオレのケジメ……ただ……オレが……)

 

―――……そうやって逃げたいのなら逃げればいい……その方が……

 

 

「じゃあどうしろってんだ!」

 

誰かも分からない姿なき人物からの罵倒にカリフは乱暴に枕を扉に向かって投げつける。それと同時だった。

 

「!」

 

投げつけた枕が開きかけの扉に当たり、その間から悲鳴が聞こえた。

 

声の主はそのまま恐る恐る扉から顔を覗かせた。

 

「カリフくん……」

「えっと、邪魔だったかな?」

 

それはパジャマ姿の朱乃とゼノヴィアだった。カリフの苛立ちに少し遠慮しながらも尋ねるとカリフは頭を掻きながら弁明する。

 

「いや……お前らは違う……ただ、ちょっとな……」

「あまり無理をなさらないでください……少し疲れているのですから」

「てか、お前らは何しに来たんだよ?」

「なに、私はこのような広いベッドで一人というのも慣れなくて……どうせだったらカリフと一緒に寝て気を紛らわせようかと……」

「なんでそこでアーシアに発想がいかない? 親友だろうが」

「アーシアはイッセーの所に行ってるから邪魔しちゃ悪いと思ってね」

「オレの体質は知ってるはずだが?」

 

カリフの体質……それは朱乃たちにとって深刻な病気とも言える。カリフは長い間孤独な旅を続けてきたことと今まで狙われてきた生活を送っている。

 

これだけで分かるだろう……他の者と一緒には眠れないのだ。

 

信用に足る人物の前でなら浅い眠りにつくことはあるが、深い眠りにつく際にカリフは他人に近寄られることを極端に嫌う。

 

そもそも仮眠以外の深い眠りの時には人がいない所でしか眠れない……このことは朱乃たちはおろかリアスでも知っていることだ。

 

「いいじゃないか。何事も経験だと私は思う」

「殿方が女と一緒に眠れない……だなんて駄目ですわ。ですから私たちが……ね?」

「……」

「言っておくけど今日は意地でも一緒に眠ろうと思ってきたんだ。こうでもしないと君はずっと私たちを避けそうだからね」

 

言い訳を考えたのがバレたのか、ゼノヴィアに釘を刺されたカリフはもう観念した。眠い中で口論するような気力も無いカリフは力無く言った。

 

「邪魔すんじゃねえぞ」

 

間接的なOKに出してくれたカリフに二人は嬉しそうに表情を緩ませる。

 

「やった。カリフくんとの一夜一番乗りですわ」

「おっと朱乃さん。私もいるんだが?」

 

そう言いながらカリフの両側から挟むようにベッドに入って来る。

 

「うふふ、いつもよりも何だか気持ちいいですわ」

「おぉぉ……これが男と寝る感覚なのか……何だか暖かいな……」

 

両サイドから聞こえてくる声は紛れも無く歓喜そのもの。テンションが上がっている二人はカリフの顔を艶っぽく見つめる。

 

「お前ら……そんなに喜ぶことか?」

「えぇ、だってこうやってあなたと身体を合わせられるんですもの……安心するんですの……」

「私も……嬉しいぞ? だが、これはこれで緊張するものだな……」

 

分からなかった……ただ一緒の床で寝るだけでそんなに嬉しそうにできるのか……

 

何が彼女たちを輝かせるのか……

 

カリフは聞かざる得なかった。

 

「お前らさぁ……なんでそんなにオレのこと気にする?……オレはお前らの思うような奴じゃねえのに……」

 

二人は驚いた。カリフの零した言葉に驚く。

 

その内容もそうだが、その口調は今まで誰にも聞かせたことが無いほどに沈んでいた。

 

「どうしましたの? 急にそんなこと……」

「……」

「昨日は小猫と話したんだってな……内容は聞いてないけど。それと関係あるのかい?」

「違う……ただ……」

 

ゼノヴィアの言葉にカリフは強く歯を噛みしめる。

 

「オレは……お前らが羨ましいよ……」

「カリフ……?」

 

カリフはゼノヴィアたちから顔を背けるように枕に顔を押し付ける。

 

「朱乃……お前、堕天使のことはどうするんだ?」

「私……ですか? また急に……」

「頼む……聞かせてくれ……お前は……自分の血を受け入れたのか?」

 

カリフの問いに何やら深い想いを感じ取った朱乃は答える。

 

「……私、本当はまだ怖いんです……あの忌まわしい力を使うのは……」

「……だけど、最近では小猫ちゃんと一緒に相談し合って思ったんです。この力が仲間の力になるのなら私はそれを受け入れようって……」

 

朱乃はカリフの手を握る。

 

「だから、次のゲームで使おうと思います」

 

強い……目の前の女性はここまで強かったのか……昔は自分を泣いて追いかけてきた子供だったと言うのに……

 

イッセーたちは確実に強くなっている……なのに自分はどうだ?

 

自分は……自分を見失いつつあったことを恥ずかしく思った。

 

「驚いたな……昔の泣いていた子供とは思えねえ」

「ふふ……私も変わったんですわ」

「そうなってくれないと歯ごたえが無い。これで修業も暇つぶしから腹ごなし程度にこなしてくれれば万々歳なのだがな」

 

いつものようなカリフの強き口調に二人は見合ってクスっと笑う。

 

「あらあら、うふふ……」

「イッセーに負けたって聞いたから悔しがっていると思ってたけど、やっぱり変わらないな」

「確かにムカついたけどいつまでも根に持っても仕方ねえだろう。逆恨みしてる暇があるなら修業してた方が有意義だ。それに今回は弟子の成長と発見があったから今回は良しとしただけだ」

「ふふ、タダではやられない……ということかな?」

「Exactly」

 

カリフは少し嬉しそうに肯定しながら再び仰向けになる。その横ではゼノヴィアが嘆息する。

 

「全く、こうも引き離されてはこちらとしても滅入ってしまうな」

「残念だったな。これを機にお前らにはもう油断はしない。お前等が進歩する間にもオレも進歩……もとい進化しているのだ。これでお前等がオレに勝てる機会は巡ってこない」

「あらあら、女は守られるだけじゃ満足しないのですわ」

「……オレはそういうのは柄じゃない」

 

屈辱を味わわされたのだからしっかりと気を引き締める……そのことを反芻させながらカリフは静かになった時を過ごす。

 

そろそろ目を閉じて寝ようかと思った時、最後に一つだけ言いたいことを朱乃に二人に伝える。

 

「……一つ言っていいか?」

「はい」

「なんだ? 何でも答えてやる」

「……朱乃もそうだが、ゼノヴィア……お前、神が死んだことを知った時のこと覚えてるか?」

「……あぁ、今でも少し思い出す時がある。君の説教がなければ私は命を捨ててたかもしれないからな」

 

少し沈んだゼノヴィアの返事を聞くと、カリフはどうしても聞いておきたかった。

 

「お前……あの日から神に縋らずに自分の意思で生きることを選ばせたオレが聞くのは筋違いだと思う……答えたくないならこのまま寝てくれても構わん」

「……」

 

ゼノヴィアと朱乃は黙って耳を傾ける。

 

そんな二人にゆっくりと口を開いた。

 

「お前らは今が楽しいか?」

 

カリフにしては意外すぎる言葉……だけど、カリフの真剣な言葉に二人はそのことを胸に刻みつける。

 

「そうだね。君やイッセーがミカエルさまに直談判してくれたおかげで私もアーシアもお祈りができるようになった。何より君がいなかったら私は……絶望に押しつぶされてたかもしれない」

「私も堕天使の血が流れることを関係無く私、『姫島朱乃』を見てくれてたことを知ったときは嬉しかったですわ。今まで隠していたことなのにアッサリと許してくれたんですもの」

 

二人は当時のことを思い出しながらカリフの横顔を見つめる。

 

「こんな日々を送れるのも、今こうして生きていられるのも君のおかげだ。好きな男がくれた今が楽しくない訳が無い」

「私も、こうしてあなたと一緒にいれることが誇らしいの……だから……」

 

二人の反応を見て

 

朱乃は自分の血を

 

ゼノヴィアには自分の存在を

 

認めてくれた気がした。

 

「……別にオレは下らん親切心でやったことじゃない……ただの……」

「ううん……こんな私を受け入れてくれてありがとう……」

「ふふ、私の惚れた男として誇りに思うよ」

「……もういい。さっさと寝ろ。ゲームまでは体調をくずすなんてヘマすんじゃねーぞ。後味が悪くなるからな」

「うん……おやすみカリフ……」

「おやすみ」

 

二人の声は小さくなり、やがては整った寝息が両サイドから聞こえてくる。ある程度の時間が経った時にカリフは呟いた。

 

「オレはまだまだ強くねえんだよ……」

 

自分に何らかの変化が現れ始めている……そして、少なからずともその身に起こっている変化に不安を感じてならない。

 

もし、自分のことを強いと思っているならそれはとんだ間違いだ……

 

(お前等がまだ弱過ぎんだよ……)

 

真の強者は強く、自分に厳しくなければならない。彼女たちにはそれがまだ分からない。

 

 

誰よりも笑い、誰よりも怒り、誰よりも強欲でなければならない

 

 

そして、強くなる事とは独りであり続けること

 

山の頂に立てるのはいつでも一人だけなのだから……

 

 

 

最近は一人の時間が短くなってきた。だけどそれが苦痛だとは思わなくなってきた。さらにさっき朱乃に言いかけた言葉の先のことを考える。

 

(『ただの』……なんだ? オレは何がしたいんだ……?)

 

 

悩める戦闘民族は自分の向かう先を想いながら目を閉じた。

 

 

 

次の日の夕方、イッセーたちは学園の夏服に着替えてパーティーへと向かおうとしていた。

 

女子勢(ギャスパー含む)の着替えが終わるまで客間で待たされることとなった。

 

イッセーはただひたすら時間を潰す中、意外な人物から声をかけられた。

 

「兵藤」

「匙!? お前、どうしてここに!?」

 

まさかグレモリー家で匙と出会うとは思っていなかったイッセーは驚愕する。

 

「どうしてここに?」

「会長とリアス先輩の会場入りが同じ時間だと言うことでここで合流しに来たんだ。会長は先輩と会ってるから俺たちはここを散策してたらここに出た、と言う訳だ」

 

グレモリー家の広大さは群を抜いている。そのことを分かっているイッセーは納得している所で匙はイッセーと離れた場所に座った。

 

「兵藤、もうすぐゲームだな」

「あぁ」

「俺、お前等が相手でも手加減はしねえからな」

「こっちも同じだ」

 

真剣な面持ちで向かい合う二人

 

ここにギャスパーがいれば震えあがることは確実、それ以外の人物でもとても横槍を入れられる気にはなれない緊迫したムードが広がっていく。

 

ここで忘れてはならない。

 

そんなムードでもお構いなしに突撃する“あの”男のことを……

 

「ははははは! いい塩梅のムードではないか! オレも混ぜて欲しいぜ!」

「!?」

「この声……カリフ!?」

 

方向は真上、二人が一斉に見上げると、そこには舞空術でゆっくりと降りてくるカリフが笑いながら向かってくる。

 

見上げるほどに高い所から降りてきたカリフは居心地がよさそうに深呼吸をした。

 

「ん~……意地と意地がぶつかり合ういい緊張した空気だ。今のオレではこんなシーンは再現できん。少しおどかすだけで大抵の奴らが戦意を喪失してしまうからな」

「はは、お前も相変わらず変わらねえな」

 

久しぶりに見た後輩の姿に匙も笑ってしまうが、そんなこともお構いなしにカリフは腕を組んで匙たちとは別の席へドカっと座る。

 

「それで、お前らはこのゲームに何を想う?」

「何……とは?」

「抱負でも何でもいい。二人はそうだが特に匙、お前から放たれる圧力は前の会合の時より数倍増したな。何らかの覚悟……が感じられる」

「そ、そうかな?」

 

照れながら聞く匙にカリフが無言でうなずくと嬉しそうに頭を掻く。

 

「ま、まあな。俺……このゲームに夢賭けてるからかな……」

「夢? それって前の会合での……」

「あぁ、俺……その……せ、先生になりたくて……」

 

匙は顔を紅くしてそう洩らした。

 

「先生? 何か教えるのか?」

「まだ現実味はないけど、俺たちはレーティングゲームを下級悪魔に教えたいんだ……」

「そう言ってたっけな……確か皆平等って宣言されたのにまだ差別が残ってるって……」

 

イッセーの言葉に匙はやるせない口調で声を荒げてしまう。

 

「そうなんだよ……だから会長はそんなスポットの当たらない下級悪魔にもチャンスを与えたいって……ほんの一%しか可能性が無くても彼らの才能を開かせてやりたいって思ってる!」

 

匙の覚悟が空気に伝わってくる。対するイッセーはそんなプレッシャーを受けても背けることは無い。全てを受け止めて匙と向き合っている。

 

そんな厳かな静寂の中、カリフは匙に聞いた。

 

「てことは……つまりお前は『そんなくだらねえ差別する暇あったらさっさと引退しろこの老害共!』ってことだな?」

「待て待て待て! そんな物騒なこと言ってねえだろうが! なに色々と捏造して凶悪にしてんだよ!」

「オレなら大いに笑って言ってやるぞハハハハ!」

「鋼鉄の心臓だ……神経図太いな」

「それにしても先生か……そう言えばこれは先生の受け売りなんだけどさ。胸ってブザーらしいぞ?」

「な、なんだよ急に、先生ってアザゼル先生のことか?」

 

急に真剣な表情になるイッセーに匙は生唾を飲みこんで聞き入る。指二本出して突く動作を繰り返す。

 

「こうポチっと乳首を押すと『イヤン』ってなるらしいんだ。それを聞いて俺の中の何かが疼いた気がしたんだ……多分、これが俺の正念場だと思う」

「なぁ兵藤……俺、いつになったら主さまの乳を揉めるんだろうな」

 

真剣に相談されるイッセーは少し頭を捻る。

 

「そうだな……幸運に幸運が重なれば可能になると思うぞ?」

「そんな幸運なんていつだよ! 俺なんて全然そんな機会ねえぞ!」

 

二人でアホな話を始めたのをカリフは溜息を吐き、そのまま二人に近付く。

 

「ブザーか。オレも些か興味はあるぞ?」

「おぉ! 分かってくれるのか!? そうだよ! それが男の浪漫だ!」

 

イッセーは号泣しながらもどこか安心した様子にカリフは首を傾げる。

 

「どうした?」

「だってお前、朱乃さんやゼノヴィアやマナや小猫ちゃんと住んでいるのにそういった話題が出ないからさ」

「……」

「俺、怖かったんだ。お前……本当は……」

 

イッセーは涙を浮かべて言い放った時、カリフの指が迫って来た。

 

「ホモじゃないかって心配だったんだ!」

「ポチっとな」

「うがぁっ!」

「兵藤ぅぅぅ!!」

 

カリフは人差し指でイッセーの目を容赦なくぶっ刺す。

 

彼なりの心配が引き起こしたのにまさかの仕打ちがこれだ。

 

イッセーは立派な大理石の床の上で悶絶する無様な姿を晒した。

 

「目が! 目がぁぁぁぁぁ!」

「本当だ。何だかウザエロい台詞とウザエロい顔が見えたから思わず突いてみたけど、中々にいいブザー音だな」

「ブザーっつうか断末魔だよ! しかも俺たちの言うブザーは女性の胸であって断じて男の目じゃねえから!」

「アーシア! アーシアぁぁ!」

 

床で激痛のあまり転げ回るイッセーに悪びれも無く話すカリフに匙が叫ぶ。イッセーは床を転げながら癒しの聖女の名前を呼んで助けを求めた。

 

「イッセー!? 何してるの!?」

「アーシアぁぁ! 俺の目に穴空いちゃったぁぁぁ!」

「そ、そんな! だ、大丈夫です! 桐生さん言ってました! 三秒以内なら大丈夫って!」

「アーシア、それ落ちた食べ物に使われるデマよ?」

「兵藤を残飯みたいに言わないであげてください!」

 

リアスを筆頭にドレスアップした姫たちが登場……なんて幻想的なシチュはこの場では本当に幻想となってしまった。

 

ドレスアップしたリアスとアーシアが止まること無い涙を流すイッセーを介抱する横でソーナが溜息を吐く。

 

「疑うようで申し訳ありませんが……カリフくん?」

「良いブザーだろ?」

「あ、悪魔だ……」

「匙、悪魔は私たちの方です。彼は悪鬼と呼びなさい」

 

またカリフか……そう思う面々を無視してカリフはマイペース道を突き進む。

 

「お前、男のくせにこの恰好はねえだろ……」

「え、でも、着たかったんだもん……」

 

響くイッセーの悲鳴に気を取られて曖昧な返事を返すしかないギャスパー。

 

パーティーまでもう間も無く。

 

 

 

冥界の空にドラゴンが空を飛ぶ。

 

それも一体だけではなく数頭単位でその空を支配していた。

 

その中の一体はイッセーが大変お世話になったドラゴン……タンニーンの姿もあった。

 

「すげー……ドラゴンの上から見る景色ってのも何だか感じが違うな」

『俺がドラゴンの上に乗ると言うのも変な話だがな』

「ははは! ドライグにそう言ってもらえるのも不思議な感じだな!」

 

イッセーはタンニーンとドライグの三人で他愛のない話をしていた。

 

将来の夢であるハーレムを目指すのも悪くないが、その先のことを考えること。タンニーンが絶滅に瀕しているドラゴンのために悪魔となってドラゴンアップルという林檎を研究して育て、他のドラゴンを養っていること。

 

様々な話をしてパーティーまでの暇を潰させてもらっていた。

 

そんな時にタンニーンがふと気になっていたことを聞いてみた。

 

「そう言えばあの人間の子供のことで聞きたいことがある」

「人間? カリフのこと?」

「あぁ、あの修業をかき乱したあいつだ。あいつについて何か知っていることはあるか? 出来れば生い立ちが聞きたい」

 

突然、タンニーンがカリフに興味を示したことに疑問を抱きながら考えてみるも、イッセーも返答に困る。

 

「そう言えば俺もあまり知らないんだ……あいつ自分のことはあまり自分から話さないような奴だから同居してるゼノヴィアたちはおろか幼馴染の朱乃さんたちでさえもカリフの十年は知らないんだって」

『奴は若干五歳の時に旅に出たとは聞いているだけだな』

「まぁ、それでも物凄い経歴だけど」

 

表情を引き攣らせるイッセーとドライグの答えにタンニーンは少し唸ってからドライグに話す。

 

「そうか……だが、あの鬼畜カリフ……何だか奇妙な雰囲気を感じた」

「まあ、あいつの威圧感は自然体でも半端ないからなぁ……」

「いや、そう言う訳ではない。もっと人間離れした……本当に奇妙なことだが奴からはドラゴンの雰囲気を感じたのだ」

「ドラゴン? あいつが?」

 

意外な答えにイッセーは確認する。

 

確かにカリフは人間の力を越えてもう神どころかこの世界での強者として十位以内に入っているのではないか……アザゼルの見解が一番に頭に浮かんだ。

 

そんなカリフだからドラゴンの力があってもおかしくない、とも意外と納得してしまった。

 

「確かに有り得るかもしれないな」

『相棒には黙っていたが、それは俺も感じた。しかもそんじょそこらのドラゴンのそれではなく、もっと高位の……まるで神とドラゴンが合わさったような感じだった』

「ドラゴンと神!? それってとんでもねえ組み合わせじゃないのか?」

「やはりドライグも感じたか……奴、カリフのことはアザゼルから問題児としてしか聞いてはいなかったが、初めてあいつを見た時、不覚にも畏怖してしまった……思わず頭を下げる所であった。ある程度は覚悟を決めたつもりだったが奴から発せられるオーラはただの力の塊だとかそんな単純な物では無い……もっと別の“何か”だ」

 

タンニーンの壮絶な答えにイッセーも冷や汗を流す。

 

「まあ、俺は元々からあいつのオーラはすげえ怖いと思ってるからそんなに気にするようなものじゃなかったな……違いなんて分からないし。部長たちでさえも気付いてないようだし」

『相棒、それはまだお前のドラゴンの力が弱いからかもしれん。強くなっていけば鬼畜カリフの異常性が分かって来るだろう』

「でも、あいつは既に色んな意味で異常だし、もう何があっても驚かないっていうか……」

『……』

 

的を射た答えにドライグも黙り込んだ。そんな相棒に苦笑しているとイッセーにタンニーンが真剣な口調で言った。

 

「何とか奴の過去とか調べられんのか?」

「ん~……あいつ結構天の邪鬼気質だけど聞いたらすんなりと教えてくれると思う。あいつ、どんな行為でも恥じることは無い、って豪語してるし」

「それなら一度でもいいから聞いてみることを薦める。もしかしたら普通の人間……の突然変異体であるには違いないが、もしかしたら龍の加護を受けた存在かもしれんからな」

「そうだなぁ……そうしてみる」

 

何だか仲間を疑うような気分になるのだが、確かにそういった経歴も知っておいた方がいいかもしれない。アザゼルからも同じことを言われたこともあった。

 

『俺が聞こうとすると裏がありそうと思われてはぐらかしやがる……と言うよりあいつはそう簡単に他人に心を許すような奴じゃない。十年来の付き合いの俺ですら未だに真の信用は得た訳じゃねえ……』

 

もしかしたら自分は最も困難なことを請け負ってしまったのでは……そう思った。

 

「まあ、あいつが自分から話したくなったときをもう少し待ってみるよ。やっぱりあいつにも言いたくないことだって本当はあるかもしれないからさ」

「ふ……今回の赤龍帝は本当に甘い……いや、今までとは違うからこそお前の成長に期待してしまうのかもな」

「あ、うん。ありがとう」

 

タンニーンの顔は見えないけれど何となく、イッセーにはタンニーンが笑っているように思えた。

 

今までの赤龍帝は力に魅入られて破滅していった。

 

だが、もし力に魅入られず、自分の力と向き合うような赤龍帝が現れたら?

 

平和を愛する優しい赤龍帝が現れたとしたら?

 

今までとは違う赤龍帝……その先に待ちうける物は一体何か……

 

タンニーンはそのことを考えながらグレモリー、シトリー眷属をパーティー会場に送るのだった。

 

 

 

 

 

そして、その会話を人知れずに聞いている影があった。

 

(くくく……このオレを差し置いてパーティーとは頂けんなぁ……パーティーある所にオレがいると言うことだ)

 

さっき知ったことだが、カリフは人間なので悪魔のパーティーには行けません! ということを知らされたのでグレモリー家に残ったはず……だが、カリフはだれにも気付かれないようにタンニーンの背中に乗っていた。

 

誰にも察知されないカリフが編み出した迷彩術の使用である。

 

地球上の人や動物はいつでも気を知らぬ間に発している。そして、それは虫や植物も同様である。

 

カリフは主に植物や虫、果てには微生物レベルで放出される気を感じ取り、それに同調させているだけのこと。

 

つまりは自然……ざっくばらんに言えば地球そのものと一体化することのできる迷彩術をつかっているのだ。その影響でカリフの姿はおろか声さえもリアスたちに届くことは無い。

 

カリフはその技を駆使してイッセーたちに付いてきたのだ。

 

そして、カリフはタンニーンたちの会話をバッチリと聞いていた。

 

(にしても、オレにドラゴンと神の雰囲気……ねぇ)

 

過去を思い出してもこの世界ではドラゴンと直接関わったことが無い。あるとしたらオーフィスくらいなものだ。

 

(まさかオーフィスがオレにくっ付いて来るのもそれが原因……だとしたらそれ以前にドラゴンなんて……)

 

過去を遡り、思い出した。

 

いた。神みたいな能力を兼ね備えたドラゴンの中では最強の部類にいるあの存在を……

 

この世界に来るきっかけとなった“あの”龍と関わっていた。

 

(……“神龍”ね……字的にもこいつの可能性……つか、もうこいつで確定だ)

 

新たな疑問もすぐに答えを導き出せてカリフも少しスッキリした様子だが、そのことはもう少し自分の胸の中にしまっておこう。

 

(聞かれたら答えるくらいでいいか)

 

自分から話すのも少しめんどくさいからのようだから。

 

 

やっと着いたパーティー会場は大勢の正装した悪魔たちで溢れていた。

 

パーティー会場に送ってもらったイッセーたちは大広間に行き、リアスと一緒に他の悪魔たちへの挨拶回りに出ていた。

 

タンニーンは大型悪魔専用の広間へと向かったのでそこにはもういない。

 

しばらくしてイッセーたちは会場の隅のイスの上でグッタリとしていた。

 

「やべぇ……疲れた……」

「緊張しました~……」

「あう~……」

 

イッセー、ギャスパー、アーシアの三人は相当に揉まれたのか全く元気が無い。リアスや朱乃といった古参の眷族たちは今なお他の悪魔と話をしているのを見て如何に慣れているかが分かる。

 

そして意外だったのが“あの”引き篭もりで人見知りするギャスパーだが、多少物怖じはしたものの前みたいにイッセーの後ろに隠れたりはしなかった。そこの所の成長が見られてイッセーも内心喜んではいた。

 

それでも、こういった厳かな雰囲気や挨拶回りなどの貴族の行事には慣れないイッセーたちにとっては酷なことなのかもしれない。

 

そんな三人に遠くからゼノヴィアが大量に盛りつけた大皿を大量に持ってきた。

 

「イッセー、アーシア、ギャスパー。料理持って来たぞ。食え」

「ありがとうございます。こう言うの慣れてないから喉がカラカラで……」

 

イッセーたちに料理を分け与え、皆が料理に気を取られているのを確認する。

 

イッセーは少し挙動不審になったゼノヴィアの姿を見逃しはしなかった。

 

「……」

「どうした? そんなキョロキョロして」

「!? いや、お手洗いはどこかなって……」

「それならあの出口から行けるぞ。さっき俺も行ってきた」

「そうか。ありがとう。私は少し外す」

「おう」

 

手を上げて三人に束の間の別れを言いながら大皿を持って会場の外れのテラスへと向かう。

 

星空が一望できるテラスに着いたゼノヴィアはこの場に一人しかいないことを確認すると溜息を吐いて口を開く。

 

「ここなら誰もいないから大丈夫だ」

「……」

「……いるか?」

「……すま……な……ここに……」

 

何も無い空間が少し歪み、その歪みはやがて人の形へと変貌する。声もじょじょに聞こえてきた次はやっと全身の姿を現した。

 

その姿は言わずもがな、お忍びでやってきたカリフだった。

 

徐々に姿を現してきたカリフに対してゼノヴィアが嘆息する。

 

「あまり無茶なことはしないでくれ。最初に姿現して『ご飯』なんて言われた時は本当に心臓が止まるかと思った」

「よいではないか、よいではないか。こうして聞いてくれたのだ。感謝くらいはしてる」

「まあね……君のマイペースは今に始まったことじゃない。それに……」

 

頬を紅く染めてモジモジするゼノヴィアにカリフが疑問符を浮かべると、照れくさそうに呟いた。

 

「好いた男の頼みなら……な?」

 

滅多に魅せない乙女チックなゼノヴィアの変貌にカリフも目を丸くする。

 

勇気を出した女からの告白に驚かれた様子にゼノヴィアは不満そうに表情を歪める。

 

「その意外そうな顔はなんだ?」

「いやぁ、お前もそんな乙女だったっけ? と」

「失敬な。今の私は悪魔らしく好いた男と交わりたいと思っている」

「お前らがオレにどんなことを想おうが一向に構わん。だが、これだけは覚えておけ」

 

カリフの真剣な眼差しにゼノヴィアも気を引き締める中、口を開く。

 

「オレはお前らの思っているほど強くは無い。間違いも犯す。その上、相当な人数を殺してきた」

「……」

「お前らからしたらオレという存在は碌でもねえことこの上ないはずだ。なのに何故お前らはオレに尽くす? オレを好きになれる?」

 

カリフの過去は誰も知らない。分かることと言えば彼は“人間”としてのカテゴリーを大きく逸脱した異端児だ。

 

人は異端を嫌う。それは古来からの歴史を振り返れば一目瞭然

 

それなのに何故目の前の少女はおろか同居人は自分に取り入ろうとするのか

 

「確かに君の手は血に濡れているのだろうね」

 

訳が分からなくなっていたカリフにゼノヴィアが話す。

 

「聞いているよ。君は五歳のころから堕天使を二人殺したこと」

「……」

「そんな君のことだ。その強さを得るためにたくさんの物を壊し、奪ってきたと思う」

「その通りだ。オレの手は血に濡れている。それが事実」

 

それが自嘲かも愉悦かも分からない笑みを浮かべるカリフ

 

これまでの彼の人生は略奪や殺人の連続だったといえる。その有り余る力を容赦なく振りまき、敵を作っては排除してきた。

 

十人殺せば犯罪者、されど百万人殺せば英雄

 

その言葉が事実なら、カリフはまさに英雄王とさえ呼べるほど。

 

だから彼は“仲間”や“家族”などいなくて当たり前だと本気で思っていた。

 

だが、その考えも最近になって揺らぎ始めてきた。

 

「だけど君は……本当はそんなに邪悪な存在じゃない。初めて会ったときのことを覚えているかい?」

「……たしかお前等が物乞いしてた時だったな」

「私とイリナが路銀集めをしていた時に財布ごと寄付なんてされてね、あの時は二人で驚いたよ」

「その金でファミレス行って会ったな」

「そう、その後に店の外で強盗が妊婦さんを人質にして……」

 

二人は昔のことを思い出しながら星空を見上げる。

 

「あの時、君は言ってたな。『生まれてこようとする命ならば、オレは祝福し、孵してやりたい』って」

「あぁ、まあな」

 

思い返すカリフに微笑みかけながらゼノヴィアは続ける。

 

「壊したり殺したりしたかもしれない。だけどカリフはその分だけ弱い人たちの“何か”を守り、救ってきたんじゃないか?」

 

その言葉にまたも目を丸くして驚く。確かに戦いを望まない者に対しては何もすることもなかったし、力を振るったのも弱い者をいたぶって強者面する気に食わない奴らや犯罪を犯した者に対してだけだった。

 

ゼノヴィアの言うような発想はなかった。今まで壊してきた思い出しか無かったから。

 

「あまり人を殺さない方が良いのかもしれないけど、カリフは信じたことにはそれに向かって真っ直ぐ突き進む……そんな所が好きだからかな」

「理由としては曖昧だな」

「それじゃあもっと言おうか? ミカエル様への直談判も嬉しかったからかな?」

「……」

「君は少し自分に厳しすぎる。もう少し自分を褒めてやってもバチは当たらないと思うぞ」

 

余計なお世話……そう言おうかと思ったけど言葉に出なかった。

 

というよりそんな余裕が無かった。

 

まさかゼノヴィアが自分をそんな風に見ていたのかと驚いていたのだから。

 

そうなると益々分からなくなってくる。ゼノヴィアはそれでいいとしても他の皆は?

 

カリフの謎は益々深まるばかりだ。

 

「女って分かんね」

「徐々に分かってきてくれればそれでいいよ」

「……善処したほうがいいのか?」

「そうだね。そのためにもこの合宿が終わったらデートに行こうか」

 

本人としても冗談のつもりなのか軽く言うだけだった。普段暮らしているから分かるが、カリフは基本的に誰かと遊ぶなんてことはしない。

 

もちろん、同居人たちもそのことは既にそのことを知っている。

 

 

次の発言を聞くまでは……

 

「……まあそれくらいなら時間もある。別に構わんが?」

「はは、まだ冗談としか思われて……え?」

 

目を丸くして驚くゼノヴィア……それほどまでに誰もが予想できなかったような返事だった。

 

そんな彼女にカリフは首を傾げる。

 

「なんだ?」

「ほ、本気で言ってるのか? デ、デ、デートって……」

「オレのオツムがそんなに弱いと思っているのか? 受けてやると言ったんだ」

「!?」

 

まさかの大逆転! 絶対に有り得ないと思われた展開にゼノヴィアは思わずガッツポーズを高らかに挙げた。

 

「やった! 勝った!」

「何にだ……あらかじめ言ってはおくがお前の想像しているような物じゃないぞ」

「いや、それでもいい! にしてもどう言う風の吹きまわしだい? まさかベッドとか……よし!」

 

嬉しそうに髪を整えたり、何やらドレスをずらして何らかのアピールするゼノヴィアをスルーして背中越しに答えた。

 

「そうだな……強いて言えば小猫にも言ったように、お前らとも話してみようと思ってな……」

 

夜空を見上げながらの言葉はどこか自嘲に聞こえたゼノヴィアは動きを止める。

 

「良い機会だとは思ってるからな……デートなんてオレには無理だけど、こういう方法でしかお前らとの付き合い方が分かんねえからよ」

「……やっぱりそう簡単に人って変わる訳じゃないね」

「幻滅か?」

「拍子抜けだったほうが近いかな? だけど、そんな真面目さも君らしいかな」

 

自分の思っていたこととは違っていたけど、自分の好きになった男は何だか自分たちに対して一歩踏み込んできてくれたような感じがした。

 

今までは冷たい一言で発破をかけていただけの男が何だか雰囲気が変わった気がした。そのことが何だか嬉しかった。

 

「そうかそうか。まさかこんな日がこんな早く来るとは……」

 

腕を組んで何やら納得しながら頬を緩ませるゼノヴィアを無視してテラスに肘をのせてある一点を見下ろしていた。

 

「ふん……念願の姉妹再会……って訳か?」

 

眼前に黒い猫の後を追う小猫の姿を捉えたその後、カリフの姿は徐々に姿を消してその場から気配と共に消えた。

 

その間にもゼノヴィアは顔を紅くして何やら話している。

 

「そうだ。今度一緒に遊園地にでも行こう。カップルといえば……あれ?」

 

ゼノヴィアが気付いた頃には既にカリフはその場にはいなかった。

 

 

小猫は林の中に入った。

 

パーティーで黒い猫を見かけたときは心臓が破裂するかと思った。今まで封印していたトラウマが弾けたように甦ってしまった。

 

最初は行きたくなかったが、これは自分の問題だと一人で向かうことを決意した。

 

黒い猫に付いて行くこと数分程度で会場周りの森の中へと誘導されてきてみたらとある地点で立ち止まった。

 

その直後、どこからか声が聞こえてきた。

 

「久しぶり」

 

聞き覚えのある声に小猫は声の聞こえた木の上を見上げ、震え上がった。

 

そこには過去の恐怖の対象……同時に唯一の肉親の姿があった。

 

「……何の用ですか? 黒歌姉さま」

 

怒気を含ませた声を向けられた本人は気にする様子も見せずに笑むだけ。

 

「あぁん。折角の再会にそんなに怒ったらあの子に嫌われちゃうにゃ」

 

ウィンクしながら言う黒歌に小猫はなおも黒歌に怒りを向けるが、同時に恐怖を覚えていた。

 

自分の人生を狂わせた猫又であることには違いない。現に黒歌の実力は今のグレモリー眷属の誰よりも凌いでいる。“ある一人”を除けばだが

 

小猫は次の行動を決めかねていた時だった。黒歌の横に美侯が突然現れた。

 

「おぉ! そいつはグレモリー眷属じゃねえか! どうしたい!?」

「にゃはは。ちょっと野暮用ついでに白音もいただこうと思ってね」

 

以前のテロに現れた美侯と親しげに話す黒歌の姿に小猫の緊張は一層濃くなった。

 

「姉さま! まさかテロ集団に!? てことはここに来たのも!」

「その理由はこれから教えるからそこの二人も出てくるにゃん!」

 

黒歌と美侯の視線を追うと、その先の茂みからイッセーとリアスが出てきたことに小猫は驚愕する。

 

「……部長、イッセー先輩」

「よぉクソ猿。これからここを襲撃すんのかよ?」

 

イッセーの問いに美侯はカラカラ笑って答える。

 

「違う違う。俺っちと黒歌は今日非番だったから退屈してたんだけど冥界で悪魔の大きなパーティーがあるっつうんだから来てみたってこった」

「パーティーと言えば料理……もしかしたらって思ったわけにゃ」

「? あなたたちはそれ目的だけで危険を冒してここまで来たって言いたいの?」

 

リアスとイッセーが納得できないように表情を歪める中、小猫だけが黒歌たちの思惑に気付いたように目を見開かせた。

 

「姉さま! 狙いはカリフくんですね!?」

「さっすが私の妹にゃ!」

「小猫ちゃん? 何で分かるの!?」

 

これも姉妹の成せる業なのか……イッセーは姉妹の力に心の中で関心している所を小猫が丁寧に説明してくれる。

 

「昔から姉さまとの間では『楽しいこと+ご馳走=カリフくん』という常識があったので」

「1+1=2と同じくらいに当然のことにゃ! ここ、テストに出るから覚えとくにゃ」

「ねえよそんなもん!」

 

イッセーは心の中で今はいないカリフに叫んでいた。『お前の評価はこんなんでいいのか!?』と

 

そんな中でリアスは口を開く。

 

「あなたがカリフを? あの子の実力を分かってて言ってるのかしら?」

「にゃはは。確かに実力的にはすぐには無理だけどいずれ手に入れる。その前に私はもう一つの目的を済ますにゃ♪」

 

挑戦的なリアスに対して黒歌は笑いながら邪気を発する。

 

「めんどいから殺すにゃ♪ 白音をいただくのもその後でも遅くないにゃ」

 

その瞬間、周りの雰囲気が劇的に変わったのを肌で感じた。その証拠に夜空までもが紫のマーブル状へと変化した。

 

「あなた、魔力や仙術、妖術に加えて空間系の術まで!」

「時間操作はまだ無理だけど空間系は結界術を覚えてたから割かし楽だったにゃ。これならここでド派手にやっても外には絶対にバレないのにゃ」

 

つまりは増援は期待しない方がいいとの警告に似た脅迫

 

イッセーたちも覚悟を決めていたときだった。

 

「リアス嬢と赤龍帝が森に入ったとの報告を受けたと思って来てみたら招かれざる客がいるようだな」

「おっさん!」

 

突如として現れたタンニーンにイッセーが驚愕する中、龍王の姿に美侯が騒ぎ出す。

 

「うおぉぉ! ありゃあタンニーンじゃねえかい! こりゃあやるっきゃねえって黒歌!」

「嬉しそうねお猿さん。いいわよ。龍王クラスの首二つ持っていけばヴァーリも白音のことは不問にしてくれそうだし」

「俺もカウントかよ! やるしかねえってことか!」

「金斗雲っ!」

 

美侯は足元に金の雲を呼びだして雲に乗ってタンニーンの元に飛んでいく。

 

「ふん! パーティーに似つかわしくない邪悪なゲストだ」

「あんたは未来の黒歌の旦那との試合の調整相手になってもらうぜい! 今ここにあいつがいなくてよかったぜ!」

「このタンニーンをウォーミングアップだと? 嘗めるのも大概にするんだな!」

 

互いに売り買い言葉を交わしながら炎のブレスと如意棒が炸裂して大爆発を起こす。

 

その下では黒歌がイッセーたち三人と向かい合っていた。

 

「どうするにゃ? お姉ちゃんの力は白音。あんたがよく知ってるはずだにゃ」

「……」

 

確かにそうだ。今のままではイッセーとリアスの身が危ないと言うことは小猫がよく知っている。

 

だけど、自分が従ったからと言って黒歌が素直にイッセーたちを見逃す保証もない。

 

「小猫……バカなことを考えるのは止めなさい!」

「小猫ちゃん!」

 

自分の思うままに進めばいいのか……

 

「ほらほら、お姉ちゃんがその力の有効な使い方を教えてあげるにゃ」

 

蛇の道へ進むべきか……

 

考えるまでも無い。自分が姉の元へ進めば可能性が低くても見逃してもらえるかもしれない。

 

そうでなくても気を許した一瞬の隙に逃げてくれればそれでいい。

 

「小猫!」

「小猫ちゃん!」

 

小猫は黒歌の元へと足を進めようとしたその時だった。

 

初めてカリフと語った時の夜を思い出した。

 

 

 

 

 

『小猫、最後に先輩からの別にありがたいと言われればそうでもないアドバイスを一つ授けよう』

『……それってアドバイス?』

『そんな目で見るな照れる』

『……』

『冗談だ。そんな邪険にすんなよ。っと言っても今から教えるのはオレがよく心がけていることだ。これができればちょっとやそっとの仙術程度なら正気は保てる』

『そんなことが……』

『簡単なことだ。人並みの言葉で言うとだな……』

 

 

 

 

 

「姉さま」

「どうしたにゃ?」

「……聞いてもいいですか?」

 

その言葉に黒歌が首を傾げる中、小猫は黒歌と向き合った。

 

「あの時……どうして私を迎えに来てくれなかったのですか?」

 

その質問が意外だったのか黒歌やイッセーたちは目を見開かせた。

 

「あの日……姉さまが『はぐれ』になったとき……姉さまは何を想ったのですか? どうして一人になるようなことをしたのですか?」

「……」

「どうして……私を置いて行ってしまったのですか……?」

 

一筋の涙を流しながら小猫は黒歌の目を見て言った。そこには何か大きい意思が見られる。

 

向かい合っている黒歌はそれに気付かないはずは無い。だから黒歌は顔を俯かせた。

 

「聞きたいのはそれだけかにゃ?」

「……」

 

無言で頷く小猫。その表情は悲観でもなければ哀愁に満ちた顔でもない。それは紛れも無く『前へ進む』意思を抱いた者の目そのもの。

 

 

 

そんな白音を前に黒歌は……勢い良く顔を上げて嘲笑を浮かべる。

 

「妖怪が他の妖怪助けるなんてあるわけないじゃん? あんたは足手纏いになりそうだったから置いてっただけ!」

 

非情な言葉が小猫を突き刺す横でイッセーたちも激昂する。大事な仲間を目の前の存在は虫けら程度にしか見てないのだから。

 

「ふざけんな! お前の勝手な行動で小猫ちゃんがどれだけ苦しんだと思ってんだ! 大体なんで今頃になって小猫ちゃんを奪う!?」

「今回、もう一人の仙術使える人材が欲しくなったからにゃ♪」

 

顔は可愛い、イッセーに言わせればそうかもしれないが中身は歪んだ邪悪そのもの。そう感じたリアスは小猫の前に立ち塞がる。

 

「黒歌。あなたはこの世でたった一人の妹を見捨てて力を選んだ……この子は地獄を見たの。他の悪魔には処分されかかった。だから私はこの子に夢を見させてあげたい! この子はグレモリー眷属の戦車の塔上小猫! この子には指一本触れさせないわ!」

 

リアスの言葉にイッセーが感銘を受ける中、小猫はリアスたちの隣へ出てきて姉に告げた。

 

「姉さまがどうして力に溺れたのか……分かった気がします」

「へぇ~……何だって言うの?」

「姉さま……あなたは

 

 

 

大切な物はありましたか?」

「!?」

 

ここで初めて黒歌の顔が歪む。

 

「私は……いっぱいできました。優しい部員の人も皆が好き……だから私は戦える!」

 

 

 

 

『思い出せ。お前が何をしたいのか』

『思い出す?』

『そうだ。気持ちの問題ならその気持ちを強く持てばいい……お前が望むなら可能なはずだ』

『……私のしたいこと……』

『お前は既に答えを持っている。決して疑うな。自分を……自分のしたいことをすればいい。お前は手に入れるんじゃない……それはもうお前の中にある!』

 

 

 

「私は……皆と生きる! 生きたいの!」

 

小猫の心からの叫び。その言葉は互いの心に響いた。

 

イッセーたちには結託を

 

 

そして、黒歌には

 

「じゃあ死ね」

 

絶縁を伝えた瞬間だった。

 

この瞬間、小猫は猫耳と尻尾を展開させ、対する黒歌は薄い霧らしきものを周りに噴き出した。

 

同時にリアスは小猫の変化に驚いた。

 

「小猫! あなたまさか!」

「リアス部長……私はもう逃げません……自分の血を受け入れます……だからこの力で……」

 

小猫は拳を構えて黒歌と対峙して言った。

 

「皆を守ります!」

 

この瞬間、一人の戦士が新たに産声を上げる。

 

自らの血を受け入れし戦士は自分の意思で歩み始めた瞬間であった。

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