【完結】転生者で到達者で超越者   作:羽織の夢

3 / 14
3.先輩は後輩と仲良くなりたい

──ドンドンドン! ドンドンドン!

 

 私の優雅なる一日は、自室を乱暴にノックする音で始まった。

 

「はいはい、こんな早朝から一体誰──」

「私だ」

「……部屋間違ってます」

「私が間違えるものか。馬鹿か貴様?」

 

 ドアを開けたら、そこには昨日私がボッコボコにした(エヒト)が腕を組んでふんぞり返っていた。

 

 

 

(……何で? はっ!? 闇討ちか!?)

 

 もう9時回ってんだよ、馬鹿。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「魔法を教えろ?」

「ああ、貴様の技術を私に寄越せ」

「……普通そういうのって頭下げて頼むものじゃないの?」

「なぜ私が頭を下げなくてはならない」

「……」

 

 おい、まじかお前。どういう教育受けてきたらそんな独善主義になるんだよ。親御さん連れてきなさい、説教するから。え? 親はいない? 何かごめん。

 

 朝一(現在AM10時)から何事かと思えば、魔法の師事をして欲しいという頼み(?)だった。どうやら傲慢の塊の彼も、昨日の手合わせで力の差は理解したらしい。

 まあ、この前は本調子じゃなかったんだ! とかいうご都合主義を発揮するような性格では無かっただけマシかな。頼み方が完全に頼む側の態度じゃないのはともかく。

 

「いや、私も暇じゃな──」

「この時間まで眠りこけていた奴がか?」

「……午前中を空けてただけで、午後からは書類仕事を──」

「軍からの書類なら私が終わらせておいた」

「……出来たの?」

「あの程度、貴様に意見を聞かなくても問題ない」

 

 エヒトまじ有能。いや、確かに書類自体は簡単なものばかりで、私じゃなくても到達者なら手を付けても構わないものだが、量がかなりあったはず。適当にやったという可能性も頭を過ぎったが……

 

「貴様、私がそんな中途半端な真似をすると思うのか!」

 

 という言葉を頂いたので、恐らく大丈夫だと思う。聞くと完璧主義らしい。自分の名前を使っている手前、半端な結果は我慢ならないようだ。

 つまり、今日の私の予定は眠りこけている間に無くなったわけだ。

 

「そもそも何で私に? 女の下は嫌なんでしょ?」

「……ああ、反吐が出る。だが、実力差を認めずに喚き散らかすような奴に成長の余地はない」

 

 へぇ、結構ちゃんと考えてるんだ。物事を客観的に見れる奴は成長するぞ〜。

 

「だから私が直々に貴様に師事されてやると言っているのだ」

「……ああ、うん、そう」

 

 これで頼み方がしっかりしてれば完璧だったんだけどなぁ。

 ぶっちゃけ教えること自体は別に構わない。構わないのだが……果たして教えてもいいのかどうか。

 

 この男は間違いなく【ありふれた職業で世界最強】で、主人公のハジメとヒロインのユエが戦うラスボスだ。私という本来存在しなかった存在が関わることで原作にどんな影響があるのかが分からない。

 せめてエヒトの元の世界の話があればある程度の予測は出来るのだが、エヒトの故郷の話はラストバトルでエヒト本人の口から語られた内容しか判明していない。

 

 下手にここでエヒトを強化してしまい、主人公達が一歩及ばずといった結末になったらどうしよう。

 あーーー、何で原作開始前の世界に転生するかなぁ。普通は転移するクラスメイトの一人とかでしょ。

 

 ……よし決めた。

 

「いいよ、教えてあげる」

「ッ! 本当か!?」

「本当本当」

「〜〜〜ッ!!」

 

 私が了承の答えを返すと、しかめっ面だったエヒトの表情に笑みが浮かび、分かりやすいくらいの喜びのオーラが滲み出てくる。

 

(おっ、結構かわいい反応もするんだね)

 

「それで、何をするんだ?」

「特訓と言えばまずは決まってるでしょ?」

「?」

 

 首を傾げるエヒトに向けて、私は任せろと言わんばかりに胸を張った。

 

 

 ◇

 

 

 

「うおおおおおおお!!」

「頑張れ。追いつかれたらぱくっといくよ?」

「ふざけるなよ貴様!? 私にこんなことして──」

「バハちゃんスピードアップ」

「グゥオオオオオオオオオ!!」

「待て待て待てぇ!?」

 

 昨日エヒトとの手合わせをした修練場。東京ドーム10個分の広さを誇るここは、周りへの被害を気にすること無く鍛錬を行うにはピッタリだ。

 特訓といえばまずは走り込みだよね。ということで、エヒトには全力で修練場を疾走してもらっている。普通に走るだけじゃつまらないから、原作で五天龍を魔物化させたエヒトの魔法を思い出して、それを再現してみた。

 とりあえず、ドラゴンと言えばバハムートだよねってことで、バハちゃんって名前を付けた。それで追いかけ回す。死の恐怖を常に感じることで成長を促進させる方法だ。

 ちなみに喰われるとまじで死ぬ。

 

(練習で出来ないことは本番で出来ない。つまり、練習で命懸けられない奴は本番でも命懸けられない!!

 

 アホなのか? アホだったな。

 

「頑張れエヒトルジュエ。この死線を乗り越えた先に、君が求める力がある」

「ふざけるなぁあああ!!」

 

 人選を間違えたかもしれない。エヒトは心の底からそう思った。

 

 

 

特訓中 しばらくお待ち下さい

 

 

 

「ぬぁあああああ!! もう無理だぞ! これ以上は動けん!!」

 

 一体どれだけの時間続けていただろうか。エヒトは荒く息を吐きながら、地面に大の字で倒れる。

 シリウスの目には、心身ともに確かに全てを出し切ったエヒトの姿があった。

 

(意外だ。てっきり途中で音を上げるかもって思ってたんだけど……)

 

 この男、普段の言動からは想像も出来ないが、意外にも努力家の一面があるのかもしれない。

 投げ出すなら投げ出すで付き合う義理はないと捨ておくつもりだったけど、ここまでやる気を見せられたら流石に応えないわけにはいかないよね。

 

「お疲れ」

「はあ、はあ、はあ……」

「大丈夫?」

「この、程度……なんてことはない……!」

「そっか、キツイかもしれないけど、これでようやく始められる」

「……何?」

「警戒しなくてもいいよ。これ以上身体を虐めるようなことはしないから」

 

 まるでここからが本番だと言わんばかりの言葉に表情を歪めるエヒトに、私は安心するように告げる。

 

「君が走り回ってる間、私が君の魔力を吸い取り続けてた。今の君は文字通り体力も魔力もすっからかん」

「どうりで倦怠感があるわけだ。肉体的な消耗ならば、すぐに回復できるからな」

「今の気分は?」

「最悪だ。指一つまともに動かせん」

「その通り。つまり、今の君は無駄な力を全て削ぎ落とした自然体なわけだ」

「……ッ! どういうことだ?」

 

 到達者に至る程の人間は、能力の差異こそあれど、共通して膨大な魔力を有している。そして、普通に生活をしているだけでは魔力を使い切るという状態になることはほぼ無い。

 エヒトにとってもかなり久しぶりの感覚だろう。膨大な魔力はそれだけで宿主の身体を守る鎧となるわけだが、これからやることにはその鎧が邪魔になる。

 

「そのまま深く息を吸いながら目を瞑って」

「なぜだ」

「いいから」

「……」

「この世界には魔力が満ち溢れてる。それは大地に、空に、人に。世界の全てに平等に寄り添い続けるありふれたもの」

 

 魔力は世界に漂っている。でも、ほとんどの人は己から溢れ出る魔力に気を取られ、目の前のそれに気付かない……いや、忘れている。

 

「大地を。空を。世界を感じて」

 

 今の状態のエヒトなら、何の障害も無くそれを受け入れることが出来るはず。後はそれとなく私が導いていけば、この男なら勝手に感じ取るだろう。

 

「……──ッ!? これは……!!」

「感じ取れたみたいだね」

「これは、なんだ……?」

「理。私達はそう呼んでる」

「ことわり?」

「物質、生命、星、時、境界。この世界に満ちる情報そのものって言えばいいのかな。魔法の原点にして真理。それが理。到達者の皆は大なり小なりそれに干渉ができる」

「これが……」

 

 エヒトの腕が自然と空に伸びていく。今の彼の瞳に映る世界は、今までとは全く違うものになっていることだろう。私は()()()()()()()()()からその気持ちは分からないけど。

 

「ぐっ!?」

「あ、慣れない内はあんまり干渉しすぎないほうがいいよ?」

 

 理とは情報の集合体だ。そのまま全てを受け入れてしまえば、普通は脳がパンクしてしまう……らしい。

 

「最初の内は少しずつ受け入れて、身体に慣らしてみて」

「……なるほど、これが理。だがこれを完全に支配できれば……クククッ」

 

 おおう、何か悪の親玉みたいな笑い方し始めた。まあ、エヒトに塩を送る形になっちゃったけど、大丈夫だよね。理の干渉なら、原作のエヒトも出来てたらしいし、速いか遅いかの差くらいでしょ。

 

 そう、これが私の考えた案。数少ないエヒトの元の世界の明かされている情報の一つである理の干渉。それを教えてしまおうという算段だ。エヒトが理に干渉できていないのはひと目見たときに気付いてた。これならそこまで原作に変化が起きたりしないでしょ。

 

 あとは純粋に先輩として後輩と仲良くしておきたかったというか。いや、相手があのエヒトだってことは知ってるよ? でもだからって除け者にするのはダメだと思うんだ。仲間はずれ反対。(迫真)

 それに、他の到達者の皆は偶に壁を感じるというか、なんか遠くから悲壮感漂わせて見つめてくるんだよね。もしかして、この年で友達一人も居ないことを憐れまれてる?

 ととと、友達くらいいるし!? 皆寿命で死んでっただけだし!? 別にエヒトを友達枠に据えようなんて考えてないし!?

 

 おっと、話がそれた。いい加減エヒトの悪の親玉ムーブを止めなければ。

 

「情報の取捨選択のコツはノワールとか他の到達者に聞いてね」

「? 貴様が私に教授すればいいだけだろう」

「あー、それ無理。私それ出来ないから」

「……は?」

 

 情報の取捨選択とか皆どうやってるんだろうね? 学校のテストとか前日に一夜漬けスタイルだった私には無理だよ。

 

「待て!? 貴様も理には干渉出来るのだろう!? それなら出来なくてはおかしいではないか!?」

「おかしくはないよ? だって私は()()()()()()()()()()()()()

「──ッ!?」

 

 ん? エヒトが固まっちゃったけど、私なんか変なこと言ったかな?

 まあ、良いや。私が教えられるのはここまでだし、後はノワール辺りに押し付けよう。

 

「じゃ、私は行くよ。頑張ってね」

「ま、待て!?」

 

 手を振ってその場を後にしようとしたが、エヒトの言葉に足を止める。

 何さ。これ以上教えられることはないんだけど。ん? そんなに震えてどうしたん?

 

「いつからだ……貴様はいつからあれを……」

「あれ?」

 

 あれ……あれ……もしかして理のこと? 流れ的にそうだよね。いつからってのはいつから理に干渉しているのかってことかな。それなら……

 

「最初からだよ。私の世界は生まれた時からこうだった

 

 いやぁ、昔は気ぃ抜けば身体の穴という穴から血が出るわ出るわで大変だったなぁ。いや、そんなこと意識する自我も無かったか……あれ? どしたエヒト、そんな顔面蒼白にして。お腹痛い? やべぇ、やりすぎたかな。本来は私も優しい良い先輩なんだよ?

 原作で色々やらかすけど、それを抜きにしても後輩とは仲良くしたいんだよ私は! 毎回ちょっとやらかしすぎて皆一歩ひいたとこから私のこと見てくるんだよ! 君は! 君だけでも……あっ、この感じはいつものパターンですね、はい。

 

 シリウスはちょっとだけ肩を落とした。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 修練場の備え付けのシャワー室にて、今日の鍛錬の汗を流しながら、エヒトは一人俯いていた。

 

『おかしくはないよ? だって私は()()()()()()()()()()()()()()

『最初からだよ。私の世界は生まれた時からこうだった

 

 深く息を吐いた後、エヒトは目を瞑り、この世界の情報に接続する。そして、そこに存在する汎ゆる情報を全て取り込んでいく。

 

「──……ッ!? オェエエエエ!?」

 

 しかし、それが出来たのも一瞬だけ。洪水のようにエヒトの脳を圧迫した情報体の負荷に耐えきれず、胃の中身を全て吐き出してしまう。

 イカれている。マルチタスクなんてレベルじゃ無い。含まれる情報には大気に含まれる元素情報から、周囲に居た人間の記憶や感情などまで様々だ。とてもじゃないが人一人の脳が処理できるものではない。

 こんなもの、必要な情報以外は取り除かなければ禄に扱えるものではない。それなのに……

 

(生まれた時から、赤子の時から奴はこの世界を感じていたのか……!)

 

 それは果たして天が与えた才能と言えるのか。右も左も分からない赤子がこれだけの情報の波に晒され続けてなぜ生きていられた。これでは生まれた瞬間に人としての尊厳を奪われたようなものだ。

 まともに立つことも出来ずに這いずり回り、体液は垂れ流し、生きるための栄養すらまともに取り込めない。

 

 しかし、現に奴は生き延び、さらにその状態を普通のものとして当たり前に受け入れている。

 こんなもの、天才などと言うチンケな呼び名で表せられるものではない。

 

──これではもう、新たな人類そのものではないか。

 

 エヒトの脳裏に昨晩のノワールとの会話が思い起こされる。

 

『覚えておけエヒトルジュエ。シリウスさんは到達者に上下関係は無いと言ったが、そう思っているのはシリウスさんだけだ。他のメンバーは全員あの人以外を上と認めていない』

『私を認めるつもりはないと?』

『そういうんじゃねぇよ。なんと言うか、俺達とあの人は根本的なところで違うんだ』

『要領を得ない言い方だな』

『メンドクセェな。とりあえず、あの人のそばにいれば嫌でも分かる。あの人と俺達の落差にな』

『落差……だと?』

『あの人はずっと探してんだよ。自分の隣に立てる奴を……何千年もな』

 

 そう言ったノワールは諦観を顔に張り付けたような笑みを浮かべた。

 あの男は、いや、到達者は全員知っているのだろう。あの女の異常性を。あんなの理不尽が人の形をしているだけだ。

 なるほど、理解できない理不尽の権化(アンタッチャブル)か。言い得て妙だな。

 

 最後の奴の表情。明らかに何かに対して諦めたような表情。

 あれは、私が隣に並べないと悟った表情だった。

 

──バキィン!!

 

 突き出した拳がシャワー室の壁を叩き割る。拳が切れたのか、流れるシャワーの水に赤が混じる。そんな痛みにも気付かないほどの苛立ち。

 

(ふざけるな。ふざけるなふざけるなふざけるな! ふざけるなよ!!)

 

 あの女、私に落胆したというのか。このエヒトルジュエに。世界の頂点に立つべくして生まれたこの私に。

 これほどの侮辱が今まであっただろうか。いいや無い。

 これほどの侮りが今まであっただろうか。いいや無い。

 

(認められるか。認められるものか……! 認めてなるものか!!)

 

 特別過ぎて並ぶものがいないだと? ならば、私がそこに上り詰めてやる。優雅に玉座に座り込む貴様を引きずり下ろしてやる。

 

「待っていろ。私は必ずそこに立ってみせるぞ……!」

 

 エヒトの覚悟が籠もった呟きは、水音に流され消えていった。

 

 

 

 




シリウス「後輩が皆一歩ひいたとこから見てくる」
エヒト「舐めやがって、あの女……!」

実は生後一秒から歪んでた系主人公。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。