「やる気~スイッチきみのはどこにあるんだろ~~」
「総帥」
「見つけ~てあげるよ~君だけの~やる気スイッチ~」
「ちょ、俺のやる気スイッチより、血眼になってでも自分の探してくださいよ!!」
「...君、私がそんなもので働くような簡単な奴だと思ってるのかい?」
「なんで誇らし気なんですか!?」
いつもの平和な瀞霊廷...。
のはずだった。
「西流魂街もう少し結界強くしようか~?」
「ハイ!」
「南側の七席、八席くん~。お手伝いよろしく~」
「お任せを!」
上々、良い感じだね~。
若干楽しそうに指示を出している総帥は、いつも通り死んだ魚の目をしている。
知らせがあったのは1時間前。退屈な平和が崩された瞬間だった。
一歩でも瀞霊廷に足を踏み入れたら殺すと言わんばかりに徹底した結界を組み立てる目の前の彼女。面倒事が始まってからの彼女は当てにならないが、面倒事を未然に防ごうとする彼女は一番頼りになる。
「それにしても、警備体制を整える側の我々が隊首会に呼ばれないのはなぜなんでしょうか...」
「さあ~、なぜでしょう~?」
ふふふ、と腹の立つ笑顔を浮かべる彼女は、堅苦しい集まりに呼ばれなくて万々歳といった様子だ。
「こういう時だけ、鬼道衆ラッキ~って感じ」
ちなみに今までのやり取りは全て鬼道衆全員に天挺空羅で筒抜けである。本当に救えない。彼女にとって鬼道は便利な能力の一種に過ぎない。野垂れて頭を抱える自分のすぐ傍に、シュンと風を切り小柄な人物が現れた。
「...茜殿、お久しぶりです」
「やあ、砕蜂。元気かい?」
「...お陰様で」
「それは何よりだ。昔に比べて丁寧な配置だね。楽させてもらってるよ」
「っ...」
唇を噛みしめる二番隊隊長は悔し気な顔で総帥を見つめた。
この二人の共通点は一つしかない。
砕蜂を見向きもしない茜は、やれやれと言葉を続ける。
「で?わざわざ隊長サマが何しに来たんだい?」
「...ひと月前、現世で発見された朽木ルキアの処遇についてです。現在六番隊舎にて囚われております。三日後、懺罪宮へ移動となりますので、鬼道衆も何名か配置してください」
「りょーかい」
気の抜けた返事を返す総帥に動じることなく砕蜂隊長は淡々と報告する。
「四十六室の判決は、朽木ルキアの処刑です」
感じる霊圧が若干揺れた気がした。
ふと総帥の顔を見てもその表情は変らなかった。
「...へぇ、最悪だね」
さて、どうしようかと首を傾げる。総帥とかかわりはあっただろうか。引き続きその調子でよろしく~と声を掛ける総帥は、天挺空羅を解いた。
「西流魂街を彷徨ってる旅禍の目的は、恐らく朽木ルキアの奪還、かな?」
「なっ!?」
「なぜです?総帥」
「流魂街の人間は無傷、それに無駄な争いは好んじゃいないらしい。そのルキアって子、人間に霊圧明け渡しちゃったんでしょ?追いかけて来たんじゃない?勇者サマがさ」
俺は昔から思う。やる気が無いくせに、無駄に納得のいく分析を披露する彼女は尸魂界屈指のブレインだと日々実感するのだ。そんな彼女に育て上げられた自分も一歩間違えれば彼女仕込みの効率廚になっていたかもしれない。考えるだけで恐ろしい。
「...それにしても『処刑』か。随分重いな」
「一般的には、霊圧剥奪、といったところでしょうか」
「砕蜂、それ白哉は許したのかい?」
「反論する意思も無かった、と報告がありました」
「面倒なしがらみ抱えてんなあ、つくづく怠い」
重い溜息を吐く総帥は、ありがとう砕蜂と呟いた。何か言いたげな砕蜂隊長だったが、緊張が張り詰めた空気だけを残してその場を去った。重い空間の中、パッチくんと小さな声が聞こえる。八軒なのになぜパッチ何ですかと昔聞いたことがあった。総帥は、昔の知り合いと同じあだ名は嫌だろう?と話したのはもう随分昔となってしまった。
「なんでしょう」
「昔、私にも院生だった時代があったのだよ」
「まあ、そうでしょうね」
「それでね~、まあ仲良かった、のかな?よくつるんでた二人が居てさ、これがまた中々個性強くてね」
アナタもでしょ、と言いかけた言葉を飲み込み、珍しく饒舌に話す彼女の言葉を受け入れる。何やらつるんでいた二人のうちの一人についてらしい。ぐちぐちと面倒事を持ち込むとんでもないヤツだったと口にする総帥は、どこか幼げだった。
「思い出すだけで腹立たしいけどね、一つだけ鮮明に覚えてる言葉があるんだ」
『死なない為に死ぬほど準備をするんスよ、小鳥遊サンで例えるなら面倒事にならない為に死ぬほど対策を取るのと一緒みたいなもんス』
一字一句、昨日聞いた言葉のようにスラスラ話す総帥の目にはぬくもりを感じた。適当に聞いていた自分は、普段見ない彼女の様子に目を奪われていたのかもしれない。
「面倒事は御免だからね、最悪な結末になる前に食い止めようか、パッチくん」
たとえそれが、古臭い掟に反するとしても。
「...アナタについていきます。総帥」
アナタの傍に居る自分の役目は、アナタを一番に信じることだ。