ソードアート・オンライン 憂きし心のメヌエット   作:あらびきバナナ

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覚めるべきでない悪夢

 

もし明日奈をこの世界に誘わなければ、どうなっていただろうか

 

私がゲームに囚われたことを悲しんでくれたかな、私が帰ってこないことに落ち込んでくれたかな、私が現実に戻ってきた時喜んでくれたかな

 

…私がしたことを許してくれるのかな

 

だけどいくら考えてもそれは妄想でしかない、現実は私が明日奈をゲームに誘い危険にあわせた挙句に自ら見捨てた

 

それが私の現実…それが私の業であり罪。一生背負わなければならない十字架

 

でも、それでも考えてしまう。そうならなかった未来、明日奈が私の隣にいてくれて、明日奈が私のそばで笑っていて、明日奈が私のことを気にかけてくれる。そんなもしもを

 

…"あの日"、私は明日奈を見捨てた。私が明日奈の死ぬ姿を見たくないという身勝手な理由で、自分のせいで明日奈が死ぬかもしれないという現実から逃げた

 

私は逃げたんだ

 

そんな自責の念から1度は自殺すら考えた、だけど結局死への恐怖がまだあったのか、まだ死ねずにいる。いや、むしろここで死ぬべきではないと思ったからだと思う

 

ここでこんな死に方をしたらそれこそ明日奈は許してくれないだろう、ならばせいぜい行くところまで行って死んでやる。そう決めた

 

 

そして1層を攻略したあの日、言われた言葉

 

『ミト、私彼と行こうと思うの』

『彼といれば私強くなれる気がするの…』

『だから彼を追うわ』

 

その日からというものの毎日同じ夢を見る、最初は現実にいた頃のように一緒にゲームをしたりショッピングをしたりという平和なもの。でも最後は必ず"アスナ"にこう言われるのだ

 

もう関わらないで、と

 

いくら追いかけても手を伸ばしても彼女には触れることも出来ず、ただ遠くに離れていくだけ。そしてまた現実と同じように1人になる

 

しかし私はこの悪夢を覚ますつもりなどない。だって、この夢を見て苦しみ悩み続けることが私がアスナに出来る唯一の、せめてもの贖罪だから

 

そして今日もまた私は贖罪のための夢を見る

 

それが私、ミトのただひとつの出来ることだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2022年12月9日木曜日、時刻は午前9時12分、天候設定はやや曇り。うん、特に普段と変わりないいつも通りの状態

 

これが例えば雨だったりすると話が変わってくる、モンスターの湧き条件に加え「濡れ」というデバフ効果により滑りやすくなり戦闘においてイレギュラーが起きることになるからね

 

朝食を手早く済ませ身支度もひとしきり終わらせたところでドアノブに手をかけ後ろを振り返る、しかしそこには誰もいない。ベットとテーブルと椅子、それと最低限の家財道具が置いてあるログキャビン風の部屋

 

…前ならきっと明日奈が慌ただしく準備していたのかな

 

「っ…はぁ」

 

悪い癖だ、なんでもかんでも明日奈がいたらと考えてしまう。いるわけないのに、私の傍になんか

 

邪念を取り払うように首を振り再びドアノブに手をかける。今度は振り返ることはなくそのまま扉を開く。廊下に出た私は先程までの下手な考えを捨てるようにやや強く扉を閉めた

 

今日がまた始まった

 

私が泊まっているのはフィールドにあるNPCハウスの2階、つまりそれは宿を出ればすぐにモンスターのいる危険地帯だということ

 

いつ敵が出てきてもいいように常に周りに気を配る、物音や風、果てはなにかの反射にすら敏感でないとこの世界では生き残れないから

 

「来たっ!!」

 

ガキンッ

 

ザシュッ!

 

背中にある鎌を素早く手に取り敵の突進をガードして受け流す、その僅かな隙を逃さずに追撃のひと斬り

 

ステップで距離を取り次の相手の行動を見極める、再び突進だが今度は受け流さず向かってきた敵を踏み飛び上がる。そのまま落下を利用して重めの一撃

 

結果さっきよりも多くのダメージを与えることが出来た、が喜んでいる場合では無い。この敵は体力バーが赤くなると攻撃後の硬直が短くなりさっきまでの様な攻撃が通らなくなる

 

そして今がその状態、だけど別に倒す方法が無いわけじゃない。簡単な話相手より早く動いて攻撃を当てればいいだけ

 

「っ…ここ!!」

 

ザシュッ!

 

一瞬の隙を見て大鎌ソードスキルの〈モアー〉を発動、突進してくる獣の足を狩り取るように素早い斬撃を繰り出す

 

するとガラスが割れたような音と同時にモンスターが消えた、1体目討伐完了

 

それを見届け次の敵を探す、今日はまだ始まったばかりだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は午後12時36分、あれから今までずっと戦闘続きだったこともあってさすがに疲れたから今はセーフゾーンで小休憩を取っている

 

レベル12は、この前のボス攻略前が13だったことを考えると今のところいいペースで上がってきてるしあと2日か3日ぐらいすればボス部屋が見つかるだろうからそこまでに出来ればレベルぐらいにはあげておきたい

 

それにしてもやはりこの世界の食事はなんというか非常に味気ないと思う。いや、多分ちゃんとしたお店とかに行けばそれ相応のものが食べれるんだろうけどこういういわゆる携行食は…はっきりいってまずい

 

別に美味しいものが食べたい訳では無いけど出来ればもう少し味があるものを食べたい、こんな堅パンじゃなくて

 

でもそんなパンもあと1口サイズしかない、いつもより少しばかり大きく口を開けて一気に放り込んで最後のひとくちを噛み締める

 

「ご馳走様でした」

 

座っていた岩から立ち上がり軽く身体をほぐす

 

ガサガサ

 

近くの草むらから物音がした。私は急いで大鎌を構えてその正体がわかるのを待ち続ける

 

次第にその物音はこちらに近付いてくる、そろそろ来るとソードスキルの構えをとった時

 

「待った、待った!!オネーさんは敵じゃないゾー!!」

 

草むらから出てきたのは猫?のような髭を顔から生やした1人のプレイヤーだった

 

…というかお姉さんってどういうこと?このちびっ娘が?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12時38分。朝よりかは日が出てる

 

いつもなら狩りを再開してる時間だけど、まだ出来てない。それは目の前にいる、ちびっ子のせいだ

 

「…で、貴方はなんでここに?」

 

「ま、情報収集ってやつダナ。オレっちは情報屋だからナ、こういうエリアの端っこまでクエストがないか探しに来たんダヨ」

 

「そう…でも残念ながらこの辺にはクエストはないわよ。ここに1週間くらいいる私が言うんだから間違いないわ」

 

実の所、最初ここに来た時は私もそれに期待してた。こんな階層エリアの端にあるセーフエリア、何かレアなものが貰えるクエストとかがあるのでは、と思ったが実際はNPCの居ないただの格安宿だけ

 

「そりゃー残念ダ…っと、まだ名乗ってなかったナ。オレっちはアルゴさっきも言ったが情報屋ダ」

 

「…あいにく得体のしれない情報屋相手に名乗る名前はないわね」

 

「ははっ、手厳しいナー」

 

なんとなくだけどこの人に名前を教えたらろくなことにならない気がするし

 

「…じゃあこうしないカ?さっき君がくれたこの辺にクエストがないって情報の見返りに君が欲しい情報を何でもひとつ教えてヤル。そのついでに君の名前を教えてくれっていったらドーダ?」

 

なるほど悪くない提案だ、ちょうどこの鎌の変わりになる武器を探してたしそれを聞くためならネームぐらい…ん?

 

今の口ぶりだと

 

「貴方の名前を聞いた分の私の見返りを私は払わないといけないですよね?」

 

「…へぇ、やるじゃん。ますます君の名前が気になってきたゾ…でどうするんだ?もちろん取引不成立でも構わない、その場合はそれと引き換えにオレっちはこの場を今すぐ去るよ」

 

「…ミトよ、じゃあ私の武器の変わりになるもの情報が欲しいわ」

 

「ミーちゃんダナ、覚えたぞ。鎌の情報は…ちょっと待っててクレ」

 

ミーちゃんって…そんな呼ばれ方されたの幼稚園の時以来なんだけど。まぁ別に呼ばれ方なんてどうでもいいか

 

「はい、この巻物の中にその場所までのマップとクエストの内容が書いてあるから確認してクレ」

 

「どうも」

 

場所は主街区西方面のフィールドにある岩場か、クエストの内容はレアドロップ素材の納品…なんだ結構簡単じゃん

 

「じゃ、オレっちはもうここには用はないからおいとまするゼ。またなミーちゃん」

 

「さようなら、アルゴさん」

 

…なんか、あの人の生き方は疲れそうだな。みんなにあんな接し方してたら私なら3日も経たないうちに体調崩しそう

 

さて、予定よりかなり休憩に時間割いちゃったし早く狩りに戻らないと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ただいま」

 

時刻は21時58分、すっかり夜も更けて来たので宿に帰宅。そのままベットに飛び込んだ

 

明日は1度主街区に戻って…武器を取りに行って、あとは…

 

ダメだ、もう眠い。今日はなんか疲れた、久しぶりに人と会話したからかな

 

もう装備外して寝よう…

 

「おやすみなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その声は誰にも聞かれることなく暗闇に呑まれ、そして今日もまた。いつものように悪夢を見た

 

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