ソードアート・オンライン 憂きし心のメヌエット 作:あらびきバナナ
「これで…10個目、完成……疲れた」
4月の下旬、バザーの日から特に何も起きることはなく。私はずっと宿に籠って製作作業をこなしていた、たまに素材を集めるためにフィールドに出たりはしてたけどそれも大した時間出てたわけじゃない
最初の数日はレーテも近くにいたけど途中から「飽きたー!」って言ってぱったり来なくなった、多分アルゴのところで仕事でもしてるんだと思うけど
少なくとも毎日連絡は届くから嫌われたとかそういうことはない、はず
今日も軽く6時間くらいは防具やらアクセサリーやらを作ってたから、正直体力が限界かも
というか普通に眠い、昼間だけど寝たい
「とりあえず水を飲もう」
起きてからほぼノンストップで作業だけやってたから何となく喉が渇いてる気がする…実際この世界にいる限りそんなのは電気信号でしかないんだけど、気分的に飲まないとやってられない
ピコン ピコン
ん、メッセ?誰からだろ…って、サチか。内容は…
『この間の相談の件で連絡しました、ギルドメンバーともう一度話し合った結果やっぱり私が武器を変えることになりました。そこでこの前ミトさんが言っていた武器鍛冶をしている方を紹介して欲しいのですが、ご本人とミトさんの都合が会う日で構わないのでよろしくお願いします』
相変わらず硬い文章…でもとりあえずそれは置いておこう
というか結局武器変えるのね、まぁ仲間内で話し合った結果なわけだし私がとやかく言えることじゃないんだけどね。返信…する前にリズに予定空いてるか聞かないけど
えっと、『近いうちに空いてる日とかある?新しい武器に転向するって娘がいるからあなたの事を紹介したいんだけど』っとこんな感じかな
さて、返信が来るまで軽くパンだけでも食べようかな…確かストレージに軽食用に買ったパンが…
「って、切らしてたんだった」
そういえば昨日最後の1個食べたの忘れてた…仕方ない。ちょっと買い出しに出掛けよう、他にも買っておきたいものもあるし
「よっこい…せ……って何歳よ私」
まぁこんな世界じゃ歳も何も関係ないのかもしれないけど、要は体を動かしてるのも電気信号による結果。ほとんどは反射神経によるものがいちばん大きい
それでもない空気を吸ったり、力む時に声を出してしまうのは人間の習性としか言いようがないわね
…こんなどうしようもないこと考えてないで、さっさと防具も最低限だけ着て、さっさと買い出しに行こう
ガチャッ
いってきます…っと
「こんなものかな…今思いつく限りの必要なものは」
使い捨ての鍛治道具、ショップ限定の素材、合間に食べる用の軽食、その他色々…とりあえず今思いつくものを買い込んだ
これでまた数日は部屋に困りっきりでもどうにかなると思う。あ、でもさすがにそろそろまた素材集めをしないとダメかも。その時はレーテも誘ってみようかな
さてと、用事も済ませたしゆるゆる宿に帰ろう
ピコン ピコン
メッセ…あー、リズからか
『新しいお客さん!?いやーわざわざ悪いねー
予定の話だけど、しばらくは基本フリーだから明日以降ならどこでもOK!というか固定客を得るチャンスなんだから無理してでも予定空ける!!』
まったく、商魂たくましいんだから…この点は私も少し見習った方がいい気もするんだけどどうなんだろ
いつでも空いてるならサチ側の都合を聞いた方がいいわね…『連絡遅れてごめんなさい、向こう側は何時でもいいらしいから貴女の都合に合わせられるそうよ。いつがいいかしら? あとメール文もう少しフランクでいいわよ』…こんな感じでいいかな
よし、それじゃあ今度こそ帰ろう
「そこの貴女」
「っ!?…私?」
「そうよ鎌使いのお嬢さん…ごめんなさいいきなり声をかけてしまって」
いきなり後ろから声をかけられてびっくりした…すごい、綺麗な人
「いえ…なにか用ですか?」
「私この辺に来るの初めてなんだけど、気付いたら迷っちゃって…大広場まではどうやっていけばいいのかしら?」
「えっと、それならそこを真っ直ぐ行って突き当たりを右に行けば行けますよ」
「そう。ありがとう、それじゃあまたね…ミト」
「っ!?なんで私の名前を!!……いない」
すれ違いざまに名前を言われて、振り向いてみたらもうさっきの人はいなくなっていた。なぜ私の名前を…
というかここは下層も下層、よっぽどはじまりの街に篭ってるプレイヤーじゃない限りある程度の道は分かるはず。それこそあの人の装備はかなり凝ったものだった、全く知らないなんてことはほとんどないはず
それなのにわざわざ道を聞いてきたってことは…まさか私と話すために?でもなんのために?
色々分からないことが多いけど、とりあえず怪しいことは確か。念の為警戒しておいてもいいかもね、それにもしかしたら私が深入りしてるPK集団の関係者かもしれないし、アルゴにも連絡しておこう
『鴉のような格好をした女性プレイヤーに声をかけられた、何故か名前も知られてたから念の為連絡しておくわ』
さて、今度こそ宿に帰って作業の続きをしよう
そんなことがあった翌日、結局あの女の人については分からずしまい。PK集団と同じくらい謎な人だってのは確かだし
やはり名前を知られてる以上なんか裏があると考えるべきだと思うから、とりあえずこれもアルゴに調べてもらうことにした
「うーん…遅いわね、リズ」
そして今日はあの後サチからも連絡もあって、今日が空いてるらしいからこうしてリズと待ち合わせして会いに行こうって話だったんだけど、約束の時間を過ぎても一向に来ない…
もしかして寝坊?さすがにそんなことするような娘じゃないと思うんだけど…いやでもまだ知り合ってそこまで経ってないからなんとも言えないわね
まぁ向こうとの約束はもう少しあとな訳だし、別にいいちゃいいんだけど
「ミトー!!ごめーん、遅れたー!」
やっと来た…
「別にいいわよ、そんなに待ってないし…というか大丈夫?息上がってるわよ?」
「はぁ、かなり走ったから…はぁ、ちょっとタンマ…はぁー、すぅー…はぁー」
「深呼吸してるところ申し訳ないけど…この世界空気なんてないから意味ないわよ」
「分かってるわよ!気分の問題よ、気分の!」
「それなら分からなくもないけど…」
実際私も戦闘中や作成中にも落ち着くために一呼吸することがあるから分からないことは無い
この世界に空気はない、でも何年も生きて染み付いた無意識的な行為だから仕方は無いとは思う…厄介だと思うこともある。身体は現実のベットの上、一切動いてないはずなのに息は上がった気がするし汗をかいてる気にもなる
理屈で考えればおかしいけど…嫌な感じはしない。生きているような気がするから
「…そろそろ大丈夫そう?」
「うん、だいぶ…さぁ行きましょ!ミト!」
「その元気はどこから来るんだか」
さっきまで疲れてたのに気付いたらもう元気になってる…変な娘。サチたちとの集合場所は同じ街の中だから歩くだけだし、そんなに意気込む必要もないんだけどね
「そういえば今日会う相手ってどんな人なの?聞き忘れたんだけど?」
「そうね…可愛い子よ、気も使えて周りのをしっかり考えてる優しい子」
「あ、女の子なんだ。良かった〜、男の人だと緊張しちゃうと思うんだよねぇ私」
「あ、男の人も何人かいるわよ付き添いで」
「え゛っ…嘘よね?」
「そんなしょうもない嘘つく意味ないでしょ…」
と言ってもこれは私が彼らに奨めたんだけどね、サチだけが買うのもなんだから他のメンバーも新調したらって。それにリズも最近お金に困ってたっぽいしね
「ほら、そんな落ち込まないの。私もいるんだから」
「…ちゃんとサポートしてよ?」
「はいはい」
そんな雑談をしながら歩くこと約10分、呼ばれた借家に到着。噂には聞いてたけどこのゲームに借家なんて本当にあったのね
「じゃあ早速お邪魔しましょうか」
「う、うん…行こうか」
なんで緊張してるのよ、別におかしな人達と会うわけじゃないんだしそんなに緊張する必要ないと思うんだけど。あーでも男の人がどうのこうのって言ってたしそういうことなのかな
コンコンコン
ドアをノックすると奥からドタドタ音がする、ノックしたらその家の人間に通知が行くのはこのゲームのいい所よね
ガチャ
「ミトさんいらっしゃい、そちらの方が?」
「えぇ、リズことリズベットよ」
「よっよろしくね!」
「はい、よろしくお願いします」
ふっ、なんで声が裏返ってるのよリズは…
「さぁお2人とも、早速中にみんなが待ってますから」
「じゃあお邪魔するわ」
「お、お邪魔します!」
家の中はいわゆるアドベンチャーゲームによくある木造の家って感じね、よく分からない海外とか花が飾ってあるとこ含めてそんな感じね
例えるならスカイリムって感じね
「そういえばこの前うちのギルドに新しいメンバーが入ったんですよ」
「えっあなた達のギルドってリアル時代の身内じゃなかったっけ?」
「そうなんですけど、この前危ない所を助けて貰っちゃって。それでみんなで話し合って入ってもらうことにしたんです」
「そうなのね」
ギルドとかに所属したことないからそういうのよく分からないけど、そんな簡単にメンバーって増やせるものなのね
まぁサチたちがいい人だと思ってるなら多分本当にそうなんだろうけど…
「あ、こっちの部屋です!みんなー、ミトさん達来たよー」
「あ、えーっと久しぶりー…でいいのかし、ら…」
そこには私の知ってるギルド『月夜の黒猫団』のメンバー全員、そして
全身黒ずくめの半ば中性的な顔立ちの男、ベータの時にあと一歩のところで負けた相手、前までアスナと一緒に行動していたあいつ
黒いヤツこと、キリトがいた。いったいどういうことなの?
「うわー!この武器カッケー!」
「コイツも性能すげぇ!!」
「こんないいものまで…どれも3万コルでいいんですか?」
「もちろん!その代わりメンテする時もこれから武器を買う時も私のところに来てもらうわよ!」
「「「「「もちろん!!」」」」」
リズのセールストークが冴え渡り黒猫団のみんながわいわいはしゃいでいる…初めてのプレイヤーメイドの武器だって言ってたしそんなものなのかな
そんな中、私…とキリトは少し離れた場所でみんなを眺めてた
「…で、なんであんたがこのギルドに」
「それはまぁ成り行きと言いますか…はい」
「ふぅん…まぁそこに関してはあんま興味無いけど」
私は別にこいつの行動には基本興味はない、私が興味あるのはむしろ…
「なんで25層の攻略、来なかったの?」
「…色々事情があったんだよ」
「へぇ、アスナから身を引いたのも事情?」
瞬間あいつの動きが固まる…図星でもついたかな?
「大方、アスナと喧嘩したとかで気まずくなって来なかったんでしょ」
「え、なんで知ってるんですか?」
「あの娘と1年以上関わってるのよ、そのくらい何となくでわかるわ」
「左様で…」
というかこいつがギルドに入るなんて…てっきり私と同じでそういうのには入らない質だと思ってたんだけど、まぁこいつのことよく知らないからなんとも言えないけど
「あなたはいいの?あの娘の武器、なかなかのものよ」
「あー、遠慮しとこうかな…まだこいつもスペック的には申し分ないし」
「そう」
見たことない片手剣…レアドロップ系?それともインゴットからの転化系?片手剣の知識はあんまりないから分からないわね
「というかあんた、もう前線に出るのやめたの?…まぁ私もそれに関しては否定しないけど」
「やめたっていうか…ちょっとした息抜きというか」
「…それでこのギルドに入ったってこと?」
「まぁそこは成り行きで」
「…っ」
成り行きでこのギルドに入った…ねぇ。でもサチたちが自分たちの戦力底上げのために前線のプレイヤーをギルドに入れるかしら
多分あの娘達なら…そんなの他の人の迷惑になるって断るはず。まだ数える程しか会ってない私でも彼女達のその優しさは分かる…まさか
「嘘のレベル、教えたでしょ…?」
「な、なんでそれを…」
「はぁ呆れた…1つ言っといてあげる、生半可な気持ちで人に関わるとろくなことにならないわよ」
「…覚えときます」
「まぁ私も鬼じゃないから、レベルのことは黙っておいてあげる」
「ありがとうございます…はい」
こいつの人間関係に関してははっきりいってどうだっていい。私が気にしてるのはそれによるサチたちの評判だ
前線プレイヤーにキャリーされてる中堅ギルド…なんて言われるかもしれない、彼女達にそんな悪評がつく可能性を考えて私はこいつに注意した。そういうことにしておこう
「ミトー!ちょっとお金の整理手伝って!」
「はいはい…じゃ、そういうことで」
「あぁ…じゃあな」
そのあとはテンションの上がったリズに付き合わされ黒猫団と黒いのといっしょにご飯を食べに行くことになった
リズは奢るとか言ってたけど今日集まったお金そんなふうに使ってたらまたすぐ無くなっちゃうと思うんだけど…いいのかな?
とりあえず帰る時にギャンブルは絶対やらないでねと忠告したから大丈夫だと信じたい
キリトが黒猫団に入ったことでなんか気苦労が増えた気もするがそれが杞憂で終わることを願ってその日はもう寝ることにした
まぁあいつが黒猫団を気に入るのも分からなくもない、あの娘達の出す雰囲気はとても…居心地がいいからね
途中出てきた新キャラについては…まぁ覚える余裕がある人は覚えておいて貰えたら
一応オリキャラです