ソードアート・オンライン 憂きし心のメヌエット 作:あらびきバナナ
夕方、アルゴとの約束まであと数分ね、部屋で待ってろと言われたから待ってるけど
…というかなんであの人は私が普段泊まってる部屋を知ってるのよ。まぁ教えたの十中八九レーテでしょうけど、いやあの人ならあの娘に頼らずともそのくらい分かりそうで怖いわね
コンコン
っと、来たわね
ガチャッ
「時間ピッタリね」
「まぁな、ささ早く中に入れてクレ」
「普通に聞いたら厚かましいセリフね…ほら入りなさい」
そういうとまるで電車に駆け込むようにすたすたと私の部屋に入った…ほんと、猫みたいね。いやネズミなんだっけあの髭
というか人の部屋に入るなり物珍しそうに物色を始めてるし…まったく
「ふんっ」
「ったー、何すんダヨミーちゃん!」
「人の部屋を漁るからでしょ…そんなことより本題に入りさいよ。時間もないんだし」
「全くミーちゃんはせっかちだなぁ。ま、時間が無いのも事実だしさっさとやっちまうカ」
机の上に置かれる何個かの録音用の結晶と、写真用の結晶…それなりの数ね
「…よくこんな数用意したわね」
「先行投資ってヤツだよ、ヤツらが今後脅威になる可能性はかなり高いからナ。今のうちに情報を抑えてその時が来たら高レベルのプレイヤーに高く売り付けるってワケよ」
「さすがの商才ね」
もちろん皮肉だけど。本人もそれを分かってるのか、半ば大袈裟に笑ってるわね
「ハハハ…さて、冗談はこれくらいにしてそろそろ真面目な話をしようカ」
「そうね…」
ふざけた感じを出してはみたけど、今回の仕事はそんな冗談を言えるような仕事じゃない。普通に命に関わることだし、私はもちろん他の人のもね
だから…だからこそやり遂げなきゃ、自分のためにも他のプレイヤーのためにも…アスナの為にも
「…って話聞いてたかミーちゃん?」
「えっ…ごめんなさい、ちょっと考え事してて」
「オイオイしっかりしてくれよォ…じゃあ一から説明するぞ」
作戦…いやそんな大層なものでも無いけど。森の中を尾行してモルテとかいうやつを見張る、目標の場所に着いたら現れるであろう奴との会話を録音、その様子含め撮影して撤退
問題なく進めばいつも通り夕飯を食べて作業をする時間すらある。なに、ステルスゲームを500時間以上プレイしてる私に死角はないわ
「まぁこんな感じだな、もしもの時はなんでもいいからチャットを送ってくれれば直ぐに駆け付けるからその辺も安心してくれ」
「わかったわ、じゃあそろそろ行きましょうか…」
「そうダナ…なぁミーちゃん」
「なによ」
「この件が終わったら、ひとつ質問してもいいカ?」
「…別にいいけど、そんな変なフラグ立てないでよ」
「にゃははー、わりぃわりぃ。じゃ行こーか!」
「えぇ、そうね」
「この辺ね…」
3層の森…それこそ来るのはあの日のアスナとのデュエル以来ね。懐かしい…あの頃に比べたらだいぶ私も丸くなったわね。多分だけど
ん?ボロボロのローブに特徴的なチェーン装備…あいつがモルテね。ぼちぼち尾行しましょう…それにしても雰囲気からしてめちゃくちゃ胡散臭いわね、詐欺師みたいな感じがする
というかこの森ほんと暗いわね、普通の場所よりも補正かかってるでしょ…暗視系のアクセサリー持ってくれば良かった
「?止まったわね…」
こんな目印のないところで止まるなんて…まさか尾行がバレてる?いやそんなはずは…あ、向かい方面から人が…っ!?あいつは!
と、とりあえず録音しないと
「おやおや、今日は貴女でしたか…鴉さん」
「仕方ないでしょ、あの人の指示なんだから」
あの人…Pohのことかしら。というかやっぱり鴉の女もPK集団の仲間だったのね
「それじゃあ、いつも通り定例報告です。解放軍の内部分裂の扇動は予定通り進んでますよ、ジョニーも25層の件で一時的に疑われてましたけど今は古参メンバーとしてある程度信頼されてるはずですから…その時が来ればすぐにでも破壊することも出来るようです」
「ジョニー…あぁ、あのサイコ野郎の事ね」
「サイコ具合で貴女も似たり寄ったりかと…」
「何か言った?」
「ははっ、冗談ですよ」
解放軍の分裂…25層…やっぱりこいつらがひとつ噛んでたのね。どこまで計画的にやってるのよ…というか何が目的なの?
そんなことして…なにになるっていうのよ。この世界から出られなくなるだけじゃない
「それにしてもあの人もよくこんな回りくどいやり方するわよね…」
「それに関しては我々の知る所ではないでしょう、それこそ神のみぞ知るってやつですよ」
「そう…まぁどうでもいいけど」
ちっ、流石にそこまで話すほど馬鹿じゃなかったか。まぁでも今まで何も分からなかったのが音源込みで情報を得られたのは大きい収穫ね
さて、そしたらタイミングを見て写真を撮ってさっさと帰ろうかな
「そういえば…貴女がエンカウントしたあのプレイヤーの件はどうなったんです?」
「あぁ彼女…正直ヘッドの言うのほどの相手には見えなかったのよね、面白いとは思ったけど」
「まぁなんせ使用率最低の鎌を使ってるトッププレイヤーですからね、雰囲気はともかく。余程の玄人ですよきっと」
鎌…?まさか私の事?もしアイツらの言うヘッドがあの時私を襲ってきた男なんだとしたら確実よね…まさか私も狙われてるなんて…
いや、下手に首を突っ込んでるんだからそれも当然かもね
「まぁその辺は貴女の仕事ですから、私は口を出しませんよ」
「そうして頂戴…それで他に話はある?」
「いえ今日のところは以上です、次回以降のことはまた別口から連絡させてもらいますよ」
っと、もう終わりなのね。録音を切ってっと…写真も何枚か良さげなのが撮れたし今回は無事仕事を終えられそうで満足満足…
「…で、そこのあなたは何をしてるんですか?」
っ!?バレてるっていうの、いやそんなはずは…隠密スキルもちゃんと掛かってるし装備も着て万全に整えたはずよ私
それなのにバレるはずが…そう、きっとかま掛けよ。そうに決まってる
「反応無しですか…じゃあ言い方を変えましょう。鎌使いのお嬢さん、さっさと出てきたらどうです?」
完全に私じゃない!?…くっ、こうなったら出ていくしかないわよね…念の為アルゴには連絡を入れて…よし
「…貴方、どんな索敵スキルのレベルいくつよ。使ってる武器まで当てるなんて。モルテ」
「はっはー、なまじ集中してレベルを上げたんでそこらの人よりは高いかと。というか私の名前をご存知なんですね…それで、いつからいたんです?」
「そんなの簡単に言うと思う?言って欲しいならお金でも払うのね」
「人には聞いといてその態度…貴女、つくづく傲慢ですね」
どうしよう…武器を取るべきなのかな。いや下手に刺激したらそれこそ大変だ、それに周りにもこいつの仲間がいるかもしれないし。なるべく穏便に逃げれる策を考えた方が良さそうね
「まさか、僕達の話を盗み聞きしておいてタダで逃げれると思ってないでしょうね」
「…さぁ、実際どうなの?」
「そんなの、こちらの正体を知りたい貴女の方が分かってるんじゃないですか?」
「そう、かもね」
やっぱり普通には逃げられそうもないか…それならさっさと腕か足を切り落として逃げるのが得策よね
向こうが少しでも動いたら仕掛けよう…今っ!!
キィィィィンッ!!!
「っと、危ない危ない。いきなり斬り掛かるなんて危ないですね」
「くどい!ふんっ!!」
「うがっ!」
一撃目は防がれたけど、そのあとの蹴りはヒット…まぁ体術スキルそこまで上げてないからダメージは低いけど
これで私も、イエロープレイヤーね…直そうと思えばカルマ減少クエストあるしいいけど
「足癖悪いですねぇ…女性がそんなんでいいんですか?」
「余計なお世話よ。で、撤退する気になった?」
「いえ全く!」
危なっ!!…っと避けられた。出来るならさっさと逃げたいんだけど、させる気がないのよね。めっちゃ攻撃してくるし
「ふっ!はっ!」
「はははっ!そんなんじゃっ!私には勝てませんよっと!」
「がっ!」
やばい…防ぎ損ねたっ!というかアルゴはまだ来ないの!!ってまずい!このままじゃっ!!…こうなったら…っ!!
「もらった!!」
「っはぁぁぁあああぁぁ!!」
「なっ…!!」
ギリギリで発動させたモアーでどうにか攻撃を弾いたけど…振り出しに戻っただけ。下手したらやられかねない…一体どうすれば
「ふふっ、いやーそれにしてもおかしな話ですよね」
「は?なんの話よ」
「だって貴女は私達のPK行為を止めたいんですよね?それに対して同じ武力で対抗するなんて、ナンセンスとしか言いようがないでしょう」
「それは…ッ」
言われてみれば確かにそういう考え方もあるかもしれない。だけどそこには決定的な差がある、私はそう思う…それは
「…悪意よ」
「ほう…と言うと?」
「私とあんたたちの決定的な差、それは悪意よ。あんた達は悪意を持ってプレイヤー達を攻撃してるけど…私は違うわ」
「なるほど…自らに善があると言わないあたりは評価しましょう。だけど、貴女は1つ勘違いをしてますね、鎌使いさん」
勘違い?まさか自分たちに善があるとかのたまうつもりじゃないでしょうね…そんなこと言えるとしたらそれこそ本当の詐欺師かただの大馬鹿者ね
「私たちは決して悪意を持って攻撃をしてる訳じゃありません、私が何故一般のプレイヤーを襲うのか…その理由はただ1つ、プレイヤー達に危機感を持たせて攻略をより先に進めるため…私はそう解釈してます」
「はぁ!?ふざけてるの!!」
「いえ少なくとも私は大まじめですよ。その点において私と貴女にはどちらにも善もなければ悪もない…非常に狭いグレーゾーンにいるわけですね」
「悪意がなかった人を殺してもいいって言うの…?」
「いえ私はそんなことは言ってませんよ、ただ結果としてそうなってるだけであって」
「このッ…!」
やっと分かった…私とこいつは倫理観がそもそも違うんだ。上手くは説明出来ないけどとにかく根本的なとこから考え方が食い違ってる
だからお互いに相手の言うことを理解出来ない…いや、そもそも聞く気がないのが正しいかもね。少なくとも私ならそうするし
でも、それでも私はこいつを止めなきゃならない…それなら
「それなら…あんたが意見を曲げるまで、私は戦うわ」
「ふふっ、そういう情熱嫌いじゃないですよ…じゃあそろそろ再開しましょうか…」
空気が一気に張り詰めた…落ち着いて、私は別にあいつを殺すわけじゃないただ負かせばいいんだ。徹底的に死なない程度に
狙うのはダメージ倍率の低い腹付近、あとは部位破壊狙いで両手両足…つまり頭以外。それなら『イザナミ』で一気に近付いてインファイトに持ち込もう…よし
「すぅ…はぁっ!!」
「ふふっ…なるほど」
距離も充分届く!防がれるのは分かってるからすぐ次の攻撃に移らないと
ザシュッッッ!!!
「え…?」
当たっ…た?
「ふふっ、これであなたもこちら側」
「ち、ちが…」
「何も違くありませんよ…ヘッドの見込みがハズレないといいんですが…」
「いッいや…ダメよ…死んじゃ」
そ、そうだ!ポーションを使えば!!
「くっ、使わせるわけないでしょ…」
「やめなさい…っ!死んじゃうのよ!」
「いいんですよ…あの方の計画の成就の、貴女への呪いの、ためならね」
パリィィィィン!
「あっ……うそ…」
死んだ…死んだ?私の、せいで
いや、違うあれはあいつが避けなかったから…いやそれでも私は、やった
私がやったんだ
わたしがころしたんだ
「あ…ぁぁ……いやあぁあぁぁぁぁあああ!!!!」
「…ゃん……ちゃん!ミーちゃん!」
「…ぁ、アル…ゴ…?」
「あぁ!そうだヨ!それより何があったんダ!」
なにが…あった……そうだ、私
「わたし…わたしは…」
「大丈夫、大丈夫だから!ミーちゃんがそんな事しないってのはオイラわかってるから、事故だったんダロ?」
事故…?いや、違う。あれは私のせい?そう私のせいだ…
「いや、わたしが…やったの…」
「えっ…」
「だからもう、放っておいて」
もう誰も傷付けたくない、もう、誰とも関わりたくない
「ダメだ!!」
「えっ…」
「絶対行かせないゾ!オレっちだってミーちゃんを…ミトを守りたい、力になりたいんだよ!!」
「アルゴ…」
その言葉…あともう少し早く来て言ってくれればどれだけ心強かったかな
でもね、そんな怯えた顔されたら…私はもうこうすることしか出来ないじゃない
「…ごめんなさい、でももう無理なの」
「あっ!ミーちゃん!!!」
もう嫌なの。誰かに期待されるのも、頼られるのも、信頼されるのも…これ以上誰かに心配をかけたくない
やっぱり私は1人の方がいい、誰かを不安にさせることに苦痛を覚えるならいっその事誰とも関わらない方がいい。最初から分かってたことだ
小学生の時も、ホルカンの森の件でも…結局私のせいなんだから…どこまでいっても私は独善的で、身勝手で、人の気持ちなんて考えずにひとりで走ってしまうような人間なんだ
「はぁ…はぁ……ここまで来ればもう、さすがに追ってこないはず」
それなのにいつも人の気持ちに甘えて、結局痛い目に合う。それならすることは決まってる
今度こそ徹底的に…
「フレンド…ユナ…」
フレンド欄の右上を押した
『全てのフレンドを解除しますか?』
「アルゴ…レーテ…」
あの日、メッセージを送るのを躊躇ったからあんな目にあったんだ。だから今回は躊躇わない、大丈夫たった1度ボタンを
「さようなら……アスナ」
これで今度こそお別れね
ピッ
『全てのフレンドを解除しました
現在のフレンド 0人』
「ははっ…これでいいのよ」
なにか付いてた重荷がすっと無くなるような感じがした。こうすれば誰も傷付けずに済む、こうすれば私も辛い思いをせず集中出来る…"みんな"に見捨てられたあの日のように
ただ、ひたすらに進んで、潰れてしまえばいいんだ
…さしあたってはとりあえず寝泊まりする場所を改めて探さないと。レッドになった以上街に行けばNPCの衛兵や他のプレイヤーに攻撃されかねないし
とりあえずは中層のはずれの方にある街に飛んでセーフエリア外の宿屋にでも泊まろう
その後のことは…起きてからでいいや。どうせ1人なんだし
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