ソードアート・オンライン 憂きし心のメヌエット 作:あらびきバナナ
今回出来悪いな…大目に見てくれ
暗い部屋、周りには誰もいない。私だけだ
…うん、どういうこと?私たしか安宿で寝たはずなんだけど。というかこんな場所知らない…
「とりあえず…待つしかなさそうね」
多分だけど同期ズレでも起きてるんでしょ、ベータの時も何回かあったし。その時は1回ログアウトしてから直してたけど、今は出来ないからね
あれ…?てことは下手したらもう戻れない可能性ない?待って、すごい心配になってきた
『PlayerID:00310 Playername:mito カウンセリングエリアにエントリー 最適化開始』
「っ!?誰!!」
何処かから声がするけど、周りには誰もいない…というか声も場所というよりかは頭の中で響いてる気がする
『最適化完了……ミト』
「え…?お母さん…?」
いやこの世界にあの人がいるはずは…
『いいえ、私は貴女の脳データから算出された最も癒される声と会話パターンを再現してるのよ』
「あ、そうだったのね」
何となく分かってはいたけど実際に言われるとちょっと変な気持ちになるわね
というかその声が母親ってのもなんかなぁ…むしろアスナの声の方が落ち着く気がする
「それで…ここはどこなの?私宿屋にいたはずなんだけど」
『ここはプレイヤーが一定のストレスを感じた際に呼ばれる仮想のカウンセリングエリアよ』
「へぇ」
そんなものまであるなんて。最初っからこのゲームはプレイヤーを監禁する前提で作られたみたい。いや多分そうなんだろうけど
ほんと…余計なお世話
「そのことなら心配しなくて結構…もう全部飲み込んだから」
『脳波分析…………完了。偽りの申告を確認、カウンセリングを続けるわね』
「えぇ…」
脳波を取られるってことは嘘はつけないじゃない…はぁ、面倒だけどちゃんとカウンセリングされるしかなさそうね
『カウンセリング続行…それで、何があったの?』
「そんなの、脳波見れば分かるんじゃないの?」
『いいえ。私が閲覧出来るのは感情の起伏やストレス状況、その発言が真か偽かです。だから話してごらん、ミト』
なんだろう、声はずっと母親なんだけどシステム的な説明文とカウンセリング用のセリフの差があって変な感じがする
つまり…話すしかないのよね
「…人を、殺してしまったの」
『そう、それで?』
「あれはその…事故だったのよ。私は別に殺すつもりはなくて…いやそれでも私が手を下したのは事実…私が悪いのよね」
『過去のアーカイブを分析……完了。それは違うわ、貴女の攻撃には明確な悪意はなかったし過去の行動からもそういう行為を意図的に行うとは思えないわ』
「それでも…私は、人を…殺してしまったのよ。それはどんな理由があっても許されることじゃないわ…」
『ストレス負荷が増大…目的を問題解決からストレスの緩和に移行』
確かに事故だったかもしれないけど、私がもっと早く攻撃をそらせていたら…あそこでソードスキルじゃなくて通常攻撃を使えば…そもそも、もっと前から逃げていればこんなことにはならなかった
「とにかく、誰がなんと言おうと私が悪いのよ…分かったらさっさとここから出してよ…っ」
『脳波分析……完了。まだ原因が残ってるわね、話してごらん?』
「微妙にムカつくのよ、その話し方…」
原因……まぁ多分あのことよね。どうせ話さないと終わらないだろうし…はぁ
「…フレンドを全部解除したのよ。人殺しになっちゃった私のせいでアスナとかレーテに迷惑がかからないように、ね」
『論理的には間違ってないわね…でもそれじゃあそのフレンド達は心配するんじゃないかしら』
「さぁ…どうなんだろう」
『過去の事例を検索……完了。かなりの高確率で悲しんでると思うわよ』
「そうなのね…でもまた縁を戻す気はないわよ」
『それはどうして?』
「…たとえ戻して今回のことを許して貰えたとしても、私はまた間違いを犯してしまうかもしれないから。その事で彼女たちを失望させたくない…そして何より、そんなことをしてしまう自分が許せないのよ…」
『処理中……理解不能。この感情はカウンセリングプログラムに含まれていません…エラー発生。システムを強制終了、プレイヤーを元いた座標にテレポート』
「えっちょ待!」
「って!話の途中…戻っちゃった」
エラーって…カウンセリングプログラムならもうちょっと頑張りなさいよ…まぁ終わったならなんでもいいけど。でも気持ちのうちを言葉にしたからか少しだけ楽になった気がする
というかあの空間はなんだったの?カウンセリングプログラム…ベータの時はそんなのがあったなんて掲示板でも見なかったけど
「あー…だるい」
昨日の夜、泣きながら寝たからかな。何となく水分も足りない気がするし、何より身体がダルい。なんかこういうこと前もあったわね…ほんと過去から何も学べないのね私は。ほんと馬鹿
とりあえずは今後のことを考えよう。最優先はカルマ値…レッドカーソルを元に戻さないと、確か10層にそのクエストがあったはずだからそこに行こう
まぁでもいつもの格好で行ったらすぐ居場所がアルゴとかにバレる可能性もある…どうしよう
「あ、そういえば…」
確かベータの時の仮面が取ってあったはず…あった。これを付けてれば多少は身バレする可能性は減るでしょ
本当は武器とか変えてより可能性を下げたいんだけど始まってから今まで鎌しか使ってこなかったからなぁ…全部の武器のスキル値が初期値なんだよね
まぁその辺は追々かな
短期的な目標は決まった…あとはそうね、その先のことだけど。やっぱり目立つのは避けたいから防具屋もしばらくは見送るしかないわね…そうなると
「…あれ?」
やりたいことがない…?
今までこのゲームにログインして9ヶ月、色々やってきたけど。その全部はアスナのためだったり誰かのためだったり…間接的に自分を満たすことはしてきたけど直接自分に利があることは…やってないかもしれないわね
やりたいこと…私が、したいこと
「何がしたいんだろう…私」
防具屋も、結局はどこかの誰かのためで私がやりたかったこととは違う。それこそ人を手に掛けてしまった今となっては本末転倒だし
アスナと一緒にこのゲームを楽しみたい…いや、これも今となってはもう無理な話ね。あの娘の近くに人殺しを置くなんて、たとえ私本人でもありえないわ
「…そうだ」
私は、ただゲームを楽しみたかっただけ。この世界に来たのもそもそもはそれが動機だった、なのに茅場のせいでそれもなくなり挙句の果てにはアスナとも疎遠に
ほんと、私の人生いつも空回りしてばっかりね…
いっそのこと何もしないってのも…いやいや、やりたいことを探すのにそれはない
…待てよ
「純粋に…ゲームをすればいいんじゃないの?」
そうよ、それよ!いくらデスゲームと言えどゲームなのには変わりないんだからそういう風に生きることだって出来るじゃない
現実で実際にMMOをやってたみたいに、ただひたすらにレベル上げとレアドロップを求めて戦えばいいのよ
誰かのためにとか何かを得るためにとか…そんなことを考えるためにゲームをしてきたわけじゃない。なによ、簡単なことだったじゃない
全部忘れてちゃえばいい、そうすればもう辛い思いなんてしなくて済むし
全部…忘れれば…いやそんなこと出来ない
アスナのことだって、ユナの歌だって…サチ達と過ごしたあの心地よい時間だって…あとレーテとのちょっと騒がしい時間だって
忘れられるわけないじゃない…っ!
でももう苦しいのは嫌…もう嫌なの
「どうしたら、いいのよ」
はぁ…考えてももう無駄かな。たぶん答えは出ないかもしれない。とりあえずカルマ解消クエに行こう、諸々のことはまた今度考えよう
仮面をつけて…いや視界悪いわね。よくベータの時にこれ付けてたわね私
「それじゃあ、行ってきます…」
あ、誰も居ないんだった
「これを納品すれば…っ」
クエスト終わり…っと
思ったより時間がかかった…まさかレアドロップアイテムを5個も納品しろとか言われるなんて。かぐや姫なの?あのNPCは
でもこれで私のカーソルも緑に戻ったことだし、これで少しは大手を振って街に出られるわね。まぁ目撃情報がアルゴのところに届いたら面倒だからやっぱりこっそり暮らすのは続けよう
「あら、貴女は」
「?…ッ!?貴女、どうしてここにいるの?」
鴉みたいな服、特徴的なマスク…間違いない。あの女の人だ
「私?私は…所用?ってやつね、友達から頼まれたものがあって」
「…そう、それじゃあ私はこれで」
「ねぇ、ちょっといいかしら」
「なによ…私もそんなに暇じゃないんだけど」
まぁ嘘だけど…ただこの人から一刻も早く離れたいだけなんだけど。あのことを思い出しちゃうから…
「あら、大丈夫?震えてるみたいだけど」
「…心配してるなら早く帰して貰える?」
「そう、なら一言だけ…」
あー近い近い。ここがセーフエリアでよかった、圏外だったら確実にやられてるとこだった…
「モルテのこと、忘れるんじゃないわよ」
「っ!?ちょっ、待っ……あれ」
またいなくなってる…なんなのよあの人は。余計なことまで思い出させて…あれ?
「はぁ、はぁ…なんか急に呼吸が荒く…く、苦しい」
まさか…PTSDってやつ?あーもうなんなのよ…
「はっ…はぁ……!ダメ、早く帰らないと…」
そ、そうだ結晶を…ダメだ、開かない!なんなのよ!
『お前が殺したんだろ!』
『罪を償え!』
『人殺し!!』
な、なんなのこの声…っ!周りに人はいないのにどうして声がこんなに聞こえるのよ!
ダメっ、ずっと苦しい…!
「ふぅ…はぁ、はぁ…もう無理…かひゅっ」
もう、だめ…意識が、もたない
「あ!ミトちゃんみっけ…って寝ちゃってる?とりあえず宿に運んじゃおーっと」
ゴールデンウィーク期間は金曜ともう1話おまけで書けたらいいね