ソードアート・オンライン 憂きし心のメヌエット 作:あらびきバナナ
夜遅くてごめんね
完全に失念してた
7月も流れるように過ぎていき気付けば8月。ゲームの中なのにあの夏特有の蒸し暑さと日差しの差し込みはこっちの世界でも猛威をふるってくる。もはやこのこだわりには関心すら覚えちゃうわね
「っと…出来たわね」
スペックは…それなりかな。割合ダメージ軽減はうま味だけど他がゴミスペックすぎる…ベース素材にして上げればそれなりに売れるかな
これでだいたい100個…このくらいあればお店開いてもある程度は余裕あるかな
1ヶ月ほぼ部屋にこもりっきりで作ったかいがあるってものよ…まぁその、たまにレーテが弾丸訪問してきて食事やら作ってくれたけど
それはまぁ…ありがたかったかな
というか流石に買い溜めしておいた消耗品が尽きたから買い物行かないとなぁ…面倒だけど、行くしかないか。そろそろお店の家も買いたいけど…一攫千金レベルの臨時収入がないとそれなりの家買えないし、どうしたものか
やっぱ野良で防具売ってぼちぼち稼ぐしかないか
さてと、準備も出来たし行こうかな
「いってきます」
やっぱりこう言って返事が返ってこないのは虚しいわね…まぁ現実ではいつもだったけど、こっちに来てからはそれなりに誰かといたからやっぱりね
はぁ…誰かに会いたい
いやいや何を考えてるんだ私は。自分で関係を絶った癖に何を弱音を…ほんと過去の自分のマヌケ具合に呆れるわ
アスナ、ユナ、アルゴ、レーテ…ん?誰かを忘れてるような
「あ」
「え?…あ」
「ああぁぁぁぁああ!!!やっと見つけた!!!」
そうだ、リズだ。すっかり忘れてた
「やっと会えた!この1ヶ月私がどれだけ心配したか分かる!?」
「えーっと…ごめんなさい」
「ん!許す!現にこうして会えた訳だしね〜」
「そう…ありがとう」
ごめんなさいリズ。私が謝ったのはフレンド解除のこともそうだけど、今の今まで貴女がフレンドだったことも忘れていたことなのよ
本当にごめんなさい…謝って許してもらえなさそうだけど
「というか何かあったの?急にフレンド解除されたからビックリしたんだけど」
「…やっぱり聞かれるわよね、それ」
「そりゃ聞くでしょうよ、で?実際どうしたのよ」
話したい、私だって話したい。だけどそれを言ってしまったらきっと貴女は…きっと貴女が私から離れてしまう
…いや実際のところは分からない、リズがどう考えるかなんて。いや私がただ単純に人を…友達を完全に信用出来ないせいなのかもしれない
「あー…やっぱ聞かないでおくわ」
「えっ、いいの?」
「うーんまぁ色々聞きたい気持ちはあるけど、ミトのその顔見たら…無理に聞くのも酷いかなぁって」
「…優しいわね」
「ふふっ、でしょ?」
…うん、この娘になら話してもいいかもしれない。この娘ならきっとなにか今の私に変化を与えてくれるかもしれない。なんとなくだけどそんな気がする
「…ううん、やっぱり話す。話させて」
「そう?まぁミトがそういうなら私は聞いてあげる」
「かなり長くなるけど、大丈夫?」
「大丈夫、この後予定もないし」
「そう…じゃあ話すわね」
それから10数分、私は淡々とあの日何があったのかをリズに話した。アスナとの事やアルゴとのことも…流石にPK集団のことを赤裸々には話せないからある程度話は濁しつつだけど…
その間彼女は何も言わずただ私の目を見て相槌を打つだけ、聞き上手っていうのは彼女みたいなことを言うのかもね
「それで…私はその相手事故とはいえ、手にかけてしまったの。そのあとは知っての通り、全員のフレンドを解除して1人になろうとしたけど…失敗して今は細々と防具屋を営んでる」
「…そっか」
次に彼女はどんな言葉を紡ぐのか、時間の進みは一定のはずなのにそこから先の言葉が聞こえるまでは時間がものすごくゆっくり進んでいるように感じた
「とりあえずその…辛かったでしょ。お疲れさま」
「っ…えぇ、そうね」
「だと思う、多分私が思ってるよりずっと。話してくれてありがとう」
あぁ…よかった。引かれなかった、怖がられなかった…離れなくてよかった
「で、そのあとアルゴとそのアスナって娘には会ったの?」
「…まだ。アルゴは事件の直後に私自身が突き放しちゃったわけだし、アスナにはそもそもなんて言えばいいか分からないし」
「うーん…やっぱり会ってみるしかないんじゃない?」
「え…」
「だって今の状態で悩んでたところでずっと同じ考えが巡るだけでしょ?なら思い切って会ってみるのもありでしょ」
レーテとは真逆のアドバイス、だけどそれもまた私にはなかった考えだ。逃げるでも立ち止まるでもなく、立ち向かう。いつも活発で物怖じしないリズらしい考えだ
ただやっぱりその1歩が。誰かに会いに行くという選択がこれ程重く、辛く感じるのは初めてだ…
「…確かに一理あるわね。ありがとうリズ、こんな私の話をちゃんと聞いてくれて」
「いいわよ。それにちょっと嬉しかった」
「嬉しかった?どういうこと?」
「だってミトが私とかから離れようとした理由って、多分だけど変な噂とかが広まらないようにするためだったんでしょ?そこまで私やアルゴのことをミトが考えてくれてるって知れてことが」
そんなことは考えてなかったと思う。ただ自分がみんなに心配されたくなかったから、期待されることも頼られることも信頼されることにも…どうしようもなく疲れたから
だったはずだけど…リズのその言葉はすっと胸に落ちてきた。多分そういうことも考えてたのかもしれないけど…本当のことは分からない
だって私自身、自分がどうしたいのかが分からないんだから
「それにミトって私から見れば何を考えてるか分からないところが多かったからさ」
「そうなの?」
「うん、さっきみたいによっぽどの事がないと表情も硬いしたまにずっと黙って考え事をしてることもあったりで…っていう私の勝手な考えなんだけどね」
「あー…」
確かに言われてみればなんとなく私自身、そういう面があるとは思う。特にこっちに来てから…というかホルカンの森の件以降かな、考えることは増えたし笑ったりすることは減ったかもしれない
それ以降に会ったリズからすればなおさらか
「…っと!湿っぽい話もこの辺にして買い物行かない?私鍛治道具とか買いに行く途中だったんだけど」
「そうなのね、私もちょうど道具が切れたから行こうと思ってたの…それじゃあ一緒に行く?」
「もちろん!早速行くぞー!」
ほんと、この元気はどこから来るんだか
「ちょっと!そこは『おー!』って言うとこでしょ!」
「えっ言わなきゃダメ?恥ずかしいんだけど」
「ダメよ!さっきまでの空気を変えるためなんだから!もっかい言うわよ…早速行くぞー!」
「お、おー…」
…ごめん、やっぱり恥ずかしい。もう二度とやらない
夕方、リズとの買い物を済ませて宿に戻ってきた
なんというか久しぶりに何も考えずに過ごせた気がする。本当にただただあの時間を楽しめた…ほんと
「ずっと、こんな日が続けばいいのに」
何も起きず、ただ同じような日常が続くようなそんな世界…もしここがそんな世界だったなら、一生ここにいたかったけどね
現実は死と隣り合わせの地獄…結局のところ自分で足掻き続けるしかない。今日という日を生きるために、また数時間後の虚構の光を見るために。まさに井の中の蛙ね
「はぁ…」
ため息だって結局は行動処理として吐いてるわけで、酸素や二酸化炭素が生じてるわけじゃない。全然違うのに、ほとんど同じ
現実と仮想の違い…そんなものは多分ない。なら私が…人を殺したという事実もまた変わりない
どこまでいっても、どれだけ罪滅ぼしをしようとしても、これだけ忘れようとしても。その事実は永遠に付きまとう、このことは受け入れる他ない
なら私がやるべきことはやっぱり、誰かの助けになるような何かをやるほかない。くしくも最初考えていたことに戻ってきたのはなんというか遠回りした感もあるけど
となると直近で出来るのはやっぱり防具屋かな。いっその事下層の安めの物件を買ってそこで店をやるのもありかな…
その時にはきっと気持ちの整理もついて…アスナやアルゴにも会えてたらいいな。まぁそんな都合のいいこと起きるわけないだろうけどね、そのためにもまずはもっと防具とかアクセサリーを作らないとね、数を作っておくに越したことはないし
ピコンピコン
メッセ?一体誰から…あ、レーテか
『ねぇねぇミトちゃん!次の週末空いてる?やりたいクエストがあるんだけどふたり以上いないと出来ないから手伝って欲しいんだけど、予定空いてる?』
クエストか…そういえば最近行ってなかったし、もしもの時に身体がなまっちゃってたら大変だし。たまにはあの子の誘いに乗るのもありかな
適当に返信して…っと
さてと、今度こそ宿に戻ろう。買い物とかでそれなりに時間使っちゃったし1個でも多く装備を作らないと
ギュッ
ん?誰かに捕まった?
「やっと、見つけたゾ…ミーちゃん」
「えっ……アルゴなの?」