ソードアート・オンライン 憂きし心のメヌエット 作:あらびきバナナ
「これでいいかな…?」
アスナとよりを戻してはや3週間、最近は色々と迷惑をかけた人たちに埋め合わせをしたりアスナの誘いでボス戦に参加したりレーテと狩りに出かけたりアルゴの仕事を手伝ったりとせわしない日々を過ごしていた
それらの色々な要素が重なって今日、ついに自分の防具屋を建てることが出来た。いや正確には…
「うんっ!いい感じ!」
リズの武器屋との合同店舗なんだけどね
「いやー、それにしてもまさかミトから共同出店を提案されるとは思わなかったわー」
「それ、どういう意味よ?」
「んー、ミトって良くも悪くもなんでもひとりで済ませちゃうように見えるからさ」
「…否定できない」
まぁ昔からそうだったしちょっと前もそれでみんなに迷惑をかけはしたけど…
「ま、頼ってくれたのは素直に嬉しかったかな…なんちゃって!ささっ、雑談は後にして早く中の準備も進めよ、ミトの親友も来るんでしょ?」
「まったく…そうね、初日だし張り切ってやらないとね」
いきなり店を開いても誰も来ないだろうからアルゴやアスナに頼んで店の宣伝はしてもらってるし、人が来ないってことはないはず…え?ないよね?なんか不安になってきた
ま、私は別にそれでもいいけどね。私の知ってる人達の力に少しでもなれるなら私はそれでいい…まぁと言ってもリズの方は
「あー神さま仏さまー、あんなに高いお金アルゴに払って宣伝してもらったんだからめちゃくちゃお客さんが来てがっぽり稼がせてよー」
見ての通り稼ぐ気満々なんだけどね、まぁ私もその…儲けられるならお金は欲しいけど…それでもさすがにリズみたいに自信は持てないわね
「あれ?…ねぇミト、誰か来てない?」
「え?」
「ミートーちゃーん!!!!」
「きゃっ!?」
声と行動、倒れる直前に見えたオレンジ色の髪の毛から察するに
「…レーテ、危ないでしょ」
「アハハ、ごめんごめんっ」
「え、どういう状況」
あっそういえばリズとレーテはあったこと無かったけ?
「リズ、この娘はレーテ。見ての通りやかましい娘だけど仲良くしてあげてね」
「やかましいんじゃなくて元気なんだよ!あ、よろしくねリズちゃん」
「えぇよろしく…それはそうとレーテ、そろそろミトの上からどいてあげたら?」
「ホントよ、重いんだけど」
そういうとレーテは笑いながら覆いかぶさっていた身体を起こしてミトに手を伸ばす、ミトはそれを鬱陶しそうに見ながらも手を掴み身体を起こした
「まったく…それでなんの用?」
「お店開くんでしょ?手伝おうと思って!」
「手伝うって…もう準備することなんてほとんど」
「まぁまぁミトもそう言わずにせっかくだし品出し手伝って貰いましょ!さ、行くわよレーテ!」
「了解だよリズちゃん!」
さっき会ったばかりなのにすでに意気投合している2人、そんな姿を見て2人の根本的な性格が似ていることに気付きたミトは2人を巡り合わせてしまったことに少しばかり後悔しつつも
「…まぁ、退屈するよりはマシかな」
そんなことを思いながら店の中に入った2人の後について行くことにした
中ではすでにリズがレーテに店のレイアウトについて話していた。あるでお菓子を目の前に出された子供のように話を聞きいるレーテの純粋さにちょっとした可愛さを覚えつつミトも自分の準備を進めることにした
メニューウィンドウを開いてまずは防具やアクセサリーを置くための棚やディスプレイを具現化して思うがまま起きたい場所に設置していく
棚には防具を置きディスプレイにはその形にあったアクセサリーを置いていく、そのひとつひとつがミトの手作りであり時間をかけた傑作だ
もちろんそれは誰かの助けになるために作ったものだし、売るために生み出したものだが…やはりその過程で製作者としての愛着も湧いたのもまた事実
「…売れるといいな」
「売れるよきっと」
「わっ!?」
ふと呟いた言葉に突然返ってきた返事に驚くミト、その声の主はもちろん彼女であった
「レーテ、急に何よ?」
「ミトちゃんが不安そうにしてたから、来ちゃった」
「…ほんと貴女は」
いつもの無自覚かつ不意な発言はそんなミトの小さな悩みをいとも簡単に吹き飛ばした。それがレーテのいいところでもあり、彼女を人たらしとしている原因のひとつだ
「……でもまぁ、貴女がいてくれて良かった」
「えっ!?急になに!?」
「なんでもないわよ…ほら、準備手伝ってくれるんでしょ」
「あっ待ってよミトちゃん!」
ふふっ、慌ててる慌ててる。たまにはこうやって仕返しするのも悪くないかもね
そんなこんなで準備も終わり店も開店、人の入りはぼちぼちだけど思ったよりは来てくれてる。やっぱりアルゴに宣伝してもらったのが効いたのかな
中層ぐらいのプレイヤーから攻略に協力するような上澄みのプレイヤーまで色んな人が来てくれてる。まぁそこまでは想定通りなんだけど
「ありがとうございましたー、またのお越しをお待ちしてまーす!」
想定外のことはなんかレーテが接客までしてる事ね。そこまで手伝ってと言った覚えはないんだけどね
「…ほんと元気よね。貴女」
「えっそう?」
「えぇ…もっとも私が人より感情の起伏がイマイチってのもあるからそう思うだけかもしれないけど」
ミト自身、周りの人間に比べて感情を表に出さないことは自覚してるしそれに関して特に憂いも覚えたことも無い。ただ近頃アスナやレーテ、リズと接することでその考えも変わりつつあった
もしかしたら自分も感情をもっと表に出すべきなのかと
「そう?私からしたらむしろミトちゃんって結構分かりやすいけど」
「えっそうなの?」
「うん、私だけかもだけど。結構顔に出てるよ」
「そ、そうなのね…」
さっき自分で言ったことを思い出して少しばかり恥ずかしくなってきた、なにが感情の起伏がイマイチよ…ほんと何言っちゃってるのよ私
「ほら今もさっきのこと思い出して恥ずかしがってる」
「もういいから…何も言わないで…」
「はーい」
レーテはそういうとリズの店を手伝いに行った、ミトはと言うと恥ずかしさのあまり店のカウンターに突っ伏してしまってる。幸いミトの店には今現在客が来てないこともありメンタルを回復するために充分に時間は取れそうだ
はぁ…まさかレーテに図星を突かれる日が来るとは。というか私ってそんなに表情に出てる訳?レーテがそういうのに敏感なだけじゃないの?え待って普通に恥ずかしいんだけど
「おーいミトー」
え何?つまり5層でアスナとデュエルしてた時とか、レーテに助けられたあの日とか、アルゴと改めてフレンドになった時とか、全部あの時思ってた感情が顔に出てたってこと?
何それ恥ずかしすぎる…はぁ、引きこもってゲームしたい。あっここゲームの中だった
「ねぇ!ミトってば!!」
「うわぁ!!ってアスナ!?」
「そうだよ!ずっと声掛けてたんだけど!」
「ごっごめん、ちょっと考え事を…」
「もうっ気を付けてよね…」
「えぇそうするわ…」
まさか考え事に夢中でアスナの声に気付かないなんて、兎沢深澄一生の不覚。次からはもっと気を張るようにしないと
「そういえば今日はギルドいいの?昼間だけど」
「うん、今日はたまたま休息日で自由行動だったら」
「そうなのね、じゃあゆっくり見ていって。どれも私の自信作だからね」
「もちろん!」
普段の攻略活動の時とは違い年相応の笑顔を見せながらミトの作った防具…その中でもアクセサリーをまじまじと見つめるアスナ。そしてそんなアスナを見て喜びが溢れ出るミト。その表情は先程レーテに言われた通りとても分かりやすく笑顔を浮かべていた
たまにアスナから投げかけられる質問に当たり障りのない程度に答えたり、気に入ったものを片っ端から買い占めようとするアスナをやや嬉しそうにやめさせようとするミト
その姿はおおよそデスゲームに囚われたプレイヤーなどではなく、年相応の少女としての2人であった
そんなことを続けることしばらく、アスナが別の話題を振った
「そういえばさ、ミトの店ってオーダーメイド受け付けてる?」
「オーダーメイドね…今はやってないけどそのうちはやろうと思ってるわよ。もっともそんなにお客さんが来るかは分からないけど」
「ふふっきっと来るよ…それでさ血盟騎士団って見てのおとり防具の色統一なんだよ。今のはNPCのところで染色してもらったんだけど、そのうちオーダーメイドで作りたいと思ってるんだ。その時はお願い出来る?」
「もちろん、じゃあその辺の準備が整ったら連絡するわね」
「うんお願いする」
ミトが最初に防具を作るようになった理由のひとつである、間接的にでも誰かの命を守りたい。ある種その果の一つであるオーダーメイドの防具、それを自分にとって1番の友達であるアスナから頼まれた
店を開いたことで少しばかり緩んでいた気持ちに再び引き締め防具制作に身を入れることを決意したミト
今の防具制作スキルの熟練度は750くらい、アルゴの情報じゃ完全に自由に素材を選んで制作をするには850で開放される『自由制作』のスキルが必要になる…頑張らなきゃなぁ、アスナの為。そしてそれから先に救えるかもしれない誰かのためにも
「そうだアスナ、武器のメンテは大丈夫?もしあれなら向こうのリズがやってくれるわよ、腕もいいし」
「あーそういえば…せっかくだしお願いしようかな。じゃあ私そのまま帰るから、また連絡するね」
「えぇ、また」
リズの店の方へと向かうアスナの後ろ姿に色々な思いを馳せながら、次のお客さんが来た時のためにまた新しい商品をストレージの中から取り出し始めるミト
その表情は先程もまでとは違うが、しかし間違いなくなにかを喜んでいるような、そんなほほえみを浮かべていた
「リズっちー、ミーちゃん調子はどうダー?おっレーちゃんもいたのか」
夕方頃、客入りも一区切りついて3人が暇を持て余していたところに救世主…という訳でもなく普通にアルゴが様子を見にやってきた
「まぁ初日ってこともあってそれなりに潤ったわよ、リズの方は…見ての通りね」
「ハハッ、リズっちが嬉しそうで何よりダナ」
ミトは普段の路上商店の時からおよそ1.2倍の売上なのに対してリズはその時の倍以上の売り上げになった。そのあまりの売上にお金を具現化してずっと眺めるくらいには喜んでる
「そういえばレーちゃんは何しに来てたんダ?」
「もちろんっ!ミトちゃんの助けになるために!」
「だそうよ、別に頼んでないんだけど」
「頼まれなくてもやるよ、ミトちゃんの為だからね!」
「はいはい…」
レーテの"そういう発言"は通常運転、ミトからすればなんてことも無い日常会話と同じ。何も知らない人が聞いたらなにか勘違いを起こしそうだがあいにくここにいる人達全員彼女のせいで感覚が麻痺してるので誰もツッコまない
「まぁ繁盛してるならオイラも情報を売ったかいもあるってもんダナ」
「そうね、こんないい土地の情報。まぁ値段に見合ってたんじゃない?」
「ニャッハッハー、そう言って貰えるなら情報屋冥利に尽きるってもんダ」
アルゴにはこの店を作る時に沢山お世話になった、私から見てそう思うくらいだし今日の繁盛だってアルゴが宣伝してくれたおかげでもあるわけで
そうね…たまにはちゃんと言葉にして伝えるべきよね
「アルゴ」
「ン?なんだミーちゃん?」
「ありがとう」
「っ!…ひひっ、なんか改めて言われると照れるナァ」
「え?私そんなに言ったこと無かったっけ?」
「そーいう訳じゃなくて…まぁいいカ、どういたしまして、ミーちゃん」
何故か顔を赤くしていたアルゴはその勢いで店を後に、レーテもやることがあると言って帰って行った。リズもお金の整理やら道具の買い出しなどで店から離れている
よって今店にはミト1人になっている
「…静かね」
思えば最近は常に誰かと行動してたからこうしてひとりでいるのは久しぶり…いやほんなこともないのかな、製作の時間とかは結構一人でやってたし…
そうね、こうして意識してみると1人だとやっぱり思考時間が多くなるわね。いやまぁ一人で喋るのもそれはそれでやばいんだけど…
とりあえず目標のひとつであった店も合同出店とはいえ持つこともは出来た。これからは防具制作に注力したいけどやっぱり素材とか資金を手に入れるためには戦闘もしないと生計が立てられない
…そういえばアスナから攻略に参加しないかって誘われてたっけ。ちょっと考えてみてもいいかも、最前線ならお金も沢山手に入るし素材もそれなりのものが落ちるはず
あとは……あの女のことよね。何を企んでるかは知らないけどあの台詞からしてなにか仕掛けてくるに違いない、暫くはどこに行くにも注意しなきゃ…
ミトが一人で唐突に店の扉が開いた
「いらっしゃ…ってユナじゃない」
「やっほーミトさん、噂を聞いて来ちゃった!ってもしかしてもう閉めちゃうところだった」
「まぁ時間的にもそろそろとは思ってたけど…せっかくだし見ていく?」
「いいの!?やったね!」
「えぇ、今日最後のお客さんだしね」
ミトがそういうとユナは思うままにお店の商品を眺め始める。もっとも彼女自体、戦闘がメインでないこともあってその辺にお金をかけることもないから見るものひとつひとつが新鮮に見えるのだろう
そんな中ユナがアクセサリーを見ながら口を開く
「そういえばミトさんに相談なんだけどさ」
「ん?どうかしたの?」
「私さ、攻略に参加してみようかなって思ってさ」
「えっ」
予想外の言葉に呆気にとられているミト、しかしそれには見向きもせずユナはさらに畳み掛ける
「私の持ってるスキルの《吟唱》にバフ効果があるのはミトさんも知ってると思うけど、今は街や安全エリアで使ってみんなを助けてるけど、そのスキルをその場で発動出来たら今よりもっと多くの人のためになるんじゃないかなぁって」
「まぁそれはそうだけど…でも確か《吟唱》って」
「うん、分かってる」
スキル《吟唱》、このアインクラッド世界でも持ってるプレイヤーが少ないことで知られるレアスキル。ユナの説明の通りプレイヤーに対して様々なバフを付与できる素晴らしいものなのは間違いでは無い
しかしこのスキルには致命的な欠点がある。それはスキル発動中、つまり歌ってる間は敵からのヘイトが集まりやすいというもの。使用上スキルを使っている本人は移動や攻撃が出来ないのでフィールドでは使うこと自体がリスク
パーティーに使用者がいる場合はそのプレイヤーを見るために戦闘のリソースをさくしかなくそこに労をようするなら《吟唱》を使用せず全員で戦闘した方が効率が良いことからレアスキルでありながら実質ネタスキルとなっている
「…それでどうしてそれを私に」
「んー…なんでだろ?ミトさんがそう思わせてくれたから、かな?」
「え?私?」
「うん、色んなことでこのゲームの攻略に貢献しようとしてるミトさんを見てたら私もなにかしたいって思って」
「そんな、私は別に…」
ミトとしては常にメンタルが壊れてたり目標を見失ったりと不甲斐ないところしか見せてなかったつもりだがユナはそうは思っていなかったようだ
「他の人はなんて言うか分からないけど、私からしたらミトさんは誰よりもかっこいいヒーローなんだよ」
「ちょっ、いや…まさかそこまで言われるとは、結構恥ずかしい」
というかヒーローなによ、私に似合って無さすぎるでしょその称号。私はほら…ダメだなんか良さげな言葉が思いつかない。とにかくヒーローはない、それは間違いない
「だからさ、私が前線に出れるようになにかアドバイスとかあったら聞きたいなって」
「そっそう……そうね、まずはレベルよね。ある程度打たれ強くなるために前線の安全マージン+5くらいは最低でも欲しいわね…あと防具もHPにバフが入るやつをつける事ね。もちろん周りの協力も必要だけど一人で出来ることはそのくらいね」
「大丈夫!ノーくんが守ってくれるから!」
「あ、そうなのね…」
ノーくん…確かノーチラスだったわよね、血盟騎士団の。いやでも《吟唱》のスキルは未だに謎が多い上にフィールド上での使用例が少ないからヘイト集めがどれほどのものなのかも分からない…
それに何より…私自身…ユナが心配だし…
「…あともうひとつ」
「あっまだあるのね」
「もしフィールドや攻略に行く時は私に一声かけて、私も貴女を守るから」
「えっいいの!?」
「えぇその…私も心配だから」
「あっ…そうなのね」
突如訪れる百合百合しい空気、2人とも数分ほど互いを見つめあった後ミトが咳払いをしてその場の空気を元に戻す
「んんっ…とにかくまずはレベル上げね。下の層でもいいから最低でもマージン+5までは上げてからね、その時にはもっといい防具も出来てるだろうならまた店に来て、それで多少はリスクを減らせるから」
「りょーかい!私頑張るね!じゃあまたそのうちに!」
「えぇまたね」
そそくさと店を後にするユナを見届けながら再びミトは思考の海へと落ちる
ヒーロー…ね。別に嫌なわけじゃいけど、やっぱり私には似合わない肩書きな気がする。すぐ心は折れるし仲間を信用出来ないし…なによりそこまで強くない
ヒーローっていうのは…それこそ
それなら私はなんのだろう…私は何者なんだろう。何になれるのだろう…いや何になるかは私が決めることよね
いや私は何になりたいんだろう…どうなりたいんだろう……私は
「…また明日奈とゲームがしたい」
この世界じゃない、安全で笑ってできるようなゲームをまた明日奈とやりたい。あの娘の笑顔を隣で見ていたいそんな普通のありふれた生活を送りたい…結局私の思うことは常に明日奈に関係してるわね
よし決めた
「私は明日奈の笑顔を守れる、そんな存在になりたい」
言葉にしてようやく腑に落ちた、ヒーローと言うにはあまりにも独善的だし私欲だらけ。ダークヒーローにしては善性がすぎる。そんな中途半端さが完璧じゃない私にはそれくらいがちょうどいい。そんな気がした
アスナが今日見せてくれたような笑顔をいつまでも見れるように、もっと強くなってもっとすごい防具やアクセを作れるようになりたい
そのために私はこれからも戦い続けるだろう
…そのためにもまずは防具製作スキルの熟練度を上げないとね
一応これで第2章は終わりになる…はず
明日はちょっとした短編あげるからよろしくどうぞ