ソードアート・オンライン 憂きし心のメヌエット 作:あらびきバナナ
「確かこっちの方から聞こえてたような」
「アスナ、ストップ」
叫び声がした方へやってきた。先に行こうとするアスナを静止して角からここから先の空間を覗いてみる
そこには大量のコボルド、そして横倒しにされている空いた宝箱。間違いない、モンスターがポップするタイプのトラップに引っかかったのかな
まだ叫び声が聞こえる…私達なら助けに行けるかもしれないけど、私達まで死ぬ可能性だって…一体どうすれば
「助けにいかなきゃ!!」
「待ってアスナ」
「えっ、なんで?助けないと…」
「助けに行ったとしても私達まで共倒れになるのが関の山よ」
「そう…だよね…」
私だって助けに行けるなら助けに行きたい…どう考えてもあまりにも不利だし…それに敵数も多すぎる
そして何より今の私にアスナを守りながら彼らを助けられる余裕なんてない
「…ほら、行くわよアスナ」
「うん、分かった」
見て見ぬふり、外野から見れば最悪ともとれる行動だけど当事者からすればもっともデメリットの少ない方法のひとつ
助けに行ったとして私達まで巻き込まれて死ぬ可能性の方が高いし、気を引くための陽動を起こしても似たようなもの。軽装のアスナはともかく間違いなく私は追いつかれて…
「っ…」
死ぬことになる。そんなリスクを背負ってまで彼らを助ける意味ははっきりいって、ない
というかそもそも彼らを助けるメリット自体が皆無に等しい、知り合いでもないし。確かに感謝されたりはするかもしれないけど現状そんな精神的な報酬のために行動できるほどこの世界は甘くない
そんなところで今はこの行動を正当化するしかない
「ミト…よかったのかな」
「…良い悪い、じゃないわ。今の私たちには助けられなかった。それだけの事よ」
「でも…」
「帰るわよ」
「えっ、ちょっと待ってよミト…」
ごめんなさいアスナ、分かって欲しいなんて言わないけどこれも貴方を危険から守るためなの
私だって今の行いが倫理に反してるのは分かってる、でもだからといって私や貴方を危険に晒してまで助けるにはあまりにもリスクが大きすぎるの
そう考えつつ、未だ洞窟から聞こえる悲鳴を聞かないようにして私たちはその場を後にした
2022年11月17日、20時12分
宿に帰ってきてからしばらく、アスナは買い出しに行っている
部屋に1人、頭によぎるのは先程の惨劇。いつか自分もああなるのではという恐怖、助けるべきだったのかと訪れる後悔…考えれば考えるほど頭の中に募る後悔と恐怖。それを振り払うように1度顔を洗う
顔を滴る水の感覚、現実と何一つ変わらない。いやもしかしたら違うのかもしれないけどもうここに閉じ込められて2週間、徐々にそういう風に思い込んでしまってるのだろう
呼吸の感覚、木に触れる感覚、布団に寝転ぶ感覚、食べ物から感じる味覚、攻撃された時にやってくる不快感、全てデータ的に送られてくる電波でしかないのに現実のように感じてしまう
でもこれが今の私達の現実であり、事実だ。実際攻撃された際には痛みを感じないはずなのに最近は少しばかり痛いと思うようになってきた
それも1種の脳の錯覚なのかな
「ただいまー」
「あ、おかえりアスナ。ちゃんと買ってきた?」
「うん、ちょっと待ってねー…って、うわぁ!?」
「ちょっ!?」
何故かアスナがアイテムを取り出そうとしたら大量のシーツ?が沢山でてきた
「…なにこれ?」
「えへっ、可愛いでしょ?あ、ちゃんとポーションも買ったよ」
可愛いのは貴方よ…というかこれ何枚あるの?確かに最近寒いけどこんなに買うくらいなら普通に布団買った方が安かったんじゃ…
「まったく」
シーツを放ってアスナの方へ、見事頭に乗っかり顔が隠れた
「…不安になっちゃって」
「…ダンジョンでのこと?」
「うん…やっぱり助けた方が良かったのかなって」
「そうね…そうかもしれないわね」
倫理的、人道的に考えれば間違いなくそうだ。現状ゲームオーバーになったら死ぬということを否定出来ない以上あそこでトラップに掛かった人達は死んだことになる
つまり私たちは人が死ぬのを見て見ぬふりをしたんだ
でも…
「敵の数、こっちのレベル、私達の人数、助けた際のメリットデメリット…総合して考えるとどう考えても割に合わなかったのも事実。前も言ったけどこの世界は弱肉強食、彼らも死を覚悟してたはず…」
「でも…」
「そりゃ私も後悔してるわよ…助けるべきだったのは分かってる……でも後悔してたって彼らが戻ってくる訳じゃない、だから彼らの最期を知ってる私達は前に進まなきゃ、ね?」
「…ミトはすごいね、私はそんなに割り切れない」
「私も完全に割り切れてるわけじゃない…そう思うと決めただけよ」
「そっか…なら、私もそう思うことにする」
「えぇ」
今は後悔なんてしてる場合じゃない、少しでも前に進まないといつまで経っても現実に帰れないんだから
「そうだ、明日はどうするの?またレベル上げ」
「そうね…」
レベル的にもそろそろ次の街に迎えるかな…そうなるとホルカンの森を経由して…あそこは確かリトルネペントが出たはず。行くならアスナに余裕がある時に行くべきね
「アスナは?まだ余裕ある?」
「うん、大丈夫だよ」
「それなら次の街に向かいましょ」
「了解でありますっ」
もうこの娘は…ってそれならそろそろ寝た方がいいわね
「それじゃあそろそろ寝ましょう」
「あ、ちょっと待って」
えっ、なに?
「ちょ、髪型なら設定で変えられるから」
「手でやってこそでしょこういうのは。せっかくだし私とお揃いにしよ」
「いやそういう髪型はアスナみたいに可愛い子がするから似合うのであって」
「いいからいいから〜」
結局、抵抗虚しく私の髪型はアスナとお揃いになった。いや別に嫌なわけじゃない…ただ似合ってない気がしてならない
アスナは似合うって言ってくれたけど…
まぁほどくのもなんだからこのままにしておくけど…
「ねぇミト、現実に戻ったら何したい?」
「え?なに急に?」
「いいから、何したい?」
「そうね…」
現実でしたい事ね…確かに考えたこともなかった。何がしたいかな…ゲーム…とは流石にしばらく距離を置くとしてそうなると…なんだろう
まぁ無難にあれかな
「…旅行、かな」
「旅行?どこに?」
「何処とかは決まってないけど…ゆっくり温泉に入れるところがいいわね」
「いいね、それ」
「アスナは?聞いたからには何かあるんでしょ」
「私は…自分の本当にしたいことを探すところからかな」
「したい事?」
「うん、今まではお母さんに言われたことばっかりしてきたけど。これからは自分のやりたいことをしたいなって」
「そっか、じゃあ早く現実に帰らないとね」
「そうだね」
なんて無駄話をしているうちに気付けば眠ってしまっていた
未来になんて希望は持てないと思ってたけど、アスナの笑顔を見れる明日があるならもう少し頑張れる気がする
これから先何が起こるか分からないけどこれだけは間違いなく言える
何があっても私がアスナを守るから