この度、婚約破棄された悪役令息の妻になりました   作:柴野いずみ

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11:ガイダー辺境伯令嬢の帰宅

「そこで何をしている」

 

「うわっ」

 

 掃除を終えようとしていると、突然、誰かに声をかけられた。

 ノーマが慌てて振り返ればそこには彼女の戸籍上の夫……ハンス・ガイダーが立っており、こちらを不審げな目で見つめていた。

 

 ノーマは今、寝間着にガウンを羽織っただけの姿で箒掃除をしていた。

 彼から見ればかなり妙に思えるに違いない。ノーマはなんと説明しようかとしばらく考えてから言った。

 

「あの。このお屋敷で住まわせていただく以上、何もしないわけにはいかないと思ってですね」

 

「――」

 

「不快でしたか?」

 

 不安になって問いかけるが、ハンスからの答えはなかった。

 彼は無言で踵を返し、どこかへ歩いて行ってしまう。胸を撫で下ろしつつもノーマは、(一体何だったのでしょう……)と首を傾げたのだった。

 

 その隣で、はぁ、とヘラがため息を漏らしていた。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 早速、ガイダー家の新妻がメイドの真似事をしていたという話は広まった。

 朝食の席でガイダー卿には「面白い娘だな」と言われ、夫人には「気を使わなくていいのよ」と心配されたが、別にノーマはこんなことくらい苦でもなんでもなかったので、大丈夫ですと笑っておいた。

 

 ただ一人ノーマに微妙な視線を投げかけていたのはハンスだったが、彼のことは気にしないことにした。

 

「ノーマ様、いけませんよ。ご主人様と奥様はあんな風におっしゃってはおりましたが、あんな仕事はノーマ様のするべき仕事ではありません」

 

「いいじゃないですか、ヘラ。迷惑ならやめますけど」

 

「……。お掃除の腕はなかなかでしたし迷惑ではございませんが」

 

「なら、またやらせていただきますね」

 

 そんなことを言いながら、何か他にもやることはないかと屋敷の中を歩き回っている時のことだった。

 またもや背後から突然話しかけられたのは。

 

「ヤッホー! あなたがお兄ちゃんの言ってたお嫁さん?」

 

 聞き覚えのない声にギョッとして声のした方を見れば、そこには見知らぬ女性の姿が。

 黒髪に赤い瞳をした大柄な女性だ。肌は浅黒く、親しみやすそうな満面の笑みを浮かべている。

 

(高級そうなドレスを着ているのでおそらく使用人ではないだろうとは思いますけど……この人は一体?)

 

 ノーマはわけがわからずしばらく呆けてしまった。

 

 しかしノーマの隣にいたヘラは彼女と知り合いのようで、慌てて頭を下げていた。

 

「ネリーお嬢様、おかえりなさいませ! お戻りになったことに気づけず、誠に申し訳ございません」

 

「いいよいいよ、そんなに固いのは。裏口から入って来たんだし誰にも気づかれなくて当然なんだからさ。そんなことより、あたしが今興味あるのはその子のことだよ」

 

 女性が指差すのは他ならないノーマである。

 ノーマは戸惑いながら、口を開いた。

 

「私はノーマ・プレン……じゃなかった、この度ハンス・ガイダー様の妻となりました、ノーマ・ガイダーでございます。……失礼なのですが、あなた様のお名前は?」

 

「ノーマちゃん、初めまして。あたしはハンスの妹のネリー・ガイダーっていいます。つまりあたしはノーマちゃんの義妹ってことだよね。ふふ。よろしくね!」

 

 女性――ネリー・ガイダーと名乗る彼女は、どうやらノーマの義妹にあたる人物らしい。

 しかし背が高いせいかどう見ても歳上にしか見えない。しかも、言っては悪いが貴族令嬢らしい清楚さが、あまり内容に見受けられた。

 

(……でも付き合いやすいかも知れませんね)

 

 元々ノーマは子爵令嬢。あまり堅苦しいのには慣れていないので、こういった人物も悪くないと思った。まあ、出会って早々ぐいぐい来られるのには少し驚いたが。

 

「そっかぁ。ノーマちゃん、お兄ちゃんのお嫁さんなんだね〜。あたしさ、正直なところ、ギャデッテ殿下のこと嫌いだったんだ。だからノーマちゃんみたいな可愛らしいお姉さんが来てくれて嬉しいなぁ」

 

「そ、そうですか……。それはそれは」

 

 ハンスの妹というのだから年齢的には下なのであろうが、大柄なのもあるし身分は彼女の方が上だしでどうやって接するべきか迷う。だが、先ほどの彼女の言動から、そこまで気は張らないでいいだろうと判断した。

 

「ネリー様、これからお世話になります。よろしくお願いしますね」

 

「うん! あ、そうそう、あたしのことはネリーって呼び捨てでいいから。ね?」

 

「は、はい!」

 

 彼女の勢いに気圧されつつ頷くノーマ。

 しかしノーマは、兄と違って随分友好的なネリーに対し、かなり好感を持ち始めているのだった。

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