この度、婚約破棄された悪役令息の妻になりました   作:柴野いずみ

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24:悪役令息の声は、誰にも届かない

「ハンス・ガイダー。貴方を今ここで再び断罪するわ!」

 

 その言葉に、ノーマの背筋は凍りついた。

 思い出すのはあの卒業パーティーの時。あの時は「ふーん」くらいにしか思わなかったものだが、当時と今とでは状況がまるで違う。

 今はノーマは仮でもハンスの夫なのだ。前と違って無関係だからと野次馬に混ざるわけにはいかない。

 直接的被害が自分にも及ぶかも知れないのだから。

 

 国王が何か言いたげにしていたが王妃がそれを止めているようだ。

 どうやらこの断罪は事前に国王には知らされていなかったらしい。おそらく王妃とギャデッテ王女が共謀したに違いなかった。もはやこの断罪をやめさせられる者はいない。

 

(どうしたら……)

 

 戸惑うばかりで何も言えないでいるノーマと反対に、ハンスは至って冷静に――実際はそう見えるだけなのかも知れないが――口を開いた。

 

「ギャデッテ第二王女殿下、恐れながら発言させていただきます。王立学園への不正入学の件に関しては、ただいま調査中のはずです。それに私は神に誓って無罪なのですが。……こんな公の場で私を再び断罪しようなどと、一体どういうつもりなのです」

 

「あら。偉そうな口を聞くのね、ハンス・ガイダー。

 学園への不正入学は貴方の言う通り調査とやらがなされているようだからワタクシの知ったことではないけど、貴方はさらに罪を重ねたようね! 言い逃れはできないわよ。

 ワタクシに捨てられたことが悔しいあまりに、ワタクシとフランツを殺めようだなんて。そこまで馬鹿だとは思わなかったわ!」

 

 ビシッと指を突きつけながら、ギャデッテ王女がとんでもないことを言い放つ。

 その途端に舞踏会の参加者たちが大きくどよめいた。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「証拠はあるのですか。以前といい今回といい、ありもしないでっち上げでこれ以上私を貶めようというならこちらも相応の手段に出ざるを得ません」

 

「はぁ? 何を言ってるの、ハンス・ガイダー。ワタクシは実際に貴方が雇った暗殺者から三度も殺されかけているのよ! 父上が内密にだの何だの言ったから今まで公表されていなかっただけでこれは歴とした事実なの。暗殺者どもは皆貴方の名前を挙げているし、貴方にはきちんとした動機があるわ。

 醜い嫉妬でこの高貴なるワタクシを殺めようとした罪――万死に値するわね」

 

 鋭い薄紅色の瞳でこちらを睨みつけるギャデッテ王女。

 彼女の視線に込められた威圧感は凄まじく、彼女が正しいことを言っているのではないかと思えてしまう。

 だがノーマは同時に知っていた。ハンスは娶ったばかりの妻に「愛することはない」と告げるような非常識かつ冷たい人であるが、なんだかんだネリーから慕われているあたり、悪い人ではないのだろう――と。

 

 だからギャデッテ王女の言葉が本当だとは思えなかった。

 ハンスが暗殺者を送り、王女たちを殺そうとしたなどという物騒なことをしていたなど。

 

「誤解です。暗殺者どもはガイダー家を敵視する家に遣わされた道具なのかも知れないでしょう。証言だけではガイダー家の犯行とは特定できないはずです」

 

「何を馬鹿なことを言っているの。貴方が『悪役令息』の言葉なんて誰も信じないわよ。ねぇ?」

 

 反論するハンスを鼻で笑ったギャデッテ王女は、参加者たちをぐるりと見回しながら言った。

 先ほどチラリと聞いた『悪役令息』という単語がここでまた飛び出して来た。一体どういうことだろう、と首を傾げると、いつの間に駆け寄って来ていたのか隣にいたネリーが教えてくれる。

 

「悪役令息ってのは最近流行している小説に出てくるキャラのことで、ヒロインの恋路を邪魔する男のことだよ。……お兄ちゃんをそんな風に罵るなんて、許せない」

 

 歯軋りし、とても悔しげにしているのに彼女が声を上げないのは王家とでは分が悪いからだろう。

 権力だけで白いものも黒いものに変えてしまう。そんなのはよくある話だが、この時ばかりは許せないと思った。

 

 周囲から非難の目に晒されているハンス。

 そんな哀れな姿は、悪役などではないただの力の弱い青年にしか見えない。

 

(何が『悪役令息』ですか。ハンス様はそんな人じゃないのに)

 

 だからノーマは声を張り上げたのだ。

 

「私の夫は、悪役令息じゃありません!」

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