イカやタコなどの進化した海洋生物が古くから暮らす土地「バンカラ地方」。
その中心地「バンカラ街」は最近急速に発展が進み、さまざまな時代の建造物がひしめき合う独自の文化が形成されている。
そんな街の奥には、とある怪しげなお店があった。
その名もクマサン商会。
若者たちに、「サーモンラン」というバイトをあっせんしている場所だ。
そのお仕事内容は、仲間と協⼒してシャケを倒し、指定された数の「⾦イクラ」を納品するというもの。
大抵のイカタコたちは、このバイトを一定の段階で切り上げてナワバリバトルやバンカラマッチへと向かうのだが……稀に、ひたすらにサーモンランでシャケを狩り続ける酔狂な者がいる。
これは、そんな酔狂なイカの日常のお話である。
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「リーダー! テッキュウの波がやばいんですけど倒せませんか!?」
「残り20秒だぞ、納品優先だ。私はコンテナ周りのオオモノを処理する。波はジャンプかイカロールで避けたまえ」
「リーダーの鬼畜っ!」
シャケたちが生息する汚染された隔離エリア、アラマキ砦にて。
サーモンランの最終Wave終盤で、限界ギリギリなタコボーイの悲鳴と、冷静なイカガールの指示が飛び交った。
なんやかんやで、件のタコボーイと仲間たちは中々にやるもので、テッキュウの波を避けながら点在する金イクラをなんとか納品していく。
その一方で、リーダーと呼ばれたイカガールは波を避けながらもスプラシューターを構え、コウモリの弾を打ち落とし、バクダンの弱点を爆破し、モグラの口にボムを放り込んでいた。
正に獅子奮迅の働きぶりである。
それから、コンテナ近くで倒したモグラの金イクラを納品したことで、ようやくノルマが達成されたようだ。
クリアのファンファーレが鳴り響き、シャケたちが帰っていく中。
すっかり油断したタコボーイは、まだ残っていたテッキュウの波によってやられてしまい、浮き輪状態となる。
無論、リーダーことイカガールは回避済みだ。
「……」
「まぁ、クリア後だから問題はないが、痛いのが嫌なら次は最後まで油断しない方がいいな。多分聞こえてないと思うが」
呆れた顔をしながら、イカガールは浮き輪にそう話しかけた。
その後、一行はクマサンの手配したヘリに乗り、バンカラ街に帰還することとなる。
そのヘリの中で、浮き輪状態から復活したタコボーイはイカガールと会話を始めた。
「リーダーとバイトすると一気にクマサンポイントが貯まるのはいいんですけど、相変わらずノルマがすごい事になりますよね」
「私の評価は高いからね。ご不満かな?」
「まさか、引率してもらってる身で不満なんてありませんよ。それはそうとして、一つ頼み事があるんですが」
「なんだ、またギアパワーのかけらでも足りなくなったのか?」
イカガールは疑わしげな視線をタコボーイに向けるが、彼はすぐに首を振った。
どうやら推測は外れらしい。
「最近仲良くしてるタコの後輩がいるんですけど、バイトの評価がたつじんから上がらなくて悩んでるみたいなんです。なので、よければリーダーの方からご指導を頂けないかなと」
「それなりに腕があっても、バイトのセオリーを知らないと最初に詰まる評価帯だな。引き受けてもいいが、報酬の用意はあるのか?」
「もちろんです。例の写真集を用意しています」
「まさか……初回限定盤のCDにしか付属していないというあれか?」
イカガールの言葉に、タコボーイは重々しく頷いた。
「契約成立だな。引き受けよう」
「頼みましたよ、ホウズキさん」
「肝心な時だけ名前で呼ぶんじゃない、チヒロ君」
かくして、イカガール改めホウズキは、とある後輩ダコの指導を行うことになる。
また、後日タコボーイもといチヒロから、マンタローの激レア写真集を受け取るホウズキの姿がクマサン商会のロビーで目撃される事になるのだが……その話は、またの機会にするとしよう。
・ホウズキ
バイトでは皆からリーダーと呼ばれているイカガール。ヘアスタイルは前髪ぱっつん。前髪で隠れているが額に大きな傷跡があり、手足にも小さな傷の跡が無数に残っている。その容姿とぶっきらぼうな性格から、初対面のイカタコには怖がられることが多いが、バイトで助けてくれるので大抵の場合はすぐに打ち解けられる。マンタローの隠れファンである。
・チヒロ
普段はナワバリバトルやバンカラマッチに励み、定期的にバイトも行う一般的なタコボーイ。ヘアスタイルはセンター分け。社交的で面倒見のいい性格をしている。持ち前のコミュニケーション能力によって、ホウズキがマンタローのファンである事を知り得た。以来、今回のようなささやかな取り引きを時々行っている。