メタルギア・リコリス:ワイルドスネーク   作:あんみつ炙りカルビ

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嫌いなものはイクラです

「ワイ、今日から新たなリコリスがここに来る。面倒を見てやってくれ」

 

「先生は私に死ねとおっしゃるんですか?」

 

 開店早々の発言に、私の目は死んだ。

 先生はそんな私を見て、眉間を揉む。

 

「しかしだな、仮にもワイ。お前は部隊を率いていたんだ。だからこそ、教えられることがあるんじゃないか?」

 

「ひ、率いていた部隊はセカンドのクーデターで裏切られましたが?」

 

「………話を変えよう。ワイ、お前の技術を叩き込んであげなさい。近接格闘、追跡スキルならお前は千束より優れているのだから」

 

「コミュ力だけが致命的だけどね〜」

 

「ひ、昼間から酒飲んでる人の女子力も致命的ですよね」

 

「クリスマスイヴに南無阿弥陀仏唱えながら、私は仏教徒………って呻いているやつに言われたくないわ!」

 

 煽りに煽り返して、返されたのは頬を引っ張るというささやかな犯行。実際、ミズキさんがモテないのはその辺りにあるんじゃないかと思ってる。

 

 酒飲みはいいし、料理もできる。美人でスタイル抜群なのに、ダメなのはおそらくその姉御肌な性格から来ているのだろう。面倒見が良い女性はなるべくして、ダメな男が引っかかりやすい。

 

 かと言って、できる男だとフィーリングが合わないのだろう。モテるには難儀な性格をしているものだ。

 とまあ、色々挙げては見たがぼっちな私よりかは遥かにマシなのは違いない………あれ、なんか涙が。

 

「失礼します」

 

 ほっぺたが引きちぎられそうになる中で、来店を知らせるドアベルが鳴る。扉を開けて入って来たのはリコリスのセカンドを表す青の制服。墨を流したような艶やかな黒髪に、整えられた顔立ちは和服が似合いそうな美少女だ。

 

「あんた、誰?」

 

「本日から配属になりました。井上たきなです。貴方から学べと言われています。千束さん」

 

「あ、あのね? これは千束お姉ちゃんじゃないよ? ただの飲兵衛だよ?」

 

「誰が飲兵衛じゃ、変態ぼっち!」

 

「でしたら………貴方が千束さんですか?」

 

「違う違う、それはあんたと同じDAをクビになった変態よ」

 

「クビじゃないです。転属は不本意でしたが。でしたら、貴方が楠木司令が言っていた、歴代最凶のリコリスですね」

 

 あまりにも不本意が過ぎる渾名。リコリス達が陰口として使っていたのをさも当然に言わないでほしい。ティッシュ並みの紙装甲マインドは伊達じゃないのだ。

 

「へへ、よろしくねえ。それにしてもたきなちゃんいい匂いがする〜シャンプーとか何使ってるの?」

 

「教えることに意味はありますか?」

 

「あるよ。例えば………今、貴方が私を格下認定したって匂いを誤魔化すためとか」

 

 彼女の匂いが更に濃くなることから、緊張や焦り、動揺からくるもの。汗の量から私を敵で見た場合、かなり下のランクに設定したのは間違いないでしょう。

 

「私はそんなこと、何も………!」

 

「初対面の私に対して、舐めていたことは否定しないんですね。悪癖だけは聞いて。本職に関しては何も聞いてませんでしたか? 千束お姉ちゃんの経歴だけを抑えて来たんでしょう。バレバレです」

 

「それは………その………」

 

「性癖だけで人を判断しては、正義の仮面で悪をなす犯罪者たちを逃しますよ、セカンド」

 

 言葉に詰まる彼女の匂いがまた変わる。とはいえ今度は肩身が狭そうな態度とその匂いから反省していることは見て取れるので、追及はなし。根がいい子なのは態度と匂いから分かるので。

 

「ワイ、やめなさい。たきな、よく来た。ここの責任者のミカだ。こちらは元DA情報部のミズキ。金髪の子が、元DA追跡部隊の隊長ワイルドだ」

 

「よろしくお願いします」

 

 皆と握手を交わしていれば、騒がしい声とドアが開く音。

 

「先生、大変!食べモグでこの店ホールスタッフが可愛いって!これ私のことだよね?」

 

「アタシのことだよ!」

 

「……冗談は顔だけにしろよ酔っ払い。百歩譲ってワイだわ」

 

 いや、食べモグの評価は『ホールスタッフが可愛い』だからミズキさんも含めてだと思うよ? むしろ、私の方がないよ。お姉ちゃん。

 そんな私の気持ちをつゆ知らず、お姉ちゃんは見慣れない顔が目に留まったのか、動きが止まる。

 

「お、もしかして」

 

「例のリコリスだ、話したろ千束」

 

「「え!?」」

 

 千束お姉ちゃんと恐らく噂の新問題児のリコリスの声が重なる。

 なんだかんだで調べてはいたのだ。何せ、ここに飛ばされるなんて、経歴が普通じゃない存在ばかりだから。

 

 井上たきな。射撃成績はトップクラスの問題児。DA時代から噂には聞いていたが、先日、千束お姉ちゃんが乗り込んだ銃取引現場にて人質に取られたリコリスごと機関銃をぶっ放したというバイオレンスな助け方をした事で、左遷されたという話。

 

 だけど、それだけならば左遷はされないはずだ。

 何せ………部下全員皆殺しにした私でさえ、降格で済んだのだから。

 

「今日からお互い相棒だ、仲良くしなさい」

 

「この人が……?」

 

「この子がぁ!」

 

 あ、千束お姉ちゃん満面の笑みだ。

 これはテンションが更に高くなるやつだ、二次被害を受ける前に厨房に避難しよ。

 

「よろしく相棒!千束でぇす!」

 

「井ノ上たきなです。宜しくお願いしま――」

 

「たきな!はじめましてよね?」

 

「は、はい、去年京都から転属したばかりなので――」

 

「おお、転属組。優秀なのね!歳は?」

 

「十六です」

 

「ワイと同じって事は、私が一つお姉さんか。でも“さん”は要らないからね! 千束でOK!」

 

「はあ」

 

 ほら、新人もかなり圧されているよ。お姉ちゃん。とはいえ、機銃掃射した子だと聞いていたのでもっと「ヒャッハー!!」みたいな鎌倉武士が来ると思っていたのは間違いないのでお姉ちゃんが嬉しくなるのも分かる。

 

 とはいえ、お姉ちゃん私が帰って来た時より嬉しそうなのが複雑。

 

「おやおや〜ワイ、どうしたのかな〜? お姉ちゃん取られてさみしいんでちゅか〜?」

 

「こ、この間、ミズキが粉かけてた男性。わ、私に連絡先を渡して来ましたけど、要ります?」

 

「いらんわ! 死ね! ワイ、リコリコやめろ! チクショオ!」

 

 差し出した連絡先をぺいっとされ、完全に拗ねられたミズキは置いておけば何故か千束お姉ちゃんも肩を怒らせ、電話をかけ出した。

 

「ど、どうしたのかな?」

 

「それが………このキズがフキさんに殴られたものだと言えば」

 

「何も殴らなくったっていいでしょうに!!」

 

「あんなことに」

 

 千束お姉ちゃんが憤るのもわかるけど、調べた限りでは7割はたきな、3割は上層部が悪い。フキさんと信頼関係を築いていれば、きっと庇ってもらえたはずなのに、それを怠った点。

 

 機関銃という跳弾を考えれば使うのは論外、たきなの射撃成績はトップなことも考えれば、自分の銃による制圧を目指すべきだった。

 だが状況的には不可能、そもそも何故か上層部は待機を命令。千束お姉ちゃんを動かしていたとはいえ、上層部が動かなかったのはおかしい。

 

 ああ、見えて楠木司令はリコリス達にはそれなりの優しさと慈悲を見せる。人質に取られたのがセカンドなら相応の対応がある筈だ。

 それをせずにたきなに全てを押し付けたのは、上層部だけで隠しきれない何かがあったのか。その点が3割。

 

 恐らくはハッキングによる、ラジアータの不調。最近日本に凄腕のハッカーが来日したという情報は本当だったらしい。

 

「た、たきなさん? 良かったら食べる?」

 

 確証はないが、たきなさんはスケープゴートに仕立てられた事でここに来たのだろう。代わりになるとはいえないが、歓迎代わりに冷蔵庫に入れておいたバニラアイスで即興のパフェを提供する。

 

「いいんですか?」

 

 黙って頷けば、スプーン片手に黙々と食べ出す。匂いが甘いものへ変わり、目がキラキラとし出した。やはり甘いもの、甘いものは全てを解決する。

 

「うっせぇアホ!」

 

 店長のコーヒーでたきなが一息つく間に、昔馴染みと話はついたようで。怒りを隠しきれないお姉ちゃんの前にミルクをたっぷり入れたカフェオレを差し出せば、だいぶ怒りは和らいだようだ。

 

 やはり、甘いもの(以下略

 

「よし! たきな! 仕事に行こう! 千束さんがお仕事紹介してやるぞ〜!!」

 

「あの、ワイルドさんは………?」

 

「いいの、いいの! どうせシフトの都合で夕方しか空かないから〜あ、ワイも終わったら合流ね〜どうせ帰ってもバイク弄りしかしないでしょう?」

 

「き、拒否権は?」

 

「あるわけないじゃん。馬鹿なの? それじゃあ、お仕事頑張ってね〜」

 

 賑やかに準備しに行くお姉ちゃん。今日こそは念入りにバイクを磨こうとしたのに、という目を先生に向けたが諦観の目でコーヒーを淹れて貰った。ちょっと泣きたくなった。

 

 

 

 

 

 

「せ、1000丁の銃取引ですか………」

 

『そうだ。この規模の取引は非常に稀だ。日本では類を見ない、ワイ。お前の方でこれを追え』

 

「い、いや。左遷しといて何を言ってるんです?? 面の皮暑過ぎないですか?」

 

 2人が出て行った後、先生にかかってきた一通の電話。話しぶりからして楠木司令だと考えて、関係ないかと手を動かしていれば、先生から手招きされて、上記の伝言。

 

『出来ないのか? それだけがお前の取り柄だろう』

 

「あっ、すいません。で、でも、DAにいた頃なら、やってましたよ………リコリコではやれる事なんて限られています………というか尻拭いを何故私がやるんです?」

 

『たきなはもうリコリコの管轄だからだ』

 

「は、ハッキングされて、ラジアータが落とされた誤魔化しで寄越したくせに?」

 

『………もう、調べたのか』

 

 僅かな間から、それが真実だと訴えていたがどうでもいい。大事なのはDAの情報規制をするあのラジアータを落とした凄腕のハッカーがいる。それが1番知りたかった真実だ。

 

「あっ、でしたら………取引をしましょう」

 

『取引だと?』

 

「は、ハッカーの身元は抑えてる筈です。追跡部隊も情報部も馬鹿じゃない筈ですから。代わりにそのハッカーを捕まえる事が出来たら、私に身柄を管理させてください」

 

『………何を企んでいる?』

 

「あっ、そ、そんな事言うならもういいです。わ、私の部下を使って追いかけてください。いつになるかは、し、知りませんが」

 

 凄腕のハッカー、その存在が今の私には何より必要だ。スニーキングミッションがもし万が一バレた場合を考えれば、身内のミズキを使うわけにはいかない。

 

 それなら犯罪歴があるハッカーに協力を依頼し、失敗すれば適当なところで切り捨てればいい。ラジアータをハックしたんだ、たきなも庇う事はないだろう。千束お姉ちゃんが難関だが。

 

『………いいだろう。ただし、まずは結果を出してからだ』

 

 電話を切られたが、最低限の条件は引き出せた。となれば今すぐにでも動かなくては──

 

『ボク、プウさんだよ♪』

 

 突然聞こえてきた蜂蜜大好きな某熊さんの声。

 

『電話が来てるよ♪早く電話に出ないと…』

 

 発生源は私のポケット、作業を切り上げて手を入れてケータイを取り出した。着ボイスは尚も続き、

 

『早く電話に出ないと……テメエのドタマ蜂蜜の壺に突っ込んでぶち割るぞドラア!!!!!』

 

「待て、何その着ボイス」

 

「はいもしもし」

 

「無視かよ」

 

 ミズキのツッコミを無視して、電話に出れば聞こえてきたのは千束お姉ちゃんの声で、

 

『あ、もしもし、ワイ〜今からこっち来れる?』

 

「あ、後、2時間はシフトだよ?」

 

『それがさ〜依頼者がストーカー被害に遭ってるっぽくて。こういうのはワイ向きでしょう? だから今すぐに来て話聞いてくれないかなって』

 

「い、いやでも、シフトあるし、やりたいことが………」

 

『──お姉ちゃんの言う事が聞けないの?』

 

「行きます」

 

「奴隷か、アンタは」

 

 ワンオクターブ落ちた千束お姉ちゃんの声に突き動かされるように、黒の和服からサードリコリスのベージュの制服に着替えて、バイクの鍵を取る。

 

 晴れて16歳になったので、運転免許を取りたいが戸籍がない以上、それも難しい。けれどバイクには乗りたい、私のジレンマ。

 そんな馬鹿な事を考えて、入り口から出て行こうとすれば、ミズキが私を見ている。そんなに見られても何も減らないが。

 

「な、何か?」

 

「いや、アンタさ………本当に制服が似合わないわねー」

 

 瞬間、店内の空気が変わったのを肌で感じとる。思わず、常連さん達を見れば一斉に目を逸らし、焦りの匂いが強くなって行く。

 確かに、制服で店に来る度に新規からは興奮した匂いを覚えてはいたが、いやいやいや………こんな足長おばさんに対して、それは。

 

「どう見ても、イメクラNO.1女優。良くてもAV企画物で大人気の女優よね」

 

「そ、そんな事ないですよ! 制服着てる方が、露出は少ないですし!」

 

「お黙り、Fカップ!!露出はなくても普段のつなぎやらライダースーツの方がよっぽど似合ってるのをそろそろ自覚しろ!」

 

「ひ、人の胸のサイズ豪語しないでください!!」

 

「ワイ、早く行きなさい。店内の空気が居た堪れなくなる」

 

 先生の加害者を見るような目に私は泣いた。

 こんな時はバイクを飛ばして風になるに限る。

 

 千束お姉ちゃんと合流するまでに3回、『幾ら?』と聞かれて2回ホテルに連れ込まれそうになった。今日は厄日かもしれない。




嫌いな理由:制服でいる度に『いくら?』と聞かれるから
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