メタルギア・リコリス:ワイルドスネーク   作:あんみつ炙りカルビ

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そろそろ自分の性壁が隠せなくなって来ている。


好きなのはバイクと煙草とソロキャンプです

「………なんで、ワイルドさんは泣いてるんですか?」

 

「………ここに来るまでにおじさんに路地裏やホテルに連れ込まれそうになったんだって」

 

「き、今日は厄日かもしれないので、帰っていいですか?」

 

 無言でにっこりと千束お姉ちゃんは笑う。

 これは帰宅を許されていませんね、帰りたいのにぃ。

 

「えっと………大丈夫? 日取りを改めようか?」

 

「あ、ご心配なく〜この子、普段からこんなんなので」

 

「そ、そう? じゃあ、相談するけど………」

 

 沙保里さんが見せて来たのは私のような非リア充が見ては目を潰されるような彼氏といちゃついた写真。朝日のインスタ映えが素晴らしい店らしいが、情報が全く入ってこない。

 

「どう、ワイ。この写真見て何か分かる?」

 

「爆発すれば良いのにと思います」

 

「違う。そうじゃない」

 

「………わ、私、銃取引の味方をしたくなりましたよ。う、迂闊な行動して危ない目に遭うカップルなんてホラー映画じゃ、て、鉄板じゃないですか」

 

「いや、そうだけど………うん? 待って、何で銃取引」

 

 千束お姉ちゃんの疑問の声に応えるように、たきなさんが写真の背後を拡大。映し出されたのは、大量の銃と交渉する人間たち。まごう事なき、銃取引の現場である。

 

「取引の現場写ってるんじゃん!」

 

「ふ、へへ、ざまあ………いたいっ!」

 

「ですが、これではっきりしました。銃取引は3時間前には既に終わっていたんです」

 

「その証拠を相手が見て………うわぁ、沙保里さん。メチャやばな人に狙われてるよ!!」

 

 ネット社会はこれだから………至るところに監視カメラがあるのだから、無闇矢鱈に幸せオーラをばら撒くものではないと思い知っただろう。すなわち、インスタに投稿するような画像がないぼっちが最強という事だ。

 

 ごめんなさい、ウソつきました。

 私を甘やかしてくれるハードボイルドなイケメン彼氏が欲しいです。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、暫く任せるからね。2人とも。ワイ、たきなをよろしく。たきな、命大事にだからね」

 

「こ、この場合は『非殺傷』って事だよ、たきなさん」

 

「わかりました。千束さん。早めに合流を」

 

 テンション高く、リコリコ喫茶店にお泊り道具を取りに帰ったお姉ちゃんを置いといて、私はバイクを近くの駐輪場に置いておく。

 また、迎えに来るからね。マイベイビー。

 

「テンション高い子ね、不安が吹き飛んじゃった」

 

「私は不安ですよ。千束さんも、ワイルドさんも」

 

 うん、不安なのは分かるよ。何で私がやらなきゃいけないんでしょうね。尾行されてるのはさっきからチラチラとショーウィンドウやカーブミラーに映ってるから分かってるくせに………

 

「え、えと………ちょっと提案があるんですけど、いいです?」

 

「何ですか、ワイルドさん。悠長にしてる暇はないんですけど」

 

 ううっ、たきなさんの目が痛い。まるっきり信用されてない………そうだよね。たきなさんはセカンドだもんね。私はサードだもんね。仕方ないよね。地位が違うもん。

 

「ふ、二手に別れましょう。ストーカーを挟撃するんです………少なくとも犯人の顔が分かれば、警察も動いてくれますから」

 

「でしたら、私が沙保里さんを守ります。ワイルドさんが挟撃をお願いしますね」

 

 え。むしろ、銃に優れてるたきなさんに挟撃をお願いしたかったんだけど………ほ、ほら。私は近接格闘に優れてるから、たきなさんよりは沙保里さんの近くにいた方が………

 

「何を、ボソボソ言ってるんですか? 言いたいことがあったらはっきりどうです?」

 

「いや、その………わ、私が………」

 

「何か?」

 

「私が………やりますぅ」

 

 たきなさんの圧に負けた。仕方ないよね、セカンドの方が上だし、私以上に優秀なんだから、きっと選択に間違いはない筈だし………ないよね? 千束お姉ちゃん。きっとわかっててやってるよね。

 

 

 

 

 

 

 わざと道を外れて、車がたきなさん達を追ったのを見て追いかける。尾行に関して最も重要なのは自然体である事。

 スパイ映画のようにわざわざ電柱や新聞紙を使う必要はない。相手の呼吸、行動パターンに合わせて、こちらも自然体であればいい。

 

 ながらスマホとかが割と効率的だ。携帯のカメラを起動させて歩けば車を追いつつ、対象からはながらスマホをしている女子高生にしか見えない。

 

 いざとなれば番号の写真も撮れるし、割といい事づくめだ。知らない善意の第三者にながらスマホはいけない!と説教さえされなければだが。

 

 とはいえ、今のところは順調だ。車は見る限り、5人乗り。沙保里さんを誘拐するつもりなら乗っているのは4人だ。これなら銃を抜かなくても千束お姉ちゃんと合流次第、制圧できる。

 

 建物の影に入り、ベージュの制服の上から、ダウンジャケットを羽織る。ここから更に距離を詰めるならば、服装は変えたほうがいいとの判断だからだ。

 

 僅かな時間で着替えて、尾行を再開。少し時間を置いたからか、距離は離れているが何も問題はない。沙保里さんは健在だし、たきなさんが近くに──

 

「………あれ?」

 

 たきなさんの匂いが薄い。というか沙保里さんの隣に彼女の姿が見当たらない。まさか………逃げた? いや、そんな弱腰ならセカンドにはなれてない筈だし、他に考えるとしたら

 

「い、いやいやまさか………ねえ。任務の大前提を覆すような行為をリコリスのセカンドが………」

 

 そこまで言って自分で気づいた。彼女は越権行為でリコリコに来た人物だと、だとしたらまさかとは思うが………沙保里さんを囮にしたんじゃあ。

 

「きゃあ!」

 

「おらっ! 大人しくしろ!」

 

 本当にしてるじゃないですか、あの子! 

 幾らスマホの画像データが目的とはいえ、データを消したら今度は沙保里さんの番でしょう!?

 

 自分の腕に自信があっても、不足の事態は幾らでも起きるものだと知らないんですか?? もう!!

 

 バックミラーに映らないように滑り込むようにして、トランク側に背中をつける。スタンロッドを取り出し、バッテリー確認。問題なし………危なっ! 流れ弾掠ったんだけど!?

 

 いやいや、撃ちすぎ、撃ちすぎ!

 たきなさん!? 手柄稼いで戻りたいのはわかるけど、焦りすぎだって!! 中に沙保里さんいるよ!? 忘れてない!?

 

 暫く頭を下げて黙っていれば、射撃が止む。同時に匂いが変化。相手が動く。右側の扉が開いて、こちらに回り込もうとして来た男が私を見て──

 

 

 

 

 

 

「ちょいちょい! 何してんの!? ワイは!? まさか撒いたの!?」

 

「ワイルドさんには挟撃を指示しました。何かぶつぶつ言っていましたが、指示通りに動いてくれていたので挟撃していたところです」

 

「ワイの言うこと聞かなかったの!? こういうときはワイの意見を参考にしなきゃ!」

 

「サードの意見を聞く必要はありません」

 

 たきなからすれば合理的な作戦だった。千束が邪魔をしなければ既に終わっていたのは間違いないくらいに。

 それを聞いて千束は無言で頭を抱えた。ここまで暴走列車だとは思わなかったし、ワイが押し負けて指示に従うとは思わなかったからだ。

 

「じゃあ、ファーストの私の言うことは聞けるね? たきな。7時の方角のドローンを撃ち落として。それ以降は手を出さない事」

 

「っ!? それはつまり………」

 

「見ておきなさいって事だよ、動くよ」

 

 どういう、とたきなが言葉を紡ぐ前にスパークの光が車の右側で発生。それを確認した千束は左側に銃を構えて、接近し、窓越しに

 

「やあ、取引したいんだっけ?」

 

「うわあっ!?」

 

 突如、近づいて来た千束に発泡。しかし、間近で放たれた弾丸をまるで見えているかのように彼女はかわし、扉を蹴飛ばし、男にぶつけ、怯んだ隙に5発撃ち込み、無力化。

 

「ワイ〜生きてる〜?」

 

 そのまま無造作に、トランク側に回ればそこには裸締めで吊るされた金髪美女がいて。たきなが咄嗟に銃を構えたが、射線に千束が割り込み、邪魔をすれば、ワイは至って余裕ありげに。

 

「だ、大丈夫。それより、沙保里さんを」

 

「そうだね。たきな〜沙保里さんを〜」

 

「おい! お前たち、こいつがどうなっても………!」

 

 男が銃口を顳顬に向けた瞬間、ワイの右肘が男の腹部を撃ち抜いた後、ワイの長い足が車のトランクを踏み台に男の腕を軸に回転。

 その勢いを利用して、そのまま背負い投げに移行、体重差を物ともせずに大地に叩きつけた。

 

「はい、お終い」

 

「お疲れ〜ワイ、周りよろしく! 私はクリーナー呼ぶから」

 

「ら、らじゃ!」

 

「まさか………命大事にって敵もですか!?」

 

「………そうだよ、うちの支部の方針。歴代最強のリコリスが殺したくないって言うんだから、従うしかないでしょう」

 

 ワイは胸元を漁ると、緑色の箱………煙草を取り出して、同じく谷間に仕込んでいたジッポで火をつけて、グロスを塗ったような艶やかな唇に咥えるとゆっくりと吸い込み吐き出された紫煙と共に、ふわりとしたバニラの香りが2人の間を縫うようにして広がっていった。

 

(この人………さっきまでと空気が違う? あのおどおどした雰囲気がまるで………)

 

「たきな。貴方、リコリス失格よ。貴方は任務の大前提を間違えている」

 

 声に震えはなく、むしろ自負と堂々とした自信がそこには溢れていた。そんな人物が自分に対して、怒りを抱いてる。その事も。

 

「私が何故、怒っているか。分かる?」

 

「護衛対象を囮にしたからです」

 

「わかってて、何でやった?」

 

「それが1番合理的だからです」

 

「護衛対象が死んだら、手柄は遠のき。貴方は、DAに二度と復帰出来なかったとしても?」

 

 ワイルドの視線が更に鋭くなる。まるで蛇に睨まれた蛙のように身体に力が入らない。早く解放してほしいとばかりに願うほどに。

 

「命令無視で護衛対象を死なせたりしたら、もう二度と復帰なんて出来なかったはずよ。自らの復帰の為に、護衛対象を囮にする奴は私だったら部下にしない」

 

 まさしくその通りであり、突きつけられた正論に付き纏う甘い匂いに視界がくらくらしだすくらいに。焦っていた、周りが見えなくなっていたのは事実だけど、

 

「ですが、貴方に言われる筋合いはないはずです………」

 

「………そうね。立場としては貴方の方が偉いもの。それに」

 

 煙草がもう短くなっている。彼女は最後に一吸いすると、

 

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 携帯灰皿に煙草を捨てた彼女の顔はいつものワイルドに戻っていて、

 

「じゃ、じゃあ今後は気をつけようね………リコリコの約束だから」

 

 あまりの変わりように千束から撤収の合図がかかるまで、彼女は微動だに出来なかった。




吸ってる銘柄はラッキーストライク
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