メタルギア・リコリス:ワイルドスネーク   作:あんみつ炙りカルビ

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潜入に必要なのは、違和感ない変装──それは

『こちら、スネーク。位置に着いた。応答して』

 

『はいはい、聞こえてるわよ〜任務は分かってる?』

 

『はい。凄腕ハッカー『ウォールナット』の国外逃亡の手助け………という建前による死亡偽装。スーツケースの本人を守りながら、着ぐるみの私が演技をする。という流れですね』

 

『あんた、本当、潜入任務だとイキイキするわね………』

 

『隠れんぼ、好きなので』

 

 既にスイッチは入っている。現在、私は助手席にスーツケースを乗せて、合流する手筈の千束お姉ちゃんとたきなさんを迎えに行く。

 一応、千束お姉ちゃんの分の朝食も作ってはおいたけど………ちゃんと食べてくれただろうか。

 

 昨日は明け方まで映画パーティーをしていたから、今頃電車で移動してるとかかな。しっかり者のたきなさんもいるから、大丈夫な筈だ。

 

『意外だな。リコリスにはJK以外の暗殺者がいるとは』

 

『………私、今年で16歳ですけど』

 

『………早熟なんだな、てっきり23.4歳くらいだと』

 

『………よく、言われます』

 

 通信機越しにミズキのくぐもった笑い声が響いてくる。そこまで笑うことか。確かに気づいたら、下着とか制服が入らなくなって何度も交換したけども!

 

『しかし、アレだな。お前の姿………ボクはどこかで見た事がある』

 

『そんな筈ありませんよ。私はついこの間までDA内部で働いていましたから。恐らく他人の空似………』

 

『──スネーク。ボクが持っている情報に、そういった名前の男がいるんだが、まさかキミは』

 

『合流地点につきました。ここから先の会話をお願いします』

 

 会話を寸断し、窓を開けて、黒髪の美少女に問う。

 

『ウォール?』

 

「ナット」

 

 にしても、合言葉。もう少しどうにかなりませんでした?

 

 

 

 

 

 

『予定と違ってすまない、ウォールナットだ』

 

「はいはい、千束です。こちらがたきな」

 

 あー、喋らなくていいの凄い楽〜もうずっとウォールナットさんに会話担当してもらおうかな〜いや、いっそ私の姿を模した着ぐるみを操作して店に出て貰おうかなぁ。

 

「てか、何か思ってたハッカーさんと違いますね」

 

『底意地の悪い痩せた眼鏡小僧とでも?だとしたらダイハード4みたいな映画の見すぎだよ』

 

「お、ウォールナットさんも映画いける口?」

 

「話がずれてます。千束さん」

 

 残念、着ぐるみの中はくすんだ金髪の足長おばさんです………底意地の悪い眼鏡小僧と同じくらいには社会的地位がない存在です。

 生きててごめんなさい。

 

『ハッカーは顔を隠した方が長生きできるってだけだよ。――それよりJKの殺し屋の方が異常だよ、リコリス』

 

 私も賛同して、思わず喋るマスクの音声に頷いてしまった。

 それより、勝手に顔面から別人の肉声が響いてくるこのマスクが欲しいんですけどどこに売ってますかね?

 

「クマのハッカーよりは合理的です」

 

「たきな、イヌだよ!」

 

『──リスだ』

 

 あと、実はウォールナットさん。意外と愉快な人ですね。

 驚愕する2人をバックミラー越しにニマニマ見ていれば、たきなさんは不思議そうな顔をして、

 

「そんな大きいリスはいません」

 

「たきなに賛成。だけど、ウォールナットさん。発育いいね………身長何センチ?」

 

 ちょっと、突っ込んで欲しくない場所を指摘して来た。

 いやちょっ、マジで、やめてください。

 仕方ないじゃないですかぁ。中身の大きさ合わせのために、改造したらこうなったんだから。

 

 改造する前は胸とお尻の部分が入らなくて、ミズキさんにしばかれたんですからね!

 

『………180くらいだ』

 

「おお、うちのワイと同じくらい」

 

『ワイ………? コードネームか何か?』

 

 ちょっ………人の話題を掘り下げないで貰えますか!?

 ウォールナットさんも、さっきの会話を切り上げたことから踏み込まないで欲しかったんですけど!?

 

「うん。私の同期でたきなの先輩リコリス。元ファーストだったんだけど、ちょっとやらかして今はサードリコリスの妹分なんだ〜」

 

「えっ………ワイルドさん、元ファーストだったんですか!?」

 

「あれ。言ってなかったっけ? 楠木司令から聞いてない?」

 

「聞いてませんし、言ってません! 元追跡部隊の隊長としか………」

 

「いやいや、隊長格がサードなわけないでしょうに。昔はバリバリに働いてたんだよ〜性格ももっと堂々としてて。厳格で公正で面倒見が良い………あれ? ウォールナットさん、体調悪い? 震えてない?」

 

『気のせいだ。少し汗で冷えただけだから気にするな』

 

 ウォールナットさん、あざぁぁぁす!!

 い、いや、千束お姉ちゃんがまさかそんなに私のことを評価していたなんて………

 

「でも、変人なのは変わらないんだよね………特に段ボールと露出癖だけは昔っから直らなくて」

 

『ほう、段ボールか………奇遇だな。海外の知り合いに同じような愛好家がいるんだ』

 

 いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 ウォールナットから変な匂いを感じる! 完全に疑惑と疑念が入り混じった嘘の匂いがする!

 

 誰か、助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!

 

「それより、このスーツケースは何ですか?」

 

 たきな様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 いいよ、その調子! そのまま話をずらして!

 

『ボクの全て。国外逃亡には、身軽な方が良いだろう?』

 

「いや、あんたの姿が既に身軽じゃないですけどね!」

 

『ふ』

 

 よしよしよし! いい感じですよ!

 そのまま和気藹々としてて! お願いだから!

 

「私も海外行ってみたい」

 

『一緒に行くかい?』

 

 え、ダメだって! 千束お姉ちゃんが海外行くのは危ないって!

 幾らお姉ちゃんとはいえ、今のご時世の海外は紛争ばかりで危ないって!!

 

「いや私たち、ワイ以外は戸籍が無いんでパスポート取れないんですよ」

 

「え、ワイルドさん。戸籍あるんですか?」

 

「うん。本名名義の戸籍が多分そのままだって本人が言ってたから多分。いいなぁ………私もワイに便乗して、ハワイとか行きたいなぁ」

 

 待って!? 初対面のハッカーに情報バラしすぎだから!

 見てみなよ! たきなさん! 目を見開いてるじゃん!

 

『………因みにワイの本名を知ってるのかい?』

 

 ちょっと待って! 千束お姉ちゃん、人のプライバシー暴露しすぎだから! 日本一のハッカーに私の本名バラしたら流石に全部明らかになっちゃうからやめて!

 

「それはさすがに教えられませんよ。でも可愛い名前ですよ。ワイルドなんて名前より、よっぽど」

 

 よ、よかった。流石にお姉ちゃんにもプライバシー侵害って事は分かってたんだね。良かったよ………いや、別にワイルドかっこいいじゃないですか。じーじもいい名前だって言ってくれましたし。

 

 私が着ぐるみの中で悶々としていると、千束お姉ちゃんが後方の窓から追跡者の影が無いか確認する。

 たきなさんも窓を覗き、警戒していた。

 

「……追っ手来ないね」

 

「そうですね」

 

「このまま羽田?」

 

「いえ、一度車を乗り換えます。ウォールナットさん、ここへ移動して下さい」

 

『了解した』

 

 事前に位置情報は把握している。

 さあて、安全運転、安全運転。バイクとは違うが、車の運転もたまにはいいものだ。強いて言えばオープンカーでもっと海沿いを攻めたいけど………うん? アレ? 車さん? ちょっと?

 

 何かハンドルを切った方向を無視し、車は直進している。

 んん? ちょい、やめてよトラブルとか。

 

 ………まさか、これ。

 

「あれ、高速に乗るのでは?」

 

『どうした?』

 

「いや、それはこっちのセリフ」

 

 動揺する車内。私は嫌な想像が脳裏を過り、ハンドルからそっと手を離す。ついでに、アクセルからも足を退ける。

 すると──ハンドルは勝手に動いていた。

 

『………乗っ取られたか』

 

「うえええ!?ちょっとちょっとちょっと!?」

 

 これだから、車は嫌なんですうううう!!

 心の中で思わず上げた悲鳴も虚しく、車は許しも無く速度を上げた。

 だからトラブルはやめてって言ったじゃあああああんんん!!!!

 

 車のフロントに設置された画面が乱れ、何かロボット的なマークが映し出された。ゆるキャラみたいで可愛いが、今の瞬間では苛立ちを煽るものでしかない。

 

『ロボ太か、腕を上げたな』

 

 貴方の知り合いですか、もおおおおっ!!

 ハッキングは専門外なんですよおぉぉぉぉぉ!! 

 千束お姉ちゃん助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!

 

『このままだと海に突っ込む。ルーターを探してくれ。こちらで制御を書き換える。完了次第、ルーターを破壊して、物理的にネットを切るんだ』

 

「千束さん、あれ」

 

 たきなさんが何事かを察知したらしく、彼女の視線が促す方向を千束お姉ちゃんも振り返った。

 私もバックミラーで確認すれば、車体の後方を一定間隔で飛行するドローンを発見。

 

 どうやら、あれを介して車を操作しているようだけど勝手に動く車、それも離れた飛行ドローンの排除というのは些か以上に難易度が高すぎて………流石にお姉ちゃんも渋い顔。

 

 ウォールナットさんも、制御権奪還の為の作業を開始している。画面に表示されたパーセンテージの満ちていく速度から、やはり技術力の高さが窺い知れる。

 

 頼もしいけど、バレません? 私、今運転中ですよ?

 

「いやあ、アレは自信ないや、そっちはたきなに」

 

『よし、制御を取り戻すぞ』

 

 お願いだから、何とかなってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!

 

 

 

 

 

 

 な、何とかなるもんですね………もうこんな映画みたいなカーアクションは懲り懲りです………暫く休みたい。愛しのベイビーを部品から丁寧に磨いてあげたい。帰りたい。

 

「場所を移動しましょう」

 

 千束お姉ちゃんに連れられて、追手を撒くためにやってきたのは廃墟となったスーパー。いい感じに遮蔽物もあるし、スニーキングするなら好都合。敵も少ない数でかかって来るだろうし………乗り切れますね。

 

「あれ? たきな、緊張してる?」

 

「してません。前回のような行動を取らないように戒めているだけです」

 

「ああ………ワイの言うことなんて、話半分に聞いとけばいいのに、たきなは真面目だなぁ」

 

 小さく息を吐いたたきなさんの指先が僅かに震えていた。それに気づいた千束お姉ちゃんは銃を握りしめた手ごと握り返して、千束お姉ちゃんは穏やかに笑った。

 

「大丈夫! 今度は最初から私がいる! たきなは1人じゃないよ。2人なら大丈夫だって!」

 

 千束お姉ちゃんの言葉にたきなさんの雰囲気が解けていくのを感じる。匂いも随分と穏やかになった。これなら前回のような失敗はないだろう。

 

 ………でも、ごめんなさい、この任務最終的には失敗します。

 ああ、胃が痛くなってきた………中華粥食べたい。

 

『ミズキさん、私、帰っていいですか?』

 

『言い訳あるか。きちんと死んで死体になってから帰りなさい』

 

『帰るのは土にだと思いますが………』

 

 通信機越しのミズキさんはケラケラと笑ってるばかりで更に胃が痛くなって来た。単独任務なら、失敗しても責任は自分だけにあるから、何も思わないけど、チームはその責任が辛い………!

 

「ここから敵を撒くため裏口に向かいます」

 

『包囲されてるんじゃないか?』

 

「最大予測員数は十人、スーパーを包囲するにしても接敵すれば一人か二人です。集団で襲われるよりも、少数で撃破しながら進めます」

 

『なるほど』

 

「前は私で。たきなは後ろお願い」

 

 おお、さすがは元DA本部のセカンドリコリス。

 素直に感心した。こういう箇所は潜入特化の私や単騎突入の千束お姉ちゃんとは違う。

 

「じゃ、付いてきて下さい」

 

 千束お姉ちゃんが低姿勢で先行し、私もそれに倣って頭を下げながら進み出す。後ろのたきなは『本体』の入ったスーツケースを守りながら私の跡を、ん、匂いがする。

 

 嗅ぎ慣れた火薬と血の匂いが二丁、私の背後に。

 ………ワタシノハイゴニ?

 

 ゆっくりと振り向いた先に、艶やかに光る黒い穴。

 即ち、アサルトライフルの銃口である。

 

『う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 スーツケースに隠れたウォールナットさんの悲鳴がマズルラッシュの開始の合図になり、すぐさま廃墟のスーパーは弾丸行き交う戦場へ姿を変える。

 

 普段の私なら、颯爽と逃げるんだけどなぁ!

 嗅覚で敵がいないルートを割り出すんだけどなぁ!

 

『おいおい!盾に使うのは無しだろ!』

 

「ちょ、駄目ですって!」

 

『大事な物だって言っただろー!!』

 

 ウォールナットさんが入ってるスーツケースには申し訳ないが、こちらも早く避難しなくては………危な! 弾丸が着ぐるみ掠った!

 

 早く、緊急避難!! 緊急避難!!

 何か! 何か、身を隠せるものは!?

 

 そんな時に私は──奇跡を見た。

 確かにここはかつてスーパーだった………それを考えればあることには違いない。しかし、まさかこんな所で再会するとは思わなかった。

 

 それと出会ったのは任務中のこと。部下達の殿を務めたが、傷を負った私は逃げられず、見つかれば死という最期の隠れんぼを行っていたのだ。

 

 そんな中で──私は運命に出会った。

 

 それは奇跡的に形を保っていた。

 冷蔵庫の外箱で、成人男性一人が入ってもまだ余裕があるサイズ。保念のためとっておいたのか、ゴミ箱や収納箱として使う予定でもあったのか。私には定かではない。

 

 そこにあったのは空っぽの段ボール箱。

 

 その段ボールを見て、私はなぜか被らなければならないという使命感………私の中の蛇が囁いたのだ。

 

 普通なら、そんな事をしない。だが状況は異常だったし、私は死にかけでハイになっていた。血に濡れた細く引き締まった両腕でダンボールを持ち上げ、被った。

 

 心地よい音とともに視界が暗くなる。

 ほどよい閉塞感に私はしぜんと笑みを浮かべ、中腰でダンボールを持ち上げ、被ったまま出口へと急いだ。

 

 楽しすぎて笑っていた。懐かしすぎて泣いていた。

 何故だかわからないが、体がそれを求めていたのだ。

 足りないピースを補った私は出口から脱出したあと、段ボール内で力尽き、フキに回収されるまで気を失っていたのだった。

 

 以来、私は潜入任務の際に必ず段ボールを持参するようになった。

 千束お姉ちゃんには泣かれたし、フキには頭をやられた後遺症が………とガチめな心配をされた。

 

 とはいえ、非常に段ボールは効果的であり、私の精神充足にも大いに役立ったのだ。

 そして、今! 目の前に現れた以上………被る事でこの悲劇を超えることができると段ボールは教えてくれた!

 

 段ボールを被り、戦闘が鎮火するまで待つ。暫くして、落ち着いた頃を見て、段ボールから顔を覗かせれば、私を探していたのだろう、たきなさんが信じられないものを見るような目をして銃をむけていた。

 

「何を遊んでるんですか!?」

 

『………身を隠すものがこれしかなかったんだ?』

 

 ウォールナットさんには非常に申し訳ない、本人も何故か段ボール被って隠れている珍妙な姿に疑問を隠せないのだろう。

 たきなさんも意味がわからないという目をしているが、千束お姉ちゃんがまだ戦っていると音で気づくと、私の体を押して、救援に向かう。

 

「千束さん! 何してるんですか! 追手が来る前に脱出しますよ!」

 

「少し待って、今治療して………いや、ウォールナットさんが一番何をしてるの??」

 

 段ボールを抱えたまま、タブレットを持った私に千束お姉ちゃんが訝しげな目を向け、何かに気づいたように、目を見開いて、じとーっとした目に変わる。

 

 あ、これ、間違いなく千束お姉ちゃんに気づかれたやつ。

 そうだよね、千束お姉ちゃんの観察力なら振る舞いからして気づくよね………あ、匂いが怒りに変わった。

 

「あぁ〜そういうこと。たきな、私もすぐ追いかけるから先にその段ボールマニア連れて先に行ってて」

 

「しかし………」

 

「大丈夫、すぐに行くから」

 

 貴方をしばきに♡

 というか幻聴と共に、更に怒りの匂いが濃くなったのを見て、私は逃げるようにして、その場を立ち去り、たきなさんの静止も聞かずに、お姉ちゃんから逃げるため、裏口から飛び出した。

 

 まあ、狙ってやったわけではなく、たまたま待ち伏せしていた彼らに撃たれたことで無事任務は終了したわけなのだが。

 

 

 

 

 

 

 仁王がいた。阿修羅がいた。

 怖いお姉ちゃんの前で冷や汗ダラダラな私は床に正座をさせられていた。

 

「さて、最期の一服は美味しかった?」

 

「ふ、ふふ………まるであの世みたいな味でした………」

 

 口に咥えた煙草の火が弾丸によって掻き消える。

 これ。相当にやばい。マジで怒ってる奴………!

 

「ワイ? 何か、お姉ちゃんにいうことは無いかな〜」

 

「あ、朝ごはん美味しかったですか?」

 

「ふふ〜記憶が飛んでるのかな〜1発撃てば記憶も戻ったりする?」

 

 そんな怒りを露わにした匂いのまま、銃口を頭にゴリゴリ押し付けないでください。非殺傷とはいえ、当たれば骨にヒビくらいは入るんですから………あと、足が痺れましたので、崩させて?

 

 え、だめ?

 

「ワイ? 私がなーんで怒ってるか、わかる〜?」

 

「お、お姉ちゃんを騙して任務に取り組んだから………」

 

「それが1つ。2つ目は?」

 

「う、迂闊に自分の嗜好を優先した任務の取り組みをしたから?」

 

「そうだね。バレたらいけないのに、そんな事して………腕鈍った? 最後は?」

 

 最後………? 果て、何だろうか。

 まるっきり見当がつかない。

 疑問ありげな私の目に、千束お姉ちゃんはため息をついた瞬間、目に負えない速度で銃の柄を脳天に叩きつけられ、目から火花が飛び出る。

 

 悲鳴をあげようと顔を上げた先で──千束お姉ちゃんは泣いていた。

 

「──死んじゃったかと思ったじゃん!! 演技だとしても合図くらいしてよ!!」

 

 泣きながら、豊かな胸を顔に押し付けられた。抱きしめられたと気づいた頃には私の頬を彼女の涙が伝わっていて。

 

「ご、ごめんなさい………」

 

「許さない」

 

「えっ」

 

「〇〇ホテルの豪華スイーツフルコース食べさせてくれるまで許さない」

 

「え、いや、それは………あまりにも価格が、自費になるので………ウン十万クラスの………」

 

「だから、何? お姉ちゃんの言うことは?」

 

「ぜ、ぜった〜い」

 

 銃口を頬に押し付けられながら、南極より冷たい声を聞かせられたら、抗うことなど不可能。

 私は泣く泣く、自分の隠し財産を崩すことになったのだった。

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