メタルギア・リコリス:ワイルドスネーク 作:あんみつ炙りカルビ
スイーツバイキング、それは女の子の心を射止める甘い誘惑。
しかし、私の心は淋しくなる一方。何が悲しくて、ウン十万を越すスイーツバイキングを奢らなくてはならないのか。
「たきなもくれば良かったのに〜」
「や、やめてください。死んでしまいます」
「安心しろ、臓器は売り払ってやる」
「せ、せめて骨は拾って!?」
五つ星ホテル、最上階フロア。選ばれた客しか入れない豪華絢爛な空間でドレスコードで着飾った千束お姉ちゃんと
「感謝しろよ、お前ら。ボクが偽造しなかったら、このスイーツバイキングは食べれていなかったんだから」
「う、恨んでいいですか? 予想外の出費を産んだ元凶に」
世界有数のハッカー『ウォールナット』………もとい、その本体、『くるみ』と名乗る少女が、ふわふわパンケーキを食べては皿を重ねていく。
回転寿司じゃないんだが??
「えぇぇ〜そんなこと言わないでよママ〜最近横腹がぷにぷにな横腹ビックなママ〜」
「ボク達、まだ食べられるよ、ママ〜いつも試食で体重計に片足乗りして減らない現実に絶望した体重がビックなママ〜」
「だ、誰がビックママですか!」
あろうことか、くるみは私を母親に仕立て上げ、千束お姉ちゃんとくるみを娘とした『世界有数の財閥女王』という下らない設定を作り上げたのだ。
おかげで周りから怪しまれる上に下心丸出しの青臭い匂いが、でっぷりとした下腹を持つおじさんや若い女性を連れた小洒落た男から漂ってくるので、食欲は減るばかり。
口直しに煙草を吸おうとすれば、店員には禁煙だと言われたので、煙草をしまって、ジェラートを口に運ぶ。
何これ、うっま。
「でもさ〜たきな、リコリコ来て長いのに、未だに浮いてるというか………」
「わ、私より浮いてるなんて………くっ、負けた」
「負けた方がいい戦いだな」
「小芝居やめろ、ワイ。だってたきな、この間の閉店ボードゲームも『結構です』って断ったんだよ?」
「ぜ、全然似てないよ、お姉ちゃん………んんっ、『結構です』」
「うわ、激似だな、ワイ」
「アンタの才能お披露目はいいから」
実のところ、確かにたきなさんは浮いてるというか一歩引いているのは間違いない。まるで自分の居場所はここではない、中継地点とばかりの気持ちが伝わってくるのだ。
リコリコ喫茶店恒例のボードゲーム大会なんて、皆と仲を深めるには持ってこいなのに………現にくるみでさえ、毎回楽しみにしているくらいだ。
因みに私はブラフあり系は参加しない………匂いと予測で大体分かってしまうので。
「ま、まあ仕方ないんじゃないかな。時間をかければ懐いてくるよ」
「たきなは猫か」
「いや、たきなは無自覚な攻めだと思う」
「「えっ」」
「あ………ちょ、ちょっとお花を積みに行ってくるねえ〜!!」
無意識に漏らしたその言葉に、私たち2人が反応。千束お姉ちゃんは自分の失言に気付いたのか、じわじわと耳を赤くすると逃げるように席を立って、トイレへ向かった。
「漫画家の人に影響されたな………?」
「お、お姉ちゃんが汚れちゃった………」
残されたのは、私とくるみ………あっ。
いけない………コミュ症に、この空間はだめだ。クソ陰キャにとって特に親しくない人と2人きりにされるのはある種の死刑宣告に過ぎない。
「………………」
やばい、くるみさんがこちらを睨んでいる。早く会話しろや、という無言の圧力を感じる。しかし、残念ながら陰キャの話題なんて、最近のアニメか漫画の話ばかりで広げられるような話題なんてないのだ。
だが、私はそんな不可能を可能にしてきた女!
私はワイルド・スネーク! 野生の蛇なのだから!
「く、くるみさんは何でハッカーになったの?」
「知ってどうする?」
静寂が私の胸を締め付ける。会話時間は僅か2秒。
助けて、お姉ちゃん。私は沈黙に潰されて死んでしまうかもしれません。
「逆に聞くが………ワイ、お前EVAという名前に聞き覚えはないか?」
ピシリと何かが割れた音がした。
その発生源は、ガラスの器。生搾りのオレンジジュースが注がれていたそのグラスにヒビが入っていて。
「その反応は………肯定と捉えるぞ?」
「逆に聞き返しますね──聞いてどうする?」
静かな声に、くるみは不敵に笑う。世界有数のハッカーなだけある。研がれた殺意に何の反応すら返さないとは。
「EVA。通称:ビックママ。戦災孤児達を引き取り、訓練し、組織した『失楽園の騎士』を率いる武装組織のリーダー。最近亡くなったと聞いてるが………まさか娘、いや年代的に孫か?」
「何のことだかさっぱり………」
「ワイが乗ってるバイク、だいぶ古いが………13歳の誕生日に送られたものらしいな? 千束が言ってた。巧妙に隠されていたが、送付履歴には残っていたよ」
差し出されたスマホに映し出されていたのは『EVA』という名前。同時に監視カメラを洗ったのだろう、かつての………母と仰いだ人がそこには映っていて。
「………さすがはリス。人の思い出に踏み込むのがお上手ね」
「動揺が隠しきれてないぞ、ワイルド。いや、それとも──」
「1つ取引をしましょう、
次に口にする、その名前はとうの昔に置いてきた──戦えなかった頃の自分、捨ててきた己だ。人差し指を前にして、くるみの口先を止めて、ダージリンを1口。
「私のお願いを聞く度に、あなたが知りたいことに答えるわ。貴方が知りたいのは、私の先にいる裸の蛇達。そうでしょ?」
「………意外と素直なんだな。脅迫くらいは覚悟していたんだが」
「脅迫に何の意味があるの? 使える武器があるなら、石でも縄でも雑誌でも。私はなんだって使って、戦場から生きて帰るわ」
──生き残ってしまった私にはそれしか許されないのだから。
「ならまずは先払いからだな。ボクの質問に答えろ、ワイルド」
くるみは言った。腕組みしながら、難しい顔で。
少し、思考を巡らせるかのように片目を閉じた後、彼女はそれを口にした。
「お前は、EVAと………スネークと言われた英雄の子供なのか?」
それに対して、私は答えた。
「私は、母と父と………じーじの娘だよ」
互いの空気を沈黙が支配する。答えじゃないだろ、それ!とばかりな目と僅かに感じる緊張感ある匂い、馬鹿正直に言わないからこそ信じられる言葉がそこにはある。
少なくとも、くるみという女児はそれを感じ取れる人物だった。
「あれ? 二人共? 難しい顔して、どしたの?」
そして、千束さんは空気をよまず、それを感じ取れない人だった。
「いや、別に? ちょっとした悪巧みだよ」
「あ、私は煙草吸って来ますね〜」
煙草の力がなくては、戻ることすら出来ないのでお気に入りの銘柄の煙草をもって喫煙室へ向かおうと千束さんとすれ違ったところで腕を捕まれ、引き戻される。
毎度思うのだけど、その細腕のどこにそんな力があるんだろうか。
「まあ、待ちんさい。ワイルドさん?」
「え、急に敬語とか怖い」
「私達は仲良し姉妹であり、数少ない同期でしょ? だからさ〜」
スマホの画面に映し出されていたのは、『ライセンス更新のお知らせ』という文字、それをスワイプすれば、見えたのは本部への呼び出し。
あれ、待って、何で私の名前がそこにある!?
「というわけで、ワイには私の護衛をさせてあげようじゃないか〜DAに連れ戻されそうになる私を助けるワイ………最高じゃない?」
「歴代最強のリコリスが何言ってるの? ピーチ姫だと思ってるクッパなのに?」
「あんだとコラァ! 未亡人の行き遅れがぁ!」
「恋人いない歴=年齢に言われたくないわ! というか、それ言ったら戦争だろうがぁ!」
「なんだこのしょうもない争い」
結局、争った所で勝ち目はないので泣く泣く、連行が決定。
まあ、取り返したいものもあったから、ヨシとしよう。
それより、早く煙草を吸わなくては──
「参ったわね………また、煙草買わなきゃ」
──彼女でいられる時間がなくなるというのに。
*
「な、何でたきなさんがいるの?」
「司令に会いに行く為です」
翌朝、私と千束お姉ちゃん……そして何故かたきなさんが電車に乗っていた。ライセンス更新ならとっくに本部で済ませている筈………それに、先刻から頻りに手元のメモ帳に何事かを書き留めている。
まるで某手紙代筆人のような真剣な眼差し。
真剣な女の子の顔っていいよね………
「…………無茶では? 千束お姉ちゃん」
「まあ、万が一の可能性もあるし………たきなが戻りたいってなら応援してあげたいじゃん? って、ああ! 私のいちご飴!」
「け、健康診断の前に食べるとか規則守る気ある? 再検査面倒でしょう?」
千束お姉ちゃんから飴玉を奪い、食べながら、私の前に座るたきなさんを見る。最初は千束お姉ちゃんが着席し、たきなさんが次に座るから彼女の隣に座ろうとしたけど、わざわざ対面に座った。あれだけ一緒に働いたのに、少し距離を感じる。
やはり、それほど本部が恋しい………というか、本部が自分が帰るべき場所だと頑なに思っているようで。
「そ、それは何を書いてるの?」
「司令に復帰をお願いする言葉をまとめています」
「く、楠木司令が忙しいからって取り合わなかったら?」
「部屋まで行って、直接渡します」
だめだ、聞く耳を傾けないし、事実を伝えれば何とかなると思っている。それでうまく行くようならたきなさんはそもそも左遷されないし、ましてや左遷した私を呼び戻す訳がない。
「それより、ワイルドさんはなぜ、来たんですか?」
「ふえっ!? そ、それは………」
言えるわけがない。司令に逢おうとしている彼女を出し抜いて、楠木司令から呼び出しを受けているなど。
恐らくはくるみに解析させた銃取引の写真について、私の意見を聞きたいだけだろう………でも、たきなさんがいると言い出しづらくなる!!
「ワイはアレだよ。楠木司令に罰則を言い渡されたから、呼び出し。ほら、先生が成績悪い奴を補修付にするやつと一緒、一緒。たきなもこんなアホになっちゃだめだよ〜」
「そ、そうなんだよ〜ただでさえ、降格した出来損ないだからね〜」
「なるほど、確かにワイルドさんは降格処分を受けてましたからね」
脇腹を肘先で突かれ、カバーされた嘘に必死になって頷く。たきなさんもある程度は納得したのか、頷きながら、紙面を見て、何かに引っかかったのか、顔を上げた。
「ワイルドさんは、何故降格処分を受けたのですか?」
『わ、私を見て、わ、私を刻み込んでください、お姉様………これが、凡才の末路です』
窓を叩く雨は強くなるのに、その言葉だけは酷くはっきりと耳に届いてしまって。思えば私が降格したその日もこんな曇天の雨下りの空模様だった。
「──ただの痴情のもつれよ」
降車を知らせる音が鳴る。私は一服とつぶやいて、席を外す。
まもなく着く目的地を前に、買ったばかりのタバコを開ける。
窓から見えたのは、驟雨の中で帰還を目指すリコリス2人組。
『──お慕いしてました、お姉様』
あの日、出掛けたのは2人、帰りは1人。
足軽の如く、ふらついた足取りの私はただ空を仰いでいた。
血に濡れた大事なパートナーを腕に抱えて、
消えていく命に雫を零して。
次回からオリ主のガールズラブが始まるかもしれん