メタルギア・リコリス:ワイルドスネーク   作:あんみつ炙りカルビ

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Q.狙った弾丸は何処へ行く?

「本日、千束様はライセンス更新。ワイルド様は楠木司令と面会、井上様は………」

 

「私も楠木司令と面会希望です」

 

「でしたら、ワイルド様の後。予定だと3時間後にかろうじて10分程なら面会できますが、そちらで宜しいでしょうか?」

 

 たきなさんが受付に用件を伝えるが、私の方が優先されることに妙な居心地の悪さをかんじてしまう、その途中で。

 

「アレでしょ、味方殺しの……」

 

「DA追い出された子でしょ」

 

「組んだ子、全員病院送りにするんだって。おっそろしー」

 

 声を小さくしているが、聞かれても構わないという声量で話している。随分と陰湿。隣では、千束お姉ちゃんが声の主たる三人を睨んでいるが、歯牙にもかけないのを見ると、図太いのか、無知なのか。

 

「何だアイツらー?」

 

「ざ、雑魚だから気にしなくていいよ、たきなさん?」

 

「…………」

 

「お待ちになりますか?」

 

「あっ……はい」

 

 たきなさんの体から罪悪と動揺が香り立つ。あの日の失態は、DA本部内には伝わっているらしいけど、リコリスの死傷者はいなかった筈だ。

 

 仲間殺しは事実無根。年頃の子どもでも大人でもよくありがちな、一人を対象として貶める事で集団で快楽を得る為に悪い噂をやや誇張して共通の話題にするタイプ。

 

 要するに虐め、陰口である。

 

「私、訓練所に行ってますね」

 

「あ、たきな!」

 

 空気に堪えかねたのか、走り去っていくたきなさんを千束お姉ちゃんが呼ぶが、彼女は止まらずに通路の角に姿を消した。

 それを見送って、千束お姉ちゃんは走り去った方に後ろ指をむけて

 

「ワイ、あんた追いかけなさい」

 

「え、えぇ………私ですか?」

 

 見るからに面倒事である。そもそもDAに帰ればこうなると分かっていたはずなのだから、別に何もしなくても………

 

「──今のたきなにアンタ以上の適任はいないでしょうが。事実無言じゃなくて、本当に仲間を殺した貴方以外に」

 

 千束お姉ちゃんの声に圧が乗る。行かなきゃどうなるか、分かる?って声だ。この声には私の体は逆らえないし、逆らいたくない。

 

「行かないなら、ワイ? リコリコやめる?」

 

 肩を落として、面倒って体で表すが、銃を引き抜く素振りと怒りの匂いが上がっていくので、そそくさとたきなさんを追いかけることにした。

 

 つい、この間までいたとはいえリコリコ喫茶店とはまるで違う。

 ここは正しく拾われた恩を人生で返却する組織だ。

 それが悪いとは言わない、だってフキとかはそういうタイプだし。

 

 私はただ、ここがゴールだとは思いたくないだけ。

 私達が目指すべきゴールはきっともっと遠い筈だ。

 

「………っと、ちょっと、貴方!」

 

「は、はい?」

 

 急に声をかけられて、おっかなびっくり振り返れば全く面識がない女の子が段ボールを抱えていて。たぶんアレは、物資供給の手伝いだ。

 そういえば、今日は物資供給のトラックが来る日だったな。

 

「貴方、サードでしょ! これ、忙しいから運んでおいて!」

 

「え、いや、ちょっと………?」

 

「何? セカンドの私に、何か文句あるの?」

 

 大有りに決まってるんだけど??

 いやいや、当番性だったはずだからそれを知らない人に押し付けて利用されたらどうするの? 例えば段ボールを被ったり、段ボールを被ったり!!

 

 そんな事言ってる間に、段ボールを押し付けられて、足早に立ち去ったセカンド。DAじゃないし、段ボールだけ貰って物資を叩き割ってもいいのだけど、中身は機密だ。横流しされたら不味い。

 

 幸い、回り道だが通り道ではある。仕方ないと割り切って3段に重ねられた段ボールを抱えて、倉庫に向かう。倉庫では所狭しとサードの子達と指揮をするセカンドがいたので、段ボールを片手で支えて、扉をノックすればこちらに気づいたようだ。

 

「うわ、何これどうしたんですか?」

 

「せ、セカンドに押し付けられましてぇ………」

 

「………あいつか。セカンドになった瞬間に調子に乗りだした奴ね。ありがとう、貴方。もういいわ。段ボール受け取るわね」

 

 ひょいっと私の視界を隠していた段ボールを受け取ってもらった女の子の顔が私を見て固まる。彼女は私から視界を外さないまま、ロボットのように段ボールを足下に置き、服についた埃を払って、整えて、

 

「お、お疲れ様です!! ボス!!」

 

「あ、貴方。リリィ。リリィね? 久しぶり〜元気にしてた?」

 

 そこにいたのは、かつての部下だったセカンドの女の子。

 外国人っぽい名前だが、別に彼女は外国人ではない、むしろ純日本人とも言える黒ポニテの持ち主だ。

 

「はっ! 特段変わりありません! ボスはいつ頃、単独任務から戻られるのでしょうか!」

 

「………単独任務?」

 

「はっ! 楠木司令から聞かされております! 『錦木千束の監視及び制御』『取引後の銃火器の捜査』を前線にて行なっている為に、支部に送られたのだと!」

 

 何それ、聞いてない??

 え、待って私の左遷がもしかしてもみ消されてる?

 というか、部下達の反乱を抑える為に嘘ついてない?

 

「ボス! 私達はいつでもボスの味方であり、仲間です! いつでも指示を下されば………上手くやります!」

 

「わ、私に配慮してくれたね。ありがとう。DAに逆らうとかだったら止めなきゃ行けなかったし」

 

「わかっていますとも、ボス! それではありがとうございました! こちらで失礼いたします!」

 

 そそくさと立ち去った部下を見送って、私も訓練所に着いた。

 中に入れば、発砲音を耳にする。

 広く設えられた射撃場のスペースに、ぽつんと佇む人影を見つけた。

 艶やかな長い黒髪を流す背中は、見慣れた後ろ姿である。私は出来るだけ音を立てずに近づき、おやつのバナナを取り出した。

 

「──動くな、手を上げて頭の後ろに」

 

「っ……!」

 

 頭に向けられたバナナを銃火器と勘違いさせるテクニックは割とあると便利なのだ。その流れでたきなさんをホールドアップさせれば、一瞬だけ驚いた顔をして、彼女は銃火器から手を離し──

 

「ふっ!」

 

 その場で回転し、右手の裏拳を放つので右腕で止めた後に回転した軸足の外側を蹴り飛ばし、彼女の重心を崩して、止めた右手を掴んで、そのまま地面に、って、あ。

 

「………わ、ワイルドさん」

 

「ご、ごめん。たきなさん。つい反射的に」

 

「………………いえ、私が未熟なだけですから」

 

 ち、違うんだよう、たきなさん………わざとじゃなくてですね。地面に押し付けて拘束はもう………遺伝子に染み付いた技みたいなものでね?

 

「た、たきなさんは未熟じゃないよ〜ほ、ほら見て!」

 

 私はホルスターから取り出したリボルバー………通称『ピースメーカー』を取り出し、的に向かって狙うが弾は1発も的に掠りやしない。

 他人を狙って撃てるだけで凄いのだ。そうなのだ。たきなさんは凄いのだ!

 

「肘がぶれています。発射の瞬間にわざとやってるんですか?」

 

「えへへー」

 

「笑って誤魔化さないでください。ワイルドさん」

 

 場の空気を緩ませようとしたが、たきなさんの表情は変わらない。コミュ症インキャにはもうきついので逃げたい………でも逃げられない、逃げたら千束お姉ちゃんになんて言われるか。

 

「へー、ヤバいっすね」

 

 私が次の会話の種に困窮していると、背後にいつの間にかリコリスが立っていた。紺の制服姿はセカンドの証。髪の刈り上げた部分を掻きながら、その少女は快活な笑顔を浮かべていた。

 

 確か、フキの部下だったはず。フキの服の匂いを嗅いでいた時に間違えて彼女の服の匂いも嗅いだはずだから。

 

「どもーっす、乙女サクラっす」

 

 軽い自己紹介を口にすると、彼女が手をたきなに向けて差し出した。

 友好的……に見えるが、匂いが違うので戸惑いがちに答えようとしたたきなさんの手を払ってその腕を握る。

 

「あ、あんまりよろしくないよ、その態度?」

 

 今度こそ当惑を露わにしたきなさんが怪訝な顔で乙女サクラを見た。

 

「やっぱりお似合いっすね〜! 命令無視した挙げ句、仲間にぶっ放した女と、裏切った部下全員その手で撃ち殺した女! もしかして、出来てるんすか?」

 

「っ……」

 

「それ以上、言ってみろ。戦争したいの? 受けて立つわよ」

 

「事実じゃないっすか〜キレるのはお門違いってもんでは?」

 

「私はね? でも彼女は違う。そもそも貴方に揶揄する権利はないでしょう?」

 

「うひゃ〜おっかね〜そりゃ、逃げ出すわけだ」

 

 ──人には踏み込まれたくないモノがある。たきなはそれを後悔してるのに、まるで新しいおもちゃを見つけたように笑っている。匂いからして、楽しそうに興奮していて。

 

 付き合ってあげる理由もない。ならさっさとたきなを連れて部屋を出よう。そうすればわざわざ彼女も追いかけてくる事は──

 

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 刹那、空気が弾かれた音がした。

 発生源は突き出された私の拳………を両手で止めている千束さん、周りを見ればサクラの裾を引っ張って、後ろに下がらせたフキと司令がいて。

 

「ワイ! 今のパンチ、リコリスに向けるようじゃないでしょ!」

 

「へへん、怒られてやんの、っていた! 何するんすか、フキ先輩!」

 

「アレほど言ったよな。迂闊に藪蛇を突くなって。ワイルドは変態だが腕は一流だ」

 

 千束お姉ちゃんが手を振りながら、腕をひく中で横を見ればたきなは悔しそうに唇を噛んで俯いていた………我ながら情けない。彼女が我慢したのに、なんだこの体たらくは。

 

「久しぶりだな、ワイ。話をしようか。ミカから上がったあの写真についてだ。お前の追跡技術を借りたい」

 

「その前にたきなから話があるので、聞いてあげてください。私の話は後でもできます」

 

「聞く価値などないと思うが、一応は聞いてやる。言ってみろ」

 

 私は片手でたきなの腕を弾き、前に出す。こちらに振り向いた彼女に私は頷いて、用件を始めるよう促した。

 正直、結果は見えているというか、わかり切っているが、現実を突きつけるにはいい機会でもある。

 

 たきなも眦を決して、楠木司令へと向き直って思いの丈を口にした。

 

「司令、私は銃取引の新情報となる写真を獲得し、提出しました!この成果では、まだDAに復帰できませんか?」

 

 普段に比べて声をやや張ってたきなが言葉にする。それを、私と千束は固唾を呑んで見守る。懸念していたサクラも、ニヤニヤと気に入らない笑みは浮かべているが、ここでは口出ししないようだ。

 

 果たして、自らの復帰を懸けたであろうたきなの意思を聞いて、楠木司令は目を細めて、

 

 

「──復帰? させるわけないだろう、愚か者」

 

 

 冷たい声が返される。

 たきなにも動揺が走り、顔が強ばる。

 

「せ、成果を挙げれば私はDAに」

 

「そんな事を言った憶えはない」

 

 楠木司令は、極めて冷静にその考えを否定した。今度こそたきなが固まり、呆然と彼女を見上げている。明らかな失敗、いや失敗ですらない。

 

 というか、やっぱり完全にたきなの思い違いだ。

 リコリコに左遷された事実について、ハッキングがあったという推測は間違っていない。ならそれが恐らくたきな本人の失態による責任以外にも、別の意図として働き、彼女を左遷へと導いたんだ。

 

 隠れた問題点だから、たきなに別の責任として背負わされ、ああいった処遇になったのだ。それを覆せるほど、組織は個人に注視しない。

 

 そんな緊縛した空気の中で、噴き出す声がした。

 

「諦めろって言われてるのがまだ分かんないんすかー?」

 

「やめろ!」

 

「おーっ、怖。ところで何すかこの人」

 

「それが噂の千束だ」

 

「ほう、なるほど。迫力あるっすね。ファーストリコリスさん達、覚えてください。いつか、アンタらに並ぶセカンドの乙女サクラっす」

 

「コミュ力に問題あって、近接が私以下で、ファースト? 脳にお花でも咲かせてる?」

 

「射撃には自信があるっすよ。外しまくってた誰かさんと違って? あ、恋人撃ち殺したのも誤射っすか?」

 

「サクラ、訓練の時間だ。行くぞ」

 

「え〜まだ話していたかったのに〜」

 

 フキが乙女サクラを連れて射撃場を後にする。それを、不意にたきなが腕を掴んで引き止めた。ぎこちない沈黙が一瞬だけ互いの間を流れる。たきな自身も無意識だったようで、自身の手を見て驚いていて。

 

 フキがすぐに腕を振り払う。

 

「ぶん殴られたのでまだ理解してなかったのか? だったら言葉にして──」

 

「司令、私の今回の報酬で彼女をDAに戻す事は不可能ですか?」

 

 決定的なその言葉を切り出される前に、私は前に出て頭を下げる。

 正直な話、今回の件で正しく私が評価されるなら、その権利を譲りたいくらいだ。

 

 ここがゴールだと思っている、彼女と私は違う。

 満足したいなら、その程度は幾らでもくれてやる。

 

「不可能だ。お前をDAに復帰させる方がまだ筋が通る。オンリーワンの技術にお前が蹴り続けたファースト復帰、それら全てを使えばお前は戻れるがどうする?」

 

「──たきなはいらないと?」

 

「ああ。任務妨害、独断専行、射撃成績はトップクラスだが………セカンドの域を出ない。フキや千束、そしてワイルド。お前たちの代わりにはならない」

 

「楠木さん!! そんな事言わずにもう少し!」

 

「悪いな、千束。たきなに許した面会時間は10分だ。ワイルド、お前がいくらここで粘ろうと私はもう聞くつもりはない」

 

 千束さんの言葉も考慮せず、ついてこいと言わんばかりの態度に軽く舌打ちすれば、フキから睨まれる。フキと乙女サクラも司令についていくが、それよりたきなの方が心配──

 

「司令!! 私は、私はDAにはいらないでしょうか!! ここが、私はゴールだと………ずっと憧れて………!」

 

 たきなの目を透明な雫が伝う。

 息を呑むようなその清純な涙、私は見たことがないけれど、ここには泣き落としが聞くような輩は一人もいない。

 

「いやいやしつこいっすね、アンタも。なら、模擬戦でギタギタにして格の違いでも教えてやるっすよ、ね? フキ先輩」

 

「それもいいな。司令、模擬戦許可を願います」

 

 現に、フキと乙女サクラのコンビは邪魔だから蹴散らすという意志を感じる。どちらかと言うとフキはただ厳しいだけで『己の現状を弁えろ』ってだけだが。

 

 乙女サクラは違う。ゲーム感覚で勝てると思っている。

 千束さんの怖さも知らない井の蛙、可能なら私が半殺しでもして、鼻っ柱をへし折りたいが、

 

「おーおーおー、良いじゃん!たきな、やろうやろう!」

 

 売り言葉に買い言葉。喧嘩を始める二人を、私は黙って見ている。千束さんがいるだけで、圧勝は間違いない。なのに、実力を知らない脳味噌桜色は煽るようにたきなに囁いていて。

 

「あれ、もしかしてビビってる?」

 

「ようし、二対二で勝――」

 

「っ!」  

 

「あ、あれ!?たきな!?」

 

 空気に堪えかねて、たきながその場から走り出した。射撃場を出て、姿を消してしまう。

 

「あれ? また逃げるんすかー? どうします? 私はそっちのサードでもいいっすよ。負けないんで」

 

「寝言は寝てから言いなさいよ、小娘。負けるどころか、DAにリンチ光景見せる羽目になる私と千束さんの気持ち考えてよ。貴方、明日からDAで生活出来なくさせるわよ」

 

 その後ろ姿にまた煽り文句を言う脳味噌桜色に、いよいよピークを越えそうになってきた。本当に意識を落とした後に、ホームレスの前に突き出してやろうかしら、こいつ。

 

「司令命令だ。ワイ、お前はすぐに打ち合わせだ」

 

 ちら、と千束を見やる。

 彼女もこちらを見た。

 

「こっちは私達がなんとかするから、行って来なって。正直、私だけで余裕ー余裕ー」

 

 フキと脳味噌桜色からいらっとした匂いを感じるが、あえて無視して前に進む。これはたきなが決着をつけなくてはならない。

 そこに私は必要ない。私が必要なのは──ここからだ。




A.自分が狙った場所に飛んでいく




「アンタ、時間あるならワイの狙った場所を見て見たら? 面白いモノが見えるから」

「弾丸の気持ちが分かる女だ、これくらいはやるだろうよ」
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