現実と並行セカイの境目ですか?   作:岸雨 三月

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3章:冷静と友情の国境線#3

紫色のボディにハートの眼帯という、警官という固い職業には似合わないビビッドなデザインをしたリゼのティッピーが、甘兎庵の個室内にホログラム映像を映し出す。そこには東京二十三区の立体地図が映し出された。地図のそこかしこに大きくバツ印が記入してある。

 

「これは、ここ数ヶ月発生している、連続ティッピー不正アクセス事件の発生箇所を示したマップだ。最初の事件発生は、今年四月一日の渋谷区。それ以降、渋谷区を中心に東京二十三区内で発生し続けている。この事件は千夜もニュースで聞いているんじゃないか?」

「それは知っているけど、これってそもそもティッピー室が動く程の深刻な話なの? 今の段階ではあくまで不正アクセス『未遂』でしょう? アクセスが成功して何か社会的に実害が生じたとか、重要な施設や組織が攻撃の対象になったとかなら分かるけど」

「確かに報道されている情報だけだとそう思うのは無理もないかもな。だが、この事件の一番の核心については、報道規制がかかっている」

 

リゼは深呼吸する間を置いた後に、一気にこう言った。

 

「この事件について、警察はこう断定している。この事件の攻撃に用いられたティッピーは、いわゆる『野良』である。正確に言うと、攻撃者のティッピーのアクセスログを逆探知してもティッピー機体固有登録番号が検出されなかった。この事件を引き起こした者は、ティッピー所有者登録制度の枠外の存在である」

 

「あり得ないわ」

 

長い沈黙が流れた後に、ようやく千夜が口を開いた。

 

「警察や各省庁が、ティッピー所有者登録制度を蟻の這い出る隙間も許さないような厳格な運用にするため、どれだけの努力を払っているか、リゼちゃんも良く知っているはずでしょう? 単なるティッピーの不法投棄や不法譲渡ですら厳しく制限しているのに、機体固有登録番号を持たないティッピーだなんて、そんな。しかも、機体固有登録番号を持たなければ、ネットワークに接続できないティッピーは動くことすらままならないはずでしょう。技術的にも不可能だわ……」

 

千夜はさらに自分自身に言い聞かせるかのように話し続けた。

 

「ティッピーは高度なAIを搭載している、と一般的に言われているけれど、厳密には機体内には判断系をほとんど持っていないわ。 たとえばティッピー最大の特徴である会話機能で言えば、ティッピーは人間から話しかけられた瞬間、膨大な語彙や会話情報を蓄積したネットワーク上のデータベースにリアルタイムにアクセスして、その中からクラウド上の行動管理プログラムが選択した適切な応答パターンを行っている。ティッピーに搭載された量子通信機器により、ネットワークへの接続と応答が充分に安全で高速なものになったことがこれを可能にしているわ。でもティッピー用のデータベースと行動管理プログラムを提供しているのは『公社』だけ、そしてそこにアクセスするには機体固有登録番号がなくてはならないはず。何らかの方法で番号を偽装したか、それとも機体内に自律判断可能なほど高度なAIを積んでいるのか……」

 

いずれにせよあり得ない、まるで真昼に幽霊が出たかのような話だわ、と千夜はつぶやく。

 

「幽霊(ゴースト)ティッピーか、言い得て妙かもしれないな。だがどんなに信じられなかろうがこれは事実だ。そしてさらに悪いことに、この事件の有力容疑者として捜査線上に浮上しているのが、十七歳の女子高生、保登心愛。つまり私たちの良く知る、ココアだ」

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