現実と並行セカイの境目ですか?   作:岸雨 三月

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4章:青山スランプマウンテン(漫画家ver.)#2

青山さんこと青山ブルーマウンテンはパン屋としてのホット・ベーカリーの数少ない常連客だ。職業は漫画家で、ティッピー関連のパーツが所狭しと並ぶ雑多な店内の様子を見るとインスピレーションが湧いてくるとかで、ホット・ベーカリーのイートインスペースに座ってパンをかじりながらタブレットで原稿をしているのをよく目撃されている。シャロさんがその青山さんに捕まっているとはいったいどういうことなのでしょうか――、チノは部屋で二度寝を決め込んでいたココアを叩き起こし、水道橋へと駆けつけることにした。渋谷から電車を乗り継いで水道橋駅で下り、シャロの位置情報が示す漫画出版社近くの大きな交差点の歩道へと向かう。するとそこにはシャロと青山のほかに千夜もいて、千夜と青山がシャロの両腕をそれぞれ反対側から引っ張って取り合うような形になっていた。

 

「シャロさん! どうか私を見捨てないでください、シャロさんにまで見捨てられたら私、いったいどうすればいいのか……」

「いくら青山さんでも、シャロちゃんを渡す訳にはいかないわ! だってシャロちゃんは私のものだもの!」

「ちょっ千夜! こんな街中で恥ずかしいからやめなさいよ! 青山さんも落ち着いてください!」

「本当にシャロさんの言うとおりです、二人ともこんなところで何をやっているんですか」

 

休日の朝の街中で起こった騒ぎに、通行人から「何だ? 痴話喧嘩か?」という視線が集まっている。チノの仲裁で、ようやく千夜も青山もシャロの腕を引っ張るのをやめた。

 

「いったい何があったの?」

「実は……」

 

失職。青山の口から発せられたのはそんな単語だった。

 

そもそものきっかけは、青山が漫画を描くのに愛用している液晶タブレットをなくしてしまったことだという。青山は自分の手に馴染んだものでないとうまく描けないタイプのクリエイターだったようで、それ以来一ページも描けなくなってしまったとのことだった。しかも、使っていたタブレットは過去に少数しか生産されなかった型なので、今となっては買いなおすことも困難なのだという。

 

「それで、もしかしたらシャロさんに絵のモデルになってもらえれば、また筆が乗るようになってスランプから脱出できるかな、と思いまして。あ、その、大変失礼ながら、シャロさんはとても私好みの体型をしていらっしゃいますし、私の漫画のヒロインの体格ともそっくりですので、ちょうど来月号の連載はサービス回なこともあるのでヌードモデルなどお願いしたいな、と」

 

言いながら、青山の視線がシャロの下半身を撫でまわしていた。

 

「ちょ、ちょっ! セクハラやめてもらえます!? とにかくそんな訳で、私としては恥ずかしいからそ、その、ヌ、ヌードモデル?の話は断りたかったんだけど、そこにたまたま通りがかった千夜が割って入ったから、さらに話がややこしいことになっちゃったのよね」

「うぅ、いくら生活が苦しいからってシャロちゃんがお金のために脱いだりしたら、ご両親からシャロちゃんを預かっている身としては申し訳が立たないわ」

「生活が苦しくなんてないし、そもそも千夜に預けられた覚えもないわよ」

「こうなったらやむを得ないわ。芸術のためなら、シャロちゃんの代わりに私が脱ぐわ!」

「脱がなくていい!」

 

千夜が本当に服を脱ごうとしたので、慌ててシャロが制した。

 

「と、とにかく、要は青山さんのなくしたタブレットが見つかれば、シャロさんが脱がなくてもすべて解決するのでは? 私たちで手分けして探してみませんか?」

 

チノがそう提案すると、ココアも乗っかってきた。

 

「探し物だったら、ティッピーを使えば早く探せるかもよ?」

 

そう言ってココアが自分のティッピー(桜をあしらったピンク色のデザインだ)に何事か小声で命令すると、ティッピーが突然目を光らせて全身から怪しい光を発し始めた。同時に、頭頂部から煙のようなものをあたり一面に発し始めたので、ココア以外の四人はびっくりしてしまった。

 

「ちょっココア、何やってるの!」

「これは元々軍用技術で、周辺の地形をサーチして地雷やブービー・トラップが無いかを探索するための技術の応用なんだけど。赤外線はじめ各種光線で周辺の大まかな地形をスキャンしつつ、入り組んだ地形は無害なガスを発してそのガスの到達範囲を観測することで周辺の地形を詳細に立体映像化し、物陰などの人間の目の届かないところに異物がないかを可視化する技術なんだ。タブレットくらいの大きさのあるものだったら、きっと探せると思うよ」

「ぐ、ぐんよう?」

 

いつにも増して早口なココアの説明に、目が点になるチノ・シャロ・青山の三人。ただ一人千夜だけは何かを理解したようで、目を輝かせてココアのやることを凝視していた。ほどなくしてティッピーが周辺地形と思われるホログラム映像を映し出す。ココアはそれを興味深げに眺めた後にこう言った。

 

「青山さん、探しているタブレットって大きさはどれくらいで材質は何?」

「大きさは三十cmくらい、材質は金属ということは分かりますが正確に何で出来ているのかまでは……」

「メーカー公式サイトからダウンロードしてきたスペック情報を捜索対象物として登録してみるね……ふむふむ、さっそくあっちの方に何か三十cmほどの板状の異物があるのを発見! これはひょっとしたら早速ビンゴかもしれないよ!?」

「凄いわ、さすがはココアちゃん! こんなに早く見つけ出してしまうなんて! そうと分かったら早速行ってみましょ?」

「レッツゴー!」

「あっ待ってください……」

 

チノの制止も聞かず、ココアと千夜の二人はダッシュでどこかへと行ってしまった。二人の姿が角を曲がって見えなくなってしまうと、その場にはぽかんとした表情のチノ・シャロ・青山が取り残された。

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