「あっと言う間に行っちゃったわ。さすが『振り回し隊』コンビね……。というか本当にあんなので上手くいくのかしら、疑問だわ……」
シャロの疑問にはチノも同感だった。便利な技術に頼ることにはチノも決して反対ではないが、何というか、この落し物探しに関しては技術の前に他に人間がやれることがまずあるのではないだろうか。
「青山」
たとえば、青山さんのここ数日の行動を聞き出して、タブレットを落としたと思われる場所を絞り込んでから探すだとか。そういえばリゼさんが捜査の基本は聞き込みだと言っていましたし――、そんなことを考え込んでいるチノの横から、突然大声があがった。
「青山!」
「ふぇっ! な、何でしょうか!?」
考え事をしていたのはシャロと青山も同じだったらしく、突然の謎の声にびっくりした様子だった。「青山!」という謎の声は、チノのティッピーから発せられていた。
「ご、ごめんなさい青山さん、うちのティッピーが突然失礼をしまして」
「失礼とはなんじゃ、わしは青山と話がしたいんじゃ」
チノは慌ててティッピーを止めようする。ティッピーは高度なAIを搭載してはいるものの、その本質は携帯電話である。あくまでもオーナーの意思に従う道具であり、オーナーの命令なしにオーナー以外の他人に話しかけることなど普通はしない。しかし、チノのティッピーと来たら、突然青山に呼び捨ててで話しかけるものだから、チノはびっくりしてしまった。
「い、いえ、いいんです、チノさん。チノさんのティッピーはちょっと変わった喋り方をするんですね。私に用があるみたいですし、私チノさんのティッピーと話してみます」
青山がティッピーと向かい合うと、ティッピーのつぶらな瞳が青山の目を真正面から捉えた。いったいティッピーは青山さんに何を語りかけるのか――、チノとシャロは固唾を飲んで見守る。
「青山よ、その液タブをなくしたのはいつのことじゃ」
「えっ? え、えーっと……一週間前のことです。正確には日曜でした。空き時間に作業が出来るようにタブレットを持って出かけているのですが、その日朝から持っていたはずのタブレットが帰って来てみたらなくなっていて」
「その日に朝からどこに行って何をしていたか、時刻と場所を時系列で言うてみい」
「えーっと、朝は十時から荻窪のアニメスタジオで打合せ、そのあと吉祥寺に移動して駅前でご飯を食べて、十五時から漫画の資料にするために近くのカフェを取材訪問、十八時から水道橋の出版社で今度は編集さんとの打合せ、です。立ち寄った場所やその近くの交番、駅などには忘れ物がないかは一通り問い合わせてみたのですが」
青山が自分のティッピーのホログラム画面を開きスケジュールを確認しながら答える。それを聞くとチノのティッピーは少し考え込むそぶりを見せた後にこう言った。
「ふーむ。その中だと一番怪しいのは吉祥寺じゃな。百聞は一見に如かず、じゃ。現地調査に行くぞい」