「さて、商店街を抜けてしまったが、次の予定のカフェ取材までの間は何をしておったんじゃ。いくらのんびり寄り道や食べ歩きしていても十五時まではまだ時間があったろう」
「少し食べ過ぎてお腹が苦しかったので、腹ごなしがてら公園の方へ向かってお散歩を……」
ということで、井の頭公園の方へと歩く一行。青山が素っ頓狂な声をあげたのは、公園の中のとあるベンチ付近に来た時だった。
「えーっと、確かこのあたりに来た時、とても筆が乗りそうな気分になったのでベンチに腰掛けて作業をしようと……て、あーっ!! 思い出しました!!」
「青山さん!? どうしたんですか!?」
「そうです、思い出しました。ベンチに腰掛けたら、あっちのベンチにココアさんが座っていたんです。ココアさんは大量のティッピーを連れていて、何をしようとしてるのかなーって、気になって見ていたんです。そうしたら、どういう訳かココアさんが自分の連れているティッピー達に襲われ始めて、それで慌ててココアさんを助けに入りまして。でも私が助けに入るまでもなく、ココアさんがもう一度何かをティッピー達に命令するとティッピー達の動きは止まったんですが」
「ココアさんいったい何をやってるんですか……自分の連れているティッピー達に襲われるって。そもそも普通ティッピーは人を襲ったりはしないはずですが。ましてや自分のオーナーを襲うだなんて」
おそらくココアさんのことだからまたティッピーで何か変な実験でもしようとしていて失敗したとかそんなところなんでしょう――チノがそんなことを考えていると、チノのティッピーが鋭くこう指摘した。
「青山がココアが襲われているのを見て慌てて席を立ったなら、その時にタブレットをどこかに置くか落とすかしてしまった可能性が高い。青山が座っていたというベンチのあたりを重点的に探すんじゃ!」
果たして、ティッピーの言う通りであった。
「見つかった! 見つかりました!」
チノ達はベンチの下に土埃をかぶった液タブを発見した。青山は埃をはらい、愛しい我が子を抱きしめるかのようにそれを抱きしめる。
「ああ……ありがとうございます。私の大事な液タブ……これでまた、絵を描くことができます」
「本当に良かったですね。これで私も脱がなくて済むし」
「シャロさん見つからなかった場合は脱ぐつもりだったんですか……? それはともかく、ティッピーお手柄です。青山さんが一週間探しても見つからなかったものの場所を、こんなスムーズに探し当てるなんて」
「なあに、落とし物探しの時はまずは現地に行って落とした時の状況を徹底的に再現してみる、その基本を忠実に守っただけじゃ。体を動かさず推測しているだけでは分からん。通信機器が進歩した今のような時代じゃからこそ、今回のように現場を自分の目で見て初めて思い出すこともあるからのう」
「それにしても、青山さんの話を聞いて吉祥寺が怪しいっていうのはどうやって分かったのかしら」
「あの選択肢の中では一番寄り道しそうな場所じゃし、実際スケジュール的にもここで過ごした時間が一番長かったはずじゃからな」
「通信機器であるティッピーに通信機器に頼らないことの大切さを説かれる」という状況は何ともシュールだ。しかしとりあえず液タブが見つかったこととその経緯をラビットハウスの掲示板を通じてココア達に連絡する。すると一分も待たずにココアから返信があった。
<<むむむ……チノちゃん達に先を越されちゃったね。でも私たちもこの敗北から貴重な学習効果を得たよ。物探しという課題設定においては対象物のスペック情報を用いた定量的なアプローチよりも会話による情報収集という定性的アプローチの方が有効、そしてティッピーの外付けセンサーを用いた捜索よりも人間の五感というセンサーを用いた捜索の方が有効という訳だね。人間の五感とティッピーのセンサー、どちらがどう優れているのかは今後の研究課題としてまだまだ分析が必要だね。よーし、次は負けないよー!>>
「そんなに小難しく考えるようなことじゃないし、そもそも次があったら困るんですけど!」
「ココアさんが青山さんと会っていたことを思い出してくれていたら、こんなに探し回る必要も無かったです」
ココアの返信を見て、シャロはチノと目を合わせて呆れ気味に苦笑した。