現実と並行セカイの境目ですか?   作:岸雨 三月

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5章:うさぎになりたかったバリスタ#2

「いえーい!!! みゃぐろ!! あにゃご!! はまぐりー!! おしゅし最高ー!」

 

食事が始まって間もなく、シャロはカフェイン酔いでハイテンションになっていた。シャロは自分がカフェインで酔う体質だという自覚はあるので、出された緑茶を最初は遠慮していたのだが、「お寿司に合うものといったらあつーいお茶じゃない? この店、お茶も良い茶葉を使ってるみたいでとっても美味しいわ。シャロちゃんだけこれを飲まずに帰るなんてもったいないわね。お付き合いだと思って一杯くらい飲んでも大丈夫じゃない?」と千夜に乗せられ、「じゃ、じゃあ一杯だけなら……」と飲んでしまった結果がこれである。ちなみに、緑茶のカフェイン含有量は同じ量のコーヒーの約三倍と言われている。

 

「みどりちゃん!! 今回のことほんとーーーーにわたしは心配したんですよ!! もうこりぇでみどりちゃんのまんががよめないかと思うと、わたし、わたしぃ……」

 

一方で凛も実は泣き上戸だったらしく、先ほどまでのデキるビジネスウーマンなイメージはどこへやら、ビールジョッキを飲み干して青山に絡んでいた(どうやら「翠」というのが青山の本名らしい)。液タブ紛失事件で担当編集として、いや編集者以前に青山の一ファンとして、どれだけ自分が心を痛めていたかということを涙ながらに切々と語っている。同じくらいの量のビールを青山も飲んでいるはずなのに青山の方は顔色一つ変えていないのは、実は青山の方がお酒に強いのだろうか。

 

「シャロ、流石に酔っ払いすぎだぞ…… 少し水を貰った方が良いんじゃないか?」

「えーっ? じぇんじぇんよってないですよーリゼしぇんぱい! ねえティッピー!! わたししょんなによってるー?」

「桐間 紗路さんの呼気中のアルコール含有量を測定します…… 1Lあたり0.025mg以下、平常値です。桐間 紗路さんはアルコール酔いの状態にはないと考えられます」

「ティッピーもしょう思うわよねー! さあさあ、じゃあティッピーもあつーいお茶飲みましょ!!」

「私ことUniverse A30+型端末は保護等級IPX5相当の防水性能を備えているものの、熱湯へ暴露した場合の性能についてはテストされておりません」

「えー!? あんたわたしのお茶がのみぇないっていうのー!?」

「すみません、よく分かりません」

「シャロさん落ち着いてください……。私、酔っ払ってティッピーに絡んでいく人は初めて見ました……」

 

シャロが自分のティッピー(灰色のボディにつり目でちょっとガラの悪そうな表情をしているデザイン)に絡みそっけなくあしらわれるのをチノは目を丸くして見ていた。人間ならともかく機械であるティッピーに絡みに行くとは。しかも最後は「すみません、よく分かりません」とAIのデータベースに適切な応答が無い場合のデフォルトの返答をされているのが涙を誘う。流石に「カフェインで酔ってティッピーに絡み無理やりお茶を飲ませようとする人」の存在は開発者も想定外だったに違いない。

 

「シャロちゃんはコーヒーだとブレンドの違いで酔い方が違うのよね。緑茶だと絡み酒、ならぬ絡み茶になるのかしら?」

「む? 飲み物によってシャロちゃんの酔い方に違いが……? それは面白そうな情報だね!」

 

千夜が何気なく言った一言に今度はココアが反応する。何事かしばらく考えた後に、ココアは勢い良くこう言った。

 

「はいはいはーい! シャロちゃんの飲み物による酔い方の違い、実験・実証する方法を考えました! まず、十二人のシャロちゃんを用意します。次に、アメリカンコーヒー、ブレンドコーヒー、エスプレッソ、緑茶、ドクターペッパー、エナジードリンクの六種類の飲料と、それぞれを味は同じだけれどデカフェした飲み物、計十二種類を用意します。そして十二人の私が十二人のシャロちゃんと一人ずつ個室に入り、飲み物を与えます。観測者バイアスを排除するために二重盲検法を採用し、どれが本当のカフェイン入り飲料でどれがデカフェしたプラセボなのか、シャロちゃんにも私にも知らせません。飲み物を与えた前後でシャロちゃんの性格がどう変化するか私が記録します。シャロちゃんの性格をどう数値化するかが課題になるとして……うん、こんな感じで今度実験してみたいんだけど良いかな?」

「いや友達を実験材料にするな! というかその実験、『まず十二人のシャロを用意します』てところで無理があるだろ! どこにもう十一人のシャロがいるんだ!」

「うーん、その問題については考慮していなかったね……」

「普通真っ先に気付くだろ!」

「十二人のわたしと、十二人のクォクォア……? いえーい! 二十四人の私とココアで火を囲んで踊るのね! レッツパーリィ! 楽しそう!」

「シャロは乗っからなくていい! 二十四人のカフェイン酔いしたシャロとココアが火を囲んで踊るってなんだそれは!? 大惨事か!?」

 

カフェイン酔いしたシャロと、「科学に酔った女」の異名もあり素面でも奇想天外な言動を行うココア。そんな二人の攻勢にリゼはたじたじになっていた。シャロ凛が撃沈した今、この食事会でのツッコミ役はもはやリゼ一人の役目になっていた。ひたすら天然にボケ倒すココシャロに一人必死でツッコミを入れて食らいついていくリゼの姿は、チノの目には、崩壊する戦線を何とか持ちこたえさせようと孤軍奮闘する前線指揮官のように見えた。もっともこれは、リゼの「援軍」になるはずのもう一人のツッコミ役、チノがお寿司のあまりの美味しさに語彙力を失っているからという理由もあるのだが。それにしても、店に入った当初の緊張した雰囲気は吹き飛んだが、九人ともあまりにも砕けすぎだ。酔っ払い二人とココアを中心に結構大声も出しているので、他の客がいたらうるさいと追い出されていたかもしれない。貸切で本当に良かった、と心底ほっとしているチノだった。

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