――そして三十分後――
「はぁ、はぁ、はぁ、か、勝った………」
「はぁ、はぁ、はぁ、リゼお嬢様、本当にお強いですねー……、私を負かしたのはリゼお嬢様が初めてですよー……」
激闘の後、あっち向いてホイ勝負はリゼの辛勝で決着した。
(リゼ先輩、あっち向いてホイ勝負でもやっぱりかっこいい……、でも、女の子同士のあっち向いてホイ勝負を三十分も見させられ続ける状況って、よく考えるとかなりシュールね……)
あまりの激戦ぶりに見ている側もどっと疲れてしまった。千夜などは最初は「フレー、フレー、リゼちゃん!」とどこからともなく取り出したメガホンで勢い良くリゼを応援していたが、だんだんと力尽きて、最後は時折思い出したように「ふれー……、ふれー……」と微かな声で力なく繰り返すだけの存在と化していた。
「とにかく、これで命名権を手に入れたぞ。さあ千夜、名前をつけてやってくれ」
「お店の新しい看板メニューにすることを目指してますから、いっちょカッコいいやつをお願いしますねー」
リゼとメイドにそう振られ、はっと我に返った千夜はパンケーキの皿を真剣なまなざしで眺めて検討を始める。
「商品名は個性も大事だけど、短く分かりやすく覚えやすい方がいいわよね……。この商品の特徴は何と言ってもその見た目……白いパンケーキとたっぷりの黒いチョコソースの対照性……、黒いチョコの海に浮かぶパンケーキ……、闇に浮かぶ円いもの……、!!! 整ったわ!」
ついに名前を思いついた様子の千夜が声を上げる。果たして千夜はどんな名前をつけるのか――
「決まったわ。このメニューの商品名はズバリ『月』ね。チョコソースに浮かぶパンケーキを夜空に浮かぶ月に見立てて、シンプルに表現したわ」
「シンプルすぎよ!!!」
シャロは思わずツッコミを炸裂させてしまった。
「いや、その商品名じゃどういう系の味のメニューなのかすら全く分からないじゃない、お品書きに『月』とだけ書かれてたら何事かと思うでしょ!」
「確かに、メニュー名って普通は頼んだお客さんが何が出てくるのかイメージ出来るよううなのが良いんじゃないか? この新メニュー、タピオカとかもちもちの生地とかチョコとか色々アピール要素があるんだから、それをしないのは勿体ないような」
「そうかしら? 変にごてごてと名前を長くしたり、説明過剰になるくらいだったら、短く覚えやすく美しく、が私のモットーなのだけど……。初めてお店に来るお客さんが何のことか分からなければ、説明用の指南書を配れば良いわ」
「最初からそれを配りなさいよ!!」
シャロからしてみればツッコミどころ満載のネーミングだったが、メイドは「まあ私は勝負に負けた側なので特に何もないですねー。指南書の件も店長と掛け合って一度検討しますー」と言ってあっさり受け入れたので、そのまま新メニュー名は「月」に決まってしまったのだった。