現実と並行セカイの境目ですか?   作:岸雨 三月

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6章:振り向けば月、いいえパンケーキ。#4

「リゼ先輩、本当に警官だったなんて……、かっこいいです! やっぱりただの『ちびっ子達を集めて警官ごっこして遊んでる人』じゃなかったんですね!」

「いや逆にそんな風に思われてたのか!? まあ薄々そうなんじゃないかと思ってはいたけれど……。でもとにかく、シャロの飲み込みが早いのはありがたいな」

「それにしても、ココアが疑われてるなんて……。確かにココアは頭が切れすぎて何をしでかすか分からないようなところはあるし、ココアに連れて行かれた秋葉原のティッピーショップはいかにも怪しい雰囲気を醸し出してはいたけれど、まさか本当に違法改造に手を出しているなんてことは……」

「実はその秋葉原のティッピーショップに行ったことがさらにココアの立場を悪くしていてだな……。あの店は表向きには普通のティッピーグッズを売っているが、常連客に対して違法な品やサービスを密かに提供していることが内通者からの情報でほぼほぼ確定的になっている。次の一斉捜査で間違いなく摘発の対象になるだろう。そんな店に出入りしていることが分かってしまったから、上層部はココアに対しての疑いを一層強めている……」

「あの、それで私はいったいリゼ先輩のために何を出来るんでしょう? 何か出来ることがあるから、私今日ここに呼ばれたんですよね?」

 

シャロはぐっと期待に満ちた表情でリゼを見つめる。リゼはこう答えた。

 

「ああ、そこで話は千夜の言ったティッピーコンテストの話とつながってくる。ティッピーコンテストは単なる競技大会ではなく、日本のティッピー技術を世界にアピールする場とも位置づけられており、政府も重要視しているイベントだ。特に来年は東京でティッピーオリンピックの開催も予定されているだろ? それに向けて今回のコンテストでは海外から視察の来賓も多く訪れることになる。そんなコンテストで違法ティッピーが使用されたら、政府のアピールしているティッピー技術の安全性の根拠は根幹から崩れてしまう。面子丸潰れってやつだ。そこで警察側も万一にも違法ティッピーが使用される可能性を未然に防ぐべく複数の監視の目をコンテストに潜り込ませようとしている。もちろん公式の警備にも参加しているが、一般参加者に扮した私服警官を紛れ込ませるくらいのことはしてくるだろうな。そして渋谷の違法ティッピー事件の最有力容疑者であるココアは、最も注意深く監視される対象になる……」

「そう、だから、大会中にココアちゃんを逮捕しようと警察の手が迫ってきたら、返り討ちにしてボコボコにするのが私達の役目なのよね♪」

「ふえっ! ええっ! そうなんですか!? リゼ先輩!?」

「いやそんなことは言ってない! お願いだから千夜は話をややこしくしないでくれ……」

 

先ほどまで大人しく聞いていた千夜が話に割り込んできた。千夜は「そうだったかしら?」という顔をしている。千夜は冗談みたいな過激なことでも笑顔で言うから時々怖いな、そう思いながらリゼはこう話を続けた。

 

「警察は確たる証拠もなしに誰かを逮捕したりはしない。だが、ココアの言動は色々と誤解を招きやすいのも事実だ。ましてやティッピーコンテストのような晴れ舞台となれば、何か無茶をするかもしれない。出来る範囲のことで良い、ココアが無茶なことや誤解されるようなことをしないように、千夜と一緒に見守っていて欲しいんだ。もちろん第一には同じチームである私がその役目をする。競技中はチーム同士で協力プレイしたり、違うチーム同士で通信を取るのは禁止されるからそもそも出来ることは限られるしな……。あくまでも千夜とシャロにお願いしたいのはサポートだ。人目の数は多ければ多いほうがいい」

「確かにココアの性格なら、ティッピーコンテストともなったらテンション上がるあまり怪我するようなことするかもしれないですね……。分かりました! 可能な限りココアのこと見張っておくようにします」

 

シャロの元気な返事にリゼは「ほっ」と緊張が解けたような様子になる。警視庁特別嘱託職員だとか、違法ティッピーの捜査だとか、普通の女子高生からしたら突拍子もない話ばかりしたので、シャロからどういう反応が返ってくるのか、笑われたり拒絶されたりしないか不安に思っていた面もあったのだろう。自分の重荷を少しでも分散することが出来て救われたような顔をしていた。今度は千夜が「良かったわね、リゼちゃん」と声を掛ける番だった。

 

「それにしても捜査だとか逮捕だとか、まるでドラマみたいな話ですね……。何だか現実感がないです」

「ちょっとわくわくするわよね、こういうの。これで後は銃でバンバン撃ち合うシーンがあれば本当にシャロちゃんの好きな刑事ドラマそのものになるわね」

「いや私の好きなのはミステリ寄りのだから! そういうのが好きなのはどっちかと言うと千夜でしょ! というか流石に撃ち合いは危険すぎて嫌だわ!」

「はーい! じゃあ私シャロちゃんをかばって撃たれて『何じゃこりゃあああ!』って言うやつやりまーす!」

「縁起でもないしやらなくていい!」

 

その時、千夜シャロの会話を聞いていたリゼがニヤリ、とした。

 

「銃なら本当にあるぞ。いざという時にシャロ達を守るためのものが、な」

 

そう言うとリゼはチラッと後ろを振り返り、個室のドアが閉まっていることを間違いなく確認すると、「それ」を腰に装着したケースから取り出した。女子高生であるリゼの手と比べると不釣合いな大きさがあり黒光りして確かな存在感を放つ装置。千夜とシャロの素人目にはモデルガンと「それ」との違いは厳密には見分けがつかなかったが、「それ」は実戦で用いられることを前提にしているのだというリアリティを感じさせるのに十分なほど精巧な作りをしていた。リゼの話を聞いて驚かなかったシャロも流石にこれには慌て、混乱しながらこう言った。

 

「じゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅ、銃じゃないですかリゼ先輩!! ほほほほほほほ本物なんですか!!?? じょじょじょじょじょじょ女子高生とはいえ、銃を持ち歩くのは銃刀法違反なのでは!!??」

「いや、『女子高生とはいえ』の意味が分からんが……、ああ、間違いなく本物さ。どんな法律にも抜け穴というのはあるものだからな、銃刀法も例外じゃない。特別嘱託職員は基本は銃は持てないが、ごく一部の例外的な者だけは銃を持つことが出来るんだ……」

 

リゼの解説は続いていたが、「いや銃刀法に抜け穴があったらダメなんじゃ……」と心の中でツッコんでしまうシャロだった。リゼに協力すると言ったことを決して後悔はしないが、予想以上の大事に巻き込まれようとしているのかもしれないと感じシャロは思わず身震いをした。千夜には「リゼちゃんに守ってもらえるだなんて良かったじゃない、まるでお姫様ね、シャロちゃん」と茶化されたが、シャロとしては、実際にこの銃が撃たれる場面が無いことを祈るような気持ちになった。

 

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