「あっ! シャロちゃん! 千夜ちゃん! 青山さん! ここで出会ったっていうことは行き先は同じなのかな?」
「誰かと思ったらココアじゃない……。どうやらそのようね。ココア達に一度は距離を離されたと思ったけれど、どこかで追いついたみたいね」
チノ達三人がリニアの自由席車両の通路をみんなで座れる席を求めて移動している最中。ココアは車内に千夜シャロ青山チームの姿を見つけることが出来た。聞くとどうやらシャロ達もチノ達とほぼ同時にクロスワードを解き終わり、全く同じように忠海がゴールだという結論に至ったらしい。
「シャロちゃん達と一緒に旅行できるなんて、何だか修学旅行みたいで嬉しいな。この二チームで行き先が一致したってことはゴールに関してはたぶん合ってるっぽいね。あとは決勝に行けるかどうかは私達より先行しているのが何チームいるか次第かぁ……。運を天に任せて祈るしかないね」
「もしも私達のどっちかだけ決勝に行けないなんてことになったらちょっと嫌だわね。四位五位が同着だった場合ってどうなるのかしら……」
チーム間での協力プレイや、違うチーム同士で答えを教え合うことはルール上禁止されているが、最後の問題も解き終わって結果を待つばかりの今、二つのチームで同じ時間を過ごしてもルール違反には当たらないだろう。リニアの中の一時間ほどはココアの言うとおりまるで修学旅行の行きの電車のような楽しい時間となった。千夜シャロ青山の座っていたボックスシートの隣が運良く空いていたのでチノ達はそこに腰掛け、ココアのお母さんが腕によりをかけて作ってくれたお弁当を広げてランチタイムを楽しみながら談笑したり、みんなで車内販売のカートのお姉さんからアイスを買ってその硬さにびっくりしたりしていた。だが、大阪でリニアから新幹線に乗り換え、福山駅で新幹線を「のぞみ」から「こだま」に乗り換え、三原駅で在来線の呉線に乗り換え――と何度も乗り換えて、窓の外の風景が都会から田舎に変わっていき、徐々に周りの乗客たちも少なくなってくるにつれて、六人の口数も少なくなっていった。本当に向かっているゴールは合っているのか、合っているとしても決勝に進出できる四枠に自分達は入っているのか。不安なムードが六人を覆い始めたのだ。
「今更だけど大久野島が決勝の舞台だからゴールは忠海って予想は合ってるんだろうか……、私が言い出したことだから、これで間違っていたら責任重大だ……」
「私はそもそもクロスワードを正しく解けてるのかが不安になってきたわ……。ねぇシャロちゃん、ヨコのカギの2、『宇治』で本当に合ってるのかしら? 『パリ』かもしれないって悩んだんだけれども」
「いや何で源氏物語の舞台がヨーロッパになるのよ!? そんなことより一番不安なのはやっぱり私達の先に何チームいるのかだわ。ねぇ青山さんもそう思いません?」
「ふえっ!? ええ、そうですね。源氏物語の舞台は私もチリだと思います」
「南米になっちゃった!? っていうか私の話聞いてました!?」
この中で一番年上のはずの青山は上の空な感じの受け答えをしているし、いつもは女社長としての貫禄を備えている千夜も今ばかりはそわそわを隠せないような様子だ。この状況で一番落ち着いているのは意外にもココアだった。ココアさん、こういう時に一番騒いだりしてうるさそうなのに――チノはそう思った。
「私は信じてるから、みんなのこと」
ココアは膝上に読みかけの本を開いたままでそう言った。
「私はクロスワードパズルも地理も苦手だけど、チノちゃんが頑張ってパズルを解いてくれて、リゼちゃんが一生懸命答えを考えてくれたんだし。私に出来るのはその答えを信じることだけだよ。千夜ちゃんシャロちゃん青山さんの出した答えとも同じになったんだし、三人のことも信じてるからきっと大丈夫だよ。信じて、それで駄目だったら、その時のことはその時になったら考えたらいいんだよ」
そう言うココアの膝上に開かれている本は「パンの比較文化論」という変わったタイトルの本だ(今どき珍しい紙の本だ)。リニアから乗り換えたあたりでココアは量子論がどうとか言うタイトルの難しそうな本を読み始めていたのだが、既に読み終えてしまったらしく二冊目に入っているのだった。そのタイトルを見てチノは思わずこう問いかけてしまった。
「面白いんですか? その本」
「面白いよ! この本を読むと世界各国、特にヨーロッパの国にはその国その国によって色んなパン文化があることが分かるよ。チノちゃんはガレット・デ・ロワって知ってる?
フランスのお正月に家族や友達とのパーティーで食べられるパイ菓子の一種なんだけど。パイの中に指輪が入っていて、切り分けた一切れの中にそれが入っていた人はその年の王様になれるんだって! そして王になった者はみんなに何か一つ命令できる権利が与えられる……」
またココアさんの説明癖が始まった――そう呆れ気味で聞いているチノに向かって、ココアはにこにことしながらさらに突拍子も無いことを言った。
「そうだ! もしもティッピーコンテストで優勝出来たら、チノちゃんが王様ってことで、私達に何でも一つ命令して良いよ」
「ちょ、ちょっと待って!? その『私達』って私も含まれてる? まあチノちゃんの命令だったら変なことはされなさそうだけど、いきなり巻き込むのやめなさいよ!?」
シャロが思わず横からツッコミを入れた。チノもツッコミを入れる。
「いや突然何なんですか……。だいたい、ティッピーコンテストはチーム制なんですから、私が優勝した時はココアさんも優勝者じゃないですか。優勝者が優勝者に命令するってもはや何なのか分かりません」
「まあまあいいじゃない、決勝に向けてモチベーションを上げるためのお姉ちゃんからのちょっとしたサプライズプレゼントってことで。ということで何を命令したいか、今のうちに考えておいてね!」
「既に決勝に進出出来る前提で話をしている図太さが凄いです……」
そうチノが言ったとき、列車内にアナウンスが流れた。列車が忠海駅へまもなく到着することを告げるアナウンスだ。チノ達は思わず不安げな表情で窓に張り付き、駅ホームの様子を見ようとしてしまう。だが列車がホームに近づくにつれて、その表情はみるみるうちに明るいものへと変わっていった。駅のホームには「ティッピーコンテスト予選ゴール」と書かれた大きい横断幕が掲げられていたのだ。少なくともゴールを間違えていないことが分かりチノ達はほっとした。そしてチノ達がホームへ降り、ティッピーコンテスト運営スタッフの案内を聞いた時、その表情は嬉しさを爆発させるような笑顔へと変わった――
「おめでとうございます! みなさんのチームが三位と四位、ティッピーコンテスト決勝進出です!」