現実と並行セカイの境目ですか?   作:岸雨 三月

39 / 72
8章:この出会いと経験に100万点!(うさぎビーチver.)#1

「わぁ……、本当にうさぎがいっぱい! もふもふ天国です! これが大久野島、ここなら楽しく過ごせそうです」

「一応言っておくけれど、この島へは戦いに来たんだからな?」

 

 予選突破の喜びと興奮も冷めないままに、ココア・チノ・リゼ・千夜・シャロ・青山の六人はフェリーで決勝会場・大久野島へと渡ることになった。桟橋を下りるとさっそく出迎えてくれるもふもふしたうさぎ達に、いつもは冷静なチノまでが夢中になっている。ツッコんでいるリゼの方も、口ではそう言いながらもうさぎを触ってみたくてうずうずしているのが分かる。だが、一行の中で一人だけこの状況に恐怖を感じている人物がいた。

 

「イ゛ヤ゛ー! うさぎがこんなにいっぱいいるなんて! ここはこの世の地獄か何かかしら!? ってちょっと! 寄って来ないで! 寄って来ないでって言ってるでしょ! 何 で 私 の 方 に ば っ か り 寄 っ て 来 る の ー !?」

「シャロさーん!」

 

 餌を持っていると思われたのだろうか、積極的にこちらに寄ってくるうさぎを怖がってシャロは駆け出して行ってしまった。実はシャロがこの島に渡るまでも一騒ぎがあった。忠海駅に着いた時にチノ達は、決勝会場はここからフェリーで十五分ほどの大久野島であること、島のホテルを手配しているので翌日の決勝までは島で過ごして欲しいことなどを大会スタッフから説明された。だがシャロは「ほほほほほ本当に大久野島が決勝会場なんですか!? イ゛ヤ゛ー! たくさんのうさぎに囲まれて丸一日過ごすなんて……。私、舌を噛みます!」と激しく抵抗したのだ。都会の日常生活でうさぎに出会うことなんてまずないので(幼馴染の千夜を除く)四人も知らなかったのだが、シャロはうさぎ恐怖症であるらしい。五人の説得で何とかフェリーに乗せることには成功したのだが、降りたとたんにこの有様である。

 

「ココア! 何かこいつらを追い払うようなティッピーの機能とかってないの!?」

 

 いつの間にかココアの後ろに隠れたシャロが言う。

 

「ふむ、『対うさぎ用決戦兵器』とまで言われた私のティッピーの隠し機能、今こそ開放する時かもしれないね……」

 

 意味深にココアが言うと、ココアのティッピーは怪しげな光を目に灯し、「プシュー」という作動音をさせ始めた。いったい何をするというのか。固唾を飲んで見守る五人。数秒後、ティッピーの口が開き、そこからコロコロと茶色い小さい粒のようなものが転がりだした。

 

「じゃーん! ラビットフードだよ! 実は忠海駅前のコンビニで買って仕込んでたんだ。さあさあうさぎ達、ティッピーの胸に飛び込んでおいで! そしてこのお姉ちゃんの胸にも!」

「逆にうさぎを呼び寄せてどうするのよー!?」

 

 あたりにいるうさぎ達がココアのティッピーのところに集まってきて、ラビットフードを夢中で食べる。うさぎ達の食欲は旺盛で、ラビットフードはあっという間になくなってしまった。行き場を無くしたうさぎ達の向かう先は、ティッピーの横で「さあ飛び込んで来なさい!」とばかりに大きく両腕を広げているココアの胸、ではなく――

 

「だから何でこっちに来るのよー!?」

 

 一羽残らず、シャロの方に突撃していた。シャロは慌ててココアの後ろを離れて逃げ惑う。

 

「シャロのうさぎ恐怖症は相当だな。うさぎって別に自分から噛みに来たりはしないし、可愛いものだと思うけど。ほらこいつとか、なかなか愛嬌のある見た目をしていると思わないか? って、ん、こいつ良く見るとチノのティッピーとそっくりなような」

 

 そう言いながらリゼは群れから少し離れたところにいた一羽をつまみ上げる。ほかのうさぎは長い耳に前足後足があっていわゆるうさぎっぽい外見なのだが、その白いうさぎだけはもじゃもじゃとした毛玉のような見た目で、長い毛に埋もれてしまって前足も後足もどこにあるのか分からない。耳も長い耳ではなく、どちらかというと猫耳のような三角の耳をしている。白いボールに獣耳の生えたような見た目は、確かにティッピーに良く似ている。毛玉うさぎはリゼが抱えようとしたところで逃げ出し、代わりにチノの腕に飛び込んできた。

 

「不思議なうさぎさんですね。それにこの子、毛が長くてすごくもふもふです! とっても腕になじむ触り心地です。まるで今までずっとこのうさぎを飼っていたことがあるかのような」

「私よりチノのほうになついてるな。ってこいつ、もしかしてアンゴラウサギじゃないか?」

 

 そう言うとリゼは自分のティッピーを通じてネットで調べた「アンゴラウサギ」の画像を見せてくれた。毛玉のような見た目は、確かに目の前のうさぎとそっくりだ。チノのティッピーとも似ていて、この生き物がティッピーの外見のモデルになったというのもなるほどと頷ける。だが、大久野島に住んでいるうさぎはいわゆる普通の外来種のうさぎ、アナウサギのはずだ。なぜ品種の違うアンゴラウサギが一羽だけ混ざっているのか。それはリゼにも分からないとのことだった。

 

「シャロさんもこの子だったら大丈夫なのでは? もふもふしてみますか?」

 

 そう言ってチノは毛玉うさぎをシャロの方に近づけようとするが、シャロはふるふると首を横に振る。

 

「うさぎがモデルのティッピーはよくても、本物のうさぎは駄目なんですね」

「それとこれとは別問題なのよ……」

 

 そんなシャロの様子を眺めていた千夜と青山はこうつぶやいた。

 

「まずはゆっくり子うさぎから慣れていくとかかしら? 昔からシャロちゃんうさぎ苦手ではあったけど、今回が克服する良いチャンスかもしれないわね」

「シャロさんにとっては災難かもしれませんが、おかげで逃げ惑う表情・ポーズなど一級の作画資料を入手できました。シャロさんの犠牲は決して無駄にはしません」

「ちょっ、勝手に死なせないで欲しいんですけど!?」

 

 ティッピーコンテスト決勝はこの島全体を使った「シストの地図」になると聞いている。当然、決勝中にも行く先々でうさぎと遭遇することになるだろう。同じチームのシャロがうさぎを怖がって戦力にならなかったら困るのは二人のはずなのだが、危機感を覚えるでもなくどっしりと構えているのは二人らしかった。

 

 桟橋からホテルまでは徒歩でも十分もかからない距離だったが、大会運営によってバスが用意されていた。アスファルトで舗装された道の上でも構わずくつろいでいるうさぎを轢かないよう、ゆっくり走るバスに乗って六人はホテルに向かう。ホテルには旅館風の和室が二部屋、チームごとに用意されていた。チノとリゼは部屋に荷物を下ろし一休みしていたが、ココアは「島の探検に出てくる!」と言って飛び出して行ってしまった。しばらくすると、二人のティッピーがメッセージの着信があったことを告げる。見るとココアから全員に向けてこんなメッセージが発せられていた。

 

[島の南側に海水浴場を発見したよ! 夜になると閉まっちゃうからあんまり時間が無いよ! 今のうちにたっぷり遊び倒さなきゃ! みんな水着持って集合!]

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。