現実と並行セカイの境目ですか?   作:岸雨 三月

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8章:この出会いと経験に100万点!(うさぎビーチver.)#4

短い時間ではあったが夕方のビーチを堪能した六人は、水着から着替えてホテルに戻った(水着から着替えるとき、ココアに「この水着やっぱりきついなぁ。チノちゃんなら着れるかもしれないから、良かったらこれはチノちゃんにあげるね」と言われた。あまりに無邪気な言い方にイラッとする気にもなれずチノはそのまま受け取ってしまった)。ところでチノには一つ気になっていることがあった。大会関係者の貸切になっているこの島で、「TIPPEE CONTEST 2052 SUMMER」のロゴ入り公式Tシャツを着たスタッフや警備員はちらほらと見かける。だが、一位・二位で決勝に進出した他の参加者二チームが同じようにこの島に滞在しているはずなのだが、彼ら(彼女ら?)とは一度もすれ違っていないのだ。どんな人たちが決勝で戦う相手なんだろう? チノはずっと疑問に思っていたが、その疑問は六人で向かったホテルの夕食会場で解決することになった。

 

「夕食のお席はあちらになります。決勝参加者のみなさんのテーブルは隣同士で固めていますので、よろしければぜひ参加者同士の交流を深めてください」

 

 そう言って案内されたテーブルの隣のテーブルには三人の先客がいた。決勝参加者ということは明日はライバル同士でもある。情報漏洩を避けるのならあまり近づかないようにするという選択肢もあるのだが、全く意に介さない様子のココアはさっそく話しかけに行っていた。

 

「こんばんは~、席順からするとあなたたちが予選一位のチームさんかな……って、あーっ!」

 

 予選一位のチームのうち一人は、ココアもチノも見覚えのある顔だった。何と、秋葉原のティッピーショップにいたギャル風の店員さん――ギャルにしては似合わない可愛らしい水玉のパンツが見えてしまっていて、チノに関西弁でツッコまれていた店員さんだ。

 

「あっ……その……あ、あしたは、よ、よ、よ……」

 

 やはりギャルにだけは苦手意識があるのか、ココアが急につっかえがちの口調になる。一方のギャル店員もパンツの件とチノの顔は覚えているらしく、気まずそうに赤面している。が、やがて意を決したようにギャル店員は立ち上がりチノにこう言った。

 

「あの、その、あの時のことは、ありがと……。でも明日はあたしらライバル同士なんで! パンツの件では遅れ取ったけど、明日はあたしらそれぞれの『カラー』見せて勝負するんで! 手加減なしでヨロシク!」

 

 ビシッと音が出そうなくらい指を立てて勢い良くチノに宣戦布告する。だがチノはそのメッセージをどう勘違いして受け取ったのか、顔を赤らめながらこう言った。

 

「あ、あの、私その……見せパン勝負に関しては、お受け出来ませんので!」

「「「「「「「「!!!???」」」」」」」」

 

「み、みせ……? いや、ティッピーコンテストの話だろ?」

 

 その場の全員が口をぽかんとさせた状態になるが、いち早く復帰したリゼがそう指摘する。チノは勘違いに気付き、今度は顔を真っ赤にさせしどろもどろに言った。

 

「す、すみません、パンツの話から『カラー』だとか『見せる』だとかおっしゃられたので、都会ではパンツを見せて勝負する見せパン勝負的なものがあって、それを挑まれたのかとてっきり……。それにさっきの水着勝負のことも頭に残っていたので……」

「いやいや!? 水着と下着ではレベルが違いすぎるだろ!? いくら都会の風紀が乱れているからってパンツを見せ合ったりはしない!」

「チノちゃんの頭の中にある都会がどういうイメージなのか、一度頭の中を覗かせてもらいたいわね……」

 

 シャロも苦笑しながら言った。結果的に場の空気が和らいだところで、残りの二人にも挨拶しようと千夜が近づいていく。どうやら、残りの二人も千夜にとっては面識のある人物のようだ。

 

「ち、千夜様……! こんなところでお会いできるとは……! 千夜様と一緒にティッピーコンテストに参加できるなんてなんたる光栄……! いやでも、これだと千夜様と戦わねばならないことになってしまう……」

「あら? あなただったのね。こんなところで会うだなんて奇遇だわ。というか、そんなにかしこまった態度にならなくても良いのだけれど……」

 

 チームメンバーのうち一人は、リゼが甘兎庵に行った時に席まで案内してくれた店員、同じお嬢様学校の生徒の甘兎店員だった。それにしても、とリゼは思う。リゼに対してはずいぶん冷たい態度だったのに、千夜に対するこの豹変ぶりは何なのだろうか。単にバイト先の社長の娘には敬意を払っている、では説明がつかないような気がする。「やっぱり私何か嫌われることしたか?」と思わず考え込んでしまうリゼだった。

 

 メンバー最後の一人は、リゼ・千夜・シャロにとって面識のある人物――メイド喫茶で千夜とあっちむいてホイ対決をしていたメイドさんだった(どういう訳かここでもメイドの格好をしていた)。千夜は再会できた嬉しさにメイドの方に駆け寄ろうとするが、その時既にメイドはココアとだいぶ意気投合していた。

 

「やー、さすがは『渋谷の天才女子高生ティッピーエンジニア』と言われる保登さんですー。ティッピーに対する知識の深さが段違いですねー」

「たはは、そこまで言われると流石の私も照れるよー。でもメイドさんも、結構凝ったデザインのティッピー連れてるね? このカスタマイズは中々の玄人じゃないと出来ないと見たよ?」

「あっ、分かりますー? このティッピーはWhiteBerry社製のものをベースにカスタマイズしていて……」

「もしかしてメイドさんもWhiteBerry派?  やっぱり多機能さでいえばここに敵う製品はないよね」

「えっ、ということは保登さんもですかー?」

 

「「私達、気が合うね(合いますねー)!」」

 

「うーん、ココアとは初対面なのにこの懐への潜り込みっぷり。ココアが心のガード甘すぎるってのを差し引いても、同じ接客業としては見習うところが多いわね」

 

 シャロが感心したように言う。一方の千夜は、ココアとメイドとがあっという間に仲良くなってしまったことに若干のショックを受けているようだった。

 

「ヴェ……ヴェアアアアア! ゴゴアぢゃん取られるー!」

「いや何なの、まるでこの世の終わりみたいな奇声上げないでよ……」

 

 ご丁寧にも白目になって床に倒れこむ演技付きでショックを表現する千夜を呆れ気味にシャロは眺める。いったい喉のどこからこんな声が出ているんだろう、とシャロは思った。その後は予選一位チームの三人(全員が何らかのお店の店員さんなので、チノは心の中で「店員さんチーム」と名付けた)を交えて九人での夕食会が始まった。ギャル店員は、見た目と態度は怖そうな印象があるが、話してみると決して悪い人ではないと分かった。甘兎店員は、千夜に憧れているのか、千夜と話している時には目をキラキラさせてとても生き生きした表情になる。リゼと話す時には心なしか冷たいのは何かライバル意識のようなものがあるのだろうか。メイド店員は、メイド喫茶の外でも、お店にいる時と変わらないような巧みな話術と愛嬌で楽しい気持ちにさせてくれる人だった。これが素の性格なんだとしたらちょっと凄いです、この人はもしかしてプライベートと仕事の区別がないのでしょうか、そんなことを思うチノだった。そして三人ともティッピーコンテストで勝ち抜くだけあってティッピーへの造詣がとても深く、話していて面白い。三人は通う高校こそ別だがみんな東京の女子高生で、ティッピーと言う趣味と接客業のバイトという共通点があって仲良くなり、ティッピーコンテストに応募したのだという。夕食会で出された料理――瀬戸内の海産物をふんだんに使ったお刺身、お隣町の三原市の特産であるタコのからあげ、地元ブランドの峠下(たおした)牛を使ったステーキ、等々――はどれも美味しく、九人の会話をさらに盛り上げた。

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎ、チノ達は一通りの料理を食べ終わった。お互いに明日の準備もあるので早めにお開きにする流れになる。そういえば、予選二位のチームの人たちは結局最後まで来なかったな。そう思ったチノは、夕食会場にいる大会スタッフに聞いてみることにした。

 

「予選二位のチームですか? ああ、彼女らならこの食事会には来ないんじゃないですかね。レーションでも食べてるんでしょう。変わった人達ですよ、他の参加者ともスタッフとも、まるで言葉を交わそうとしな……」

 

 そこまで言って大会スタッフは急に口をつぐんだ。視線の先を見ると、ホテル玄関の自動ドアをくぐってホールに入ってくる人影が見えた。あれが予選二位のチームなのだろうか。確かにかなり変わった服装をしている。何と、全身黒の戦闘服にタクティカルベストとブーツを着けて、フリッツヘルメットにガスマスクまでも完備している格好だ。

 

「特殊部隊……のコスプレ?」

「身のこなし、足さばきまでまるで本職の兵士さんのようです。あそこまで真似るにはさぞかし訓練が必要だったんでしょうねぇ。もっとも私も、本物の特殊部隊を生で見たことがある訳ではありませんが」

 

 青山がのんびりした口調で言う。そういえばこの集団は予選のスタート地点となった秋葉原駅前でも見た気がする。ココアは律儀にも挨拶しようと思ったのか、とてとてとてー、とコスプレ三人組の方に走り寄ろうとした。が、追いつく前に三人組はエレベーターに乗って上がって行ってしまった。

 

「あっ行っちゃった……。一言くらいお話してみたかったんだけどなー」

「まあまあ、どうせ朝には決勝会場でも会うんですし、またご挨拶する機会がありますよー。でも彼女達、話しかけてもほとんど無言でハンドサインでしか反応しないくらいには役に入り込んでるらしいので無駄かもしれないですけどねー。それにしても大会中に目立とうとしてコスプレするのはライト勢では珍しくないですが、あそこまで本格的なコスプレのままで勝ち抜いて、しかも休憩期間中も脱がない、というのは凄いですねー」

「いや、メイド姿のままで予選一位を取ってるのも相当だと思うけど……」

 

 メイド店員のコメントに対し思わずシャロはツッコミを炸裂させてしまった。

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