現実と並行セカイの境目ですか?   作:岸雨 三月

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10章:普通の女子高生#2

「決勝開始十五秒前です。……十秒。……五、四、三、二、一、スタート!!!」

 

 眼鏡の女性がティッピーコンテスト決勝のスタートを告げる。だが、スタートの声と同時にスタートラインを切る者は一人もいなかった。代わってティッピー達が勢い良くスタートラインを切る。眼鏡の女性の事前説明によると、決勝は二部制になっており、第一部は、競技者はスタート地点に留まったままティッピーを遠隔操作して島の中のチェックポイントを通過していくルールであるとのことだった。それをクリアして初めて、競技者とティッピーが同行してチェックポイントを回っていく、予選と同じ方式の第二部に移行できるという訳だ。競技者は第一部を終えるまではスタート地点から離れることが出来ず、スタートラインを切ることは出来ない。

 

「なるほど。決勝ではティッピーの自律稼働能力も試されるという訳だね。面白い、受けて立つよ」

 

 ココアはそう自信ありげに言った。ココア・チノ・リゼチームは、ココアのティッピーとリゼのティッピーの二機を出発させ、チノのティッピーはスタート地点に待機させてココア・リゼのティッピーのカメラからの映像を中継させるのに使うことにした。チノのティッピーに映し出される映像をココア・リゼが見てリアルタイムでココア・リゼのティッピーに指示を下すという訳だ。千夜シャロ青山チームも含め全チームが似たようなやり方で行くようだった。

 

 最初のいくつかのチェックポイントを回った時点では、四チームとも拮抗していて団子状態のレースになっていた。流石に決勝ともなるとどのチームも実力があり、容易なことでは差がつかないのだろう。だがその差が付き始めたのは、四チームのティッピーが桟橋付近にあるチェックポイントを目指し始めた時だった。

 

「くっ、こいつら、通行の邪魔しやがって」

「わー! 何!? 何なの!? うさぎが! うさぎがー!!」

 

 リゼのティッピーから中継される映像が、白を中心に茶色や黒の混ざったもふもふしたものに埋め尽くされる。どうやら大量のうさぎ達がティッピーを取り囲んでいるらしい。ティッピーの上からのしかかる個体もいて、リゼのティッピーは身動きが取れなくなってしまったようだ。シャロも大声を上げている。シャロのティッピーも同じ状況なのだろう。

 

「何とかできないの!? 千夜!?」

「機体性能をフル開放すればもちろん強行突破できなくはないけれど……」

 

 千夜は言外に「そんなことをすればうさぎを傷つけることになるわ」と言っていた。それはリゼにしても同じだ。予選の最初の戦いからも明らかなように、リゼのティッピーの物理的な機体性能は高い。だが、振りほどいても振りほどいてもまとわりついてくるうさぎを傷つけないように、となると逆にその機体性能の高さが仇となる。それにしても、試合開始から今まではこんなにうさぎが寄ってくることは無かったのに、なぜ今になって突然こんなことになっているのだろうか。考え込んでいたチノは頭の中である結論にたどり着いた。

 

(桟橋エリアに入った途端、急にうさぎがティッピーに近づいてくるようになった気がします。そういえば昨日ココアさんのティッピーがラビットフードを出して餌やりをしていたのも、桟橋を下りてすぐの場所でした。もしかしてこのエリアの近くの子たちは、ティッピーから食べ物が貰えると学習してしまった?)

 

 だとすればはた迷惑な話もあったものである。よりによって桟橋エリアはホテル前広場を除けば島の中でも最もうさぎの多い場所なのだ。大量のうさぎ達に全チームのティッピーがたじたじになっていた。だがそんな中で、一機だけ軽々とうさぎをかわしながら華麗に邁進しているティッピーがいた。

 

「よっ! ほっ! はっ!」

 

 そう、当のココア自身のティッピーである。ココアはチノのティッピーに中継される映像を見て変な掛け声を発しながらティッピーを操作し、ティッピーはビュン!ビュン!と群れるうさぎ達の隙間を縫うようにして前に進んでいく。

 

「わあ、ココアさん、凄いですね。軽やかな機体さばき、お見事です」

「こういうこともあろうかと公園で色々実験したり練習したりして、小回りのきく機体モードを実装したからね! まあ、流石に襲ってくるのがうさぎだとは予測していなかったけれど」

 

 白熱の試合中とは思えないのんびりした口調で褒める青山に反応してココアが得意げに答える。公園というのはもしかして井の頭公園のことだろうか。そういえば青山の液タブ探しを手伝ったとき、青山は井の頭公園でココアを見かけたと言っていた。「ココアさんは大量のティッピーを連れていて、何をしようとしてるのかなって、気になって見ていたんです。そうしたら、どういう訳かココアさんが自分の連れているティッピー達に襲われ始めて、それで慌ててココアさんを助けに入りまして」と言っていたのだった。ココアさんは、たくさんの小さい生き物に襲撃されるようなそんな試合展開を予想してシミュレーションし対策を立てていたのでしょうか、まさか意図的にそんな展開を作り出すために昨日餌を巻いていたということはないでしょうが――、チノはココアの読みの深さに感心するが、同時に改めてココアの思考回路は常人離れしている、とも思うのだった。

 

 桟橋エリアでの戦いを経て試合は大きく動いていた。うさぎ達はしばらくするうちに昨日のティッピーと違い今日のティッピーからは餌を貰えないと気づいたのか、ティッピーに集まらなくなっていった。しかしその間に、うさぎの群れに上手く対処できた上位グループと下位グループの間では差がついていた。ココアはもちろん上位グループだったが、特殊部隊チームもやはり何か特殊な訓練でも受けているのか、抜群の技量でうさぎをかわし上位グループに食い込んでいた。一方でうさぎの妨害をまともに食らった千夜シャロ青山チームと店員チーム、そしてリゼの機体は下位グループになっていた。だがチームの中で最も速いティッピーがゴールした時点で第二部のスタートが出来る、というルールだったので、ココアチームと特殊部隊チームが上位でスタートを切ることになる。

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