現実と並行セカイの境目ですか?   作:岸雨 三月

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10章:普通の女子高生#6

「……なっ!」

 

 あたりに立ち込めていた煙が引いて状況が明らかになった時、特殊部隊員の中でもリーダー格の女は衝撃を受けた。部下達がターゲット、すなわち天々座理世を確保していることを期待していたが、ターゲットは無事に立っており、逆に地面に倒れているのは二人の部下の方だったのだ。これは一体どういうことか。優秀な兵士である彼女にしては珍しく瞬時に状況を把握しきれずにいると、一瞬遅れてリゼの言葉が耳に入ってくる。

 

「襲い掛かって来るものだから正当防衛でやらせてもらった。大丈夫、ちょっと気絶してもらっただけさ。しかし訓練を受けた特殊部隊員とはいえ、煙幕で互いの連携が取れない想定外の状況ではあっけないな」

 

 リゼは悪びれもせずそう言った。実際のところ、普通に三対一で戦っていたらいくら戦闘力の高いリゼでも勝ち目は無かっただろう。煙幕を張って個別撃破が可能な状況を作り出したという意味では、ココアの託したぬいぐるみはまさにリゼを助けたと言える。

 

「て、天々座特別嘱託職員……自分のやったことが分かっているのか!? これは明確な任務懈怠、どころか国家に対する反逆だぞ!」

 

 ようやく思考回路を取り戻したらしい特殊部隊リーダーは怒りを顕わにした声でそう言う。それを聞いたリゼはこう答える。

 

「天々座特別嘱託職員? 知らんな、そんな奴」

 

 そしてリゼは、服に着けている警官バッジをむしり取ると、見せつけるように地面に叩き付け、不敵にニヤリと笑いながらこう言い放った。

 

「私の名前は天々座理世。父が警官で、幼い頃から護身術とか色々仕込まれてはいるが、ただの……普通の女子高生だ」

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 山頂側でリゼがココアを守ろうという決意を固めていたのとちょうど同じ頃。皮肉なことに、海岸側ではココアが危機に陥っていた。

 

 ちょっとでもココアさんから目を離さなければ良かった、とチノは悔いる。大久野島では旧軍時代に用いられていた大砲が廃砲台跡となって残っている。ほんの一瞬だけ登ってみて、高いところから周囲に危険が無いか確認しようとしている間に、足元から危険が迫っていたのだ。砲台から下りるとさっきまでそこにいたはずのココアが見当たらない。チノは青ざめた。まさか今の一瞬のうちにさらわれたのでは、いやでもココアさんだったら何か面白いものを見つけてフラフラどこかに行ってしまっただけの可能性もあるのでは。焦りながらも後者であって欲しい、と祈るような気持ちでココアを探し始めるチノ。ココアが自分から動いたなら、今来た発電所側に戻るのではなくさらに先の道、島の北西側に行っている可能性が高い。海岸へと続くまっすぐな道に出ると北西側を見通すことが出来た。見ると、遠くにココアらしき後ろ頭の人影が見える。

 

(ココアさん! 襲われた訳じゃなさそうで良かった、でもいつの間にあんなに遠くに)

 

 ココアの方に慌てて駆け寄ろうとするが、ココアも海岸の方に向けて走っていて、中々追いつくことが出来ない。何で走っているのだろう? これはまるで、誰かに連れられて走っているような。

 

 海岸まで出たところでようやくココアに追いついた。ココアを連れ出していた「誰か」の姿をそこで確認する。その人物はチノも知る人物だった。だが、「その人物」はチノが追いついてきたことに気付くと、まるで人質を取るかのようにココアを背後から拘束し、喉元にナイフを突きつけた。それが「これ以上近づくな」という警告であることは明らかだった。ココアの目に驚きの色が浮かぶ。チノも驚き足を止める。――何で気づかなかったのだろう、チノは唇を噛む。特殊部隊がティッピーコンテストに潜入しているかもしれないということはリゼと千夜の会話を盗み聴いて分かっていた。チノは三人の特殊部隊チームの方にしか意識が向いていなかったが、あんなに分かり易くあからさまな存在、囮に決まっているではないか。リゼが表の顔は女子高生ながら警視庁の職員らしいということが分かった時点で当然にその可能性を考えるべきだったのだ。「敵側も戦闘要員として仕立てた女子高生を潜入させてきているかもしれない」ということに。

 

「おっと、香風さん、そのまま動かないでくださいね。動いたら保登さんの命はありませんよ」

 

 そう告げる声に、あの特徴的な間延びした喋り方は無かった。まさかこの人がココアさんを誘拐しようとしている「特殊部隊」の一員だったなんて。チノの頭の中が真っ白になる。ココアとも昨日親しげに喋っていた店員チームの一人――メイド店員がココアの喉元にナイフを突きつけていた。

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