現実と並行セカイの境目ですか?   作:岸雨 三月

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11章:まほうつかいと水着の盾(ナイト)#2

右フック、ストレート、キック。

 左フック、もう一度ストレート、回し蹴り。

 合間に当て身や投げ技を入れようとする。が、決め手に欠け相手を無力化する一撃とはならない。

 リゼと特殊部隊リーダーとの間での近接格闘戦(CQC)は一進一退の攻防になっていた。

 

 リゼは焦り始めていた。特殊部隊のうち二人は煙に乗じて倒すことが出来たが、残る一人は流石にリーダーなだけあってしぶとい。リゼはリーダーのプロフィールを三十~四十歳くらいの女と見積もっていた。年齢からして短期的な瞬発力ではリゼの側に分がある。しかし実戦経験は明らかに相手の方が多い。長期戦になればなるほどリゼには不利だ。

 

 相手の猛攻をすんでのところで防ぐ。致命傷は負っていない。だがかすり傷は確実にリゼの体力を切り取る。リゼのCQC技術は優れてはいるが経験値で相手に及ばない。応酬の中でそれを見破られたか、相手も一気にカタをつけようと猛攻を掛けて来た節がある。このままではジリ貧だ。一瞬でも隙を見せたら勝負形に持ち込まれるだろう。何か。何か策は無いか。逆に一瞬でも相手の隙を作れる策が。

 

 リゼの脳裏に一つアイデアが浮かんだ。この策ならば一瞬だけ隙を作ることが出来るかもしれない。しかも相手がベテランであればあるほど術中に嵌りやすい策だ。リスクはあるが、一か八かやるしかない。

 

 リゼはホルスターから銃を取り出した。一か月前のメイド喫茶での作戦会議の際にシャロ達に見せた銃だ。だがそもそもCQCというのは銃器が使えない、逆に銃を使うと不利になる近接間合いで戦うための技術だ。そんな間合いで銃を取り出すというのはセオリーに反する。血迷ったか――? 相手がほんの一瞬戸惑うのがリゼには分かった。

 

「ぐっ!」

 

 銃を使おうとして距離を取る動きをするリゼ。しかし相手のほうが早く仕掛け、リゼの手元目がけ正確に蹴りを入れる。手首の骨に鋭い痛みが走り、たまらずリゼは銃を手放す。落ちた銃は地面上を滑りちょうどリーダーの目の前で止まった。

 

「勝負あったな。投降しろ、天々座特別嘱託職員……いや、天々座理世」

 

 そう言いながらリーダーは銃を拾い上げる。そして手慣れた所作で準備動作を行うと、ためらいなく発砲しようとした――銃身は地面の方を向いていたので威嚇射撃のつもりだったのだろうが――だがその瞬間、彼女の予期しないことが起こった。

 

「!!??」

 

 引き金を引いた瞬間、弾丸が発砲されずに銃から異音がした。整備不良か!? 女子高生とはいえ仮にも警官が持つ銃なのに。だが考えている暇もなくリーダーは銃を投げ捨てた。特殊部隊で訓練を積んだ者ともなれば、排莢不良によるジャム(弾詰まり)程度なら冷静に対処して即座に戦闘に復帰できる。経験則からただのジャムではなく腔発(内部からの銃身破裂)事故を起こしかねない異常と判断したのだ。下手すると自分の手首から先が吹っ飛ぶかもしれない。だがその判断は結果的に彼女の敗北を決定づけるものとなった。

 

「うおおー!」

 

 一瞬の隙を見逃さずリゼが突撃して来ていた。馬鹿な、ここまで素早く反応するとは。まるでこの速さは、「銃が故障するとあらかじめ分かっていた」かのような――。リーダーは慌てて防御姿勢を取ろうとするが、一瞬間に合わずリゼの渾身のパンチをまともに食らう。

 

「ぐふっ!」

 

 決定打だ! 今度はリーダーが呻く番だった。リゼの拳はリーダーの鳩尾を的確に捉えていた。相手を失神させるのに必要十分なだけの威力を持った良いパンチだ。リゼと特殊部隊の長きにわたる攻防の勝敗が決した瞬間だった。リゼは勝利宣言を聞かせるかのように喋り始めた。

 

「驚いただろう。これは本物の銃じゃないんだ。おもちゃの銃もここまで来れば大したものだと思わないか? これは親父の特注した、いわば超精巧なモデルガンなんだ。手に取って引き金を引くまでの感触や重さは普通の銃と全く異ならないが、引き金を引くと必ず故障する、というか、実銃が故障した時のような動きを忠実に再現するように出来ているんだ。実際にこの銃から実弾が発射されることはない、安全な代物さ。それを知らずにこの銃を使うと、お前のような熟練の兵士であればあるほど、暴発すると思って一瞬の隙が出来てしまうという訳だ」

 

 それを聞いたリーダーは、それでも腑に落ちない、という顔をして最後の力を振り絞って疑問を口にする。

 

「な、なぜ……。天々座理世、お前には実銃が与えられていたはずでは」

「あー、やっぱりあのメイド喫茶での会話、盗聴されていたのか。確かにあのメイド店員の運動神経は素人離れしていたし、色々怪しいとは思っていたが、抜かりのない奴らだな……。だがあの場で言ったことは、シャロ達には悪いが嘘だったんだよ。敵を欺くにはまず味方から、とも言うしな。いくら警視庁の特別嘱託職員でも、女子高生は実戦で本物の銃を使うことは法律上出来ないんだ。それくらいの下調べは怠るべきではなかったな」

 

 そこまで聞いたところで特殊部隊リーダーの意識は途切れた。白く霞んでいく視界の中で、リゼの最後の台詞を辛うじて聞き取ることが出来た。

 

「だって私の後輩もこう言ってただろ? 『女子高生とはいえ、銃を持ち歩くのは銃刀法違反』ってな」

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