現実と並行セカイの境目ですか?   作:岸雨 三月

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11章:まほうつかいと水着の盾(ナイト)#5

ほどなくして、チノ達は無事にフェリーに乗り込むことが出来た。

 

(大久野島では自分の中で気持ちの整理がつかないくらい色んなことがありました。こうやって無事におうちに帰れるのが、何だか奇跡みたいな気分です)

 

 行きのフェリーは二十人程度が乗れば満杯になってしまう小型船だったのだが、帰りのフェリーは数百人は乗れると思われる大型船だった。チノ達だけではなく、ティッピーコンテストのスタッフ達の大半もこの船で引き上げるので大所帯になり、大型の船が選ばれたということらしい。島を離れる時に運営の眼鏡の女性からうさぎを持ち運ぶためのケージや飼育用品一式と、分厚い飼育マニュアル(といっても無論、紙ではなくティッピー上でやりとりする電子データ形式のものである)をチノは手渡されていた。帰りの長い道のりの間、「ティッピー」は狭いケージの中で過ごすことになる。せめて出せる時は出してあげたほうが良いだろうと思い、チノは船室を出て広いデッキの上でティッピーと戯れていた。

 

(そうだ、マヤさんとメグさんにもティッピーを紹介してあげないと)

 

 チノはティッピー(通信機器のほう)のカメラ機能を立ち上げ、ティッピー(うさぎのほう)の姿を撮影する。元来大人しい性質なのか、カメラが回っている間もティッピーはチノの腕の中で気持ちよさそうに毛並みを撫でられていた。眼鏡の女性の話では、「ティッピーが生まれた時期は正確には分かりませんが、去年の春くらいではないかと推測されています。まだ若いメスのうさぎで、人間で言えば香風さんと同じくらいの年齢でしょう」とのことだった。

 

(私と同じくらいの年齢なのに、家族からも引き離されてしまって、飼い主からも捨てられてしまった……、どんなに寂しい思いをしたことでしょう)

 

 チノはティッピーをぎゅーっと抱きしめる。家族を失う痛みは、チノにも良く分かった。動物を飼うって大変なことだと思うけど、決してこの子に寂しい思いだけはさせまい、と決意するチノだった。それに去年の春と言えば、チノのおじいちゃんが亡くなったのと同じ頃だ。おじいちゃんがうさぎに生まれ変わった――なんてオカルトは信じないチノだが、不思議とこのうさぎには放っておけない感じがした。

 

「チノ、ラビットハウスに書き込みじゃ」

 

 その時ティッピーが通知をよこした。先程マヤとメグに、過程はばっさりと省略して「捨てられていたアンゴラウサギを連れて帰ることになった」という結論だけ教えて動画を送信していたので、さっそくその返信があったのだろう。見るとリアルタイムでマヤとメグから、こんな書き込みがされていた。

 

[すげー! もこもこしてるなこいつ! 何かこいつ倒したら経験値入りそうじゃね? RPGで一番雑魚なモンスターって感じする!]

[た、倒さないであげてー!]

[あー、でもどっちかって言うと仲間になってくれそうなペットモンスターって感じのほうがするかな? 『僕、悪いうさぎじゃないよ!』的な。それだったら、まずはじっくり弱らせたところで捕獲を……]

[よ、弱らせるのもダメだよー!]

 

 相変わらずなマヤとメグのやりとりにチノの表情は思わずほころんだ。どう返信しようか考えているその時、後ろからデッキへの階段を上って来る足音が聞こえて来た。見ると、デッキに上がって来たのはココアだった。

 

「あ、チノちゃん! こんなところにいたんだ。見かけないから、船の中で迷子になっちゃったのかと思った」

「いくら大きい船だからってそんなことにはなりませんよ……。ココアさんのほうこそ、中で休んでなくて大丈夫なんですか?」

「うん大丈夫! 大久野島もこれで最後だから、見納めしておこうと思ってね」

 

 そう言うとココアは欄干のそばに立って大きく伸びをする。ココアの豊かなツーサイドアップの髪が、海風に吹かれてなびいた。

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