現実と並行セカイの境目ですか?   作:岸雨 三月

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2章:水玉模様を身に着けた年上の方に誘惑されるでしょう#2

「おーっすココアー。今日はいったいどういう風の吹き回しなんだ? いきなりアキバにみんなで行こうだなんて」

「ふ、ふわぁぁ、これが秋葉原……、普段あんまり来ないからたまに来るとびっくりしちゃうねー、何だか近未来?って感じで」

「私だってバイトとかあるんだから急に誘わないでよね! ま、まあ今日はたまたまバイト休みだったから、付き合ってあげるけど」

 

ココアとチノが秋葉原電気街の待ち合わせ場所に行くと、マヤ・メグ・シャロの三人は既に到着していた。今回、リゼと千夜のお嬢様学校組は何か用事があるとかで不参加なので、今集まっているメンバーで全員だ。最先端テクノロジーとオタク・カルチャーの街なだけあって、街行く人たちはみな最新モデルのティッピーを連れている。街のそちこちに表示される立体映像がこの夏の新型モデルのティッピーを広告している様子は、二十一世紀半ばの現在ですら他の街ではあまり見られないものだ。マヤとメグはそんな街の様子にすっかり夢中になっているようだ。

 

「マヤちゃんメグちゃんシャロちゃん! 待たせちゃったかな? それじゃあさっそくだけどティッピーショップに……」

「うわーっ! 野良ティッピーだ! こんなにたくさんいるなんて流石は秋葉原! すげー!」

 

その時、マヤはココア達の後ろをふわふわと通過するティッピーの大群に目を奪われた。道を埋め尽くさんばかりの大量のティッピーたちは、駅前広場を歩く人たちに話しかけたり、それらの人たちが所有するティッピーに何事か近距離通信を試みたりしようとしている。

 

「ええっ! あれが全部ののののの野良ティッピー!? たたた大変です、早く警察に通報しないと……」

「落ち着いてチノちゃん! あれは本当の意味での野良ティッピーじゃないよ。法の網をかいくぐった野良ティッピーがあんなに沢山いたら、それこそリゼちゃんのお父さんが黙ってないよ。よく見て、どれもボディに企業のロゴが入ってるでしょ?」

 

ココアの指摘するとおり、マヤが「野良」と呼んだこれらのティッピーは決して所有者がいない訳ではなく、本当の意味での「野良」ではない。近くに人間の所有者がおらず、自律稼動しているので「野良」の野生生物っぽく見えるだけだ。

 

「浮遊型量子通信機器類の所有者登録及び不正利用の防止に関する法律」、などと仰々しい名前の法律がある。世間では単に「ティッピー法」などと呼ばれている。今や一人一台以上保有していると言われるティッピーだが、その所有は国によって厳しく管理されており、新しくティッピーを買ったり乗り換えるには全て国への所有者登録が必要だ。ティッピーを捨てる時も必ず指定のティッピーショップで回収してもらわなければならず、ティッピーの不法投棄は特に厳格に刑罰の対象とされている。ティッピーは日本中の技術力を結集させた最先端テクノロジーのカタマリで、その製造は国営の「ティッピー製造開発公社」が独占して行っており、製造方法は秘匿されている。ティッピー法に定められた罰則は、極秘中の極秘であるティッピーの根幹技術が投棄されたティッピーを通じて他国へ流出してしまうことを防ぐための措置であると言われていた。いわゆる本物の意味での「野良」ティッピー、つまり誰の所有登録の下にも属さないティッピーは、製造方法の秘匿を保つために全てのティッピーの所有者登録を義務付けているティッピー法の規制下では禁忌そのものと言えた。

 

さて、秋葉原に話を戻すと、ふわふわ浮遊する野良モドキティッピーたちのうち何体かが、チノ達の方に向かってきて喋り始めた。

 

「新型ティッピーをお探しですか? ティッピーのことなら、安くて安心、タナカ電機へ! 当店よりも一円でも安い店があればお知らせください」

「メイド喫茶はいかがでしょう? 絶品コーヒーと手作りオムライス、可愛いメイドさん達が癒しのひとときを提供します」

「走兎新聞社ニュース速報です。渋谷区の違法ティッピー事件は未だ解決の糸口が見えず、警視庁はティッピー学の権威である……教授に協力を依頼することになりました。この記事の全文(有料)は、以下の……」

 

確かにこのティッピーたちはどこかの企業の所有物らしかった。うち一体はご丁寧に、メイドさんのつけるようなヘッドドレスを装着していて、メイド喫茶を全身でアピールしている。

 

「なるほど、このティッピーたちは街中を自在に動き回って会社の広告塔をするようにプログラミングされてるんですね。普通の街だと人間のやるビラ配りの代わりのようなものですか」

「そういうこと! ね、全然危険じゃないでしょ?」

「ふむ……、私の地元では見たことがないので興味深いですね。どういうアルゴリズムで動いているのか……」

 

「昔から東京に住んでる私達でも、これだけたくさんの会社のティッピーが動き回ってるのはあまり見たことないよねー。秋葉原ならではかなー」とメグが言い、「ねーねー、これもどこかの会社のティッピーなのかな? 変な奴ー」と言ったマヤは、別のティッピーを捕まえて「ぶにぶに」と手でこねくり回している。そのティッピーは他のティッピーとは違い「絵の販売やってまーす」とだけひたすら連呼し続けていた。

 

「絵の販売って、やっぱアキバだしマンガとかなのかな? おもしろそー」

「ちょっと興味あるねー」

「私も絵画でしたらちょっとした自信があります、私の描く絵は独特のセンスがあるとよく言われるので」

「チ、チマメちゃん達……、そいつは危険よ、今すぐ手を離しなさーい!」

 

このティッピーは通称絵売りティッピーと言われ、ついて行くといつの間にか超高価な絵画の売買契約書にサインさせられてしまうなど、違法スレスレの勧誘行為を繰り返している厄介者なのだが、チマメ達はそれを知らない。ただ一人シャロだけがそれを知っていたようだ。すっかり絵売りティッピーに興味を持ってしまったチマメを引き止めるためには、シャロの大声ツッコミ(「みんな今日は別の目的があってアキバに来たんでしょ! そんなのにいつまでも構ってないの! ココア、あんたもぼーっとしてないで、早く目的のティッピーショップとやらに案内して頂戴!」)が炸裂するのを待つよりほかなかったのだった。

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