現実と並行セカイの境目ですか?   作:岸雨 三月

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12章:パスワード#7

「……チノちゃんは大丈夫だった? ショックを受けてはいなかった?」

「たぶんとっても驚いてはいたとは思うけれど、最後は前向きに受け止めてくれた……と思うわ。泣き止んで最後に部屋を出ていくときのチノちゃん、何かが吹っ切れたようなとっても良い顔をしていたから」

 

 チノが帰った後の保登研究室。そこにはココアのお父さんとお母さんの二人が集まって話をしていた。

 

「ひとまずそれならば良かった。もちろん今度も僕らが見守ってサポートを続けていく必要はあるだろうけど」

「それにしても、いきなり呼び出してこんな話を聞かせて、ちょっとやり方が乱暴だったんじゃない? チノちゃんにだって、心の準備ってものがあると思うの」

 

 いきなりの警察からの呼び出しに加え、ティッピーと並行世界の秘密と言う国家機密級の話をされ、さらに並行世界のお母さんからのメッセージを見せられて。普通だったら受け止めきれないような情報量だろう。そのことについてココアのお父さんを詰るココアのお母さんだったが、ココアのお父さんはこう答えた。

 

「だが、今回の話は遅かれ早かれチノちゃんが必ず知ることになる話だ。それだったら、知るのは早ければ早い方が良いと僕は思う」

「遅かれ早かれ知ることになる、ってどうしてなの?」

「それはもちろん、君と僕の娘のおかげで、だよ。ココアは放っておいても今回の事件の真相、ティッピーの中枢機密に必ず辿り着く。そのくらいの能力をココアは持っている。そしてココアは知ったことは必ずチノちゃんに話すだろう。その時になって、大人たちに真実を隠されていた……と不信感を持たれるくらいだったら、最初からすべて話してしまった方が良い。少なくとも僕は、この話を聞いたことでチノちゃんの人生は決して悪い方へは向かわないと、そうチノちゃんのことを信頼しているからこそ、この話をした」

 

 さらにココアのお父さんは続ける。

 

「メディアは僕のことを『天才研究者』なんて言ったりすることもあるけれど、僕なんかがその呼び方をされるのはおこがましい。本当の天才と言うのはココアのような人を指して言うんだ。親の欲目とかを抜きにして、冷静な一人の研究者の評価としてそう思うよ。だが、真の天才と言うのは常に孤独なものだ。知の分野における冒険と言うのは、みんなで楽しくわいわいがやがや、というようなものではない。それは一人で荒野を旅するような営みなんだよ。今から次の五年間は、僕が先生として、研究者としての先輩として、ココアを導くことが出来るだろう。その次の五年間は、僕とココアは肩を並べ合う同志として、互いに互いをサポートすることが出来るだろう。だがその後はおそらく……ココアは僕の背中を踏み越えて、未踏の大地に足を踏み入れることになる。ティッピーを巡る世界の真実に独り辿り着いたとき、いったい何がココアを待ち構えているのか……。今回の話を伝えたのは、来るべきその時にチノちゃんにはココアの隣にいて支えてくれる人になって欲しい、という思いもあってなんだ。まあもちろん、僕は好奇心をそそられる話題を他人と共有するのが大好きな性格だから、こんな興味深い話をチノちゃんに最初にする役目をココアに取られたくなかった、というのもあるけれどね」

 

 最後は冗談めかして言うココアのお父さんに対し、ココアのお母さんは苦笑いしてこう言った。

 

「後者がメインでなければ良いけれど……。それにしても、サキちゃんの歌声には私も何だか感動しちゃったわ。チノちゃんの手前、自分の涙は必死でこらえていたけれど、何だかあの歌が私に対してのメッセージでもあるように聞こえちゃって。あの子が亡くなった時、私もかなり気分が落ち込んだけれど、よく考えなくてもチノちゃんの方がはるかにショックだったに決まっているのよね。そのチノちゃんが前を向いて歩こうとしているのだから、私もくよくよしちゃいられない、って逆に元気を貰っちゃったような気がするわ」

 

 それを聞くとココアのお父さんは、おや、と何かを思い出したような顔をした。

 

「そうだ、並行世界のサキさんからのメッセージはもう一つあったんだった。大親友だった君あてのメッセージが。すっかり忘れていた」

「ちょ、ちょっと! そういう大事なことはもっと早く言ってよ!」

「ごめんごめん。チノちゃんへのメッセージの方に完全に気を取られていたから。でもこちらのメッセージはごくごく短いものだよ。たぶんチノちゃんへのメッセージの方でかなり容量を圧迫して、君へのメッセージは本当に一言だけになってしまったんだろう。並行世界通信の仕組みはいったいどうなっているのか、どれくらいの容量であれば安定的に送信することが出来るのか、まだまだ解き明かさなければならない謎が多いけれど……と、とにかく、これがメッセージだ、確認してみたまえ」

 

 待ちきれない、という顔をしているココアのお母さんの方に向かって、ココアのお父さんはラボのティッピーを投げてよこす。ふわりと着地したティッピーをココアのお母さんが操作する。パスワードを入力すると、短い文章が表示された。並行世界のサキから、サキ亡き後の世界に生きるココアのお母さんへのメッセージが。

 

[私の娘とその友達を よろしくね From Saki Kafu]

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