現実と並行セカイの境目ですか?   作:岸雨 三月

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13章:冬の贈り物#3

「ぐおぉ……ごぅ……」

 

 天々座がラビットハウスに来店してから約一時間後。結局、天々座はカウンターに突っ伏して酔い潰れ、いびきをかいて寝ているのだった。

 

(警官がこんなところで無防備に眠っていたら問題なんじゃないかと思うが……まあ、今この店に客はいないから大丈夫か。天々座は見た目こそカタギと思えないくらいにアレだが警官としては人一倍職務熱心な方だ。普段は酔い潰れるまで飲んだりはしないが、随分、疲れているのか)

 

 タカヒロはそんなことを考える。そう、天々座は、警視庁ティッピー室長という大役を担う程度には出世もしていて職務熱心な警官なのだ。今回の関西出張にしたって、内閣府安全振興局とTIEST――ティッピーコンテスト会場でチノ達を襲ったという特殊部隊の組織だ――の勢力を削ぎ、全国のティッピー犯罪捜査を警察で一元的に行う組織作りのため、西日本の警察幹部への根回しの目的を兼ねているということを、タカヒロは知っていた。

 

 天々座は元々、安全振興局のような超法規的組織の設立には反対の側だった。権力側が民主的な手続きの承認を得ずに政府のあり方を変えてしまうこと、ましてや国民の人権を制限するような治安維持組織を作ってしまうことは、必ず将来に禍根を残す。どんなにティッピー犯罪者が凶悪であろうと、それを追う側まで怪物になってはならない――そう考え、法律に則った捜査を行う警察組織の手にティッピー犯罪捜査の権限を取り戻すことこそが必要だと考えていた。そこに来て今回のティッピーコンテストでの出来事はチャンスでもあった。安全振興局は警察から捜査権限を取り上げてまで大久野島でのココア確保作戦を決行するも、失敗。しかも真相が明らかになってみればココアは全然無関係で、警察の進めていた保登研究室との捜査協力の線の方が正解だった――はっきり言って大失態だ。現場レベルでは優秀な人材を揃えているはずの特殊部隊の失敗の責任は、現場に十分な準備の時間を与えず性急に作戦決行を決定した側や、そもそもの捜査方針を立てた安全振興局の幹部レベルにあると言う論調が政府の中で支配的になっていた。よって安全振興局の発言力は急速に弱まっているのだった。それに乗じて、捜査機関が法に則った捜査を行うという本来あるべき姿を取り戻そうというのが天々座の目論見なのだろう。

 

 そう、天々座はこのように高い理想を掲げてそれに向かって努力するタイプなのだ。その理想と努力こそが彼をティッピー室長の職位まで出世させた原動力と言って良いかもしれない。警察を早々に辞めて、父親の建てた喫茶店を守っていく決断をしたタカヒロとは対照的と言っても良いかもしれなかった。

 

(そういえばさっき世界を救うとかどうこう言ってたな。もしかしたらコイツはそんな理想についても、大真面目に考えているのかもしれん)

 

 見るとカウンターに突っ伏す天々座の横でティッピーが起動しっぱなしになっていた。ホログラム画面が立ち上がっており、海外のニュースサイトの映像が表示されている。明日も仕事と言っていたし熱心にも情報収集しようとしていたのだろうか。

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