現実と並行セカイの境目ですか?   作:岸雨 三月

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13章:冬の贈り物#5

ラビットハウスを天々座が訪れた日から数日後の週末。東京・渋谷のホット・ベーカリーには、いつものようにチノとその友達が集まってきていた。

 

「おーい、ココア……反省文ってどうやって書けば良いんだ? 一千文字も埋まらないんだが……。しかも今時手書きって、前時代過ぎるだろ……」

 

 イートインスペースのテーブルに腰掛けるリゼが原稿用紙を前に頭を抱えていた。ティッピーコンテストでリゼが特殊部隊チームを昏倒させた件は、リゼのお父さんの尽力もあって不問ということになっていた。だが、リゼが勢いで地面に叩き付けた警官バッジ、それだけはあの後どれだけ探しても見当たらず、警官バッジ紛失のかどで反省文を書いて提出するよう、リゼのお父さんから命じられているのだった。リゼから相談されたココアは、「お姉ちゃんに任せなさーい!」と言わんばかりに目を輝かせてこう答えるのだった。

 

「じゃあうちのお父さんにお願いして大学の設備を借りてリゼちゃんの脳波を測定してもらおうか? 脳波は周波数特性によっておよそδ・θ・α・β・γ波の五つの成分に分類されるんだけれど、そのうちのθ・α・β波を用いた感情分析は企業のマーケティングなどに既に実用化されていて……うん、その仕組みを使った分析結果を提出すればリゼちゃんがこれだけ反省しているってこと、定量的にお父さんに伝えられると思うよ!」

「いや、どう考えても反省文ってそういうのじゃないだろ!? はぁ、ココアに相談したのは人選ミスか……」

「えーなんで!? 私なりに一生懸命考えたのに!?」

 

 ココアは不満げな声を出す。そんなやりとりをしている反対側のテーブルでは、青山がリゼと同じくらい頭を抱えていた。

 

「うーん、『うさぎになりたかったバリスタ』の新作スピンオフのタイトル、何が良いんでしょう……、孫娘さんの子供時代にスポットを当てた話なので、うさぎと絡めつつも可愛らしいタイトルが良いんですが」

 

 どうやら漫画のタイトル出しに苦戦しているらしい。横に座る千夜とシャロも一緒になって頭を捻っている。

 

「じゃあ私の案を言って良いかしら? 作品名は個性も大事だけれど、短く分かりやすく覚えやすい方が良いわよね……ということで、シンプルに『兎』というタイトルはどうでしょう?」

「いやだからシンプルすぎよ! そのタイトルじゃあネットで検索する時も苦労するでしょうに」

「タイトルロゴは書道風の力強い毛筆フォントにすれば、青年誌の硬派な格闘漫画のような渋みが出ると思うわ」

「出さなくていいから!」

 

 あーだこうだと言い合っている三人のところに、制服を着て仕事中のチノがやってくる。

 

「青山さん、あまり根を詰めて考えすぎると良いアイデアが出ないのでは? 少し休憩して追加のパンを注文しませんか? それともうさぎのティッピーをもふもふしますか?」

「い、いえ、大丈夫です……、すみません、ご心配おかけして……」

 

 チノが店内に戻っていくのを見届けた後になって、青山はふと何かを思いついたような顔になる。

 

「うーん、今のやりとりに何かタイトルのヒントがありそうな気がしたのですが、気のせいでしょうか。喉元あたりまで出かかっているんですが……」

 

 一方シャロは「うさぎ」という単語に反応したのかこう言った。

 

「そういえば大久野島から連れ帰ったあのうさぎ、なんだかんだ店に馴染んできてるわね。最初は大人しい性格かと思ったけど、最近はすっかり我が物顔というか」

 

 言いながら店の隅に視線をやる。そこではティッピー(うさぎのほう)がチノのティッピー(通信機器のほう)に猛アタックを仕掛けていて、それをマヤとメグが見守っていた。

 

「のおおおお! わしはうさぎじゃないわい! こら、やめんかこの子兎! やめるんじゃ! お前らも見ておらんでわしを助けんか!」

「すげー! ティッピー大胆だなー。チノのティッピーのこと気にいっちゃったみたい! 乙女と機械の間の道ならぬ恋とか、ロマンあるよなー。私は応援するよ!」

「そもそもチノちゃんのティッピーってオスなの? というか機械にオスとかあるの? 声はダンディーだけど……」

 

 その時、店の奥からモカが出て来た。何やら段ボール箱を抱えている。

 

「チノちゃんいるー? チノちゃんあてに荷物だって! チノちゃんのお父さんからだよ!」

 

 何の荷物だろう? 興味をもったみんなが箱の周りに集まって来る。早速チノが箱を開けてみることになった。箱を開けると、色とりどり、七色のマフラーが出て来た。

 

「わぁ……これ、お父さんに頼んでたマフラー! もう出来上がったんですね!」

「えっ? なになに? 可愛い色! 私たちの分もあるの?」

 

 さっそくマフラーが七人に配られる。店の中だがココアがマフラーを着け始めたので、つられて他のみんなも着けることになった。

 

「じゃじゃーん! わぁ、みんな似合ってるなぁ……。ねぇねぇ、これ、お店の制服に出来ないかな? お揃いだし、みんなでこれ着けてたら店員さんの制服が可愛いってSNSで話題になりそう!」

「マフラー着けたまま接客するパン屋さんなんて変ですよ……。というか千夜さんシャロさんマヤさんメグさんにもお店手伝ってもらう前提なんですか」

「えーっ、でもせっかくだからみんなで着ける機会作らないともったいない気がするなぁ……」

 

 ココアの言葉に反応して、千夜がアイデアを出す。

 

「屋外だったらマフラー着けてても変ではないんじゃないかしら? 許可が取れればパンの屋台を出してみても良いと思うけど。東京だったら飲食店が出店できるような屋外型のイベントも、探せば結構あると思うわ。最近は日本でもクリスマスマーケット?っていうの、流行ってるみたいだし」

 

 さらにシャロも意見を言う。

 

「それこそ冬のティッピーコンテストでみんなで着けたらいいんじゃない? 夏のときはTシャツとか揃えて来てたチーム結構あったじゃない。夏は不本意な終わり方だったから、冬こそは気合い入れて臨みたいわ。店員チームの三人とも、今度こそちゃんと話してみたいし」

 

 ココアは満足げな顔でこう言った。

 

「うんうん、それ両方とも採用! いやー、この冬もイベントいっぱいで、楽しみですなぁ」

「イベントと言えば、ココアさん、期末試験のお泊り勉強会の企画してくれるって言ってたの、忘れてないですよね?」

「ぎくっ! わ、忘れてないよ……。あ、でも私ほら文系科目ダメだから、文系科目を教えてくれる人をまず決めないとだね。あーあ、理系科目だけのテストだったら良かったのにな。そうだ、日本史と世界史のテストを衝突させたら対消滅してくれたりしないかなあ?」

「ココアが言うと冗談に聞こえないからな、それ」

 

 リゼのツッコミにその場に笑いが沸き起こる。チノは、やれやれです、と言葉では言いながらも、内心では将来起こるであろう色んな出来事へのわくわくが抑えきれないでいた。始まる前は不安と緊張でいっぱいだった東京生活だけど、こんなに素敵な仲間たちと、楽しい出来事が待ち構えているなんて誰が予想できただろう。中には大変なこと、辛いこともあるだろうし、晴れの日ばかりでなく嵐の日もある。でも、ココアさんと仲間たちと一緒なら、辛い出来事も魔法のように楽しい出来事へと変えていける。そんな予感がしていた。

 

 カランコロン。

 

 その時、ホット・ベーカリーのドアが開く音がした。お客さんだ。初めてのお客さんかな? 常連のお客さんかな? どっちにしても、きっとここを気に入ってくれるだろう。ホット・ベーカリーは、見た目こそティッピーや色んなパーツが所狭しと置かれていて変な店だけれど、ここに集まる人たちは、まるで家族のように出迎えてくれる、優しく素敵な人たちだから。もしもお客さんがここを気に入ってくれれば、ここを友達にも紹介してくれて、みんながここに集まり始めるかもしれない。ちょうど、東京の街とティッピーと「ラビットハウス」を通じて仲良くなったチノ達がここに集まり始めたのと同じように。そしてお客さんにここを好きになってもらう最初の一歩は、店員の暖かいおもてなしから。だからこそ、まずは最高の笑顔で挨拶するのだ。

 

「「「「「「「いらっしゃいませ! ホット・ベーカリーへようこそ!」」」」」」」

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